ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

サウナのあるところ

2019-09-14 23:53:56 | さ行

え?これフィクションでしょ?と

一瞬、思っちゃうところがミソ。

 

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「サウナのあるところ」70点★★★★

 

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フィンランドのサウナに入る人々を写し、

彼らの自分語りに耳を傾けるドキュメンタリー。

 

最初は一瞬、

「え?これフィクションだよね?」と思ったんですよね。

 

というのも、入ってる男女が

あまりにもあっけらかん、ポーン!と裸を見せてるし(笑)

 

サウナの形態にもギャグみたいにいろいろがあって

(電話ボックス型?ウソでしょ?とか。笑)

映画的な絵面が、おもしろいし。

 

なにより

サウナに入りながら彼らが語る物語には

さまざまなドラマがあるんですよ。

 

荒れた家庭で育った男

ワルを繰り返して、刑務所暮らしをしてきた男、

離婚して、子どもに会えない男――

 

みな、汗も流せば、涙も流す、って感じで

裸のうえに、さらに心までさらけ出してくれるから

ホントにドキュメンタリーなんだ、とわかって

すごいなあと感心しました。

 

フィンランドには人口550万に対し、サウナの数がおよそ300万個あるそうで

その形状は本当にさまざまなんだそうです。

 

で、サウナは普段は寡黙なフィンランド男性が

心の底からの気持を話す稀な場所で

監督は実際にそんなサウナで交わされる会話から

本作を撮ろうと思い付いたそう。

 

へええ~!と思いますが

いや、もしかしたら日本の男性サウナでも

そんな会話が交わされてるのか?

ワシ、女性サウナもあんまり入ったことないんで

ぜひ、サウナ好きに聞いてみたいですね。

 

★9/14(土)からアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテ他全国順次公開。

「サウナのあるところ」公式サイト

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サタンタンゴ

2019-09-13 21:40:30 | さ行

7時間18分!それでも観たかった!

 

「サタンタンゴ」77点★★★★

 

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ハンガリーの、ある田舎の村。

秋の長雨が始まり、降り止まない雨に道はぬかるみ、

村は陰鬱な空気に覆われはじめていた。

 

村人フタキ(セーケイ・B・ミクローシュ)は

隣人シュミットの女房と一夜を共にしていた。

その朝、シュミットの女房は言う。

「きっと今日、何かが起こる」――

 

そんななか、

村にある知らせが舞い込んでくる。

 

「1年半前に死んだはずの男、イリミアーシュが帰ってきた!」

 

果たして、

イリミアーシュの帰還は本当なのか?

彼は貧しく、すさんだ村に救いをもたらす救世主なのか?

それとも――?!

 

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「ニーチェの馬」(11年)を最後に

映画監督業を引退を宣言したタル・ベーラ監督が

1994年に発表した伝説的作品。

4Kデジタル・レストア版での公開です。

(35ミリのネガを4Kスキャンして、300時間以上をかけて、傷や汚れを取り除いたそうです)

 

7時間18分!とあって

さすがに一日旅行に行く心持ちで望みましたが

 

うん、やっぱり観てよかった!

 

陰鬱な悪夢のようで、しかしあらゆる暗示が提示され、

25年前の作品とは信じがたいほど、鮮烈なのです。

 

上映中に2回の休憩があるし、

全体が12章で区切られていて

各章がその前のエピソードを別の視点から見せてくれたりするので

「そうか、こういうことか」という謎解きもできるし、読解の助けにもなる。

大丈夫、予想以上にいけると思います!

 

 

貧しい農民たちの村に、死んだはずの男イリミアーシュが戻ってくる。

キリスト然としたルックスで弁達者な彼は、

村人たちを導こうとするがーー?!というのが大筋で

 

降り続く雨、ぬかるんだ道、

全てが暗たんとして、暗~~く晴れない気分になる。

が、その悲壮感が実に今日的で

苦しいけれど浸りたい、という(笑)

 

特に

少女が猫をいじめるエピソードはキツかったんですが

そこに含まれた暗澹たる未来と、現状への苛立ち、

そしてその後に続いていくこの展開では、致し方なしか・・・・・・と。

 

さまざまな解釈ができるし、それを必要とする作品ですが

ワシのシンプルな脳みそでは

 

時代はいくらめぐっても、

人間がいるかぎり、その営みも、愚かさも繰り返される。

真に愚かしいのは

騙す人間か、騙される側か、

あるいは知ること、見ることを怠っている盲目たる者か――という

問いかけであるのかな、と。

 

25年の時を経てなお、波動砲のようにズドーンと

いまの我々を直撃してくる。

 

目撃すべき映画、だと思います。

 

本作はイリミアーシュ演じるヴィーグ・ミハーイのカリスマ性がキモでもあるんですが

彼は本作含め83年からタル・ベーラ作品の作曲を手がけている

作曲家でもあるそう。すげーかっけー・・・・・(笑)。

 

 

そしてタル・ベーラ監督、いま日本にやってきています!

取材、してきます!ドキドキドキドキ・・・・・・(心拍MAX)

 

★9/13(金)からシアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「サタンタンゴ」公式サイト

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帰れない二人

2019-09-08 18:41:06 | か行

ジャ・ジャンクー監督の新作です。

 

「帰れない二人」72点★★★★

 

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2001年、中国山西省の大同(ダートン)。

麻雀客でごった返す遊技場をみまわるチャオ(チャオ・タオ)は

みなに一目おかれる「姐さん」的存在だ。

 

恋人のヤクザ者ビン(ガオ・ビン)と一帯を仕切る二人は

仲間と兄弟の契りの酒を酌み交わし、

義理人情を重んじる「江湖(こうこ)」と呼ばれる渡世人だった。

 

だが、大同一帯も開発が進み、

彼らも時代の変化を感じ始めていた。

 

そんなときビンが若い連中に襲われる。

ビンをかばい、チャオは刑務所に入ることに。

 

5年後、チャオが出所すると

さまざまなことが、大きく変化していた――。

 

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2001年から2018年の中国の山間の山西省を舞台に

移ろいゆく風景と、人の心を描いた作品です。

 

いわゆる渡世人である男女を描いているけれど

ノワールやバイオレンスではなく

あくまでもゆったりと

どこかおおらかで悠久の時を感じさせるのが

さすがジャ・ジャンクー監督!

 

 

時間とともに、国も変わり、社会も変わり、

そして人の心も変わる。

 

そんな「移ろいゆくもの」がここには映っている。

 

その変化のなかで、したたかに

たくましく生き延びるヒロインの、まあハッタリのうまいことに笑ってしまう(笑)

 

 

「四川のうた」(08年)「山河ノスタルジア」(15年)など

ジャ・ジャンクー作品の常連であり

ミューズであるチャオ・タオが

17年の変化を

憂いとチャーミングさ、バイタリティーをもって演じていて素敵でした。

 

この映画では若い頃は余貴美子さんに似てて、

だんだんちょっと西原理恵子氏に似てくるんだよね・・・・・・(笑)

 

9/9(月)発売の「AERA」いま観るシネマで

ジャ・ジャンクー監督にインタビューをさせていただきました~

男女のもろもろを描いても

どこか「時の流れ」を感じさせる、独特な映像作りの秘密も聞いちゃいました。

併記の「もう1本」とあわせてぜひご一読くださいませ~

 

★9/6(金)からBunkamura ル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「帰れない二人」公式サイト

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