ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版094 形は自然に

2009年08月06日 | ユクレー瓦版

 今朝、マナが双子を連れて帰省、約二ヶ月ぶりのこと。双子の面倒を見ながらカウンターに立つ。客はテーブル席に初老の夫婦、前田さんだ、私とは顔見知り。カウンターにトシさん、テツさんの二人組。二人は勝さん、新さん、太郎さんが旅している間、ユクレー島の物資運搬係を代わりにやっていたが、既にそれもお役御免となった。でも、まあ、その付き合いから、以前よりもなおいっそうユクレー屋の常連となっている。

 マナがカウンターに立つとガジ丸一行はいつもより早くユクレー屋にやってくる。マナの体を気遣うジラースーが仕事を急がせるかららしい。で、今日も夕方には、この季節だとたっぷりと明るさの残っている時間に一行はやってきた。
 「マナ、代わろう。」と、来てすぐに、ガジ丸がマナに声をかける。
 「えっ?・・・あー、まだ大丈夫だよ。」とマナは応じたが、
 「お前の愛しい亭主のご要望だ。」ということで、ガジ丸がカウンターに立つ。

 「マスター、」と呼ぶに相応しい雰囲気を、悔しいが、ガジ丸は持っている。
 「マスター、何か、美味い肴は無いの?」と訊く。
 「別に、肴が無くても酒は旨いぜ。」
 「そりゃあそうだけど、マナかウフオバーが何か準備してるんだろ?トシさん、テツさんもテーブルの前田さん夫婦も何か食べているじゃないか。」
 「これは、その前田さんご夫婦の差し入れですよ。」とテツさんが答える。
 「へー、そうなんだ。何なの?」と私は言って、テツさんの手元の皿を見る。何か和え物のようだ。夫婦の方に目をやると、二人してニッコリ微笑んだ。
 「庭のモーウイです。こっちへ来る前に採って、サッと調理しただけの、たいした料理じゃないですけど。」と前田さんの奥さんの方が答えてくれた。

 「ほう、どれ一つ。」と、私より先にガジ丸が口にする。それを飲み込んで、
 「おう、なるほど、奥さん、腕は確かだね。」と感想を述べる。
 「あー、俺も欲しいな。」と私も手を伸ばした。確かに美味い。
 「素材が新鮮であることもご馳走だが、その新鮮さを十分活かしてるよ。」(ガジ)
 「素材の味が生きているってことだ。」(私)
 「モーウイが美味しく育ちたいと思ったのでしょう、きっと。」(前田夫)
  「育ちたいと思うように育つっていいね、この子達はどう育ちたいんだろう。」とマナは言って、乳母車の双子を覗き込む。ジラースーも一緒に覗き込む。
 「生きるために生まれてきたんだ、生きるためにと考えれば形は自然にできあがる。」とジラースーが赤ちゃん二人に語りかける。

 「生きるためにと考えれば体は自然にできあがる。」というのが自然の掟なんだが、ところが、人間という生き物は生きるため以上に食べて、健康を考えずに食べたりもするから、不自然な形になる者も多い、というような話に、その後進んだ。
 「マミナ先生がいたらウチアタイ(心当たり)するだろうね。」
 「マミナはあれで自然なんだ。形は人それぞれさ、健康であればいいんだ。」とガジ丸が言って、それがこの話の結論となった。確かにその通りと思う。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.8.7


瓦版093 土が無けりゃ

2009年06月26日 | ユクレー瓦版

 オキナワはまだ梅雨の季節が続いていて、雨の日が多いらしいが、この島には博士の発明した天気コントロール機械があって、農作物の都合の良いようにしか雨は降らない。よって、人が活動している明るいうちはたいてい晴れている。で、今日も青空、真夏まではまだ少し時間があるらしい爽やかな風が吹いている。

 そんな中、いつもの週末、いつもの散歩を終えてユクレー屋を覗いた。すると、ガジ丸がカウンターに立っている。「へー」と思いつつ、中へ入る。
 私やケダマンがマスターやっている時はほとんどいなかった客が、今日はカウンターに1組の夫婦と、テーブル席にオジサン3人がいる。村の人たちだ。私とは顔見知り。どちらにも軽く会釈して、カウンターの夫婦とは反対側の端っこに座る。
 「やー、ガジ丸のマスターは久しぶりだね。」
 「あー、ちょっとな、時間が空いたんで。・・・ビールか?」
 「うん、ありがとう。頼むよ。」
 出されたビールを二口、三口飲んでから、改めて店の中を見渡す。客は私を含めて6人だけだが、何だか全体に暖かい雰囲気がある。店内には邪魔にならない程度のボリュームでBGMが流れている。古いジャズみたいだ。それもイイ感じ。

