ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

「精神」の想田監督インタビュー

2009年05月29日 23時46分40秒 | 障害者の自立
 本日5月29日(金)をもちまして「ヘザーの映画館」の更新を終了いたします。皆様、本当に長い間たくさんの映画を一緒に楽しんでいただき、心から感謝するとともに深くお礼申しあげます。本当にありがとうございました。Thank you and all my best!

 さて、その最後にお勧めする映画は、想田和弘監督の最新作「精神」です。2007年、日本の市議会議選挙を描いたドキュメンタリー「選挙」で世界的に話題を呼んだ想田監督は今回、長い間タブーとされてきた精神科の世界にカメラを入れました。岡山市にある外来精神科クリニック「こらーる岡山」を主な舞台として、心の病を患う当事者やスタッフをつぶさに観察したドキュメンタリー映画です。

 「観客に何かを伝えようというのではなく、それぞれの方に考えてもらうべき」というのが、想田監督のポリシーですが、今回もナレーションによる説明や音楽を一切使っていません。何よりも監督は一般社会と精神障害者の間に下ろされている「見えざるカーテン」と取り除くつもりでこの映画に挑みました。

 ほかの評論家や解説者の方々も同じようなコメントをされていますが、あえて私も言わせていただきます。この映画で最も力強く伝わってくるのは当時者の病気ではなく、彼らの人間性だということです。これを観る多くの方が精神疾患に対する自分の先入観を捨てざるを得なくなると思います。そして少しでも多くの人がこの事実を「他人事」でないと感じられれば、想田監督はまさに、私たちの社会にとって本当に大事な仕事をされたという証にほかなりません。

 1993年からニューヨークに在住している想田監督が先日この映画の宣伝で来日され、インタビューに応じてくれました。今回はそのハイライトをご紹介したいと思います。

 質問:まず、この映画のタイトルを選ぶプロセスのことをお聞きしたいのですが。

 想田監督:最初は 英語で Mental Illness、日本語で「精神病」と考えていました。ところが、この映画を作って編集している間に「これはたぶん病気についての作品じゃないな」とだんだん分かってきたんです。僕らの心とか、精神。まあ、いろんな名前があって何て呼ぶのがいいのか分かりませんが、私たちが持っているモヤモヤした「小宇宙」とでもいうような...

 それで、大それた題名ですが、「精神」という名前がいいだろうと。そのとき、英語も日本語も両方とも病気の部分を取ったらどうだろうと思いました。「精神病」ではなく「精神」。Mental Illness ではなく Mental。

 面白いことに、英語の mental は「心の、精神の」という普通の形容詞のほかに、「あの人がおかしい、狂っている」という差別的な使い方もあります。He's mental とか。日本語の「精神」もそうなんです。「心とか、魂」というニュートラル意味のほかに「彼が精神だから」と言うと、少し侮蔑の意味が混ざる場合もあります。Mental ほど一般的に侮蔑的な表現ではありませんが。似ていて面白いと思いました。

 あとやっぱり、「精神」とか Mental 、本来ならばニュートラルである言葉が、使いようによっては差別的になるのは興味深いとも思いました。精神病そのものも、偏見とか差別と関係ないはずです。ただの病気ですから。しかし、人がそれをどう見るか、どう語るかによって差別とか偏見が生まれます。

 質問:精神病の患者に対する偏見は世界共通のことだと思いますが、その偏見の原因は国よって違うのではないでしょうか?これはあくまで私の推測ですが、アメリカでは「あの人たちが汚れている」というイメージがある一方で、日本では「ただ怠けている」というような意識もあるような感じがしますが、いかがですか?

 想田監督:あるでしょう。この映画を見た人の中でも「あの人たちは怠けすぎで、もっと厳しくやらないとだめだ」というような人もいます。しかし、それは本当に誤解なんです。

 心の病なので、がんばれば何とかなるのではないかというふうに思われがちです。しかし、がんばって、がんばって、で、心の病になったのです。逆に、例えば心臓病とか、身体的な病気を患っている人に「そんなに寝てるんじゃない。がんばれ」って言うか?と聞きたいですね。

 質問:プレス資料の中で監督ご自身が大学時代に燃え尽き症候群になったご経験を語っています。当時周りからどんな風に反応されたんでしょうか?

