もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

半島情勢と首領様神格化を考える

2021年09月24日 | 北朝鮮

 文大統領が国連総会一般演説で「南北平和協定」締結を訴えた。

 演説では、南北米3カ国必要なら中国を含めた4ヶ国での平和協定締結が、半島の安定ひいては世界平和に貢献できるとしているが、これまでのところ、北朝鮮が「平和協定は時期尚早」と反応しただけで、複雑かつ緊急の台所事情を抱える米中からは特段の反応は報じられていないように思える。
 中国は先進国の反中感情拡大による失地回復と中国包囲網突破に忙殺されており、加えて中規模とは予測されるものの恒大ショックとういう火種を抱え、アメリカはアフガンの失態を繕う必要に迫られるとともに、大統領選の反トランプ政策として短絡的に打ち出した難民保護政策が裏目に出て、押し寄せるハイチ棄民を中心としたキャラバン対応に自縄自縛である。このことから、危険ではあるが一応小康状態にある朝鮮半島問題に目を向ける余裕が無いというのが実情ではないだろうか。
 これらのこと以上に、文大統領の提唱する南北平和協定締結が、世界を動かす大義を持っていないことが原因で、韓国国民と文大統領が平和協定の後に望む「何か」が各国にとっては不明確で、推測される「何か」が米中はおろか北朝鮮すら同意できないためであるように思える。
 1953(昭和28)年7月27日に署名された南北停戦協定は、形の上では国連軍、朝鮮人民軍、中国人民志願軍が結んだものであり、対韓民国を始め各国政府が署名したものでは無く、公式という表現はどうかとは思うものの、各国は戦争があったことすら認めて居ないし、朝鮮戦争ではなく朝鮮動乱とさえ表現されることもある。
 この停戦協定は北朝鮮が国家として認められていなかったためであり、停戦協定を国家間の平和協定に昇華させることは朝鮮民主主義人民共和国を国家として改めて追認することで、南北分断を恒久的に固定化することである。この南北分断恒久化と文大統領の南北統一志向が整合されていないことを、各国は一様に警戒していると思っている。
 北朝鮮の反対理由は明確で、平和協定が締結されれば何らかのチャンネルを開放しなければならず、そうなれば、金王朝の衰退と崩壊は将に秒読みとなる危機感からであろう。

 主体思想教とイスラム原理主義という狂気の教義が支配する政体は、局外者への敵視・攻撃という点では相似しているものの大きく異なる面があるように思える。
 イスラムは被抑圧者の救済と戒律遵守者の死後の安寧を根底に置く預言であることから無学の底辺にまで浸透するが、主体思想は抑圧者・為政者の理論であるために底辺にまでは行き渡らないのではと思っている。
 殉死後の安寧はもとより現世利益すら保証しない主体思想を預言として被抑圧者をも盲従させるためには、金日成が預言者若しくは神でなければならず、荒唐無稽の神話創作による金一族の神格化も北朝鮮にとっては必然の作業であるように思える。


主体思想家の書類送検に思う

2021年08月25日 | 北朝鮮

 主体思想の研究・普及活動家2名が書類送検されたと報じられた。

 容疑は、他人名義の航空券で羽田~高知間の定期便に搭乗したもので、想像では自動チェックイン機を操作したことで「私電磁的記録不正作出・同供用容疑」という立派な罪名が付けられたものと解釈している。
 逮捕されたのは、練馬区の自称会社役員の男(74)、豊島区の自称自営業の男(65)と報じられているが、ネット上では「日本教職員主体(チュチェ)思想研究会全国連絡会の会長と主体思想国際研究所事務局長ではとされている。
 なりすまし搭乗は運航関係者にとっては重大な事柄であろうが、一般的には説諭に留まる微罪で、悪くても航空会社のブラックリストに記載される程度であろうが、公安が書類送検したのは「なんでもお見通しですので、ほどほどに」という警告の意味を込めているのだろうと勝手に推測している。
 主体思想に支えられた北朝鮮が世界の鬼子と化し、抑圧、人権無視、先軍政策に起因する食糧不足、等々で主体思想の破綻と失敗が明らかとなった現在も、それを信奉して普及(布教)に挺身している人が存在し続けているのには驚きである。
 日本教職員チュチェ思想研究会全国連絡協議会とは、北朝鮮と朝鮮労働党の指導思想であるチュチェ思想を学ぶ教職員の団体で、全国各地の支部と数百名の会員で構成され、会員には日教組に所属する教職員も含まれているとされている。同会の活動は、過去には学校の授業で北朝鮮の歌を教えて「偏向教育」と糾弾されたこともある等尖鋭的で、現在でも沖縄県で毎年、主体思想を学ぶセミナーを開催し、全国から教職員等が多数参加しているらしい。
 ウィキペディアでは、主体思想は北朝鮮の指導思想で、1955年の金日成演説に端を発しており、1960年代後半までに「主体思想」という名称で体系化され、1967年には「唯一思想」となり、1972年には憲法にも盛り込まれ、1980年の朝鮮労働党大会で「全世界の主体思想化」が目標とされて外国での普及も図られた、とされている。
 主体思想の理論体系の全てを理解するのは自分の能力を超えているが、巷間に流布されている「無謬である金一族が頭脳となって労働党を指導し、人民は頭脳の命令に従う手足と化して祖国を統一・団結させる」という解釈で十分であろうと思っている。自分よりは遥かに優れた頭脳を持つであろう大学教授や諸先生方が、この一見して忌まわしいと思える理論のどこに惹かれ・共鳴するのかは理解できないが、主体思想という鰯の頭も噛み締めれば麻薬効果が生じるのかも知れない。

