ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

セセリチョウ7種

2011年10月31日 | 動物:昆虫-鱗翅目(チョウ・ガ)

 スキップするチョウ

 セセリチョウ科のチョウは、翅に比べて体が大きく一見、蛾に見える。そのような一見蛾に見えるものを職場の庭でちょくちょく見かけるが、セセリチョウは種類が多く、素人の私には識別が難しい。小さくて、近くに寄らないと写真が撮れないのだが、近寄ると逃げてしまう。ここ数ヶ月かけて、やっと5種のセセリチョウが撮れた。
 成虫は概ね花の蜜を吸う。幼虫は葉を丸め、その中で生活したりする。
 セセリチョウの「せせり」を広辞苑で引くと漢字がある。手偏に弄という字、弄は弄ぶ(もてあそぶ)で、挵は「せせること」とある。「せせる」は「つつく、ほじくる」などといった意味とある。英語名はスキッパー(skipper)、スキップするものということ。飛んでいる姿がそのように見えるらしい。それを日本人は「つつく」と見たのだろう。

 クロボシセセリ(黒星挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 関東以南、東南アジアなどに分布 方言名:ハベル
 翅に黒い斑紋があるところからクロボシセセリという名前。
 セセリチョウは種類が多く、『沖縄昆虫野外観察図鑑』にも13種類が載っている。そのほとんどが翅に比べて胴体が大きく、一見するとガのように見える。調べるまでは私もガだとばかり思っていた。基礎となる定義などを知らないと、虫は種類が多くて難しい。
 前翅長18ミリ内外。成虫の出現時期は沖縄島で3~11月。幼虫の食草はカナリーヤシなどのヤシ類。本種は外来種で、沖縄に入ってきたのは30年ほど前とある。
 
 成虫1  
 
 成虫2
   
 成虫顔  

 クロセセリ(黒挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 山口以南、沖縄、台湾、東南アジア、他に分布 方言名:ハベル
 名前はクロセセリだが、他のものに比べて黒っぽいということでの命名だと思う。体色は褐色。成虫は花の蜜だけでなく、鳥の糞などからも吸汁するとある。
 前翅長21ミリ内外。成虫の出現、八重山諸島では周年で、沖縄諸島では3月から11月。幼虫の食草はゲットウなど。ゲットウがあるとたいてい成虫が近くにいるらしい。
 
 成虫1
   
 成虫2  

 オオシロモンセセリ(大白紋挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 南西諸島、台湾、インド、他に分布 方言名:ハベル
 翅に大きな白い斑紋があるところからオオシロモンセセリという名前。
 ゲットウの葉が大きく丸まっている。蛾の幼虫がいるなと思って葉を開くと、いる。文献を調べる。ゲットウを食草とするのはクロセセリとオオシロモンセセリとある。両者の幼虫、よく似ているが少し違う。形状からオオシロモンセセリと判断できる。
 前翅長23ミリ内外。成虫の出現時期3~11月。幼虫の食草はゲットウなど。
 
 成虫1
   
 成虫2  
 
 幼虫   

 チャバネセセリ(茶翅挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 関東以南、南西諸島、東南アジア、他に分布 方言名:ハベル
 名前の由来は翅の色からきているものと思われる。
 セセリチョウの仲間では、沖縄で最も多く見かける種と文献にあったが、蛾や蝶に興味が無いとなかなか気付かない。小さくて、色も地味。
 前翅長18ミリ内外。成虫の出現時期、先島諸島では周年で、沖縄諸島では3月から11月。幼虫の食草はススキ、チガヤなどのイネ科の植物。
 
 成虫1
   
 成虫2  

 イチモンジセセリ(一文字挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 日本、南西諸島、東南アジア、他に広く分布 方言名:ハベル
 後翅に一文字の斑紋があるのでイチモンジセセリという名。
 飛ぶ力が強く、移動力があるので分布が中国、朝鮮、インド、ヒマラヤ、ボルネオ、その他と広いらしい。幼虫は稲の害虫となっているとのこと。
 前翅長19ミリ内外。成虫の出現時期は3~11月頃(文献には?がついている。詳しいことは不明とあった)。幼虫の食草はススキ、イネなど。
 
 成虫   

 ユウレイセセリ(幽霊挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 沖縄以南、東南アジアなどに分布。方言名:ハベル
 翅の文様がはっきりとしないところからユウレイ(幽霊)とついたのであろう。
 八重山には古くからいたらしいが、沖縄へは1973年頃から定着したとある。素人にはチャバネセセリとの違いが判り辛い。斑紋に僅かな違いがあるようだ。
 前翅長16ミリ内外。成虫の出現時期は3月から11月。幼虫の食草はメヒシバなど。
 
