もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

生活安全保障って何

2022年05月29日 | 野党

 立憲民主党の参院選キャッチフレーズが発表された。

 従来、立民で最も弱いとされていた防衛(安全保障)に関して、苦肉の結果と思われる「生活安全保障」というテーゼを掲げ、HPでは「生活安全保障は、命と暮らしの視点から日本を力強く再生させる、新たなキーワードです」と自賛している。
 生活安全保障の中身を覗くと、
1  物価高と戦う
2. 教育の無償化
3. 着実な安全保障
 ⑴ 新領域 (サイバー・宇宙・電磁波) や情報戦など新たな分野に対応を
 ⑵ これまでの日米の役割分担を前提としつつ「日米拡大抑止協議」の活用を
 ⑶ 尖閣を守る領域警備法を制定へ
 ⑷ 防衛費は2%目標ありきでなく、あくまで必要な予算の積算で確保する となっている。
 1、2項は、従前の主張で目新しいものではないが、財源音痴ではないことを示すために「子ども子育て関連支出を対GDP比3%台に(財源は「教育国債」を発行)としている点がやや異なる点であるように感じた。
 3項について考えてみると、全般的には防衛・軍事に関する知識・考察が浅薄である感が否めない。
 ⑴号について「電磁波対応」だけを見ても、世界的にもEMP攻撃を受けた際に防護できるのは指揮中枢や限定的な軍事施設・装備だけであり、全てのインフラと社会生活は壊滅的な被害を被るとされている。そのために強国は「社会インフラをEMPに強靭化することは不可能であるために、EMP攻撃自体を阻止する」ことに注力している。このことを念頭に置いて立民の主張を読めば、「ミサイル防衛能力を格段に向上させる」と読むべきで、必要経費を積み上げればこれだけでGDPの数%を要することになるだろう。
 ⑵号の「日米拡大抑止協議」は、外務省が主導する局長レベル協議であって軍事情報や手続きに関する官僚間の意見交換の場であり、安保条約の発動に関する政治決定を左右するものではないことを考えれば、安保条約の深化や発動に対して、立民政権下の閣僚は「蚊帳の外に立つ」と宣言するものに思える。
 ⑶号の領域警備法は立民が国会に上程した法案であるが、その主体は「海上における警備行動(海警行動)」発令以前に海保の補完に自衛隊を活用」するというものであるが、自衛艦の出動は必然的に中国に海軍を投入する口実を与え、結果的に正規軍の対立に拡大するという視点が欠落している。立民的ロジックに従えば、同法こそ「戦争法」と呼ばれてしかるべき代物である。

 立民が自画自賛する「生活安全保障」の正体は、これまで使い古されていた「生活防衛」という概念に、安全保障という単語を無理やり付け足したもので、ウクライナ事変に触発されて離れるだろう立民支持者を引き留めるためだけの「羊頭狗肉フレーズ」であるように思える。
 やはり立民に、日本の尊厳ある独立と日本人のアイデンティティ回復・堅持を求めることは不可能に思えるので、参院選での大敗・第1野党転落も現実味を帯びてきたように思う。


救命浮舟と民度

2022年05月28日 | 社会・政治問題

 知床観光船の遭難について、国交相が国会で国の責任を認める答弁をした。

 国交相が国の責任とした範囲・内容はよく分からないものの、救命設備の装備や運航管理者の選任や業務に関する法整備とそれらへの監督・監査不備を念頭に置いたものであろうが、それらの全てを厳格に行うことは、云うに易く完全実施は中々に困難であろうと思う。
 救命設備の強化に関しては、最も有効であろうと思われるのは膨張式救命いかだ(以下、救命浮舟)の装備であるが、10人用で1基150万円、現有のFRFRP船体への装備工事費用を考えれば、今回の19トンの船体に2基搭載するためには一隻当たり500万円強の負担となる。また、船舶救命設備規則で救命浮舟は年1回の点検を義務付けられているとともに、数年で搭載品を更新する必要があるために、その負担も中小業者を圧迫すると思えるし、それらの全てが厳格に行われているかを現認調査するためには膨大なマン・パワーが必要となる。
 運航管理者の選任や業務実態についても、全ての事業者に対して国が現認調査を行うことは不可能に近く、救命設備の整備状況ともども書面審査に依らざるを得ないように思える。
 今回の事故の最大要因は、企業と経営者の順法精神欠落と利益優先の思考であると思っているので、それらの要因が改善されない限り法の厳格化のみでは同種事故を根絶することはできないように思える。
 これまで日本は、朝野を挙げて許認可廃止・規制緩和によって誰でも少額の資金で起業できる社会を目指していたが、それは日本国民の全てが「善人」で「責任を負う人」であることを前提に語られていたように思う。そのことから云えば、法の厳格化は初期費用と企業運営費を押し上げるために、新規参入の抑制と負担に耐えられない小規模事業者の淘汰に繋がって、目指していた社会とは方向を異にする一面があるようにも思えるが、善人で無い経営者が出現した以上、やむを得ないものであるかもしれない。

