自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「誰一人取り残さない」ワクチン接種のシステムを

2021年05月19日 | ⇒ニュース走査

   「報道の自由」は国民の知る権利に応えるメディアの振る舞いであり、憲法第21条の表現の自由が拠りどころとなっている。ところが、欠点やあやまちを執拗に探して報じる、「あら探し」のような報道もないわけではない。

   岸防衛大臣がきのう18日閣議後の記者会見で述べたメディアへの抗議がニュースになった。新型コロナウイルスのワクチンの大規模接種センターのインターネットによる予約をめぐり、朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」と毎日新聞の記者がそれぞれ、実在しない接種券番号で予約できることを実際に予約して試した記事を掲載した。これに対して、岸氏は「悪質な行為で、極めて遺憾だ」と抗議した(5月18日付・NHKニュースWeb版)。

  防衛庁の公式ホームページに岸氏の会見内容が掲載されている。その中で、「今般の予約に関して、朝日新聞出版アエラドットの記者の方および毎日新聞の記者の方から、不正な手段によって予約が取れたがどのように受け止めているのか、との問い合わせが防衛省にございました」と経緯を述べている。

   架空の番号でも入力が可能であることの原因について、「不正な手段による虚偽予約を完全に防止するためには、市区町村が管理する接種券番号を含む個人情報をあらかじめ防衛省が把握し、入力される予約情報と照合する必要があります。このようなシステムを短期間で実現するのは、国民の皆さまに迅速にワクチン接種を受けていただけるようにするという観点から、困難であり、そして何より、この予約システムを本センターにおいて運営するにあたり、接種対象となる全国民の個人情報を防衛省が把握することは適切ではないと考え、採用しないこととした」と。解釈すれば、予約システムの完璧性を求めて時間をかけるより、迅速な接種のために必要な範囲でシステム構築をした。

   問題はむしろ以下だと指摘している。「今回の記者の行為は、ワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為であり、極めて遺憾」。つまり、予約システムにこのような欠陥があると報道すれば、かえって不正なアクセスを助長することになりかねない。一方で、岸氏は「今回の問題を受け、例えば、市区町村コード等については、真正な情報であることが確認できるように、対応可能な範囲でのシステム改修を実施する予定」とシステム改修の意向を述べている。

   このニュースで思うことは、メディアが問うべきは、高齢者の中にはネットにアクセスできない人が大勢いるはずで、その人たちへの接種の段取りのケアはどうすべきなのか、ではないだろうか。それより何より、これは持論だが、予約システムそのものが必要なのか、ということだ。予約にこれほど時間をかけるより、迅速に接種を始めること、接種率を高めることが必要だろう。このブログでも何度か述べているが、選挙の投票方式で地区ごとに日程を指定した案内はがきを出して接収を始めればよい。予約システムが完璧であることより、「誰一人取り残さない」接種のシステムをどう構築するか、ではないだろうか。

(※写真は、朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」で掲載された「予約システムに重大欠陥」の5月17日付記事)

⇒19日(水)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

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☆世界にさらす「ワクチン敗戦国」の姿

2021年05月18日 | ⇒メディア時評

   国ごとの新型コロナウイルスのワクチンの接種率はすでに国際評価の判断基準になった。オックスフォード大学などが運営する共同サイト「Our World ㏌ Data」によると、「少なくとも1回のワクチン接種した人数の国ごとの人口割合」(5月16日現在)で日本は3.46%となっている。トップはイスラエルでの62.7%で、それに続くのがモンゴルで54.25%だ。同じサイトでワクチン供給元を探すと、モンゴルはアストラゼネカやファイザーの企業のほか、中国やロシアからも入れている。地の利を生かしながら世界からワクチンを集めているのだ。こうしたデータを見ると「日本3.46%」は実に情けない数字だ。それどころか、国際評価から完全に見放されている。

