もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

シリア内戦は対トルコ戦争に

2020年02月29日 | 欧州

 シリア軍が自領イドリブ県を空爆して、トルコ軍兵士70人を死傷させたことが報じられた。

 これを受けてトルコは報復攻撃の可能性を示唆し、シリアを支援するロシアは巡航ミサイル艦2隻を地中海に派遣すると発表した。2010年以降のアラブの春に触発された反アサド政権デモに始まったシリア内戦であるが、対IS(イスラム国)戦争を挟んで現在はトルコとの対外戦争に発展しているように思われる。また、トルコは国内のシリア難民をヨーロッパに移動させるともしており、EUは再びシリア難民への対処を余儀なくされるし、中東諸国で唯一加盟しているNATOも踏み絵を迫られることになる。ほぼIS勢力を制圧したとして軍をシリアから撤退させたアメリカであったが、NATOの盟主として何らかの軍事支援・軍事行動を余儀なくされるのではないだろうかと懸念する。対外戦争は新たな難民を生むこととなるが、既に難民受け入れの限界に達している隣国のイラク・ヨルダン・エジプトは国境を封鎖するであろうし戦闘地域に対する国連の人道支援も不可能になる。平和な日本にあっては実感できないが、当てもなく漂流する覚悟で国を捨てるとはどのようなものであろうか。途中で命を失う可能性もあり幸いにして他国にたどり着いたとしても、近年のドイツの変質に見られるようにそこが安住・安息の地であるとは限らない。難民に対する国際世論の注目も、時が経てば風化して支援も先細りするものだろう。現に日本でも、発生当初は連日報道されたシリア難民、ベネズエラ難民、中米のキャラバン、ロヒンギャについてのマス・メディア報道は見かけなくなったし、ネット上の記事も更新されない状態である。自国の正義を貫くために宣戦布告して開戦する「戦争」は、国民の支持や後押しがあって成立するものであろうが、国内の権力争いに武力を行使したり他国の武力介入を頼んで同胞・隣人同士が殺し合う内戦は、大多数の国民の支持を得たものではないだろうと考えるし、それ故に内戦からは多くの難民が発生するのではないだろうか。

 中東情勢は将に世界の火薬庫であり、いつ爆発しても不思議はないが、シリアとトルコの戦闘がこれ以上拡大しないことは誰しもが望むものであると思う。戦闘地域から離れているとはいえ蠢動しているイランがシリア紛争を好機として行動をエスカレートすることも考えられるので、現地に派遣している自衛艦やタンカー運航に被害が及ぶケースも考えられる。米露が介入すれば代理戦争となり、米露が手を引けば中朝が浸透して内戦となる中東地域、安定する妙案はないのだろうか。


学校の臨時休校措置に思う

2020年02月28日 | コロナ

 小中高の臨時休校が要請された。

 「要請」とされたのは、いかにも日本的である。共産党の強権的執行で武漢を隔離し得た中国は別にしても、憲法に緊急条項を持つ国であれば手続きを踏めば指導者が強制することができるであろうが、緊急手続きのない日本では総理大臣と雖も強制することはできないのみならず、国民もトップダウンでなされる緊急措置に対応することに慣れていない。国民生活に直接関係する制度が1枚の大統領令で制限されたり覆えされるアメリカの実状を見てもわかるように、多くの不満は報道されるものの大半の市民は柔軟に適応している。新型肺炎の蔓延防止にスピードを要求していたメディアであったが、いざ今回の要請のようなスピード対応が行われると一転して準備不足や派生する問題点の報道にシフトチェンジしてしまう。完治した患者が再び陽性となったり、感染経路が全く不明な3次感染者が発生し、当初は少なかった低年齢層への感染が乳幼児にまで急速に広がった現在、猶予期間なしの臨時休校は不適切の誹りは免れないだろうが、大きな混乱と犠牲を払ってでも感染の拡大を食い止める最後のチャンスとの判断によるものであろう。勿論、感染が食い止められずに混乱と犠牲のみ残るという最悪のシナリオも総理の脳裏をよぎったであろうが、敢て「空振り三振」を覚悟しての英断であろうと評価したい。不満を述べる報道には「政府の補償・援助」を求める声もあるが、全くの筋違いではないだろうか。激甚災害に対する公的援助は法律に定められているが、今回のような感染症に対する規定はないと思われる。さらに感染・罹患者が全て被害者かと云えば、他に伝染させた加害者であるかも知れないことを思えば、公的援助は既に表明されている治療費の国庫負担が限度ではないだろうか。バラマキ福祉がお得意の野党も、新形肺炎より桜が最大の関心事であれば合同対策本部は立ち上げたもの政府の対応を批判するのが精一杯で、要求や対応を検討さえしていないのだろう。さらには、労働者を守るべき連合等の労働組合も、さしたる援助の手を差し出していないように思える。選挙の応援資金が出せるならば、少なからぬ支援が可能であると思うのだが。