 想田監督:僕自身は全然隠さず、燃え尽き症候群になったことを普通にしゃべっていました。違和感を持ったのは、「自ら精神科に駆け込んだ」と言ったら、皆に笑われたことです。「想田、精神科っていうのは自分から駆け込むんじゃなくて、強制的に誰かに連れて行かれる所だ」と言われたからです。

 そのとき、すごい違和感がありました。だって、歯が痛いから歯医者に行くんじゃないのか?なのに、心を痛んで自分から精神科医に行くのはおかしいと言われる。強制的に連れて行かれないかぎり行かない医療機関って、一体何なんだろう?その疑問はずっと私の心の中に残っていました。

 結局そのときから10年以上たってからこの映画を撮ることになったわけですが、その経験がベースになっています。

 質問:映画には実際の患者さんが登場するわけですが、どのようにして説得されたんでしょうか?

 想田監督:説得はしていません。聞いただけです。

 まず診療所に撮影許可を申し込みました。こらーる岡山の “活動者会議”、スタッフと患者両方が参加している会議が話し合い、受け入れることにしてくれましたが、「写られたくない人もたくさんいますので、1人1人許可をもらってください」と言われました。

 だから、僕と妻は一緒にカメラを持って毎日待合室に行って、1人1人に自己紹介して、映画の趣旨を話して「撮ってもいいですか」と聞きいたんです。で、10人聞いたら、8人か9人は「困ります」と...。周りに内緒にしているとか、家から失踪していて自分の居場所が分かってしまうと困るとか、それぞれにいろんな事情がありました。

 でも「いいですよ」とおっしゃる方もいて、その場ですぐカメラを回し始めました。ところが、こらーる岡山ではスタッフの方が白衣を着ていないので、あれこれ撮っているうちに、「ああ、この人は患者ではなくスタッフだった」と分かったなんてこともありました(笑)。

 質問:奥様が監督の映画作りにかかわるのは初めてですか?

 想田監督:妻はダンサーで振付家なので、私の学生映画のときには必ずダンサーとして出ていたんですが、いわゆるスタッフとして関わったのは初めてです。

 でも、カメラの使い方などがまったく知らなくて、いわゆる技術スタッフとは違います。なぜ彼女にいてもらったかというと、彼女の母のつながりで「こらーる」と知り合いました(義理のお母さんでいらっしゃる柏木廣子さんは高齢者や障害者の在宅支援をするNPO法人・喫茶去の代表をされています)。妻は患者さんの前で踊りを披露したこともあったりして、知り合いの方が多かったんです。彼女がいるだけで場が和らぎ、撮影の雰囲気がよくなるんです。

 ただ、患者さんの大変な話を聞いているうちに、彼女の調子がどんどん悪くなっていって...。私はカメラを回しているので、角度やピントのことを考えたり、話を半分くらいしか聞いていません。面白い話が出たら「ああ、いい話が聞けた」と思うわけです。

 ところが、妻の方は100パーセント聞いてしまうんです。私のように守ってくれるカメラはありません。最後には自分が患者さんとまったく同じ経験をしているかのように思い始めて、ぼろぼろ泣き出しました。もうだめ、一生こんなふうに私も苦しんでいくのではないかと言っていました。

 とうとう彼女は山本先生にアポを入れました。夫としてはすごく心配なのですが、その一方で映画作家としては「面白いな」と思いました(笑)。だから彼女が診療室に入っていったときも、私もカメラを持って入りました。そうしたら「私の許可も取らないで何やってんの!あなたの悪口を言うんだから、出て行って」と怒鳴られました。で、仕方なくさっさと退散したんです。

 でも今はすっかりよくなっています。そして彼女も「あのとき撮っていれば、映画のハイライトになったんじゃないの?」なんて言ってます(笑)。

 質問: 精神ケアに関わっている人たちからの反応はいかがでしたか?

 想田監督:どこで見せても、まず患者さんからの反応が強いんです。「良くぞやってくれた」と。同じように疾患を抱えている方が、堂々と顔を出して自分の人生を語っていることに、勇気づけられるんだと思います。プサン映画祭で最初に上映したときもそうでした。患者さんが見たあとに、私のところにきて、泣きながら「ありがとう」と言ってくれました。最初は私の方がすごく驚かされました。

 というのは、いくら善意があっても私が患者さんを人目にさらすことについて疑問を投げかける人もいると思います。「不道徳だ、倫理的ではない」という意見もあるでしょう。そんな時、自分も加害者になるのではないかという気持ちがとても強くありました。だから精神疾患をかかえている方々がポジティブに反応してくれるのが意外だったし、とてもうれしかったんです。

 また、医療関係者や福祉関係者が「ぜひ同僚に見せたいと思うんだが、いつDVDに出るのか?」とか「韓国ではいつ公開されるのか」とか、すごい興味を持っていただきました。どこもそうです。

 質問: 国によって何か反応に違いはありましたか?