 明治維新以降の急速な洋風化・過度の利潤追求の世相に対して、士魂商才若しくは和魂商才なる造語で揺り戻しが図られたとされている。
 今回の経営者にとどまらず、大企業に課せられた負担を逃れるために中小企業に衣替えした毎日新聞、コロナ対策に異を唱えて提訴した大手外食産業・・を見ると、商才よりも重んじるべきとされた和魂、士魂の美風は失われてしまったように思える。
 国の責任を問うことは重要かつ簡単であるが、故石原慎太郎氏が常用した「民度」の涵養の方が、より急務に思えるのだが。


海軍記念日

2022年05月27日 | 軍事

 本日5月27日は旧海軍記念日である。

 記念日設定の理由は、5月27日が日露戦争での日本海海戦で日本海軍がロシア・バルチック艦隊を殲滅した日であることに由来している。
 近代的海軍創設から30数年の歴史しか持たない日本海軍ではロシア海軍に抗すべきもなく「鎧袖一触」であろうというのが世界的評価であったが、東郷大将麾下の連合艦隊が奮戦して海戦史上類を見ない戦果を挙げたことは、日本人の誇りとして今後とも語り継がれるべきであろうと思っている。
 日本海海戦の詳細は置くとして、東郷元帥は世界の3大提督とされる。ちなみに他の2名は、ホレーショ・ネルソン提督(トラファルガ海戦で仏西(スペイン)連合艦隊を全滅させたが同海戦で戦死)、ジョン・ポール・ジョーンズ(アメリカ独立戦争で米海軍歴史上初の戦功を挙げるが、後にオランダ・ロシアの戦闘艦を指揮)とされている。
 また、海戦当時の連合艦隊旗艦「三笠」は、現在も横須賀港に記念艦として保存されているが自衛艦籍ではない。世界の3大記念艦とされるのは「三笠」のほかに、英国海軍の帆走戦列艦「ヴィクトリア」、米海軍の帆走フリゲート艦「コンスティチューション」であるが、「三笠」以外は今でも海軍籍にあって艦長以下の乗組員が乗艦している。
 「三笠」が現存する陰には日本海軍に対する米海軍軍人の尊敬によることを示す逸話が残されている。戦後の海軍解体・武装解除に伴って日本側は当時海軍籍にあった「三笠」の除外をダメモトの気持ちでGHQに願い出たが、GHQの回答は「三笠の除外・保存は当然のこと」であったとされている。三笠戦捷の相手がロシア(ソ連)であったことと海戦自体が既に歴史となっていたことも大きかったであろうが、真珠港奇襲作戦を指揮した「長門」を記念艦として残すと云えば、直ちに却下されたことであろう。

 11月3日の「文化の日」を「明治の日」に改称する動きが報じられている。11月3日を文化の日に指定したことについて公式には、新憲法公布の日を記念するためとしているが、翌年の5月3日に憲法を発布する6か月前を逆算して決定されたものであり、5月3日憲法発布に拘る理由も希薄であることから、公布の日を明治天皇誕生日(天長節、後に明治節)に合わせたものかと推測している。
 しかしながら、明治帝が制定した憲法を明治節に否定することにも疑念を持つが、新旧の価値観が混在したであろう時代としては、左右を説得するために有り得た選択であったのだろうか。


ウクライナ事変の波及

2022年05月26日 | 軍事

 ウクライナ事変を機に国内外が劇的に変化する気配が濃厚である。

 ウクライナ事変は、世界平和が「力」の均衡に支えられているという現実を改めて示したもので、ほぼ全世界が賛同・共有していた国連憲章の理念すら一人の狂人の「ペン:侵攻命令」の前には無力であることを全世界が知ってしまった。また、「力」の概念についても、近年は武力ではなく経済・文化が主流であるべきとする考えが支配的となり、狂国に対しても経済制裁や文化的価値観の波及・浸透でソフト・ランディングさせることが可能とされてきたが、有史以降20世紀まで信奉されてきた「力=武力」に先祖返りしてしまった。
 この動きを列挙するならば、ドイツの兵器輸出解禁、スェーデン・フィンランドのNATO加盟申請、スイスのNATO接近、バイデン大統領の台湾防衛姿勢、韓国の文政権路線否定(南北統一より韓国防衛を重視)が挙げられ、これらは一様に従来は「国是」と位置付けていた事柄の大転換である。

