決して「ほっこり話」ではなく
渋く苦いところが、ミソです。
「やすらぎの森」73点★★★★
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カナダ・ケベック州に広がる
広大な森林地帯。
人里離れた湖のほとりで
3人の年老いた男たちが、それぞれ小さな小屋で
気ままに暮らしてる。
チャーリー(ジルベール・スィコット)、
元さすらいミュージシャンのトム(レミー・ジラール)
そして
画家のテッド(ケネス・ウェルシュ)。
が、ある朝、チャーリーは
テッドが小屋で静かに息を引き取っているのを見つける。
そんなとき、彼らの前に
若い女性写真家(エヴ・ランドリー)が現れる。
彼女は、かつてこの土地に大きな被害をもたらした
大火事の生存者を取材していた。
テッドはその生存者だったのだ。
さらに、彼らの前にもう一人の女性が現れる。
それは80歳のジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)。
彼女はある事情で長年、精神科の療養施設に閉じ込められてきた。
森のなかで大きく深呼吸をする彼女を
チャーリーは
ここに住まわせてやろうとするが――?!
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カナダの森で隠遁生活を送るおやじたち。
そこに過去を背負ったある女性がやってきて――というお話。
まず
こんな時代に、まさに理想のような
人里離れた森と湖の土地で暮らすおやじたちが映り
うわあ、マジ、理想!と思った。
大好きな画集
吉田誠治氏の『ものがたりの家』のなかで
ワシの一番理想だった湖畔のボートハウスに犬と暮らす男性、
そのまんまな暮らしなんだもん!
実際、カナダの森と湖の風景は美しく、
作品のタッチは穏やか。
そのなかで、人生の最終章へと向かう人々の
人生への向き合いかたが映るのですが
これが
決して「ほっこり話」ではないところがミソなんですねえ。
映る景色は、美しいけれど
快晴の青ではなく、どこまでも霞んだブルーで
そこに小屋を建て、暮らす老人たちは
気ままで自由だけれど
その内面はなめし革のようにさまざまを刻んで、苦く、渋い。
次第に明らかになる彼らの人生から
その過去が、苦悩がジワジワと染み出てくる。
ドリーミーでファンタジーな老後、でない苦みが、
余計に、自分の「これから」を考えさせるのです。
独り居は、決して甘くない。
それでもやっぱり、こんな場所で
きままに、最愛の相棒や友と暮らし
(ただし道連れにするのは、自分にはやっぱりできないけど!)
できればこんな最期を迎えたい――と思ってしまうのは、
「自己チュー思考」の極みなのかしらん。
いや、でも、やっぱり・・・とか、考えてしまう。
いっぽうで
80歳のヒロイン、ジェルトルードを演じる
アンドレ・ラシャペルは
1931年生まれ。
「ケベックのカトリーヌ・ドヌーヴ」ともいわれた方で
本作を引退作として、70年の女優キャリアに終止符を打ったそう。
「素晴らしい職業に就き、素晴らしい幕引き」と
プレス資料のインタビューでも語っている彼女は
本作出演後、2019年に88歳で亡くなられたそうです。
最後まで、やりきる。
それもまた、憧れるんだよなあ――
どうしたいのか、ワシは(失笑)
★5/21(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
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