 成虫1  
 
 成虫2  

 2007年10月追加
 オキナワビロードセセリ(沖縄天鵞絨挵):鱗翅目の昆虫
 セセリチョウ科 奄美諸島以南、沖縄諸島、八重山諸島などに分布 方言名:ハベル
 翅の表面がビロード状になっていることからこの名がある。ビロードが天鵞絨と書くことを今回初めて知った。鵞はガチョウのことらしいが、この字も知らなかった。今覚えたが、おそらく、数分後には書けなくなり、数時間後には読めなくなっていると思う。ビロードに漢字があることさえ忘れているだろう。オジサンの記憶力は衰えている。
 前翅長24ミリ内外。成虫の出現時期はほぼ周年。幼虫の食草はクロヨナ。後翅に白い帯があることが外見的な特徴。人家周辺でも多く見られる。
 
 成虫 
 
 記:ガジ丸 2005.9.5  →沖縄の動物目次 →蝶蛾アルバム


キオビエダシャク

2011年10月31日 | 動物:昆虫-鱗翅目(チョウ・ガ)

 食と住まいを失くした理由(わけ)

 さほど大きくない物の長さを計るとき、掌(手の平)を広げて、親指の先と人差し指の先のいくつ分あるかでおおよそを知る。ちなみに、私は人差し指では無く薬指を使う。身長の割(170)に大きな手は、親指から薬指まで広げると25cmある。計算しやすい数字なので重宝している。
 ものさしで長さを計ることを「尺を取る(尺を打つともいう)」という。指で物の長さを計る場合も、「だいたいでいいから、ちょっとそれ、尺取って。」と言ったりする。言われた方は、親指と人差し指(しつこいが、私の場合は薬指)を何度かひょこひょこさせる。それで、尺を取っている、ということになる。
 尺を取っている指の、そのひょこひょこした動きに似ているところから名前のついた虫がいる。シャクトリムシ(尺取虫)。シャクトリムシという名はそのような動きをする虫の俗称であり、正式にはエダシャクトリ(枝尺蠖)などという。エダシャクトリはまた、蛾の一種であるシャクガ科の幼虫の総称となっている。

 親戚の庭に門冠りのイヌマキの木があった。イヌマキは成長が遅いのだが、そこのものは樹齢3、40年もあろうかという太さで、姿も見事な庭木となっていた。
 そのイヌマキが数年前に切り倒された。キオビエダシャクという蛾の幼虫がたびたび大発生し、家人がそれを嫌がって撤去したのであった。イヌマキの幹を足で強く蹴ると、その振動でキオビエダシャクの幼虫が落ちてくる。大発生の時には夥しい数が落ちてくる。落ちては来るが、地面には達しない。幼虫は糸を出し、枝葉にくっついている。振動で体が枝葉から離れても糸はくっついている。糸は幼虫を先につけたまま長く伸びる。たくさんの糸が垂れ下がる。それは、まるでシャワーのように見えるほどなのだ。
 キオビエダシャクの成虫は、翅に橙黄色の帯状紋があってきれいなんだが、その幼虫も色模様がきれいである。おそらく、昆虫に興味のある人(多くは男だろうが)なら皆、そう思うであろう。しかし、女性にとっては色がきれいだろうが何だろうが、虫は虫。多くの女性にとっては、ひょこひょこした動きもまた、気味悪いのかもしれない。
 親戚の家のキオビエダシャクの幼虫たちは、神に授けられた通りの姿と動きをしているだけなのだが、虫に生まれたばかりに、外見が良くないという理由だけで女性に嫌われ、自らの食と住まいを失くしたのであった。哀れなことである。同情するばかりである。

 キオビエダシャク(黄帯枝尺):鱗翅目の昆虫
  シャクガ科 九州南部、沖縄、台湾、東南アジア等に分布 方言名:チャーギムサー
 黒青色の翅の中央に橙黄色の帯状紋があるので、この名がある。方言名のチャーギムサーはチャーギ(イヌマキの沖縄語)のムサー(虫の沖縄語)という単純な意味。
 毎年というわけでは無いが、たびたび大発生する。イヌマキの葉を食い潰し、木を枯らしてしまうこともある。その場合の彼らの食と住まいを失くした理由(わけ)は自業自得ということになる。樹木を愛するものとして、その時は私も同情はしない。
 前翅長50ミリ内外、成虫の出現は3~11月。幼虫の体長は60ミリほど。
 
