自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★中国漁船の違法操業と人権問題 日本の打つ手は

2021年05月29日 | ⇒ニュース走査

     中国・新疆ウイグル自治区の少数民族を強制的に働かせてつくった木綿や衣類が問題となって輸入の差し止めや不買運動が世界各地で起きているが、さらに水産業にも飛び火している。アメリカのサリバン大統領補佐官(安全保障担当)はツイッター=写真・上=で「CBP(税関・国境警備局)は 残虐で非人道的な労働慣行に従事していることが判明した中国漁船団全体からの海産物の輸入を防止するための措置をとった」と速報を流した。

    ロイター通信Web版(5月29日付)によると、CBPは中国の大連海洋漁業有限公司からのマグロ、メカジキなどの海産物を全米の税関で差し止めすると発表した。マグロ缶詰やペットフードなど水産加工品にも適用する。調査により、同社に雇われた多くのインドネシア人労働者は当初示された労働条件が大きく異なり、身体的暴力や債務による束縛、虐待的な労働と生活環境が強いられていることが明らかになった。

    中国漁船での虐待問題は以前から問題となっていた。賃金未払いや酷使、暴力といった目に遭うことも、時には命を落とすこともニュースとなっていた。AFP通信Web版日本語(2020年7月10日付)によると、2020年6月、インドネシア人船員2人が中国漁船から海に飛び込んで脱走する事件があった。2人はその後、インドネシア漁船に救助され、虐待と劣悪な環境から逃れるためだったと語った。5月にも、インドネシア人船員3人の遺体が中国船から海に投げられる出来事があった。インドネシア政府はその後、3人は病気で死亡したとの報告を受けたと発表。中国政府は国際法に基づき水葬したと説明した。

   90年ほど前に描かれた小説だが、小林多喜二の『蟹工船』のストーリーにある過酷な労働環境を彷彿とさせる。まるで、現代版蟹工船のような話だ。ウイグルでの少数民族への強制労働とあわせ、現実が見えてくる。

   「板子一枚、下は地獄」と言われるように、漁業は常に危険が伴う労働環境だ。そのため、日本でも慢性的な人手不足に陥っている。イカ釣り漁業の拠点である能登半島の小木漁港でも、インドネシアからの漁業実習生が常時70人ほどいる。貴重な労働力として大切にされている。操業中にケガや病人が出れば、水産庁や海上保安庁の救助船が駆け付ける。地域の文化祭を見に訪れたことがあるが、彼らがステージで歌や演奏を披露をしたり、地元の人たちと溶け込んでいるという印象がある。

   それにしても、中国漁船の無法ぶりは日本海側でも深刻だ=写真・下=。日本側のスルメイカのイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに多数の中国漁船がEEZ(排他的経済水域)である大和堆などに入り込んでいて、水産庁は4月から320隻に退去警告を発し、うち91隻に放水措置を行っている(5月27日現在・水産庁公式ホームページ、写真も)。日本の漁船に先回りして、日本海のイカ漁場を荒らしている。そして、この中国側の漁船に多くのインドネシア人が不当に働かされているに違いない。まさに違法操業と人権問題。日本政府もアメリカと同様に強い措置を講じる段階に入って来たのではないだろうか。

⇒29日(土)夜・金沢の天気    くもり

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