「春」と云ってももう良いのだろう
水面を渡ってくる風が緩やかに南から吹き付けるこの海岸
今日は波も穏やかで遠くまでふんわりと凪いでいた
アルコールストーブで沸かした湯でコーヒーを淹れると
少しコーヒーにアルコールの匂いが移ると思わない?
あ、思わないか
そんなもやもやとしたコーヒーを啜りながら
渚に打ち寄せる波を飽きもせずに眺めている
この海岸にはもう40年以上前から繰り返し来ているけど
海の方を眺めている限りでは本当に何も変化が無くて
遠くに見える渥美半島に少し風車が建ったくらいか
消波ブロックも防波堤もそのまま
だからここへきて海を眺めていると
まるで時間が止まっているかのように感じる
過去も未来も何も変わらず
ボクが生まれる前も
ボクがいなくなった後も
ここでは本当にそんなことがどうでも良いと思えるから不思議だ
自分の意識をどこかへ放り投げだして心の底から安堵できる空間だ
とにかく、もう春だ
3月に入ったその日は
あんまり陽気が良いので
いつもの「涼風の里」へ行ってみた
暖かかったとは云え
山里の冬にはそれなりの厳しさがある
ヘルメットのシールドから忍び込む風は
まるでモランの溜息のように凍えて
ボクのカサカサの頬を冷たく切りつける
冬用の綿の入ったグローブの中ではすでに指先が痺れていた
凍結の感じはほぼ無いけど
路面温度は相当低そうだから少し気を遣う
それでも案外いつもどおりに「涼風」に辿り着いた
3月は「風の候」だ
移動性の高気圧が東の海上に抜けるとそれを追って低気圧が近づく
南の強い風を呼び込んだ後
通過時には嵐のような雨と風をもたらし
雨が止むと今度は北寄りの冷たい風を吹き込む
正直云って夏や冬の厳しさよりこの季節の「風」が嫌いだ
雨より断然「風」がイヤだね
風の中では思考が停止してしまうのだ
オートバイに乗って走る様を俗に「風になる」とか云うのがあるけど
「風になる」なんて一度だって思ったことないね
むしろいつも「風に逆らっている」って感じじゃない?
この日も風が出ていたが幸い緩やかなものだった
少しためらったけどその風の中でコーヒーを淹れてみたら
それはなぜだかちょっといつもより旨く感じた
風は嫌いでも
風の中で飲む熱いコーヒーは好きなのかもね
今日のコーヒーは風が強かったのでガスのストーブで湯を沸かした
そしたらそれはやっぱりガスの匂いが少しした
いや、これはカップのステンレスのクサ味かな
SRだ
なんと云う青なのかわからない「青」のSR400
ヤマハのHPで見たら「グレイッシュブルーメタリック4」とあった
ますます分からない
金属的な光沢の灰色掛かった青「4」
なんだ、それ?
1と2と3を見てみたい
名前はまだない
自分が買ったオートバイにいちいち名前をつけなくても、とは思うが
何となくいつも名前で呼んでいる
実はこの微妙な「青」色から密かに
「シータ」とか「シーちゃん」と呼んでいた
空から青色の光を放つ飛行石の力でふんわりと下りてきた
ラピュタの正統な王位継承者
「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ」
いや、やっぱり構えすぎで気恥ずかしい
きっとまだ変わると思う(気に入ってはいるけど)
SRだ
何度も云うが偉大なるXT500(パリダカ総合優勝にして連覇)という
エンデューロ(ヤマハはトレールという)モデルが素(ベース)
SR500はそのオンロード版として生まれたいわば双子だ
そして日本の特殊な免許制度に合わせるべく作られたSR400は
それらシリンダーのストロークをダウンさせた兄弟モデルで
ボアストロークがほぼスクウェアな500のエンジンを
ヘッドから作り直す予算が無く
コンロッドを長くすることでストロークを減らし生まれた
つまりSR400のショートストロークのエンジンは
大人の事情の結果でありおそらく必然ではなかったのだと思う
しかしこのことが逆に400を特別な存在にしたのだとも思える
それまでの単気筒エンジンたちと比べて
クランクマスが小さなSRのエンジンは(500に比べれば400の方が大きいが)
どうしても元気に回りたがるエンジンだ
キャブレター時代のSR400は7000rpmの最大出力に対して
最大トルクを6500rpmで発生させていた
これはインジェクションモデルになり少し下がったが
それでも最大トルクは5500rpmでのもの
だから(マルチとは比べ物にはならないが)やはり回して使うエンジンであり
現にエンジンもどちらかと云えば「回りたがり」だと感じる
巷で5型とか最終モデルと云われるボクのSR400だって