 先に、国事犯の概念と規制法令が無い日本では思想犯は有り得ないために、外国勢力からの使嗾に対しても電波法や外為法でしか処罰できないと書いたが、都合で乗れなかった人の搭乗(乗車)券を拝借する行為も「私電磁的記録不正作出・同供用容疑」という立派な罪名の犯罪として利用できるようである。
 本朝のTVは、指定暴力団工藤会々長の死刑判決で騒然としているが、ISや主体思想に共鳴する知識人の不可解さに比べれば、まだ判り易い犯罪・動機であるように思う。


金正恩氏の重篤説

2020年04月22日 | 北朝鮮

 北朝鮮の金正恩委員長の重篤説が取り沙汰されている。

 重篤説はアメリカのCNNが情報当局者の話として報じたものであるが、中国は重体(罹病は否定せず)を否定、韓国は全否定、日本は情報を分析中と分かれている。アメリカ政府は公式には沈黙しているが、先日トランプ大統領が「金委員長から素敵な手紙を受け取った」と発言したことに対して北朝鮮が即座に否定するという一幕を、コメント中の”手紙”を”情報”に置き換えれば、もしや?と思えるものである。金正恩氏は、反正恩の象徴となることを怖れて異母兄の正男氏を暗殺、父正日氏の側近であるとともに№2ともされていた伯父の張成沢氏を粛清する等、金正恩体制の強化に努めた結果、権力基盤は安泰と観られており、核兵器の保有とアメリカをも攻撃できる核の運搬手段保有に代表される先軍政治によって完全に軍部を掌握しているともされている。気の早い話であるが、金正恩氏亡き後の後継者はどうなるのだろうか。金正恩氏の周辺には、父母が同じ兄の正哲氏と妹の与正氏がいて、妻の李雪主氏との間には3人の子どもがいるとされるが年齢は10カ月〜7歳と幼い。正恩氏の兄の正哲氏はエリック・クラプトン以外には興味がない人物とされており、正日氏からも後継者として排除されたことを考えれば玉座につくことはないだろうが、金日成の孫という出自から権力闘争の神輿に乗せられる可能性はないとは言えない。妹の与正氏は数年前から王朝内で重用されてきたが、身内の引き締めとしての重用であろうと思われるので女帝にまで昇格することはないだろうが、幼児の後見人として実権を握ることもあり得る。北朝鮮の女性観や女権に対する考えが判らないが、後見人としてならば妻の李雪主氏にも注目すべきかもしれない。金正恩氏が後継者になった際には、スイス留学の経験から国際感覚を身に着けた指導者と受け取られ、一部には北朝鮮の変質をも期待する希望的な向きもあったが、実際には爆弾魔がより強大に育っただけであった。

 近代にあっても、フィリピンのマルコス氏(亡命)、インドネシアのスハルト氏(軟禁)、ルーマニアのチャウセスク氏(リンチ的銃殺)、イラクのフセイン氏(絞首刑)、等々、独裁政権が崩壊した例は数多いが、独裁権力を世襲できたのは北朝鮮とシリアのみである。独裁者と独裁者を支えた者は、崩壊後に訪れるであろう懲罰と報復を恐れており、前述の各国では一族や秘密警察の対する徹底的な報復が伝えられている。北朝鮮の圧政・被抑圧状況を考えれば、金王朝が崩壊した場合に起こるであろう報復は大規模・広範囲なもので、朝鮮族の特質を考えれば滅族に近い悲惨なものになるであろうことは想像に難くない。独裁崩壊後の運命を学習している北朝鮮の指導層は、指導者が誰になろうと、今後とも権力の世襲と先軍・圧政の道を維持するであろうと考える。