   その事例が経済と株価、そして東京オリンピックではないだろうか。先ほど内閣府が公式ホームページで発表した2021年1-3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.3%減、年率換算で5.1%減だった。マイナス成長は3四半期ぶり。1-3月期は新型コロナウイルスの感染拡大で政府が東京などに緊急事態宣言を発令した時期と重なる。そして2020年度は前年度比4.6%減で、戦後最大の落ち込みとなったことが分かった。日本は国債や借入金などを合わせた「国の借金」が3月末時点で1216兆円に達し、過去最大、そして世界で最大となった。世界の誰もが考えることは、日本は変異株によってこれからも緊急事態宣言を繰り返すことで経済はさらに低迷する、国の借金で財政破綻するのも間近だろう、と。

   東京オリンピックについても世界は厳しい目で見ている。ニューヨーク・タイム紙(5月11日付)は「A Sports Event Shouldn’t Be a Superspreader. Cancel the Olympics.」の見出し=写真=で、オリンピックを研究する政治学者の記事を掲載している。記事では、IOCは収益の73%を放送権料が占めるので東京五輪を手放さないだろうが、ワクチン接種が数%で日本の世論も60%が開催に反対している。オリンピックを「スーパースプレッダー(感染源)」してはならない、「科学に耳を傾け、危険なジェスチャーを止める時が来た。東京オリンピックは中止されなければならない」と痛烈だ。

   日経平均株価はことし2月16日に3万714円をつけて以降は、最近は下降傾向で2万8000円台だ。逆に、アメリカは3月以降、コロナ感染状況の好転とワクチン接種の進展を受けて経済活動が息を吹き返し、5月10日にダウは3万5000㌦を一時突破した。ワクチン接種が遅れた日本と進んだアメリカの格差が、株価パフォーマンスとしてはっきりと表れている。

   今後、日本はグローバル化から見放されて世界から旅行先などに選ばれなくなるだろう。また、留学生たちも母国に帰りワクチンを接種、そして日本には戻らないのではないだろうか。こう書いているだけで気が滅入る。

⇒18日(火)午前・金沢の天気     くもり

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★「ワクチン接種」予約は必要なのか

2021年05月17日 | ⇒トレンド探査

   きょうから東京と大阪で行われる新型コロナウイルのスワクチン接種の予約受付が始まる。このブログで何度か「ワクチン敗戦国」と称してきた行政の対応の矛盾などが一気に噴き出すのではないかと懸念している。たとえば、一番の混乱は、予約は防衛省のホームページや通信アプリ「LINE」などインターネットでのみの受付となっていて、電話は受け付けないということだ。

   ネットやスマモを使わないシニアは多数いる。これは全国統計だが、総務省「情報通信白書(令和2年版)」によると、70代(70-79歳)のSNS利用者は41%だ。さらに、「NTTドコモ」モバイル社会研究所のSNS利用動向についての調査リポート(2020年6月29日付)によると、スマホを所持する70代の46%がLINEを利用している。この割合でいくと、LINEを使っている70代は19%、つまり5人に1人ということになる。東京23区では午前11時から予約を開始しているが、「なぜ電話で受け付けないのか」と各役所には苦情が殺到しているだろう。

   さらに、金沢市でも見られた事例だが、二重予約の原因にもなる。ネットやスマホを使わないお年寄りは知人や家族ら複数の人に予約の代行を依頼している。実際に知り合いの80歳代のお年寄りは3人に依頼し、うち2人が登録を済ませていた。接種センターでは、自治体とシステムがつながっていないため、二重の予約を防ぐ手立てはない。