 「ちょっと時間が空いたって、今日はジラースーの船が着く日だよね?」
 「あー、もう着いてるよ。爺さん三人が帰って来て、トシもテツもいて、んで、船の荷卸しはジラースーを合わせて六人もいる。で、俺は途中で抜けてきた。」
 「勝さんたち、やっと帰ってきたんだ。一ヶ月の予定が二ヶ月になったな。思いの外、楽しかったんだろうね、オキナワが。」
 「十分楽しんだみたいだぜ、特にトリオG3としてはな。このあいだはジラースーの家の近く、民謡酒場でもライブをやって、盛況だったみたいだぜ。」
 「ふーん、そうか、トリオG3のプロデビューもあながち夢ではないかもな。」

  夜になって、ジラースーたちがやってきた。トリオG3も元気な顔を見せる。
 「やー、お帰り、楽しかったみたいだね、オキナワの旅は。」
 「うん、楽しかったね、特に演奏している時はね。」(新)
 「じゃあ、これからも時々はライブツアーに出かけるんだね。」
 「いや、”時々”はきついな。”たまに”だろうな。」(勝)
 「そうだね。都会の空気は、我々には毒だね、長くはいられないね。」(太郎)
 「生活のリズムも違うし、土の地面が無いというだけでも違和感がある。」(新)
 「そうだな。土は、太陽と空気と水と同じくらい生きるのに必要な物だと思うけど、都会の人間は土が無くても生きていける。我々とは体の仕組みが違ってる。」(勝)
 「まったくだよ。土が無けりゃ人は生きていけないのにね。」(私)

 「そのこととは余り関係ないが、都会は住み難いって唄を作った。」と、ガジ丸はピアノを弾き、1曲披露した。題は『ミミズの引越し』とのこと、トリオG3のための新曲とのこと。その爺さん3人はしかし、疲れたということでその夜は早く帰った。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.6.26 →音楽(ミミズの引越し)


瓦版092 ウフオバーの実力

2009年06月19日 | ユクレー瓦版

 ユーナもマナもマミナもケダマンもいなくなって、ユクレー屋を手伝う者がいなくなった。週末だけなら私でもできるのだが、「いいよ、面倒でしょ。」とウフオバーに気遣いされて、私がカウンターに立つことは無い。客相手は概ねオバーがやっている。私は時々洗い物を手伝っているだけ。客も、酒や料理を運ぶのはセルフサービスだ。
 それにしても、ウフオバーのエネルギーには驚く。昼間はマミナの代わりに子供たちの面倒を見ている。ユクレー屋の昼間は今、寺子屋みたいになっている。
 「勉強も教えられるんだね。」と訊いたら、
 「勉強は、村人の何人かに手伝って貰っているさあ。私はね、勉強はあまり教えられないけど、生きることは楽しいってことを教えているさあ。」
 「生きることは楽しいか・・・。」そう、それが一番大事なこと、と私は思う。長く長く長く生きているオバーに教えられたら、子供たちも納得するだろう。

