自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆WHOテドロス事務局長の再選めぐるキナ臭さ

2021年05月04日 | ⇒ニュース走査

   WHOにまたキナ臭さが漂ってきた。AFP通信Web版日本語(5月4日付)は、「WHOのテドロス事務局長は再選を目指している」とアメリカの医療専門メディア「スタット・ニュース」の記事を引用して伝えている。テドロス氏はエチオピアの保健相と外相を歴任し、2017年にアフリカ出身者として初めてWHO事務局長に就任した。WHO事務局長は任期5年で2期まで務めることができる。1期ごとに加盟国の投票で選ばれる。

   テドロス氏への不信感が世界で広まったのは、「中国寄り」の露骨な振る舞いが新型コロナウイルスをきっかけに露わになったことから。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国でコロナ感染者が拡大していたにもかかわらず、2020年1月23日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(同1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   その宣言後の記者会見でテドロス氏はさらにこう述べた。「私は先日中国に渡航し、習近平国家主席のリーダーシップを目の当たりにした。他の国も見習うべきだ。中国国外の感染者数が少ないことについて、中国に感謝しなければいけない」(同1月31日付・日経新聞Web版)。アメリカの当時のトランプ大統領は「WHOは中国に完全に支配されている。WHOとの関係を終わらせる」と脱退を表明し7月6日付で国連に正式に通告した(同7月8日付・共同通信Web版)。世界的な署名サイト『Change.org』でもテドロス氏解任キャンペーンが展開され、100万を上回る署名が集まった(同5月10日現在)。

   母国エチオピアでもテドロス氏への疑惑が起きている。エチオピア軍の参謀長は2020年11月19日の記者会見で、政府軍と対立している同国ティグレ州の政党「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」にテドロス氏が武器調達を支援していると批判した。同月4日、TPLFが政府軍の基地を攻撃したのに対して、アビー首相(2019年ノーベル平和賞受賞者)が反撃を命じ、戦闘が続いていた。テドロス氏はティグレ人でTPLFの支援に回っているとエチオピア政府は不信感を募らせている(同11月19日付・AFP通信Web版日本語)。テドロス氏はTPLFへの武器調達を支援しているとの疑惑を否定した(11月20日付・同)。

   そのエチオピアではことし6月5日に国政選挙が行われる。選挙は当初2020年8月を予定していたが、新型コロナ対策を優先して実施を延期していた。アビー首相と政権与党「繁栄党」に対する国民の支持を占う選挙となる(2021年2月5日付・JETROWeb版)。この選挙で引き続き与党が政権運営を担えば、政府や軍の反発を買っているテドロス氏の2期目は危うくなる。また、中国寄りのテドロス氏がWHOの最高責任者として居座ることを国際世論が許すかどうか。そして、開発途上国に多額の債務を負わせる投資プロジェクト「一帯一路」をエチオピアでも展開する中国はこの局面をどう操るのか。キナ臭いストーリーの展開に注目したい。

(※写真は2020年8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ)

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