   そもそも予約は必要だろうか。むしろ、ワクチンの接種率をどうすれば高めることができるかが肝心な点ではないか。これを選挙の投票率を高める発想と考えるといろいろアイデアが浮かぶ。つまり、「接種権」と「投票権」を同列に考えて、選挙管理委員会と連携を取る。住民登録をベースにした「接種人名簿」を作成し、「接種はがき」を事前に送付する。接種日と会場を地区ごとに分散させて、小中学校や公共施設で接種会場で来訪順に接種する。1回目が済んだときに2回目の接種はがきを渡す。アナフィラキシーショックを想定して、15分後をめどに会場を退出する。医師1人1時間あたり20回接種(厚労省基準)といわれているので、地区ごとの接種人の人口を換算して医療関係者を配置する。 

   政府は高齢者への接種を7月末までに終えたいとの方針のようだが、変異株では年代は関係なく感染が拡大する傾向にある。接種日と会場を地区ごとに分散させる方式ならば、接種年齢を現在の65歳以上から20歳以上に拡大してもよい。さらに、緊急事態宣言や「まん延防止等重点措置」の対象地域を優先的に接種した方が効率的ではないだろうか。

   2月に始まった日本のワクチン接種は2%と先進国の中で最も低い(5月14日付・Bloomberg-Web版日本語)。接種率が上がらなければ、「ワクチン敗戦国」として、世界からオリンピック参加すら忌避されるだろう。

⇒17日(月)午前・金沢の天気    あめ

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☆「自然に触れ、命と向き合う」河合雅雄氏の言葉

2021年05月16日 | ⇒メディア時評

   ニホンザルなどの霊長類の研究で多大な功績を残した河合雅雄氏(京都大学名誉教授)が今月14日に亡くなられた。97歳だった。もう16年も前になるが、河合氏を金沢大学に招き、シンポジウムの基調講演をいただいた。80歳を過ぎておられたが、かくしゃくとした姿、語り口調だったことを覚えている。故人をしのんで、ネットで掲載した講演の主旨を再録する。

   2005年12月17日に開催したシンポジウムは朝日・大学パートナーズシンポジウム「人をつなぐ 未来をひらく 大学の森 ~里山を『いま』に生かす~」(主催:金沢大学、龍谷大学、朝日新聞社)。基調講演のテーマは「森あそびのすすめ」。

                  ◇

   森林文化の盛んなヨーロッパを訪ねると驚く。森のかなり奥まで道があり、深い森の中をおばあさんが1人で歩いていたり、お年寄りが孫を連れて歩いていたりする。人々は命あるものとの交流を楽しんでいる。特にドイツ人は森が好きで、月曜の朝には「どこの森に行って来たの」というあいさつになるくらいだ。

   文化資源として森を利用するということが、日本では欠けている。文化とは、芸術だけではない。いろいろな「あそび」も文化だ。私はよく「森あそびのすすめ」と言っている。内容は、英語の頭文字で言うと「CSRE」。つまり、Cはカルチャー(文化)、Sはスポーツ、Rはレクリエーション、Eはエデュケーション(教育)だ。

   川あそびなら、わかるだろう。日本人は世界でも傑出した川あそびの文化をつくってきた。私も子どものころ、夏になると、朝から晩まで川に入り浸っていた。今は「川は危険だ」ということで、子どもはプールに行く。だが、プールは泳ぐだけ。川では泳ぐことはごく一部。そこにはカワセミが飛び、いろいろな魚や水生昆虫が住み、石の裏には生物の卵や幼虫がいる。子どもはあそびの天才で、自発的なあそびを展開する。同じように森という自然を舞台に、森あそびを考えていいと思う。

   子どもの理科離れがいわれる。もっと怖いのは自然離れだ。人格形成にかかわる問題だ。子どもを取り巻く環境は人工化してしまっている。個室を与えられ、そこにはマンガがあり、電子ゲームがあり、テレビがある。人間との対話も携帯電話でないとコミュニケーションできない。

   自然に触れ、命あるものと向き合って対話し、心の潤いを得る。もっとも子どもは自然の中で残虐なこともやる。私もトンボの尾をちぎって棒を突き刺して飛ばしたこともある。だが、いつか自分でふと気づく。「かわいそうやな、こんなアホなことやめよう」と。行為を通じて自分の中の残虐性に気づく。自然とのかかわりの中で、命の尊さを知る。