意識しなくてもスムースに高回転まで吹き上がっていく
もちろん4500rpmを超えると
お尻、足の裏や掌と云ったオートバイに触れている面に
強い振動が伝わってくるが
それはそれで刺激的でまったく悪くない
振動自体は硬質で強くはあるが角が尖っていないので
快か不快か、ならば間違いなく「快」だ
実際あまり気にせずに強く加速させ巡行へ持ち込むと
まるでデカいカブに乗ってる感じさえするのだ
けれどこの5型が出た頃
オートバイの専門誌で盛んに低速からの力強さが取り上げられた
中速域のトルク感はまるで排気量が上がったかのようで
日常域でスポーツできる「大人」のモデル
SRの完成形とまで絶賛され盛んにもてはやされていたのを思い出す
そもそもビックボア×ショートストロークのSR400
しかも従来のビッグシングルと比べて小さなクランク
ECUのコントロール位でそんなにも性格が変えられるものかと思うが
如何せん
ボク自身が以前のキャブ車に乗ったことが無い
唯一SRX-6をちょい乗りさせてもらったくらいで
あの時の記憶といえば左折とかで減速した時
ギアの選択を間違えると怖ろしくスナッチが出て
扱いづらかったというものくらいだ
だからこれは想像なのだが
「市街地でクルマに続く時5速へ入れずに4速キープだった」
という記述を見たことがある事からも
おそらく以前のSR400も回転を落としてしまうとスナッチが出て
粘るエンジンと云われながらもやはり使いづらかったのではないのだろうか
それをECUの魔法でトルクバンドを下げ
おまけにそこら辺で使うと排気音もよく聞こえる演出まで加えたのだ
ゆっくり走っても気持ち良いですよって云いたくて
まーこれまでの印象から云えばそれも決して悪くない
ただし4000rpmからのトラクションは逆に感じにくくなったんではないだろうか
2500くらいから4000rpmくらいまで続くトルクの盛り上がりは
それ以上回してもあまりはっきりとはしなくなるからだ
けれど実はボク
あることに気付いてしまった(思い出すだけでついニヤッとするほどね)
それはSRの5速ギアとこのエンジンの相性が
とても特別なものになっているということだ
「5速 2000rpm」
多分以前のSR達なら少しスナッチを感じたんじゃないかな
でも5型のSRはここから使える
この時の速度約40km/h
そこからスロットルを半分くらいガッと素早く開けると
一瞬のタイムラグのあとダッダッダッダッとダッシュを始める
それは
2500rpm 50km/h強
3000rpm 60km/h強
3500rpm 70km/h強
そして4000rpm 85km/hと
この時のエンジン音と排気音そして加速感がヤバい位だ(嫌いだなーこの言葉)
実質的な加速力ではなくあくまで加速感
フィーリングの話だ
それは今までどんなオートバイでも感じなかった感覚で
得も云われぬ快感を伴う
取り付かれたサルのように繰り返しスロットルを捻ってしまうほどだ
こんなにも大量のエンドルフィンの放出を実感したのは初めてかもしれない
そしてこれこそが低速からのトラクションの魅力なのかと気付いた
ECUによって作り出されたこの特性
昭和世代のジジイにはそれが癪に障るけど
やっぱり無条件で楽しい
意味もなく60km/hくらいでスロットルをガバッーガバッーって
おサルは何度も何度も繰り返しやってしまうのよ
そしてそれはやっぱりコーナリングにも効く
コーナー入口でエンジンを2500rpmに置く
3速 35km/h→4速 45km/h→5速 55km/m
とバンクしながらでもシフトアップしていき
4000rpmまで引っ張れば80km/hを超える
上りがキツければ4速だろうけど
高速コーナーなら5速ホールドのままスロットル操作だけで走れる
そしてその方が楽しいのだ
え?
遅い?
そうなんだよ、遅いんだよねー
でもブラインドの対向車に怯えながらペースを上げすぎるより
しっかりとトラクションの掛かったコーナリングの方が
断然楽しいよ
大型のオートバイに乗り続けて
老いた時どこへスペックを落とすか
これは結構当事者には問題なんだけど
個人差も大きいしね
バイクを操るこだわりや深みを感じられるという視点が大切なのだと思う
ボクらレプリカ世代にはのんびりトコトコなんてできない
だから原二、軽二輪はやはり楽しくない(2ストなら別だけど)
250を超えると車検も問題になるけど
ひとつのレベルとしてやっぱり排気量500ccくらい
最大トルク3以上
この辺に答えがあるような気がする
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