 そんなある日の金曜日、夜はいつものようにユクレー島運営会議がある。今日帰ってくる予定だったトリオG3のメンバー、勝さん、新さん、太郎さんは、既にジラースーの家まで来ているらしいのだが、帰りを一週間延期するとのこと。で、運営会議には爺さん三人の代わりをしているオジサン二人、トシさんとテツさんが加わっている。
 トシさんとテツさんは、ジラースーほどではないが、二人ともオジサン(40代とのこと)にしては逞しい肉体をしている。若い頃に、トシさんはボクシング、テツさんは柔道をやっていたとのこと。現役を退いてからも、ジョギングや筋力トレーニングは続けていて、今流行(はやり)のメタボリックとは無縁の肉体だ。
 「運動を続けているのは健康のためなの?」と訊いた。
 「それもあるけど、強い肉体でありたいという思いですね。」(トシ)
 「私も同じですね。ジラースーには憧れますね。私達よりずっと年上なのに、私達よりずっと強い。20年後、そこまでなれなくても、近付きたいですね。」(テツ)
 「ふーん、強くなることは必要なの?」とさらに訊くと、それにはガジ丸が答えた。
 「何が強いかの”何”がにはいろいろあるが、肉体が強くなると心に余裕ができる。予期せぬことが起きても慌てない。周りを見定める余裕ができる。」
 「それが人生にとっては必要なことなんだ?」
 「生き抜くという意味で必要だな。それはつまり、正しい状況判断が素早くできるということだからな。ジラースーなんか見てみろ、空手の達人でありながら、彼の一番の得意技は、どうすれば戦いを回避できるかを一瞬に判断できることだ。」

  確かにそうだ。ジラースーがケンカなんてことは、知合ってから何十年にもなるが、これまで一度も、見たことも聞いたこともない。ジラースーを見る。
 「いやー、まあ、そうだな。相手の力量を見定めて、相手の立場を考えて、逃げたりすかしたりだな。でもよ、俺なんかよりウフオバーの方がずっと強いんだぜ。」
 確かに、言われてみればそうなのだ。それは、オバーがケンカして強いという意味では無い。オバーの力はそんなことよりもずっと高度なもの。どんな相手でも、優しい気分にさせる力である。オバーの周りに争いは無い。それが究極の力なんだろう。
 その後、ガジ丸が新曲を披露した。力を持っているものが調子に乗って傲慢になる。それが人間社会の不幸の種の一つになっているとのこと。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.6.19 →音楽(少々調子に乗ってるね)


瓦版091 闇夜のカーニバル

2009年05月29日 | ユクレー瓦版

 マナの故郷は確か、オキナワではなく倭国だったと覚えているが、気分的にはユクレー島が彼女の故郷のようで、島にやってくると、
 「帰ってきたよー。」と言い、「何しに来た?」と問えば、
 「里帰りさあ。」と答える。彼女の実家はユクレー屋のようである。

 で、そのマナが今朝、里帰りしてきた。双子の子連れだが、ユクレー屋のカウンター係りがいないと聞いて、子守しながら、夕方からカウンターに立っている。
 「久々だね、マナのママさん。」
 「だね。何だか懐かしい感じ。それにしても目の前にあんた一人というのがね、ちょっと・・・。いると煩いけど、いないと寂しいもんだね、ケダも。」
 「うん、ケダが旅に出てもう二週間過ぎたよ。今頃どこかの空をふわふわ漂っているんだろうな。まあ、そのうちまた、ぶらっと顔を見せると思うけどね。」

 そんなこんなの近況報告をしているうちに、ガジ丸一行(ジラースー、トシさん、テツさん)がやってきた。いつもよりだいぶ速い時間だ。「早いね」と訊くと、
 「マナを遅くまで働かすわけにはいかないと、この愛妻家が言うんでな。仕事を急いで済ませてきた。」とガジ丸は言って、ジラースーを見る。ジラースーはガジ丸を睨み返しながら、マナには優しい目を向けながら、トシさん、テツさんと共に奥のテーブルへ向かった。ガジ丸もその後に続こうとしたが、マナに呼び止められた。

 「このあいださ、ユイ姉の店に行ったんだ。そしたらさ、その数日前にガジ丸もゑんも行ってたんだってね、マミナ先生から聞いたよ。」
  「あー、トリオG3のライブを覗きにな。」
 「私達もそれが目的。でさ、ガジ丸の作った『新月の宴』を聴いてさ、マジムンたちも祭りがあるんだと知ったさあ。ガジ丸みたいな猫、この世にいっぱいいるの?」
 「化け猫がいっぱいいるかどうかってか?」
 「化け猫なんて言ってないよ、私。」
 「構わんよ、化け猫で。・・・猫には限らないが、いっぱいっていうか、まあまあいるな。たまに集まってもいるぞ。集まってお祭りやってる。」
 「でも、闇夜の祭りって、何か不気味な感じ。」
 「そうでもないぜ。飲めや歌えや、食えや踊れやの楽しい祭りだ。現代は、マジムンたちにとっては生き難い世の中になっているから、祭りでは大はしゃぎだよ。」
     