 北朝鮮が3発の誘導弾を発射した。3発は長・中・近距離誘導弾と分析され、それぞれ米・日・韓に対するメッセージの意味合いを持つと解析されている。これに対して、米韓は直ちに短距離ミサイルの対抗発射という形で回答したが、日本は「遺憾砲」を発射するしか対抗・応答手段が無い。

 国会では補正予算案の審議が行われ、秋の参院選に向けた公約策発表も相次いでいるが、最大野党の政権・自民党攻撃の目玉は、予備費の積み直しと細田議長のセクハラ疑惑とされている。
 列国に倣って或いは隣国を凌駕する武力を整備するという徒な軍拡競争に奔ることは望まないが、今こそ論じられるべき安全保障に耳を塞ぎ、目を閉じることは選良の採るべき姿勢ではないと思う。
 「他山の石」の格言をを借りれば、ウクライナを転がる石を見ても我が物とし得ない国会議員の姿勢は、将に平和ボケの極致であり、日本の政治家の常套手段である「先送り」の最たるものと思う。
 憲法9条死守と自衛隊嫌いを党是とした公明党が、自衛隊の位置付けとシビリアン・コントロールの概念を憲法第5章「内閣」に規定することを模索中とされるが、ポピュリスト公明党ならではの「すり寄り・止まり木探し」で、身を切って安全保障を論じるものではないように思えるが、「火事場泥棒」と一蹴するよりはマシと我慢せねばならないのだろうか。


海保救難体制と海自の機関待機

2022年05月25日 | 自衛隊

 知床観光船の引上げが難渋しているが、遭難者の捜索・救助体制に関する問題も一部で取り上げられれている。

 議論されているのは、海保ヘリコプターの現場到着に3時間超を要したことである。
 海保の説明によると、事故が起きた4月23日13時13分に救助要請の118番通報受信、9分後の13時22分釧路航空基地に出動指示が出されたが、釧路基地所属ヘリ2機のうち1機は整備中で他の1機も別の任務に当たっていたため、任務中のヘリを呼び戻して燃料補給と機動救難士2名を乗せて離陸、現場到着は16時30分であったとされている。
 海保のヘリに依る救難体制は、全国に点在する10基地から半径185Km圏内を「1時間出動圏」と設定して、通報から1時間以内で現場に到着できる範囲としているが、北海道では機動救難士が待機しているのは、事故現場から直線距離で450㎞離れた函館航空基地のみで知床を含む道東や道北は「圏外」であった。
 今回の教訓から海保は、救難ヘリと機動救難士の増強や救難基地の拡充を図って「エアレスキュー空白地帯」解消を目指すとしているが、基地の増設、装備の取得、要員の養成の必要があることから空白地帯解消には早くても2・3年は掛かるように思える。
 航空機の運用と海保の基準を知らないので、ヘリが離陸するのにどれくらいの時間がかかるのだろうかは分からないが、海保には空白地帯解消と費消時間短縮のために頑張って欲しと願っている。

 海自艦艇は整備・休養のための純停泊中であっても「機関始動までの時間を逆算した機関待機」の基準が定められており、機関待機が発令されていない場合でも復旧に長時間を要する修理作業は片軸ごとに行って、1軸は使用できる状態に維持しておかなければならない。また、乗員の上陸区域も概ね2時間以内に帰艦できる範囲に留められていることから、艦艇は2時間程度で緊急出港できる状態で停泊している。
 台風接近の場合等で緊急出港の度合いが高い警戒停泊中にあっては「機関待機」が令され、最も緊急性の高い「機関即時待機」では、機関は始動可能な状態に維持され、乗員も艦内若しくは部署に配置した状態で待機する場合もある。
 一般家庭でも、旦那が出先から電話で「何時でも出かけられるようにしておけ」と家族に伝えることがあると思う。「機関即時待機」はまさしく同様な手順であるが、一つだけ異なる点は「家族(機関員)」が不平を漏らすことが許されないことである。