   子どもは本当は自然が好き。ただ、知らないだけだ。大人が取り上げたのではないか。大人が子どもに自然を返してあげる努力が必要だ。

                 ◇

   パネル討論では、会場から「石川にはクマ問題がある。クマと人との共存はあり得るか」という質問があった。河合氏は「あり得るが、簡単ではない。原因の一つが里山問題。クマは奥山にいて、人と動物が共有する里山がバリアになっていた。でも、里山に人がいなくなり、動物のものになった。動物がおいしい農産物の味を一度覚えたら、戻すのは簡単ではない。保護管理に専門家があたらなければならない」と。また、司会者からの「里山をもっと楽しく、みんなのものにする提言を」とのふりに、河合氏は「新しい、多様な里山を作ってはどうか。例えばモミジの山、小鳥が集まる山、昆虫の森など。オオムラサキが飛んできたら、子どもたちは大感激するはずだ」と答えて会場をなごませた。

(※写真は、2005年11月2日、シンポジウムの事前打ち合わせに兵庫県篠山市=現・丹波篠山市=の自宅を訪ねた折、河合氏は和装で出迎え)

⇒16日(日)午後・金沢の天気    くもり時々あめ

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★WHOテドロス氏「ワクチン寄付」集めの裏読み

2021年05月15日 | ⇒ニュース走査

   WHOのテドロス事務局長の発言がまた波紋を呼んでいる。 テドロス氏が14日の記者会見で、一部の高所得国が子供に対する新型コロナウイルスワクチンの接種を始めたことについて、医療従事者らもまだ接種できていない低所得国への寄付を優先すべきと述べたと報じられた(5月15日付・時事通信Web版)。テドロス氏の発言内容を詳しく知りたくて、WHOの公式ホ-ムページをチェックした=写真=。問題の発言は以下だ。

   I understand why some countries want to vaccinate their children and adolescents, but right now I urge them to reconsider and to instead donate vaccines to COVAX. (意訳:私は、一部の国が子供や青年にワクチンを接種したい理由を理解しているが、今、彼らに再考を促し、代わりにCOVAXにワクチンを寄付することを強く勧めしている)。

   ワクチン供給のわずか0.3%しか低所得国に届いていない状況の中で、アメリカが接種年齢をこれまでの16歳以上から12歳以上に拡大したことを受けての発言だろう。そのテドロス氏の発言が波紋を呼ぶ背景には、中国がある。WHOは今月7日に中国国有製薬大手「中国医薬集団(シノファーム)」が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認している。治験などから推定される有効性は79%。中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)のワクチンについても審査中で、近く結果が発表される見通し(5月8日付・同)。

   上記からあるストーリーが浮かぶ。COVAXはWHOが中心となってワクチンを共同購入する組織だ。WHOの公認ワクチンを中国から購入することで低所得国に分配したいとテドロス氏は考えているに違いない。あるいは、中国から入れ知恵があったのかもしれない。中国側もこれまでのワクチン外交からワクチンビジネスに本格的に参入したい思惑があるだろう。

    さらにスト-リーは展開する。WHOによる低所得国へのワクチン寄付の要請は真っ先に日本に向かってくる。そう懸念する論拠は以下だ。昨年2020年5月16日、テドロス氏とIOCのバッハ会長は「スポーツを通して健康を共同で促進していく覚書(MOU)」を交わしている。その中で、オリンピックなど国際スポーツイベントの開催にあたっては、WHOからガイドライン(この場合は助言)が示される。つまり、パンデミックの下で東京オリンピックを開催するしないの「決定権」を握っているのはWHOなのだ。

   テドロス氏がオリンピック参加国でもある低所得国にワクチンが行き渡らない状態ではオリンピックは開催できないと言えば、バッハ会長も従わざるを得ないだろう。そこで、テドロス氏の意向を受けたバッハ氏が今度は東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本会長にWHOへのワクチン寄付を要望してくることは想像に難くない。

