参加者に「死」を体験させる
自殺志願者へのワークショップ、けっこう目から鱗になった。
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「いのちの深呼吸」71点★★★★
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岐阜県関市の住職で、自殺防止活動家である
根本一徹氏(46)。
彼のことを『ニューヨーカー誌』の記事で知ったアメリカ人監督が
彼を撮ったドキュメンタリーです。
まず、
夜のクラブシーンから始まるイントロに、意表をつかれました。
え?この題材で、クラブ?
いやいや、しかし、その人物像がわかってくると納得。
彼はもともと不良で、かなりの夜遊び上等、だったらしいw
そんな彼が、あるきっかけで僧侶になり、
自殺願望を持つ人たちを、助けるようになるんですね。
毎日、彼のもとには「もう、死にます」というような、膨大なメールや電話がかかってくる。
住職の仕事をしつつ、それに応える彼は
夜中に岐阜から東京までバイクを飛ばし、その人のもとに駆けつけることもざらだ。
また
彼が行っている自殺願望を持つ人たちへのワークショップが、実に興味深いんです。
彼は参加者たちにまず「大切なもの」を9つ、ポストイットに書かせ、
それを3つずつ、捨てさせる。
そして最後の最後に残ったものを、一番最後に「捨ててください」という。
「すべてを捨てること。それこそが死、なのだ」と、彼は教えるんですね。
観ながら自分も、その状況を体験し、
参加者たちの無言の苦しみと、身を切るような葛藤に同調してしまう。
そして、思うんです。
「いつ死んでもいいや、なんて思ってたけど、
やっぱり、大切なものを捨てられるかな。死ねるかな」――って。
そうやって、彼は多くの人を助けてきたんだなあと。
いまがつらい人、悩んでいる人、いろんな人に、
この感覚、ぜひ観て、感じてほしいなあと思いました。
しかし、そうやって全身全霊で人々を助ける彼は、
自身もボロボロになっていく。
その様子は見ていて辛いほどだけど、
決して聖人君子ではない彼の成り立ちが、
もがく人々の話に耳を傾け、同じ目線で相手を助ける、スキルの一助になっていることは、間違いないでしょう。
彼は、彼にしかできないことをやっているんだろうな。
ラナ・ウィルソン監督による、静かで抑制された筆致が
逆に多くを物語っているところも、いいなあと感じました。
★9/8(土)からポレポレ東中野で公開。ほか全国順次公開。
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