 「そういえばさ、」と私が口を挟む。「あの後、ガジ丸と二人で、何人かの人間と話をしたんだ。この不況の時代は、お父さんたちも生き難い世の中みたいだったよ。」
 「おー、それそれ、その時聞いた話を唄にしたんだ。後で披露する。」とガジ丸は言って、ユクレー島運営会議に加わり、それが終わった後、ピアノを弾き、歌った。
 唄は2曲だった。どちらもユイ姉の店で聞いたオヤジ達の愚痴を歌ったもの。『ないないないばー』と『金稼げ虫』。勝ち組になれなくて開き直ったオヤジ達の歌。

 記:ゑんちゅ小僧 2009.5.29 →音楽(ないないないばー 金稼げ虫


瓦版090 オキナワの三老人と一老女

2009年05月22日 | ユクレー瓦版

 勝さん、新さん、太郎さんによる民謡楽団、トリオG3の初ライブが行われるというので、ガジ丸と私の二匹で、ナハのユイ姉の店に出かけた。テーブルについて、酒を飲みながら演奏を待つ。もちろん、我々二匹は二人となっている。つまり、人間の格好に変身している。マジムンのままでは騒ぎになって、ユイ姉に迷惑がかかるからだ。

  初ライブと言っても、『トリオG3初ライブ』などと大々的に宣伝したり、看板掲げたりしたのでは無く、ユイ姉たちによるいつもの演奏があって、その合間に、
 「今日は、私の友人のウタシャー(歌手)が来ています。民謡グループです。何曲か演奏してもらいましょう。」とユイ姉の紹介があって、ついでという感じで4曲ばかりを歌った。その方が緊張せずに、楽に演奏できるだろうというユイ姉の心遣いだ。

 人生経験豊富な爺さんたちでも緊張するのかと思って、演奏を終えて、我々のテーブルに合流した三人に訊いてみた。
 「いやー、そりゃあ緊張するね。人前で生演奏だからね。」(新)
 「お金を払っているお客さんだと思うと、失敗できないと思うからね。」(太郎)
 「俺も久々に足が震えたな。でも、楽しかったよ。」(勝)
 とのこと。勝さんの言った「楽しかったよ」はよく解る。彼らが演奏している間、私も楽しかった。盛んに声援が飛び、場内が盛り上がったからだ。
 「唄が良いのだ。」とガジ丸は自慢げに言ったが、私の感じでは、爺さん三人が頑張って歌っている姿に、客が暖かく応えてくれたのだと思う。唄に乗ったのではなく、爺さんたちの頑張りに対する声援だ。それで盛り上がったのだ。

 そうそう、ユイ姉の店には今、マミナ先生がいる。バイトという形で厨房を任されている。G3のライブが始まると、彼女も手を休めて我々の席に加わった。
 「やー、久しぶりだね。元気そうだね、上手くやってる?」と訊いた。
 「久しぶりって言ってもまだ一ヶ月だよ。やっと慣れてきたかなって感じ。店の仕事はね、普段やっていることと大きな違いは無いんだけどね。外がね、騒々しいのと、慌しいのとで、トゥンミグルー(目が回る)するさあ。」
 「オキナワはまだのんびりしている方だと思うけど。それでもユクレー島に比べたら人は遥かに多いし、人間もシャカシャカしているね。」
 「ナハはね。このあいだ、爺さん三人と一緒に南部戦跡巡りをしたんだよ。南部の田舎の方はね、まだいくらかのんびりした感じはあったよ。」
 そんなマミナ先生、もう二ヶ月ばかりは、その暮らしを続けてみるとのこと。寝泊りはユイ姉の家に厄介になっているそうで、二人で仲良くやっているとのこと。
     

 以上が、ユクレー島から離れオキナワにいる、旅の途中の三老人と一老女の近況。
 ちなみに、その日のトリオG3の演奏曲目は、全てガジ丸の作で、既にガジ丸がユクレー屋で発表済みの『シニカバカの夜は更けて』、『すねかじり節』、『チャンプルーの肝心』の3曲と、もう1曲は新作で『新月の宴』という唄。

 記:ゑんちゅ小僧 2009.5.22 →音楽(新月の宴)