   そうして集められた世界からの寄付金で中国製のワクチンが購入されるシステムが出来上がる。同時に、中国としては、来年2月の北京冬季五輪はワクチンが世界に行き渡った状態で開催する、世界史上で類を見ない大会だと豪語するだろう。中国製ワクチンの緊急使用をWHOが承認したのはその布石だった。裏読みではある。

⇒15日(土)夜・金沢の天気      あめ

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☆ワクチンへの期待と憂鬱

2021年05月14日 | ⇒ドキュメント回廊

   新型コロナウイルスの感染状況が悪化している。朝日新聞Web版(5月14日付)によると、政府がきょう14日午前に開いた専門家による「基本的対処方針分科会」では、特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に、北海道、岡山、広島の3道県を新たに加える諮問を出し直し、了承された。期間は今月16日から31日まで。また、群馬と石川、熊本の3県は、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」の対象地域に加えた。期間は16日から6月13日まで。

   石川の「まん延防止等重点措置」の対象地域は金沢市となる。「重点措置」の適用が決まったことを受けて、石川県の谷本知事は、今月31日と来月1日に県内で行う予定の東京オリンピックの聖火リレーの公道での開催を中止すると発表した。聖火リレーの代替方法を検討するという(時事通信Web版)。

   金沢市に住んでいて、ただただ待っているのがワクチン接種だ。同市のワクチン接種の予約受付は今月6日に始まったが、自身の予約はまだ取れていない。市のコールセンタ-とはようやく12日に電話が繋がった。ところが、ワクチン接種を行う市内201の医療機関はすでに申し込みが満杯の状態で、今月31日から再度、予約受付を開始するとの返事だった。この日、予約受付に使用しているアメリカの顧客管理システム「Salesforce」が一時ダウン、予約受付もストップするなど混乱が続いていた。

   友人たちとメールでやり取りすると、「ワクチン神話はそのうち崩壊する。オレは接種しない」との意見もある。この声は少数派だが、確かに、石川県ではファイザー製のワクチンを2回接種(3月13日、4月3日)を終えた病院の女性職員が感染したことが報じられた(4月12日付・メディア各社)。2回のワクチン接種を完了しているにもかかわらず発症することを、「ブレイクスルー感染」と言うそうだ。また、全身にアレルギーが出たり、急に血圧が低下して気分が悪くなったという、アナフィラキシー・ショックを体感した知人もいる。さらに、次々と出現する変異株にワクチンがどこまで効果があるかは不透明という印象はぬぐえない。

   一方で、「ワクチン先進国」のアメリカの疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスを巡る指針を改定し、ワクチン接種を完了した人は屋外および屋内の大半の場所でのマスク着用は不要と定めた。また、 ソーシャルディスタンス(社会的距離)についても、大半の場所で維持する必要はないとした。ただ、航空機や電車、空港や駅、病院では引き続きマスクの着用を推奨した(5月13日付・ロイター通信Web版日本語)。

   アメリカでは、医療従事者の25%が接種拒否しているとニュース(2021年1月8日付・ロイター通信Web版日本語)になっていたが、その後、どのような展開になっているのか。日本でもことし2月から医療従事者480万人に対するワクチン接種が始まったが、これまで1回接種は336万人、2回接種は152万人となっている(総理官邸公式ホームページ・5月13日付)。単純に計算すると5月に入っても、144万人が1回も接種していないことになる。率換算で30%だ。これはワクチン配布の単なる遅れなのか、あるいは拒否なのか。

   日本ではワクチンの普及が遅れているがゆえにワクチンに対する疑心暗鬼が生じるのか。期待と憂鬱が交錯する。とりとめのない話になってしまった。(※写真は、ラファエロ作『アテネの学堂』)

