自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆カキツバタの「ため息」 

2021年05月10日 | ⇒ドキュメント回廊

   そろそろ金沢の兼六園のカキツバタが見ごろを迎える時節だ。毎年5月中ごろになると、カキツバタが咲く曲水の周囲=写真=には早朝から市民が三々五々訪れる。中には、かがんで耳に手をあて、じっと開花を眺めている人もいる。言い伝えだが、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」という。その花音を聞いたことがあるという人生の先輩が「美女のため息のよう」と自慢げに話していたので、自身もこれまで何度か早朝の兼六園で耳を傾けたことある。花咲く瞬間は見ることができたが、残念ながら「ため息」は聞いたことがない。ただ、「兼六園にカキツバタの花音を聞きに行く」、なんと風流な言葉か。その兼六園がしばらく閉鎖されるとのニュースが流れてきた。

   石川県の谷本知事はきのう(9日)新型コロナウイルスの対策本部会議を開き、これまでの石川独自の「非常事態宣言」をさらにレベルアップさせた「緊急事態宣言」(期間は今月31日まで)を発令した。県内ではGW明けから感染者が増え、8日に80人の感染者が出るなど直近1週間の新規感染者は306人となり、県のモニタリング指標でもっとも深刻なステージ4の基準(285人)を初めて超えた。県内の累計感染者は2869人、死者は85人に上る(石川県庁公式ホームページ)。

   緊急事態宣言の概要は、▽午後8時以降の外出自粛の呼びかけ、▽デパートや映画館、遊園地など85業種への営業時間の短縮を依頼、▽金沢市の飲食店では酒類の提供は午後7時、営業は同8時、▽兼六園、いしかわ動物園、のとじま水族館などの県有施設は閉園・閉館、▽時差出勤や自転車通勤の推進、午後8時以降の勤務の抑制やテレワークの促進、など人の流れを抑える対策だ。

   兼六園が今月31日まで閉鎖となると、カキツバタの観賞は6月までお預けとなる。感染拡大が止まらなければ、6月も緊急事態が延長となる可能性だってある。ワクチンが行き渡るまで、この緊急事態の繰り返しだろう。そのワクチンも金沢市では65歳以上の接種の予約受付が6日に始まっているが、きょうコールセンターに10回電話しても、いっこうに繋がらない。まるで見捨てられたような心境だ。

   「捨てられて   また咲く花や   かきつばた」(正岡子規)。人の心は花の色のように移ろいやすく、見飽きたカキツバタを捨てる人もいる。それをそっと拾って愛でる人もいて、カキツバタは人々の心に咲き続ける、という意味だろうか。なんともうらやましい花だ。 

⇒10日(月)午後・金沢の天気    くもり   

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