自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「コウモリ外交」 韓国と日本の場合

2021年05月25日 | ⇒ニュース走査

   子どものころに読んだイソップ寓話だが、今でもいくつかの物語を覚えている。ストーリー展開が短く端的で、主人公は昆虫や動物なのでイメージとして脳裏に刻まれやすいのかもしれない。働き者のアリたちが、怠け者のキリギリスが食べ物をねだりに来たとき、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだ」と皮肉を込めて断る下りは、社会人になって会話として応用したこともある。そして、最近ではコウモリの話を思い出す。   

   むかしむかし、鳥の一族と獣の一族がどちらが強いかで争っていた。それ見ていた一羽のコウモリは、獣の一族が優勢になると獣たちの前に姿を現し、「私は全身に毛が生えているから、みなさんの仲間です」と言い、鳥の一族が有利になると今度は鳥たちの前に参上し、「私には羽があるから、みなさんの仲間です」と言いそれぞれの味方に付いた。その後、鳥と獣が和解したことで争いは終わり、双方に顔を出したコウモリは鳥からも獣からも嫌われるようになった。「卑怯者は二度と来るな」となじられ、居場所がなくなったコウモリはやがて暗い洞窟の中に身を潜めるようになり、夜に飛んで出て来るようになった。

   このコウモリのイソップ寓話を思い出すのは、アメリカと中国の覇権争いに対する韓国の外交の有り様が報じられるときだ。NHKニュースWeb版(5月24日付)によると、アメリカのバイデン大統領と韓国の文在寅大統領が会談し、共同声明に台湾海峡の平和と安定の維持の重要性を確認すると盛り込んだ。すると、中国外務省の報道官は「言動を慎み、火遊びをするな」と述べ、強く反発した。「火遊び」という言葉は韓国に向けて発した言葉だろう。

   アメリカと同盟関係にある韓国だが、日本とアメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式協議体である「Quad」(4ヵ国戦力対話)は対中国の包囲網だとして、韓国は参加を見送っている。今回の首脳会談でも、中国を刺激したくないとの配慮から、Quadに踏み込むことは避けたようだ。それでは、同盟関係を重視し対中強硬姿勢を崩さないバイデン氏は納得しない。そこで文氏は考えた。貢物を献上する「朝貢外交」だ。サムスン電子など財閥企業がアメリカに394億㌦(4兆3000億円)の投資する計画を提案した。共同声明でも、中国を名指しせずに「台湾海峡の平和と安定」と盛り込んでアメリカと中国の双方の顔を立てたつもりだった。ところが、上記のように中国から「火遊するな」と怒鳴られた。

   コウモリ外交は前政権の朴槿恵大統領のときもそうだった。アメリカと韓国の両軍が2016年7月に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備を決定し、2017年3月に韓国に発射台やレーダーが運び込まれたものの、韓国政府は配備に躊躇した。中国が高性能レーダーで自国内のミサイル基地まで監視されると強く反対していたからだ。その年の5月に大統領就任した文在寅氏も配備に慎重な立場だった。7月に北朝鮮が射程範囲1万㌔余りにおよぶICBMを発射した。すると、今度は配備を急ぎ、THAADの本格運用が始まったのはその年の9月だった。

   では、日本のコウモリ外交はどうか。中国の習近平国家主席を国賓として2020年4月に招請する予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックで延期となっている。2019年6月、大阪での「G20 サミット」に出席のため訪れた習氏に当時の安倍総理が国賓としての再来日を招請したものだった。その後、中国は香港国家安全維持法による民主主義の封じ込めや、日本に対しても尖閣諸島周辺での領海侵犯を執拗に続けている。招請した安倍氏は退陣したが、その後、「中止」という言葉が出てこない。もし、コロナ禍が治まり、習氏を国賓として招請すれば、日本のコウモリ外交は韓国より国際的に有名になるかもしれない。(※写真は韓国政府公式ホームページより)

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