⇒14日(金)夜・金沢の天気       くもり

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★花咲けど、コロナ禍で「無常」の響き

2021年05月13日 | ⇒ドキュメント回廊

   いまの時代にはふさわしくない表現かもしれいないが、「花にも格」というものがある。たとえば、古くからボタンは「花王」、シャクヤクは花の宰相、「花相」と呼ばれてきた。高貴な美しさを周囲に漂わせ、人は相応な愛で方をする。きのう玄関に庭のシャクヤクを飾った=写真=。敷板の上に唐銅の花入だ。花の姿は人の姿にもたとえられる。「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」と。花は精気を放ち、心を和ませてくれる。

   しかし、残念なことに人の世の精気が感じられない。東京オリンピック・パラリンピックは一体どのような展開になるのか。NHKニュースWeb版(5月12日付)によると、IOCは理事会後に広報責任者がオンラインで会見を行い、ファイザーなどから提供を受ける新型コロナウイルスのワクチンについて、「東京オリンピックの選手村に入る人の大多数が接種すると見通している」と述べた。また、各競技の予選について「全体の7割にあたる7800人以上の出場枠がこれまでに固まり、2割は世界ランキングをもとに決まる」と述べた。ところが、オンライン会見では質疑応答の最後に指名され、ヤフーの記者と紹介された男性が画面に向かって突然、英語で「東京オリンピックはない」と書かれた黒い布を掲げながら「オリンピックはいらない」などと繰り返し声を上げる一幕があり、映像はすぐに切り替わり会見は終了した。

   混沌とした東京オリンピックの状況を象徴するような出来事ではある。オリンピックだけではなく、「人の流れ」をともなうイベントや会議など催事が混迷を深めている。きょう届いたメールで能登半島で9月に予定しているイベントの担当者の苦悩が書かれてあった。

   「コロナ、なかなか収まりませんね。GW中に、ついに当市でも感染者が発生し、石川県が独自の緊急事態宣言を発出したことで、現在の市民感情は、イベントを開催することに不安を抱えている状態です。事務局サイドでも、今月末に企画発表会の開催を予定しておりましたが、コロナの状況を見極めて判断するということで延期することになりました。準備がちょっと進んだかなぁと思うと、スタート地点に引き戻される感じがしています」

   医療従事者480万人のうちワクチン2回接種を終えたのは139万人、65歳以上の高齢者3600万人のうち2回接種を終えたのはわずか3万人だ(5月12日現在・総理官邸公式ホームページより)。コロナ禍の収束はまだ先が見えていない。菅総理は7月末までに希望するすべての高齢者への2回接種を終えたいと述べているのだが。

   自然の中で花は毎年変わらず咲くが、人の世は変わってしまうものだ。先人たちはこれを「無常」と称した。「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」(平家物語)

⇒13日(木)午前・金沢の天気    くもり

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☆広告メッセージの凄み 「政治に殺される」

2021年05月12日 | ⇒メディア時評

   きのう朝8時39分に友人からメールが届いた。「おはようございます。今日の読売新聞です」と書かれ、画像が貼り付けられていた。「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される。」。出版社の宝島社の全30段(左右両面)の全面広告だ=写真・上=。図柄をよく見ると、戦時下の子どもたちの竹槍訓練の写真の真ん中に赤いウイルスがある。見ようによっては、国旗の日の丸の部分がウイルスになっている。

   キャッチコピーの下に趣旨が述べられている。「私たちは騙されている。この一年は、いったい何だったのか。いつまで自粛をすればいいのか。我慢大会は、もう終わりにして欲しい。ごちゃごちゃ言い訳するな。無理を強いるだけで、なにひとつ変わらないではないか。今こそ、怒りの声をあげるべきだ。」と。

   実は4日前の今月7日にメールを送ってくれた友人たち3人で昼食を伴にした折に、まさに、キャッチコピーや趣旨文と同様のフレーズが次々と出て、話が盛り上がった。「いまだにワクチンも接種できない。日本はまるで敗戦国だ」と。

