ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス

2017-12-12 23:56:10 | あ行

先の「ベルギー奇想の系譜」展でも
話題の画家のドキュメンタリー!

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「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」69点★★★★



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ワシの大好きなマグリットやブリューゲル、
ダリやルーベンスにも影響を与えたという
15~16世紀の謎の画家
ヒエロニムス・ボスに迫るドキュメンタリーです。


先のBunkamuraザ・ミュージアムでの
展覧会も見に行ってたので興味津々。


ボス氏の絵画の特徴は
所せましと描かれた緻密な人物や
奇妙な動物のキャラクター。

これが現代にも通じるほど
キャッチーで
しかしそれぞれに
宗教を背景にした暗示や意味があるようなんです。


でも、
あまりに細かすぎて肉眼で追うのは無理!

なので
こういう映像での紹介は
非常に助かるし、いいなあと思いました。


本人は本当に謎の多い人物らしく
正直、解き明かされることは少ない。

でも
「宗教書の挿絵にヒントを得ていた」とか
「祖父も父も画家だった」とか
明かされることもあってふむふむ、と思った。


ただ、もうちょっと学術方面で
じっくり解説が聞きたかったなーという思いは残った。

音楽も賑やかすぎたし、
展覧会に来ている鑑賞者たちの
表情を写したインサート画面が多様されすぎ。

これらを削って
すっきり、70分くらいにできるのでは?!、と思ってしまいました。

それでも
図録でじっくり眺める感覚で
この細密世界を、楽しめるのはたしかです。


★12/16(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」公式サイト
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ルージュの手紙

2017-12-09 00:25:33 | ら行

予想以上に、いい映画!


「ルージュの手紙」72点★★★★


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助産婦として働きながら
シングルマザーとして一人息子を育てた
49歳のクレール(カトリーヌ・フロ)。

ある日、彼女のもとに
一本の電話が入る。

電話の主は
父の元妻で30年前に姿を消した
血のつながらない母ベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)。

「会いたいの」と言う電話だった。

30年も経ったいま、なにをいまさら……と思いつつ
しぶしぶ会いに行ったクレールは

ベアトリスに
「自分は末期ガンで、後がない」と聞かされる――。


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ルージュの伝言、じゃないですよ(笑)


血のつながらない母(カトリーヌ・ドヌーヴ)と娘(カトリーヌ・フロ)の
なんやかんやの117分。

「地上5センチの恋」(06年)にはじまり
「大統領の料理人」(12年)
そして
「偉大なるマルグリット」(16年)

カトリーヌ・フロって、いいんだけど、
ちょっとおもしろみがないな~と
思っていたんですが(ごめーん

そんなイメージが、今回、
役柄にピタリとハマったのが勝因ですねえ。


生真面目なカトリーヌ・フロと、
奔放で気ままなカトリーヌ・ドヌーヴの凸凹コンビっぷりが可笑しく、
予想以上におもしろい。

口の悪いドヌーヴの毒舌っぷりも
彼女が言うとなんか憎めないというか。

二人の会話の噛み合わなさ、

助産婦であるフロの
仕事場の様子として挟まれるリアルな出産シーンに
シンプルに熱い思いが込み上げるし
(実際にリアル妊婦による出産だったらしいす)

フロの息子役
「あの頃、エッフェル塔の下で」(15年)の
カンタン・ドルメール君もいい味。


全編、ちょっとほろ苦く
かつ、人生にほんのり紅をさすようで
タイトル、うまく重なっていました。


それにねー
主人公の住む街がなんだかうちの近辺に似ている気がして
すごく親近感(笑)。
この家庭菜園も、近所で借りてた区の菜園に似てるわ-とか。

そして仏映画のお約束、
ワインもたっぷり登場いたしますよー。


★12/9(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ルージュの手紙」公式サイト
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女の一生

2017-12-08 23:07:25 | あ行

「母の身終い」(12年)
監督が
モーパッサン文学を映像化。


「女の一生」71点★★★★


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1819年、仏・ノルマンディー。

10代のうら若き乙女ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は
神父から近くに越してきた
子爵ジュリアン(スワン・アルロー)を紹介される。

両親の勧めもあり、
また若くハンサムなジュリアンに好印象を抱いたジャンヌは
彼との結婚を決める。

だが。

ほどなくしてジュリアンの
ケチケチぶりや、横暴さが明らかになる。

さらに、彼は無慈悲な方法で
彼女を裏切ることに――!


