もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ロシアの動員令に思う-2

2022年09月26日 | ロシア

 ロシアの部分的動員の実際が明らかになりつつある。

 先日のブログでは動員の実態・規模の詳細は不明としていたが、動員数は政府発表の30万人を大きく超える100万人との情報もあり、対象も予備役(軍務経験者・在郷軍人)以外にも広範に亘っていることが確認されている。
 動員数は当然に軍機で詳細が語られることは無いと考えるが、本日のテーマは「それほどの緊急動員に対して、よくぞ装備品を準備できたものだ」ということである。
 応召兵であっても国際的に正規軍と認められるためには軍装を統一する必要があり、制服は何とかなるにしても必需品である小火器までも全員に貸与できるものか驚嘆・疑問を同時に感じている。
 朝鮮戦争では、鴨緑江渡河まで視野に入れた国連軍を38度線まで押し返したのは、中共が大量の人民解放軍を投入したためとされているが、実際は兵士の多寡ではなく国連軍に突撃する中国軍が先頭の第1列しか武器を持たず、第2列以降の後続兵は倒れた兵士の武器を順次使用したことに対して、「丸腰の者は撃たない」と云う文明規範を持つ国連軍(米兵)がまともに反撃できなかったことが大きいとされている。
 ロシアがウクライナ戦線で朝鮮戦争における人民解放軍の戦術を採ることはなく、恐らくは中ロ国境地帯や極東地域等の正規軍をウクライナ戦線に抽出して、当該地域の戦力補充として応召兵を配備することになるのだろうと思っているが、この手法も、大東亜戦争でソ満国境に備えていた関東軍の精兵を南方戦線に抽出して補充に応召兵を充てた結果、関東軍が弱体化してソ連の条約破りの侵攻に対して成す術がなかった例が思い起こされる。幸いというか、中国・日本がその状況をロシア侵攻の好機とは捉えていないが。

 主題である応召兵に対する軍装について、もし、日本有事に際して「動員」や「自発的入営志願者」等の大量の兵士に対して、短期間に正規軍兵士としての軍装を整えることが可能だろうか。
 制服は何とかなると思いたいが、縫製業の大半を海外に依存している現状を見ると、そうそう楽観視もできないように思える。小銃についてはどうであろうか。日本の軍用銃メーカは豊和工業のみと理解しているが、20式5.56mm新小銃の納入実績(年間3千丁程度)から考えると生産能力もそう高くは無いように思える。海自の教育機関が64小銃に換装されたのは、制式化後30年以上後の2000年前後であったが、自衛隊の換装優先順位もあってのことと思うものの豊和工業の能力も関係していると思っている。
 では、軍装に関して平時からの備蓄が可能かと云えば、会計検査制度が立ちはだかる。会計検査では1年程度「使用・活動実績」が無い物品に対しては「非活動物品」で「経費の無駄」と評価されることが一般的であり、近年は幾分改善されたと聞いているがまだ、検査を受ける側にはその空気が強く備蓄に及び腰であるように思っている。
 ロシア動員令を他山の石として、日本でも「少なくとも予備・即応予備自衛官3万~4万人分の軍装は、常備するよう努めてもらいたいものである。
 ちなみに、小銃1丁の値段は30万円内外で、30万円×3万丁、これを「高いと感じる」か・はたまた「妥当で必要なと観るか」、難しいが避けて通れぬ問題であると思っている。


ロシアの動員令に思う

2022年09月23日 | ロシア

 ロシアが「部分的動員」を発動したことが報じられた。

 部分的動員の意味と規模は分からないが、既に予備役の招集は行われていることを考えれば、国家総動員の前段階を意味するものと解釈している。報道も錯綜しており、予備役招集と報じられる一方で、30代中頃に見える男性が軍歴が無いと述べる映像もある。更には、動員反対デモ参加者が拘束施設内で召集令状を受け取ったという報道もあって、動員対象は戦闘力(兵士)確保のほかにも反対勢力の一掃・弾圧などの恣意的な側面もあるように思える。
 動員された兵士が何時ウクライナ戦線に投入されるのかと考えれば、予備役は極めて短期間で、軍務未経験者も平時の教育期間を大幅に短縮されての前線投入になるものと推測している。
 かって読んだ中支従軍者の回想談で、「古参兵は遮蔽物の陰や近傍で倒れていたのに対し、応召間もない新兵は見通しの良い場所で倒れていた」とされており、戦場で生き延びる個人防護に関しても教育や経験によって大きな差が生まれるだろうことを見れば、今回動員されたロシア人の明日は悲観的に思える。
 今回の動員と同時に、民間人の応召拒否、軍人の脱走・命令不服従・投降に対する罰則も大幅に強化されており、ロシア軍の戦意に関してはウクライナが主張する集団投降なども実際に起きているのかもしれない。
 ロシア国内では動員反対デモが散発的に行われ、エストニア・ラトビア国境では出国の車で大渋滞が起き、外国への航空券は売り切れ、ロシア脱出が検索上位にランキングされているとも報じられているので、国民、特に兵役該当層の出国禁止措置も目前であるように思える。