 今回の新型肺炎では多くの教訓が示されていると思う。危機管理能力は欧米に遥かに劣り、防疫や検疫(検査)資源の集中力は韓国にも劣り、最大の脆弱性は公共の福祉のためには人権の一部を制限できる法整備が整っていないことで、憲法改正と云えば9条のみに焦点が当てられるが、人権・教育を含むすべての面で現行憲法は古色蒼然としている感がある。犠牲を強いられる人に対して、「国家が何をしてくれるかを問い給うな。国に対して何を為し得るかを問い給え」。ケネディーの大統領就任演説である。


教科書検定委員と仁徳天皇陵

2020年02月27日 | 歴史

 来年度の中学校用の歴史教科書を巡る問題が報道されている。

 問題となったのは「新しい歴史教科書を作る会」が主導する自由社の教科書が不合格となったことである。報道によれば「欠陥箇所」として405件が指摘され、そのうち292件が「生徒が理解しがたい」「生徒が誤解する」と云うものである。報道で例示されているのは、①「仁徳天皇陵には仁徳天皇が祀られている」という記述に対して「葬られているが正しい」と指摘されているが、葬られていることは立証・確認されていないので国語的・文化的には「祀られている」のが正しいと思う。②「中華人民共和国(共産党政権)成立」には、「成立時は連合政権であった」と指摘されているが、前後の記述は不明ながら国共内戦に勝利した毛沢東が建国を宣言した時点では既に国民党を台湾に封じ込めた後であり、政権内には非共産党員も存在したであろうが中華人民共和国=共産党政権の方がより真実に近いのではないだろうか。高大連携歴史教育研究会が提案を発表し”竜馬・聖徳太子が消える左傾案”と騒がれた際、同研究会は教科書の執筆者や検定委員とは関係ない私案としていたが、今回の検定結果を見ると研究会の提案そのものの結論に思える。一方、近現代史の世界では欧州を中心に戦勝国史観を検証して現在のカオスの原因を探ろうとする研究が盛んであるようで、カオスの原因の一つにルーズベルト大統領(民主党)の左傾政権が挙げられている。公開されたロシアの秘密文書からは、当時のルーズベルト政権内に多くのソ連シンパが存在してソ連を利する対日戦や欧州戦参戦を誘導し、ヤルタ会談でソ連に免罪符を与えたことが明らかとなっているそうである。この観点から見ると、マッカーシー上院議員が提唱した「赤狩り」やGHQが行った「レッド・パージ」は振り子の是正であり必然であったように思える。

 中華人民共和国成立は連合政権であったとする意見は、共産党は危険なものでは無いという中国のプロパガンダに加担する以上に、プロパガンダの代弁者とする方が妥当ではないだろうか。私的機関である高大連携歴史教育研究会、教科書執筆者、出版社、教科書検定員、検定委員を選定した文科省、いたるところに戦勝国史観者と中国シンパが根を張って歴史を歪めようとしているように思えてならない。日本でも独自にレッドパージを断行し、少なくとも文科省内の中国色を一掃しなければ、日本史が汚損・棄損される危険性が有ると考える。、


モザイク報道に思う

2020年02月25日 | 報道

 高価な金魚が盗難に遭ったことが報じられた。

 また丹精していた花を持ち去られた報道もあったが、それらの多くは犯行を疑うに十分な監視カメラの映像とともになされるが、画像は一様にピンボケ処理されて人物の特定に繋がる頭部・顔面はモザイクが掛けられている。被写体の人物が事件と無関係であった際の抗議・訴訟を危惧しての処置であろうが、なんとも及び腰の報道姿勢と物足りなく思う。法治国家では何人も判決までは推定無罪であるというが、日本では逮捕された瞬間から氏名はおろか顔写真や私生活まで晒され・報道されるのが常である。この現象を考えるに、報道機関は警察・検察の逮捕という判断には誤りがないとしているのか、逮捕した瞬間から肖像権などの個人の人権が失われるとしているのか、各社が足並みを揃えることで1社が負う賠償責任等の負担が少ないとの算盤勘定によるものかは不明であるが、究極のところ「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と云う安易な判断・姿勢であるように思える。そこには、メディアは市民生活の安寧に寄与する又はそれの一翼を担う公器であるという使命感が全く感じられない。松本サリン事件では自宅に農薬を持っていただけの市民を任意での事情聴取段階から実名で報道し、結果的には彼に社会的な損害・制裁を与えたが、報道各社の事後検証や報道では「警察が間違っていたから自分たちも間違えた」とし、一転して警察の見込み捜査や誤認を問うものになった。また、個人情報の管理・取り扱いが厳格化された最近でも、ピンボケ・モザイク報道された煽り運転の同乗者と間違われた人が大きな迷惑を被ったことも思い出される。タイで逮捕された特殊詐欺グループもモザイク報道されたが、日本では逮捕された瞬間から氏名・顔写真が報道される基準とは異なっており、日本の警察は信用しているがタイのそれは信用できないということであろうか。