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「母の身終い」で
息子の立場から、母との関係を深掘りした監督が
19世紀の作家モーパッサンの文学を映画化。


清純な娘が愛を信じて結婚し
しかし、あっさり夫に裏切られる。

愛情を注いだ一人息子は、
成長して、家には寄りつかず、金の無心ばかり。

寄る辺なきヒロインは
ついに無一文になり――という、悲惨な話なんです。

でも、不思議と
メソメソした感じはない。

なんだか力すら感じる。

これは
登場人物の内面描写やセリフでの説明を廃し、


さらに
ヒロインの過去と現在、さらに未来の姿までを
自在にカットバックし、
つなげた手法によるものだと思います。

過去、現在、未来、交錯する時間軸が
静けさ、躍動感、温かみ、喜び、悲しみ…
あらゆる要素を生き生きとさせる
不思議な力を持っている。

そして
古臭くなりそうな古典の世界に息を吹き込み、
現代につながる感覚を与えてくれているのです。


誰にとっても
庇護者である両親はいずれいなくなる。

夫は所詮他人で論外だし、
子どもにも、期待出来ないかもしれない。
こうして、誰もがいずれは
独りになる。


どんな人も我が身に照らし、
心の準備をせねばと思うんではないでしょうか。


★12/9(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「女の一生」公式サイト
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オリエント急行殺人事件

2017-12-06 23:08:28 | あ行

なんとも映画らしい楽しさ!

乗るしかありませんぜ。


「オリエント急行殺人事件」72点★★★★


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トルコのイスタンブールを出発し、
フランスの北部カレーへと走る
豪華寝台列車「オリエント急行」。

名探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)は
休暇で、この列車に乗り込んだ。

ゴージャスな列車でくつろぐポアロに
富豪ラチェット(ジョニー・デップ)が話しかけてくる。

彼は「命を狙われている」と言い、
ポアロに警護を依頼するが、
ポアロはそれを拒否する。

だが、その後。
密室のはずの列車で
事件が起こった――!!


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アガサ・クリスティー原作、
74年にシドニー・ルメット監督によって映画化もされた古典を

自らポアロを演じた
ケネス・ブラナーが映画化したものです。


たぶん、な感触ですけど、この映画、
旧作をよ~く知っているかたには
あまりピンとこないようなんです。

でも、ワシにはすごく楽しかったw


旧作も見てるし、
原作もたぶん6回は読んでる。

それでも、ワシの幸せなところは
どんなに心酔した話でも
オチをすべて忘れてしまう、ということ。

これ、昔っからのクセ(いや、もう障害の域……)なんですが
こうした古典を
本気でピュアに楽しめる利点でもある。

なので
原作も、映画もまったく知らなくても
この映画、楽しめると思いますよー!と伝えたいのです。


まず前半、事件が起こる前のワクワク感がすごい。

曲芸のようなカメラワーク、
豪華列車の内部や、それふさわしいセレブリティたちの
非日常なゴージャス感。

ケネス・ブラナーのポアロも若々しくて、好印象だし
そして
ジョニー・デップ、ジョディ・デンチ、ペネロペにウィリアム・デフォー、
そして「スター・ウォーズ」のデイジー・リドリー!……と
マジで「全員、名優」な俳優陣。

まさに映画らしさを詰め込んだ
ドリームチームな列車が動き出す!って感じなんですよ。

それに
雪の中を疾走する豪華列車の映像も
ものすごく網膜に残る。

ポン・ジュノ監督の
「スノーピアサー」
ちょっと思い出しちゃいましたが


そんな列車のなかで事件が起き
ポアロが一人一人の過去を暴いていく。

謎解きのワクワクもあるけれど
物語が進むにつれて、観客にも次第に
この事件が持つ“善悪がビミョー”な居心地悪さが伝わっていく。

結末にも
実際「うーむむ……」なんですが

まあ
昨今のミステリや犯罪ものは
加害者側が「なぜ、それをしたか」を描き込む傾向もあるし

そこがおもしろくもあり
考えさせるところなのでしょうね。

なにはともあれ
夢のような豪華列車、乗るしかないと思いますよ。


★12/8(金)から全国で公開。

「オリエント急行殺人事件」公式サイト
コメント (2)
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否定と肯定

2017-12-05 23:52:35 | は行

これは必見!

