牛島信「あの男の正体(はらわた)」幻冬舎文庫2014年刊
東大法学部出身で現役弁護士という著者がが書く企業経営者の話。おそらく全くの架空の話ではなく、実際にあった話を膨らませたり脚色したりしたものではなかろうか。
細かい描写、筋の運びにはいたるところにきちんとした、節度を感じさせるものがあり、まさに才気煥発、秀才ならではのところが多い。
物語は、企業を飛躍的に発展させた創業者タイプの先代と、そのボスに心酔した後継者、そして双方につかえた社長秘書のものであるが、描写が丹念であるだけ、少しメリハリに欠ける。ストーリーの結末も弁護士の遺言書執行みたいに、淡々と描かれる。主人公の死というドラマチックな幕切れを迎えても、他の人物の動揺はない。
きっと著者は優秀な弁護士だとは思うが、作家としては人情の機微にはそれほど明るくないのではなかろうか。