10mの垂直・斜潜水の教育訓練と数回の実潜水・潜水作業指揮経験のみであるが、潜水服に要求されるのは、肌との密着度と水中での動き易さであり、とりわけ重要なのは「潜水服に対する潜水員の信頼度と安心感」であると思っている。報道では、潜水員の感想・言い分まで取材したようには読み取れないので、何とも言えないが、該当社納入の潜水服が、潜水員に無類の安心感を与えていると仮定するならば、単に機能・合理性から判断すべきではないのではないだろうか。
海自の潜水員は、レジャー潜水とは異なり、過酷な環境で複雑な作業をする。加えて「潜水員の7割頭」と云われるように、潜水深度が深くなればなるほど判断力等が低下し、100mを超える深海潜水では1桁の足し算にも苦労すると聞いたことがある。そのような環境下にあっては潜水服に対する安心観という要素は合理性を超えるものであるのではないだろうか。
指名競争入札⇒一般競争入札のあおりを受けて、艦艇の検査・修理を始めて受注した造船所で年次検査を実施したことがある。経験豊かな造船所では秘密保全体制もしっかりしており、作業員も一応のセキュリティクリアランスを与えられているが、新規参入の会社では外国人作業員が散見、複数日を要する作業も日替わりで作業員が交替するなど気を抜けない状態であった。特に現場管理者も共通仕様書の理解が十分でなく、態勢の不備などを指摘すると「そんな意味なのですか?」ということがしばしばであった。安全保障や軍のセキュリティが国民的なコンセンサスを得ている国では、一般競争入札は理想であり難なく遂行されるであろうが、残念乍ら我が国の現状は、相当な地位にある人でもそれらについて無知である場合が多い。
願わくば産経新聞を含めマスメディアにあっても、官民癒着疑惑を報じる場合は、今少し掘り下げた取材をして欲しいものである。
また、初任幹部として最初に乗った艦で、軍歴のある艦長から「士官は、常に夏冬の下着を持っておけ」と教えられた。
補給艦乗り組み中のとある8月、南方海域で行動中であったが、アラスカに向け航行中の練習艦隊への訓練補給を急遽命じられた。金華山沖で親潮の影響下に入ると海水温と気温は急激に下がり、艦内は急遽暖房仕様に変更したもののオホーツク海では暴露部での当直者は鼻水をすすりつつの有様となった。頼みの綱は個人の長袖・パッチであるが、持っていたのは、自分(2セット)と艦長(2セット)だけであった。暴露部に出る必要のない自分は2セットを供出、艦長も1セットを下賜、都合3セットを暴露部で当直に当る6人の幹部で奪い合うこととなった。曰く「階級順」「いや年齢順」「南国出身者優先」・・・。侃々諤々の末にあみだくじで活着することとなった。
川崎重工業が海自に提供したとされる十数億円が所得隠しと認定されて、追徴課税の対象かと報じられた。
海自に提供されたとされる金品の詳細については報じられていないが、造船所での検査修理を経験した自分には思い当たる点が少なくない。
かって艦船修理費は、艦齢に比例して減少する仕組みであったために、老朽艦になれば部内規定で定める検査項目すらクリアできないことがしばしばであった。また、修理のために必要なボルト類などの消耗品は、各艦艇ごとに年間で定められた金額の中で賄わなければならないために、需要が急増する修理期には不足するというようなケースもあった。自分が、海士であった頃には現場で働く工員さんに頼めば2・30本入りの箱ごと貰えたが、造船不況以降は工員さんですら必要本数を申告して受け取ると変わったようで気楽に頼める雰囲気ではなくなったものの、同じ現場で作業するうち仲良くなった工員さんに都合付けて貰うこともあった。また、検査の過程で判明した損耗部品については、本来官給すべきものであるが部品購入費が無く造船所が手配して艦船修理費で決済するようなケースも有ったかもしれない。自分を含めて乗員は、査定・契約・決済の業務にはタッチしないために、目の前で行われている造船所工事の金額が如何ほどか、どの予算で行われているか等は知らないし、おねだりしたボルトがどのような形で処理されているかなどは知りもしなかった。いや、朧気には何らかの形で官が支払っているだろうとは思っていたが、今回の川重のケースから考えると、乗員に与えた便宜を官には請求できずに、裏金を作って凌いでいたようである。