現代社会への
キツい一発になればいい。


「否定と肯定」79点★★★★


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1996年。
アメリカの大学で教鞭を取る
デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)は

ホロコースト否定論者の
デイヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)から
「あなたを名誉毀損で訴える」という通知を受け取る。

アーヴィングは
「ホロコーストはなかった」と言う歴史学者で
リップシュタットは94年に出した自著で
彼を非難したのだ。

歴史の事実を否定する
こんなアホを
相手にする価値があるのか?

周囲は止めるのだけれど
悩んだ末、リップシュタットは
裁判で闘うことを選ぶ。


しかしアーヴィングが選んだのは
イギリスの法廷。

まったく勝手がわからないなか、
ロンドンの弁護団と組んで
リップシュタットの正義の戦いが始まった――。


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これはね、おもしろいですよ。


ホロコースト否定論者とユダヤ人歴史学者の、
現実にあった法廷対決を描いており、

裁判は2000年に行われ、
あのスピルバーグも裁判費用を応援したそう。

こんなことが起こっていたなんて
ちゃんと知らなかったので
ホント、驚きでした。


現代のヘイト問題、ポスト・トゥルース問題に繋がる
重要なキーがたくさんあるので、必見です。


実在の主人公リップシュタットを演じるのは
演技派レイチェル・ワイズ。


自身もユダヤ系にルーツを持つリップシュタットは
「ホロコーストはなかった」なんてアホな歴史学者アーヴィングを
許せるわけはなく、裁判を決意する。


リップシュタット女史が
情熱と信念にまっすぐな
“正しき人”なことに疑いの余地はないのですが

しかし、
それゆえ彼女は
「本人は一切、反論しちゃダメ」とか
「ホロコースト経験者に証言させるのはダメ」、とか
ちょっと変わった裁判方針に納得できない。


そんな彼女が起こす行動が
すべてをぶちこわしにするんじゃないか?!

もしや、最後に覆されるかも?!
かなりヒヤヒヤさせられました(苦笑)。

正しいはずの主人公に
感情移入しにくくする作りも挑戦的というか、おもしろいなあと。


それにね、すごく響いたところがあるんです。

「この裁判に協力して欲しい」と
在イギリスのユダヤ人団体を訪ねた彼女は
「否定論者なんて、まともにとりあうべきじゃないよ」と
当事者である彼らからも言われてしまう。

でも、そこで彼女は
「書かれつつある歴史には、みんなで参加すべき!」と言い放つ。

この言葉、心にカーン!と響きました。


いま、こうしてる瞬間にも
重要な歴史が動いている。

それを、ボーッと見ていたり
あとになって「あれはよくなかった」とか言ってもダメでしょ、と

彼女の壮絶な戦いは
教えてくれるのです。


「否認や嫌悪することも権利だ」なんていう人の根底にあるのは、
結局、差別思想なんだ、とも
よーく教えてくれている。


おなじみ「AERA」にて、
原作者にして主人公であるデボラ・E・リップシュタットさんへの取材が叶い
本当に、素晴らしい方で感激しました。


まさに現代の「ポスト・トゥルース」を先駆けて経験してしまった彼女が
それとどう闘ったのか?
この現状をどう思っているのか?

充実のインタビューになったと思います。

掲載は少し先の
12/25発売号くらいになりそうですが(「ホロコースト映画特集」に組み込まれます)
ぜひ、映画を先に楽しみつつ
読んでいただければと思います。


★12/8(金)からTOHOシネマズ シャンテほかで全国で公開。

「否定と肯定」公式サイト
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