トランプ大統領の日米安保の破棄・解消を示唆するとも取れる発言が波紋を呼んでいる。
現在のところ、政府は静観の構えであり、世論も有り得ないとする空気が支配的であるが果たしてそうであろうか。第二次世界大戦が終わって世界が東西に二分された際、アメリカが最も恐れたのは共産主義によるアメリカの赤化であり、対外的にはヨーロッパでNATOを、アジアでは韓国・日本を防波堤とすることで共産主義の膨張を食い止め、アメリカ自身もマッカーシーの赤狩りに代表される共産主義思想弾圧を行って反共に世論を統一した。その後、朝鮮戦争・キューバ危機・ベトナム戦争とアメリカは息つく暇もなく共産主義との戦いを余儀なくされたが、ソ連の崩壊によって共産主義との戦いはアメリカの第一戦略目標ではなくなった。このように、アメリカが日本や韓国と安全保障条約を結んで両国を守るのは、偏にアメリカの防波堤としての地政学的な重要度の故であり、韓国や日本の国民を守ることには二義的な意味しか持っていないことは明らかである。ここにきて、トランプ大統領というビジネスマンが登場したことで様相は一変した。トランプ大統領は、海外駐留米軍を「軍需産業を下支えするための傭兵集団」としてしか考えてないことは疑の無いところで、今後は米軍の駐留はおろか軍事行動すらも金銭が要求される事態も予想しておかなければならない。ゼウスは、あらゆる災いの詰まった箱をパンドラに持たせて地上に送り出したが、パンドラが好奇心から箱を開けてしまい全ての災いが地上に飛び出した。急いで蓋を閉じたので希望だけが残ったというパンドラ伝説。日米安保の片務性を理性・知性で覆い隠していたアメリカの心底というパンドラの箱を、トランプ大統領はいとも簡単に開けてしまい、箱の底には経済原則しか残っていないようである。一旦開けられれたパンドラの箱は、誰が大統領になろうと、国家戦略として歩き続けるものと考えおかなければならないと思う。
トランプ大統領の発言を真剣に考える櫻井よしこ氏等は、従前から日米安保破棄に備えた自前の国防論を唱えておられる。しかしながら、日本の現状は軍事研究忌避の壁、憲法改正の壁、核武装の論議すら反対、等々克服しなければならない多くの障害がある。そして最も大きな障害は、軍事に携わる崇高な使命を「苦役」とする「人任せ」風潮であると思う。少子化と経済構造を考えれば、いま以上の人的資源を国防の最前線に維持するのは不可能であることは明らかである。自前の国防政策としては、自律型致死兵器や大量破壊兵器への路を模索することしかないのではないだろうか。