文大統領が国連総会一般演説で「南北平和協定」締結を訴えた。
演説では、南北米3カ国必要なら中国を含めた4ヶ国での平和協定締結が、半島の安定ひいては世界平和に貢献できるとしているが、これまでのところ、北朝鮮が「平和協定は時期尚早」と反応しただけで、複雑かつ緊急の台所事情を抱える米中からは特段の反応は報じられていないように思える。
中国は先進国の反中感情拡大による失地回復と中国包囲網突破に忙殺されており、加えて中規模とは予測されるものの恒大ショックとういう火種を抱え、アメリカはアフガンの失態を繕う必要に迫られるとともに、大統領選の反トランプ政策として短絡的に打ち出した難民保護政策が裏目に出て、押し寄せるハイチ棄民を中心としたキャラバン対応に自縄自縛である。このことから、危険ではあるが一応小康状態にある朝鮮半島問題に目を向ける余裕が無いというのが実情ではないだろうか。
これらのこと以上に、文大統領の提唱する南北平和協定締結が、世界を動かす大義を持っていないことが原因で、韓国国民と文大統領が平和協定の後に望む「何か」が各国にとっては不明確で、推測される「何か」が米中はおろか北朝鮮すら同意できないためであるように思える。
1953(昭和28)年7月27日に署名された南北停戦協定は、形の上では国連軍、朝鮮人民軍、中国人民志願軍が結んだものであり、対韓民国を始め各国政府が署名したものでは無く、公式という表現はどうかとは思うものの、各国は戦争があったことすら認めて居ないし、朝鮮戦争ではなく朝鮮動乱とさえ表現されることもある。
この停戦協定は北朝鮮が国家として認められていなかったためであり、停戦協定を国家間の平和協定に昇華させることは朝鮮民主主義人民共和国を国家として改めて追認することで、南北分断を恒久的に固定化することである。この南北分断恒久化と文大統領の南北統一志向が整合されていないことを、各国は一様に警戒していると思っている。
北朝鮮の反対理由は明確で、平和協定が締結されれば何らかのチャンネルを開放しなければならず、そうなれば、金王朝の衰退と崩壊は将に秒読みとなる危機感からであろう。
主体思想教とイスラム原理主義という狂気の教義が支配する政体は、局外者への敵視・攻撃という点では相似しているものの大きく異なる面があるように思える。
イスラムは被抑圧者の救済と戒律遵守者の死後の安寧を根底に置く預言であることから無学の底辺にまで浸透するが、主体思想は抑圧者・為政者の理論であるために底辺にまでは行き渡らないのではと思っている。
殉死後の安寧はもとより現世利益すら保証しない主体思想を預言として被抑圧者をも盲従させるためには、金日成が預言者若しくは神でなければならず、荒唐無稽の神話創作による金一族の神格化も北朝鮮にとっては必然の作業であるように思える。