玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

朝吹真理子さん游文舎で

2011年11月19日 | 日記
 朝吹真理子さんに、フランソワ・ビュルランの素顔を見てもらおうと、DVDをスタートさせたところ、ビュルラン本人が画面に登場したところで、朝吹さんは「あっ」と大きな声を上げた。ビュルランの容姿を見て、一瞬でその作品と作者との関係に納得がいったという風だった。
 その「あっ」という大きな声に彼女の感受性の鋭さを感じ取った。それは芥川賞受賞作『きことわ』にもよく現れていて、読んでいて、その鋭敏な言語感覚にびっくりさせられることがしばしばであった。
 朝吹さんに「游文舎」の文庫を見ていただいた。漫画本のコーナーで「杉浦日向子がある。花輪和一もある。つげ義春もある」と、とても嬉しそうだった。自分のことを「遅れてきた“ガロ”世代だ」とおっしゃる。
 漫画雑誌「ガロ」の全盛期は、私が高校生の頃であるから、四十年も前のことである。「ガロ」でデビューした多くの漫画家の作品に親しむには、誰かの教示がなければならない。朝吹さんの場合、それは父上の詩人で仏文学者の朝吹亮二さんであったようだ。
 つげ義春の恐るべき傑作「ねじ式」を当時「ガロ」の初出誌で読んで打ちのめされたことを話すと、朝吹さんは、とても羨ましそうだった。私どもは、とても良い時代に生まれ育ったのだったかも知れない。
 朝吹さんは文庫をご覧になりながら、いろんな本に敏感に反応される。よく本を読んでいらっしゃる。ずっと「游文舎」で本を眺めていたかったようだが、時間がない。再びの来柏を約束されて、朝吹さんは特急「北越」に飛び乗った。

越後タイムス10月21日「週末点描」より)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