修理期間中の乗員宿舎についても、官請求分を超える部分は裏金で補填していたともされるが、次に述べる自分のケースでも造船所が簿外の補填をしてくれていたのかもしれない。
昭和から平成となった頃、新造艦の艤装員を命じられた。造船所が手配してくれた子会社が運営・管理する寮に泊まって造船所に通う訳であるが、月額2万円強と記憶している艤装員手当てから寮費を払い朝夕2食の賄い食と昼食の仕出し弁当を採れば、艤装員手当てをオーバーした。同じ寮に商船の艤装員もいたが、こちらは寮費・食事(晩酌付き)は会社持ち、造船所への往復もタクシーであった。我々隊員の懐を知っている造船所は、おそらく寮費や食事代も原価を切って提供してくれていたのだろうし、子会社の経営を圧迫するわけにもいかないので差額は本社が負担したであろうと思うが、補填には何らかの会計操作が必要であろうことは想像に難くない。
川重の裏金・所得隠しの実態は、これから明らかにされるだろうが、最大の原因は「海上自衛隊の艦船修理費や部品購入費が足りない」ことであると思う。艦艇の建造・修理を担って艦艇の可働率維持に自衛官と志を同じくする造船所にあっては、修理予算欠乏と乗員窮状の側面が今回の誘因としてあるのだろうと考えると、申し訳ないの一言しか言葉が出ない。
11月10日に掃海艇「うくしま」が機関室火災の後に転覆・沈没した。
自分も約3年間掃海艇に乗艦したことがあるので、機関室火災~乗員1名行方不明~転覆・沈没と云う痛ましい事態に驚くとともに、行方不明となっている乗員(33歳)に心からの哀悼を奉げる。
事故の詳細や原因については、後日発表されると思うので軽々なことは書けないが、沈没に至る一般的な経緯(私見)を書いてみたい。
艦艇に限らず船には復元力があり、特に艦艇にあっては風や波の影響力を考慮しない静的復元力に限って言えば、90度(横倒し状態)以上でも艦は転覆しない設計となっている。艦艇の就役後に私物や需品を重心よりも上に搭載しても復元範囲が90度を下回ることは無い。では何故に「うくしま」が沈没したかと云えば、波浪に伴う自由水の移動によるものであるように思う。報道写真に依れば、僚艦が横付けして消火活動や電力供給などの支援を行っているようであるが、うくしまは既に喫水も下がり10度ほど傾いている。これは多量の消火水が機関室に溜まっていることを意味し、その消火水が自由水となって動的復元力を低下させているように思える。
掃海艇が電力を失った場合、搭載しているガソリンポンプは消火活動に手一杯で、消火水の排除を消火活動と並行して行うことは不可能である。恐らくであるが「うくしま」でも、電力を喪失したため電動の消火海水ポンプは使えずに、ガソリンポンプで消火活動をしていたものであろうし、横付けした僚艦も延焼中(火元)の機械室から消火水を排除すること等できなかったと思われる。
自分も、機関を任された魚雷艇では機械室火災、掃海艇では機械室のボヤと主機(10ZC)焼損、護衛艦では発電機(MI)焼損、と散々な実績であるが、逆に考えれば「事故は常に・頻繁に起こる」と云えると思う。それでも定年まで機関の現場に留まることができたのは、僥倖であり運が良かっただけと今は思っている。
近代的なシステムでも事故は起き、すぐさまに責任の所在を追及する魔女狩りが始まるが、うくしまの乗員諸氏、就中機関長を始めとする機関科員諸氏においては、落ち込むよりも今回の機関室火災~転覆・沈没を教訓として以後の任務に邁進して欲しいと願っている。
プロ野球の世界でも、完全試合を成し遂げた投手が、自分の投球術よりも運の要素が大きいとしている。