ドキュメンタリー×エッセイの趣き。
新たな風を感じる。
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「セメントの記憶」71点★★★★
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1981年、シリア生まれの監督が
ベイルートの建設現場で働くシリア移民労働者を撮った
ドキュメンタリーです。
映像の切り取り方が実にアーティスティックで美しく
そこに主人公(監督であろう)が
子ども時代にベイルートで働いていた父の記憶をたぐっていく
詩のようなモノローグが重なる。
説明や解説はなく
淡々と状況が写され、
ドキュメンタリー×エッセイ、という趣きがあり
新しい風を感じました。
でも、そんな映像の背景にあるのはシビアな現実。
1975年から90年まで続いたレバノン内戦で
破壊され尽くしたベイルートは
その後、復興をしてきたけれど
06年にはイスラエル軍による空爆で、また破壊が。
そして現在のベイルートは再び復興中で
カメラにはビルの建築現場で働く大勢の人々の姿が写る。
「建設と破壊」の繰り返し――巨大な虚しさをいやでも感じ、ずーんとなる。
さらに衝撃的なのは、
働く人々が寝泊まりする場所。
建設現場の地下、簡易宿泊所とも言えない、
雨水でびしょびしょな地面にダンボールを敷いただけの場所なのだ!
そこで彼らは会話をするでもなく、
それぞれがスマホで、いまだ破壊され続ける故郷シリアを見ている――。
瓦礫の中から助け出される人、死体の山、瀕死の猫(涙)――
いったい、人間は何をやってんだ?
独特の映像センスで監督が切り取るのは、
途方もなく虚しい世界。
でも、この現実がこうして我々に届くことには
確実に意味がある。
その先に、何をみるか。
課題は、大きいです。
★3/23(土)からユーロスペースほか全国順次公開。
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