自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「広告うつ」にさいなまれるテレビ業界

2021年05月30日 | ⇒メディア時評

    最近知人たちから「電話うつ」という言葉を聞くようになった。新型コロナウイルスのワクチン接種を予約しようと、自治体のコールセンターに何10回と電話をかけても繋がらない。ようやく繋がってもきょうの予約分はすでにいっぱいになっていて、係員から「あすまた電話をおかけください」と言われ、ショックを受ける。電話そのものをかけたくなくなる。   

   話は変わるが、コロナ禍で巣ごもり生活が当たり前になってテレビをよく視聴するが、CMが随分と減っている。石川エリアではよく温泉旅館やホテルなどの宿泊施設、料理店やレストラン、パチンコ店のリニューアルオープン、リクルートを意識した企業のCMなどがよく流れていたが、このところあまり見かけない。バンセンと称される番組宣伝や「ACジャパン」が目立つ。

   その結果が数字となって表れてきた。ローカル新聞の経済面で地元テレビ局の2020年度決算が掲載されている。きのう29日付で掲載されていたテレビ朝日系ローカル局は売上高は前期比で17%減で赤字決算。CM収入の落ち込みやイベント中止が売上に響いた。赤字転落はリーマン・ショックの影響を受けた2010年度3月期以来で11年ぶり。フジ系は16%減で49年ぶり、TBS系も11%減で6年ぶりの赤字だった、日本テレビ系は15%減だったが黒字は確保した。ローカル局だけでなく、東京キー局もCMを中心に10数%の減収となっている。

   これはコロナ禍による一時的な現象だろうか。テレビをはじめとするメディアの広告収入はネットに押されて後退を余儀なくされている。電通が調査した「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円と広告全体は8年連続のプラス成長だった。このとき、インターネット広告は初めて2兆円超え、テレビ広告を抜いてトップの座に躍り出た。さらに「2020年 国内広告費」では通年で6兆1594億円と広告全体は前年比89%と激減した。ところが、ネット広告は2兆2290億円と前年比106%のプラス成長となった。テレビ広告は前年比89%となり、明暗が分かれた。ネット広告が伸びた背景には通販やオンラインイベントなどのニーズが後押した。コロナ禍の巣ごもり需要の恩恵を受けたのはテレビ業界ではなく、ネット業界の方だった。

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」という言葉がテレビ業界であった。2000年12月にNHKと東京キー局などがBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。ネット一強の状況がいま、テレビ業界全体の問題として再燃しているだろう。

   コロナ禍は今後数年続くとも言われる。さらに、放送とネットの同時配信という時代のニーズにどう対応していくのか。CMの減少傾向に歯止めがかからない「広告うつ」にテレビ業界がさいなまれる日々は続く。

⇒30日(日)午後・金沢の天気      はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする