熱中症対策 水分補給は大切だけど「ペットボトル症候群」には要注意 意識障害を起こすことも
2022/08/03 05:20
(ヨミドクター(読売新聞))
毎日、厳しい暑さが続いています。熱中症を防ぐにはしっかり水分補給をすることが大切です。ただ、水分の取り方によっては「ペットボトル症候群」と言われる状態になって体調が悪くなることがあり、注意が必要です。
インスリンの働きに悪影響
ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)とは、糖分を多く含む飲料をたくさん飲み続けると起こる健康障害です。
糖分を含むものを飲食すると、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が上がります。すると、 膵すい臓ぞう から分泌されるインスリンというホルモンにより、ブドウ糖が筋肉や脂肪に取り込まれ、血糖値が下がります。しかし、糖分を多く含む飲料を飲み続けて、高血糖の状態がいつまでも続くと、インスリンの分泌が減ったり働きが悪くなったりし、ブドウ糖は血液中に残ったままになります。
血液中にブドウ糖が多くとどまったままだと、尿の量が増え、脱水になります。喉が渇くので、さらに糖分を多く含む飲料を飲み続けると、より症状が進んで悪循環に陥ります。これがペットボトル症候群のきっかけとなります。
東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の主任教授、鈴木亮さんは「毎年夏になると、ペットボトル症候群を疑われた患者さんが外来に来られます。若くて肥満な男性が多いです」と説明します。
命に関わることも
ペットボトル症候群になると、体重が減り、意識障害や悪心といった症状もみられるようになります。
体のエネルギー源となるブドウ糖は、ふだんは肝臓や筋肉、脂肪などに蓄えられ、必要に応じて使われます。しかし、インスリンの働きが悪くなると、脂肪や筋肉を分解してエネルギーにしようとします。これに脱水が加わり、体重が減っていきます。
「ダイエットになる」と考える人がいるかもしれませんが、脂肪を分解して作られる「ケトン体」という物質が急激に血液中に増えてしまい、気持ちが悪くなります。「食欲が落ちてジュースばかり飲むようになった」「夏バテと思っていた」というケースも多く見られます。重症化すると意識障害を起こすこともあり、命に関わります。
鈴木さんは「もともと血糖値が高い人はペットボトル症候群になりやすく、注意が必要です。ただ、ペットボトル症候群と診断された人に聞くと『定期的に健康診断を受けておらず、自分は血糖値が高いと知らなかった』、あるいは『知っていたけれど気にしていなかった』と話す人が多いです」と指摘します。
「糖類ゼロ」の落とし穴
「糖類ゼロ」などと表示された飲料も多くあります。こうした商品であれば、ペットボトル症候群にはならないのでしょうか。
鈴木さんは「ゼロであれば血糖値は上がりませんが、少量の糖類が含まれていることがあり、『大丈夫』とは言い切れません」と説明します。
100ミリリットルあたり、糖類が0.5グラム未満であれば「糖類ゼロ」などと表示できることになっています。そのため、知らず知らずのうちに、糖類を摂取している可能性があるのです。
肥満でなくても
ペットボトル症候群になる危険が高いのは、もともと血糖値が高く、ジュースなどを相当量飲む人です。まずは健康診断を定期的に受け、自分の血糖値がどのくらいなのか、知っておくことが大切です。血糖値が高くない人は、1日500ミリリットル程度の摂取であれば、ペットボトル症候群になる危険は高くありません。
ただ、健康な人でも、糖分が含まれる飲み物を口にすれば血糖値は上がります。食事と食事の間に高血糖の状態が続くと、空腹を感じにくくなり、食生活が乱れることにつながります。また、直近1〜2か月の血糖状態を示す「ヘモグロビンA1c」の数値が上がったり、体重が増えたりし、将来的に糖尿病を発症するリスクが出てきます。肥満でない人も健康的な食生活を続けることが重要です。
適切な水分補給とは
熱中症対策に詳しい、医師で済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜さんは「食事を3食しっかり取るだけでも水分は摂取できており、あまり神経質になる必要はありません。激しい運動をしなければ、食事以外で水分を1日計1〜1.5リットル程度、取れば大丈夫でしょう」と説明します。
ポイントは、喉が渇いていなくても「こまめに飲む」こと。特に、高齢者は喉の渇きを感じにくく、注意が必要です。「1時間ごとにコップ1杯分飲む」というように時間を決めておくとよいと言います。
飲むものは、お茶か水が望ましいです。スポーツドリンクは運動した後などに素早く水分補給をするのに適していますが、糖分が多いものもあり、注意が必要です。
また、アルコールは水分補給に飲むものとして適していません。アルコールが体温を上げ、尿をたくさん出してしまうからです。お酒を飲むときは、水やお茶も一緒に摂取することが望ましいです。
谷口さんは「知らず知らずのうちに熱中症になってしまうこともあり、適切な水分補給を心がけてほしいです。子どもや高齢者に対しては、いつもと様子が変わりないか、周りの人たちが気にかけることも大切です」と話しています。(利根川昌紀)