 一度口に入れたおでん種を鍋に戻したり、アイスクリームストッカーの中で寝そべったり、目立ちたがりのユウチューバーは後を絶たないが、それらの報道の全てがモザイク映像でなされる。刑法に引っかかるかどうかの行為で、かつ少年法との兼ね合いもあると思うが、例え軽微な行為であっても社会通念から逸脱し風紀を乱すものであったならば、メディアは社会通念維持の信念と、損害賠償請求を受けて立つ勇気をもって鮮明な映像で報道すべきではないだろうか。もしそれらが持てないのであれば、全ての事象について判決確定まで沈黙を貫くのが筋と思う。ささいな悪行であっても顔写真が衆目に曝されることの恐怖は、社会的に十分な抑止効果を発揮する以上に、本人(特に若年者)にとっても行為の代償を知るきっかけとなるものと思う。


2.26近付く

2020年02月24日 | 歴史

 間もなく2月26日であるので、2.26事件について勉強した。

 一般に1936(昭和11)年に陸軍が引き起こした2.26事件は、1932(昭和7)年に海軍将校が総理大臣犬養毅を殺害した5.15事件とともにクーデターの失敗例とされているが、両事件ともにクーデターとは些か趣を異にしているのではなかろうかと思っている。ブリタニカ国際大百科事典でクーデターとは「一般に武力による奇襲攻撃によって政権を奪取することをいう。また革命は支配階級に対する大衆の蜂起とそれに続く既存の体制の転覆であるが、クーデターは支配階級内部の権力争奪である点で革命とも違っている」とされている。歴史上のクーデターの多くは、政権内や軍内部の有力者が武力で指導者を排除して政権を握るというものであると思う。1953年に起きたナセルによるエジプト政権奪取や2006年のピノチェトのチリ政権奪取がその好例かと思う。また、軍事クーデターが繰り返されるタイのように王政転覆をはかるのではなく政権交代のみ求める場合もあるが、首謀(又は目される)者が軍政トップに就くという構図は変わらない。一方2.26事件に関しては、政権交代は求めているものの誰を首班するかについては定かでない(総理大臣真崎甚三郎大将、内大臣荒木貞夫大将との説もある)し、動いた軍も中隊規模であり師団規模以上の大兵力を動かせる軍首脳(高位者)が政権を狙って積極的に関与・指導した事実はないようである。事件の首謀者は大尉以下であり、身近に接する農村出身応召兵家庭の窮状・惨状の原因は、北一輝の「日本改造法案大綱」に説かれているように「特権階級」が天皇を欺いて権力を握っているためであり、その解決策は70年前の明治維新をモデルにした「昭和維新」を断行して「君側の奸」を排除することによって、天皇親政の下に特権階層を一掃し国家の繁栄を回復させたいとするものであった。首謀者とされる人物にも「憂国の情」や「新国家の捨て石」という言葉は残されているが、具体的な組閣名簿にまで触れたものは無いようである。

 2.26事件を総括すれば、蹶起した陸軍将校には幕末における薩摩の中村半次郎や土佐の岡田以蔵に似ている。しかしながら中村半次郎には西郷隆盛が、岡田以蔵には竹内半平太が物心両面の庇護を与えており、もし、蹶起将校の所信を理解し具現化できる指導者が出た場合には、以後の歴史は大きく変わったものになったであろう。歴史に「If」はないが、農村の疲弊を救うための農地改革や財閥解体はGHQの手を借りるまでもなく行ったかもしれず、海外膨張の意欲は同じでも支那事変や満州事変は大きく様変わりしたであろうし、そうなれば大東亜戦争までには至らなかったことさえ考えられる。突飛な行動や常軌を外れた発言にも、一片の真実と改善の方向性を示しているのかも知れない。自分は経験にも学べない愚者の代表格であろうが、もう少し歴史に学ぶ必要があると感じるところである。