 成虫 
  
 幼虫1 その季節、イヌマキの枝を捜せば見つけることができる。
  
 幼虫2 糸を出して枝にぶら下がっているものもいる。

 記:ガジ丸 2005.4.13  →沖縄の動物目次 →蝶蛾アルバム


オウゴマダラ

2011年10月31日 | 動物:昆虫-鱗翅目(チョウ・ガ)

 極め付きの偏食家

 鹿児島在住の友人Hが遊びに来て、久高島、及び斎場御嶽観光に付合い、翌日の日曜日もまた、本島南部の観光となった。摩文仁の平和祈念公園と玉泉洞。玉泉洞は、東洋一と謳われている鍾乳洞はさすがと思ったが、観光客相手の観光地なので、ウチナーンチュである私には、その他に特に興味を引くものは無かった。

 平和祈念公園は何度も訪れている。今回はオジサン二人で園内をくまなく歩き回る。沖縄戦の最終激戦地である摩文仁の丘は海岸端にあり、海は断崖の下にある。もはやこれまでとなった時、多くの人がここから海へ飛び降り自殺した。断崖の上から海岸までの道があったので、下りてみた。浜辺には釣り人が1人、家族で浜遊びをしている1組がいた。きれいな海だった。60年前を想像して、今の平和をしみじみ感じる。
 もうずいぶん昔、三十年ほど昔、好きだったけど、付き合ってくれとは言えなかった彼女とのデートで平和祈念公園を訪れたことがある。その時はまださほど整備されていなくて、平和の礎も無かった。その頃のメインは平和祈念堂(以前は平和祈念館という名前だったと思う)であった。その中に、沖縄戦に関する資料なども展示されていた。二人で入った。確か、祈念館の階段の踊り場に飾られていた1枚の絵に感動した覚えがある。

 それ以来、二十数年ぶりに今回、平和祈念堂を見学する。その入口で、案内の向かい側に飾られてあった展示物に「おーっ!」と声をあげる。3つの鉢植え植物にたくさんのオウゴマダラの蛹がぶら下がっていた。黄金色の蛹なのですごく目立つ。友人のNは作り物だと思っていて、案内の人に「本物ですよね」と私が確認すると、彼も驚いた。
 鉢植えの植物は左からホウライカガミ、ヤドリフカノキ、パキラ。実は、オウゴマダラの幼虫は極め付きの偏食家で、ホウライカガミしか食わない。であるのに何故、他の植物に蛹が付いているのか不思議に思って訊ねると、幼虫が動かなくなって蛹になろうかとしている時に、ホウライカガミから他の植物へ移すとのこと。好きなところへ幼虫を置いていき、黄金のツリーを作るのだそうだ。それはまた、ホウライカガミの葉が落ちて、その葉に付いてた幼虫が蛹になることも無く死んでいくのを防ぐ意味もあるらしい。
 
 オウゴマダラ(黄金斑):鱗翅目の昆虫
 マダラチョウ科 分布:南西諸島、台湾、東南アジア 方言名:ハベル
 名前の由来は蛹からきている。蛹は黄金色に輝く。
 ゆっくりと飛翔するので、採取が容易なことからバカチョウと呼ばれることもあると文献にあるが、それは失礼というものだ。ヒラヒラと優雅に風を受け、恋をし、子を成し、一生を終える。そんなのんびりとした生き方は平和そのもの。沖縄のシンボルにしたいくらいだ。平和祈念堂の入口を飾るのにふさわしいじゃないかと私は思う。
 前翅長75ミリ内外という日本最大の蝶。白地に黒色班の模様が美しい。成虫の大きさが日本一ということでも有名だが、前文で書いたとおり金色に輝く蛹も有名。本土の熱帯植物園などに、幼虫一匹当り千円で売れるという話を以前聞いたことがある。幼虫から蛹になったところで、摩文仁の平和祈念館のように展示し、客寄せとするのだろう。
 成虫が飛ぶのを見られるのは3月から11月。先日の久高島でも見ることができた。幼虫の食草はホウライカガミ。ホウライカガミはキョウチクトウ科の蔓植物。
 
 成虫翅表
 
 幼虫
    
 蛹の群 写真の植物はパキラ。
   
 蛹 写真の植物はホウライカガミ。
    
 卵
     
 顔  
 顔をアップで見る。なかなかの美人。  

 記:ガジ丸 2004.12.3  →沖縄の動物目次 →蝶蛾アルバム

 参考文献
 『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
 『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行