金革哲氏の処刑を学ぶ

2019年06月10日 | 北朝鮮

 北朝鮮の金革哲氏の粛清(処刑)が伝えられて半月が経過した。

 当初の韓国情報では、対米交渉の不手際を理由に実務担当者の金革哲(国務委員会対米特別代表)氏と外務省幹部4人が空港で処刑、金英哲(労働党統一戦線部長)氏が強制労働施設に収容、金正恩氏の妹の金与正(労働党第1副部長)氏が謹慎処分、通訳のシン・ヘヨン氏が政治犯収容所に収容とされた。その後、金与正氏と金英哲氏は従前の肩書で公式行事に参加していることが確認されたが、金革哲氏と通訳の安否は依然として不明のままである。金革哲氏の罪状は「米帝に取り込まれ首領を裏切ったスパイ(内通)罪」と報じられているが、米朝首脳会談の決裂は明らかに米中を天秤にかけた金正恩氏の過ちであることから、金正恩氏の神格を守るための人身御供として処刑されたことは間違いのないところであろう。金革哲氏の経歴を調べてみた。韓国に亡命した元北朝鮮外交官のブログでは、外語大学のフランス語科を卒業後に外務省入り、外交戦略立案の第9局(現政策局)に所属し2005年の六者協議では北朝鮮代表の演説文も作成したと紹介されている。その後、2014年には初代駐スペイン大使に任命されるが、北朝鮮の核実験を受けて2017年国外追放処分になる。2019年米朝首脳会談準備の実務担当者として渡米先やハノイでビーガン米北朝鮮担当特別代表と実務交渉を行っている。このようにスピード出世したことは彼の忠誠度を示すもので、人身御供説は間違いのないことと思う。

 以下は、スパイ小説風の見立てである。ハノイで米朝首脳会談が行われている最中の2月22日に在スペイン北朝鮮大使館が北朝鮮の反体制組織とされる「千里馬民防衛(自由朝鮮と改称)」の襲撃を受けパソコンや携帯電話を奪われる事件が発生し、襲撃の目的は元大使であった金革哲氏に関する情報を入手するためと報道されている。襲撃を実行した自由朝鮮は、金正日氏の孫・金正男氏の息子である金漢率氏の身柄を保護していると主張している団体で、3月には金正恩体制に抵抗するための臨時政府樹立を宣言したが、同組織の全容は謎に包まれており、メンバーの多くが北朝鮮人とされることから北朝鮮の傀儡組織・海外別同組織ともみられている。襲撃事件の日時、目的並びに実行者を並べてみると、金正恩氏は早い段階から米朝会談が不調に終わった場合の生贄を誰にするか決めており、大使館襲撃で証拠を捏造(又は消去)し、一統が反撃する余裕を与えないために空路帰国した金革哲氏一行を空港で処刑したものとの解釈も成り立つが、真相や如何に・・・。

 


スペインの北朝鮮大使館襲撃事件に思う

2019年03月17日 | 北朝鮮

 スペイン・マドリードの北朝鮮大使館が米朝首脳会談直前の2月22日に襲撃されたことを知った。

 事件と報道の経緯は、武装したハングルを話す複数(10人?)のアジア系人物が白昼大使館に侵入して、職員8名を縛ったうえで頭に袋をかぶせて暴行を加えて尋問し、パソコンや携帯電話を奪って逃走したものであるが、北朝鮮大使館が現地警察機関に通報しなかったこと、米朝首脳会談の報道が優先されたことから日本のマスコミでは報道されなかったものである。ところが米朝首脳会談決裂後の3月13日になってスペインの地方紙エルパイスがスペイン国家情報局(CNI)からの情報として「特定された容疑者のうち2名がCIAに関係している」と報道し、3月15日以降日本でも取り上げられるようになったものである。現在のところ、襲撃犯は「千里馬民防衛」を名乗る反金正恩体制団体とされており、同団体は3月1日には名称を「自由朝鮮」に改め金体制打倒の臨時政府を樹立したともされている。当然のことながらCNI・CIAともに情報の確認を拒否しているが、襲撃犯が米朝首脳会談にも大きく関与している金革哲氏(前駐スペイン大使、現対米特別代表)に関する情報収集を重要視したと推定されることから、火のないところに立った煙ではないと思う。事件の真相はさておき、不満に思うのは事件に対する一連の報道である。マスメディアは限られた紙面や時間内に世界中の膨大な情報を収める必要があるために重要度を量って取捨するのは当然であろうが、1国の大使館がテロ攻撃されたことは「捨てる」が、アメリカ(CIA)が関与していれば「拾う」との尺度が理解できないと思っていた。しかしながら本日の産経新聞の「新聞に喝」欄で、蓑原俊洋氏(神戸大学教授)が「日本の新聞では世界の個別の出来事は理解できても、大局的な見地に立った全体的な流れと意義を掴むのは難しい」との意見を読んで成程と思った。いうまでもなく出来事をいくら集めても、それは情報とは呼べず、数ある出来事(ピース)を繋ぎ合わせて完成させたジグソーパズルの絵が「情報」としての価値を持つとすれば、読者は新聞を代表するマスメディアで得たピースを自分で組み立てて、情報として認識するという作業を心掛けなければならないと思う次第である。

 さらに蓑原氏は「財政的な理由から、新聞社の海外支局が閉鎖される動きがある」ことを危惧されているが、そうなれば国際情勢に関する新聞記事は外国通信社の配信記事のみで構成されることになり、ネット上の「まとめサイト」と同じになる日も近いかもしれない。現在、食事処を探す場合にも「食べログ」を含め複数のサイト情報を基にして比較検討することが一般的であるが、将来的にはニュースも同じ手法で検討することが求められるようになるのかもしれない。