   この広告は、読売のほかに朝日、日経の朝刊にも掲載されていた。宝島社はこれまでも全面広告を出している。印象深いのが、2019年1月7日付だった。「敵は、嘘。」(読売新聞)と「嘘つきは、戦争の始まり。」(朝日新聞)の2パターンあった=写真・下=。

   「敵は、嘘。」はデザインがイタリア・ローマにある石彫刻『真実の口』だった。嘘つきが手を口に入れると手が抜けなくなるという伝説がある。「いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」と。当時国会で追及されていた森友・加計問題のことを指していた。

   そして、「嘘つきは、戦争の始まり。」のデザインは湾岸戦争(1991年)のとき世界に広がった、重油にまみれた水鳥の画像だった。当時は、イラクのサダム・フセインがわざと油田の油を海に放出し、環境破壊で海の生物が犠牲になっていると報じられていた。また、イラクがアメリカ海兵隊部隊の沿岸上陸を阻むためのものであるとの報道や、多国籍軍によるイラクの爆撃により原油の流出が生じたなど、その真偽は定かではない。この広告の掲載のときは、アメリカ大統領のトランプ氏が2017年の就任時からメディアに対して「フェイクニュース」を連発していた。為政者こそ軽々しく嘘をつくな、というメッセージだった。

   今回の広告は、コロナ禍で後手後手になっている為政者をダイレクトに突き刺す広告である。企業広告とは言え、国民の気持ちを代弁するメッセージの数々に喝采を送りたい。

⇒12日(水)夜・金沢の天気      はれ

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★台湾ダム着工100年 「八田與一」考える座像の秘話

2021年05月11日 | ⇒ドキュメント回廊

   「八田與一」という名前を知っている人は台湾と金沢以外、ほとんどいないだろう。「はった・よいち」と読む。その八田與一の名前がNHKの全国ニュース(5月8日付)で流れた。以下、ニュースを紹介する。

   日本統治時代の台湾で、日本人技師、八田與一が建設に尽力した「烏山頭(うさんとう)ダム」の着工100年を祝う式典が8日、現地で行われ、蔡英文総統などが出席した。台湾南部の台南にある烏山頭ダムは、1920年に建設が始まり、工事を指導した、石川県金沢出身の八田技師は最大の功労者として台湾でも高く評価されている。八田技師の命日にあたる8日、ダム着工100年を祝う式典がダム近くの公園で行われ、蔡英文総統をはじめ首相に当たる行政院長や閣僚などの要人が出席した。式典では蔡総統が「ダムと灌漑施設の水は100年流れ続けている。台湾と日本の友情も双方の努力によって続いていくことだろう」と、功績をたたえた(NHKニュースWeb版を引用)。

   烏山頭ダムは10年の歳月をかけて1930年に完成したものの、日本国内では1923年に関東大震災があり、ダム建設のリ-ダーだった八田にとっては予算的にも想像を絶する難工事だった。5月8日が命日というのは、ダム建設後、軍の命令でフィリピンの綿花栽培のための灌漑施設の調査のため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で船が沈没し亡くなった。その日が1942年の5月8日だった。終戦直後、八田の妻は烏山頭ダムの放水口に身投げし後追い自殺する。

   当時としてはアジア最大級のダムで、同時に造られた灌漑施設によって周辺の地域は台湾の主要な穀倉地帯となり、現在も農業だけでなく工業用水や生活用水として利用されている。戦後も台湾の人たちに八田は高く評価され、台湾の民主化を成し遂げ、哲人政治家としても知られる元総統、李登輝氏(2020年7月死去)が2004年12月に金沢に来て、八田與一に関する展示と胸像がある「金沢ふるさと偉人館」を訪ねている。

