日本の排他的経済水域(EEZ)内で違法操業中の中国漁船が、立ち入り検査中の水産庁職員を乗せたまま、半日以上も違法操業を行いつつ逃走していたことが報じられた。
産経新聞の記事は時系列・位置関係が正確に整理されていないため、水産庁職員を救出したのがEEZ外であることは分るものの、国際法上の公海まで及ぶ追跡権を持つ海上保安庁が介入した時点が不明確であり、拿捕または船長の逮捕に至らなかった理由が判然としない。それはさておき、中国の反応は公海における自国の自由操漁が侵されたとする、お決まりのものである。日中双方の主張が異なるのは「漁船の位置」に係っているので、双方の位置確認手段を勉強してみた。水産庁の調査船「白萩丸」はアメリカの民生用GPSを使用しているであろうことは疑いのないところと思う。過去には米国防総省が安全保障上の理由から民生用GPS信号の誤差精度を100m程度まで落としたことがあるが現在は数m以内であると思う。中国漁船が使用している艦位確認手段は、中国版GPSである北斗衛星導航システムと思われるが、同システムはアジア地域限定のシステムで精度は公称5mとされているが実際は50m程度の誤差があるとされてきた。しかしながら中国政府は、12月27日から全世界を対象に位置情報サービスを開始したと発表した。北斗衛星導航計画は1990年代に始まり、現在の北斗3号系統構築は2009年に着手2020年に全世界対応を目指す計画であったが、ここ1年余りの間に衛星19基を打ち上げて2年前倒しして運用サービスを開始したことになる。現在、同システムの地球規模での測位精度は誤差10mであるが2020年までに衛星を30基体制にして誤差5mを目指すという。現在、世界には3系統の測位システムがあり、米国のGPSは31基、ロシアの「グロナス(GLONASS)」は24基、EUの「ガリレオ」は30基前後の測位衛星でそれぞれ運用されている。これに中国の北斗衛星導航システムが加わることになり、サイバー空間には各国の測位電波が入り乱れていることになる。各国が大きな経済的な負担を強いられる自前の測位システムを構築・維持することは、民間の利便性追求と先行したアメリカのGPS依存払拭のためだけでは無く、民生用電波に併せ持つ軍事用電波が、近代戦に不可欠であることであると思う。部隊運用はもとより小火器による各個戦闘までもGPSの機能は不可欠の要素となっており、とりわけ誘導兵器の精密誘導にはGPSの優劣が致命的な要素であることである。アメリカの軍事用GPSの精度は数センチとも云われている。中国衛星の軍用波がアメリカの域に達した場合には、ファーウェイの盗用技術と顔認証システムを併用すれば各国要人の追跡など朝飯前のこととなるかも知れない。世界規模の測位システムをGPSと表現することが定着しているが、GPSはアメリカのシステムであり、「中米民用衛星ナビゲーションシステム(GNSS)連合協力声明」にも使用されているGNSS(グローバル・ナヴィゲーション・サテライト・システム)と呼ぶべきかとも思うものである。
韓国は前言を翻してレーダー波の照射は無かったと云いだして日本の映像公開を非難し、中国は自国のGNSSの優秀さを誇示する傍らで公海上の操漁と強弁する。信頼できない隣国の困った言動のうちに、平成30年が暮れようとしている。両国の狂気は劇的には変化しないであろうが、来年には少しでもいいから沈静化して欲しいと、願うところである。
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