 戦争には大量の兵員が必要であるが、ウクライナが主として正規軍・予備役に自発的義勇兵を加えて戦線を維持しているのに対して、ロシアは強権的な招集に頼らなければならないことが、ウクライナ事変や領土争奪戦の本質を示しているように思う。
 徴兵の制度とノウハウを持たない日本にあっては、有事における兵員の急速所要を如何に措置するのだろうか。
 日本の有事動員数は即応予備自衛官と予備自衛官の8割が応召したとしても約3万人に過ぎないが、幸いにしてG7加盟国では最低ながら「有事には戦う」とした人が国民の10%は存在する。
 国内世論を考えると徴兵や動員のための法整備は不可能に思えるが、義勇兵としての下地を作る教育訓練や装備については平時から準備しておく必要があるように思える。


ゴルバチョフ氏の告別式に思う

2022年09月04日 | ロシア

 ゴルバチョフ氏の告別式の模様が報じられた。

 告別式はロシア大統領府儀典局が執行して儀仗隊が派遣されるなど国葬に殉じた形で行われたが、ゴルバチョフ氏を「ソ連邦解体の戦犯」と批判し続けたプーチン大統領は参列しなかったと報じられている。
 ゴルバチョフ氏の事績を振り返ると、氏は社会主義的改革でソ連邦は維持できるとの判断からグラスノスチ(解放)、ペレストロイカ(再構築)を推進したが、結果的には自身が望まぬ形でのソ連邦解体に至ったとされている。このことによって、戦後40年以上続いていた米ソ冷戦は終結し、ソ連邦を構成していた地域は相次いで主権を回復し、氏はノーベル平和賞を授与された。
 氏の功績は、西側諸国からは高く評価されているものの、ロシア国内では、共産党指導の下に保たれていた一応の安定と秩序を破壊し、イデオロギーによる階層分断を招き、貧富拡大によって弱者が切り捨てられた、などの評価の方が高いとされている。
 かって、中曽根康弘氏は「政治家は歴史の場で被告とされる覚悟を持つべき」を政治信条とされていたが、政治家・政治的所産については短時日・単眼的な視点から評価されるべきでないことを示しているように思っている。
 ゴルバチョフ氏以外にも、金大中氏は太陽政策によって北朝鮮を国際的対話の場に呼び戻したとしてノーベル平和賞を授与されているが、現在では氏の太陽政策は北朝鮮に核兵器開発の技術・資源・時間を与えたに過ぎない愚策であるとの評価が定着している。
 沖縄の無血返還を実現した佐藤栄作氏も平和賞を受賞されているが、野党の反対を緩和するために繰り返した「非核3原則」は、今や核武装について政治家が口にすることさえ許されない・国会でも論議し得ない「非核5原則」にまで肥大化し、国防の最大ネックと化している。

 安倍晋三氏の国葬に関する反対理由のうち「法律に無い」が喧しいが、世界の殆どの国で国葬は法律に依らず不文律で行われているのは、タイムリー若しくは現在進行形に政治家や故人を評価することは不可能であることを物語っているように思える。第一、政治家の多方面に及ぶ活動を定量的に測ることは政治的・思想的に無色の知識人と雖も不可能で、さらに我々レベルでも発言のツールを持つ現在では例え法律に規定されたとしても「全国民挙っての国葬」などは考えられない。
 戦後に民間人として唯一国葬を賜った吉田茂氏に対しても、サンフランシスコ平和条約で単独講和に踏み切ったことについて社会主義的傾向を持つ人は未だに全面講和であるべきであったと主張している。
 「国葬法令」の整備を説く方に伺いたい。「貴方の考える国葬の基準は?」