   八田の功績は戦後日本と台湾の友好の絆をも育んだが、台湾の独立派と中国と台湾の統一派によるつばぜり合いが過熱する政治情勢では、政争のシンボルになることもある。2017年4月、烏山頭ダムの記念公園にある銅像(座像)の首が切断され、中台統一派の元台北市議が逮捕された。日本より中国との交流を優先せよというメッセージだ。同じ年の2月には新北市の大学キャンパスにあった蒋介石の立像の一部が切断され、独立派の学生たちが逮捕された。大陸からやってきた本省人が台湾の独立を妨げている、との主張だ。同4月にも台北市の蒋介石の座像の首切断事件があった。

   八田の座像はすぐさま修復され、同年5月7日に座像修復の除幕式、そして8日には金沢市から関係者を招いて慰霊祭が行われた。座像は、八田が考え事をしている時によくとっていたポーズとされる。農業発展のダムの先駆者と妻の後追いの悲話、日本と台湾の友好の絆、独立派と統一派による政争のシンボル。「いま八田は何思うのか」。意味深なポーズではある。

(※写真は、台湾・烏山頭ダムを見渡す記念公園に設置されている八田與一の座像=台北ナビ公式ホームページより)

⇒11日(火)午後・金沢の天気  はれ時々くもり

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☆カキツバタの「ため息」 

2021年05月10日 | ⇒ドキュメント回廊

   そろそろ金沢の兼六園のカキツバタが見ごろを迎える時節だ。毎年5月中ごろになると、カキツバタが咲く曲水の周囲=写真=には早朝から市民が三々五々訪れる。中には、かがんで耳に手をあて、じっと開花を眺めている人もいる。言い伝えだが、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」という。その花音を聞いたことがあるという人生の先輩が「美女のため息のよう」と自慢げに話していたので、自身もこれまで何度か早朝の兼六園で耳を傾けたことある。花咲く瞬間は見ることができたが、残念ながら「ため息」は聞いたことがない。ただ、「兼六園にカキツバタの花音を聞きに行く」、なんと風流な言葉か。その兼六園がしばらく閉鎖されるとのニュースが流れてきた。

   石川県の谷本知事はきのう(9日)新型コロナウイルスの対策本部会議を開き、これまでの石川独自の「非常事態宣言」をさらにレベルアップさせた「緊急事態宣言」(期間は今月31日まで)を発令した。県内ではGW明けから感染者が増え、8日に80人の感染者が出るなど直近1週間の新規感染者は306人となり、県のモニタリング指標でもっとも深刻なステージ4の基準(285人)を初めて超えた。県内の累計感染者は2869人、死者は85人に上る(石川県庁公式ホームページ)。

   緊急事態宣言の概要は、▽午後8時以降の外出自粛の呼びかけ、▽デパートや映画館、遊園地など85業種への営業時間の短縮を依頼、▽金沢市の飲食店では酒類の提供は午後7時、営業は同8時、▽兼六園、いしかわ動物園、のとじま水族館などの県有施設は閉園・閉館、▽時差出勤や自転車通勤の推進、午後8時以降の勤務の抑制やテレワークの促進、など人の流れを抑える対策だ。

   兼六園が今月31日まで閉鎖となると、カキツバタの観賞は6月までお預けとなる。感染拡大が止まらなければ、6月も緊急事態が延長となる可能性だってある。ワクチンが行き渡るまで、この緊急事態の繰り返しだろう。そのワクチンも金沢市では65歳以上の接種の予約受付が6日に始まっているが、きょうコールセンターに10回電話しても、いっこうに繋がらない。まるで見捨てられたような心境だ。

   「捨てられて   また咲く花や   かきつばた」(正岡子規)。人の心は花の色のように移ろいやすく、見飽きたカキツバタを捨てる人もいる。それをそっと拾って愛でる人もいて、カキツバタは人々の心に咲き続ける、という意味だろうか。なんともうらやましい花だ。 

⇒10日(月)午後・金沢の天気    くもり   

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