ロシア出禁63人に思う

2022年05月07日 | ロシア

 ロシアから63人が入国禁止を通告された。

 ロシアの「何処の誰が」、「どのような計量スプーンとオペラグラスで」選定したものかもわからないが、指名された人の多くが「上等ヤン」とした高市早苗政調会長、「勲章」とした中村逸郎筑波学院大教授と同様の感想を持っているように思える。特に、志位共産党委員長に至っては「ソ連・ロシア政体は社会主義ではなく全体主義であるとして決別を宣伝した以降も、コミンテルン参加時代と同一視される軛から解放されるもの」と狂喜乱舞の体に見えるし、新聞赤旗も総力を挙げて報じているらしい。
 ロシアの度量衡は不明であるが、「誰がどのようにしてリスアップした」のかは、ある程度推測できるように思える。大臣級を除いて防衛省の幹部が指名されていること、衆参の沖縄・北方特別委員会の理事が党派の別なく一網打尽的に網羅されていること、大学教授の多くが電波媒体よりも活字媒体で活躍されていること、活字媒体の主要幹部が指名される一方で電波媒体関係者は1名も指名されていないこと、から、リアルタイムに視聴覚資料を入手できる在日ロシア大使館の諜報結果ではなく、テレビをリアルタイムに視聴できない場所で、公刊の活字媒体のみを継続して分析している本国組織の分析官の手になるもののように推測できる。
 また、ウクライナ情勢とロシアの蛮行を連日報道している新聞で、読売・産経・日経が指名され、朝日・毎日が指名されないことは、両紙が事変当初「ロシアの言い分も考慮すべき」と社説で主張したことと無縁ではない様に思える。天安門事件後に各紙の在中国支局が相次いで追放された中で、唯一北京支局の存続を認められた朝日新聞と同様な背景で朝毎新聞は出禁指定されなかったのかもしれない。

 新聞斜め読み・読み飛ばしのせいで、日本以外でこれほどまでに「底は浅いが広範囲(玉石混交)な出禁」を通告された国があるのか把握していないが、もし日本だけであるとするならば「日本も舐められたものである」としか思えない。それは、プーチン政権指導部内で「弱小国日本であれば、この程度の脅しを掛ければ「言論は弱まって反ロ感情は沈静化する」と判断したものにほかならず、ロシアにとって日本は大した意味を持たない国とされていることを示したことに他ならないと考えるからである。
 半面、出禁リストは「これらの人の言葉を聞き、主張を読めばロシアの真実が分かる」ことを教えてくれたものと受け取ることができるので、ロシアの愚行と一蹴する前にリストの活用法を考えるべきかもしれない。


ウクライナ事変のOSINT活動を知る

2022年05月02日 | ロシア

 ウクライナ事変に際して、民間のオシント・グループが成果を上げていることが報じられた。

 オシントは、「オープン・ソース・インテリジェンス( open-source intelligence)」の略称でOSINTと略記され、「合法的に入手できる資料」を突き合わせることで公共機関等の公表内容の真贋を検証するとともに真実を知る手法で、1980年代から諜報・諜報活動で用いられるようになってきたとされている。他のHUMINT(ヒューミント:対人諜報)やSIGINT(シギント:主として電波傍受)が往々にして「違法行為を厭わない諜報」であるのに対し、公開情報を情報源とすることが特徴である。
 1990年に公開された映画「レッド・オクトーバーを追え」では、あまりにも米ソ両国海軍の実情が詳細に描かれているとして、原作者のトム・クランシーはスパイ容疑でFBIの捜査・監視対象とされたが、クランシーの情報源が全て公開情報であることが立証され無罪放免となった。
 トム・クランシーの手法は、公開されている電話帳、将官の経歴と移動履歴、予算報告、武器製造社のカタログ、軍の広報パンフレット等を繋ぎ合わせることであったとされているが、ウクライナ事変における民間のOSINTグループは、政府機関発表の真偽を、公開写真、報道写真、衛星写真等を繋ぎ合わせることで検証している。
 注目されたのはキエフ(キーウ)郊外のブチャで、ロシア軍撤退後に残されていた遺体について、ロシアが撤退時には遺体が無く進駐したウクライナ軍の仕業と発表したことを商用衛星写真と公開写真を繋ぎ合わせることで虚偽と検証したことである。民間OSINTのリーダーは取材に対して「我々は究極のオタク」であると破顔していたが、例示された「公開写真の背景から撮影地点を特定する」ために、数十か所に及ぶ候補地点の一つ一つをグーグルアースで検証するのは、お金を貰っても二の足を踏む作業である。また、当該グループは「しがらみ」と「プロパガンダ利用」を嫌って、一切の公的支援を断った手弁当であるとしているので、今回はロシアの情報を検証したものの、ウクライナの発表も検証されるケースがあるかもしれない。

 米海軍との共同訓練では、各艦の燃料保有量等のレポートを毎日交換するが、自分が参加した機会に毎日のデータを記録して見たら米軍艦船の燃料保有量は公刊情報とは異なっている場合が多く、自艦と米艦の排水量・機関出力・運動態様を基に使用燃料消費を類推・比較すると、公開されている航続距離とは異なるのではとの疑問を感じた。
 自分の経験はオシントとまでは呼べないものであるが、公開された情報の多くを繋ぎ合わせれば、真実に近いものが朧気ながら見えてくることも多いのだろうと思える。