 想田監督:基本的には同じです。ドイツやフランスでは「私たちの国にとっては終った話だ」というようなリアクションがくるかもと思っていましたが、どちらかというと「いや、ヨーロッパも同じだ」という反応が強かったです。

 ただ、反応の熱烈さに関しては、アジアの国の方が大きかったのは事実です。台湾、香港、韓国のプサン映画祭、日本の夕張。やっぱり日本を含めたアジアでの反応は一味違いました。「自分たちの一番切実な問題だ」というような激しさを感じて、精神疾患をめぐる国の状況が似ているということなんでしょうか。また、これは私の推測ですが、出ているのが日本人なので同じアジア人としてもっと共感しやすいのかもしれません。

 質問: 精神疾患の患者さんを支援するために、これから日本政府に一番してもらいたいことは何でしょうか?

 想田監督:1つは、こらーる岡山が行っているようなことを決して邪魔してほしくないということです。

 質問: 2006年施行の自立支援法のことですか?(この法律により、福祉サービスの利用料について、所得に応じた負担軽減措置がなくなり、原則1割負担が義務付けられました。)

 想田監督:はい、そうです。こらーる岡山の山本先生に聞いてみると、おかげでものすごく不便になって、利用しにくいらしいのです。基本的なアイデアとして、自立支援法というのは赤字に苦しむ財政を何とかするために、カットするというのが先にあるわけじゃないですか。患者さんの福祉とか治療が最初から頭にないんですよ。

 「自立支援法」という名前が付いていますが、そんなのはどうでもいいわけです。患者さんに対して病気のまま経済的に自立しろと脅迫しているようなものです。ものすごく使い勝手が悪くて、ユーザーである患者さんにとっては全くフレンドリーではありません。こらーる岡山にとっても、法律の施行までこれまで上手くいっていたようなことがやりにくくなっています。

 本当は支援してくれと言いたいのですが、少なくとも邪魔だけはしないでほしいというのが実感なんです。

 あと、今は精神病院に患者を隔離して、そこに押し込んでおけばいいという考え方が、日本の精神医療の発想の根底にあるように思います。そうではなくて、患者さんが地域で暮らしていけるようにしたいと、現場では皆が思っているし、そのコンセプトがだんだん浸透してきています。国の政策としてもそれを基本に据えていこうという流れになっています。

 ただ、それに予算がつくようには制度化されていません。やっぱり予算は病院の方に付きやすいんです。医療機関というのは、入院患者がいないと経営が成り立たない仕組みになっています。だから、いくら現場の人が患者さんに地域社会に暮らしてもらってそれをサポートしたいと思っても、全部ボランティアとか、人の善意に頼るしかないのです。組織的、継続的にはなかなか難しいと思います。

 だから、こらーる岡山も地域での医療を追求していますが、山本先生は月10万円ぐらいの給料で、全員とボランティア精神で何とかやっています。国としては経済的にも支援すべきだと思います。

 今の福祉の現場というのは、大体年金生活者だけが関わっているようになっています。年金がなければ、そこで働いても生活ができるほど収入がもらえないからです。1人暮らしの独身の人が大学を出たばかりで働くにはまだいいかもしれません。しかし、子供ができれば難しい。パラドックスですよね。年金生活者は基本的にお年寄りのわけですから、むしろサービスが必要な人たちです。しかし、彼らが主力となってサービスを提供しているんです。

 質問: 映画の中で最も印象に残った患者さんは、長い間周りから理解されず、八方塞がりの中で悲劇を起こしてしまう母親です。その人の撮影について聞かせていただけますか?

 想田監督:どの患者さんに対してもそうですが、私はあらかじめその人はどういう疾患を患っていて、どんなストーリーがあるかを知らずにカメラを回しました。そのお母さんについてもそうでした。撮影した日は、その方がちょうどショート・ステイの施設に泊まり、撮影してもいいよとのことで行ったのです。彼女を追いかければ、施設の仕組みが紹介できるのではないか、という軽い気持ちで行きました。ところがいろいろ話をしていたら、大変辛い過去を背負っていたことが分かりました。

 撮影したときには、こんな話を映画に入れても大丈夫かなとすごく心配になりました。映画作家としては「ものすごい話を聞けた、このシーンはとても重要だ」と思いつつも、彼女の口ぶりからすると、あまりこの話をほかの人にしていないようです。でもたぶんそのことを言いたくて、私に話してしまったんだと思うのです。

 実際、編集室ですごく悩みました。ジャーナリストが彼女の行為の成り行きだけを書いたら、大抵の場合彼女の行為は悪、鬼母のように扱われる可能性があります。世間的にもその可能性があり、彼女を攻撃する人が出てくるかもしれません。それに対して私にその責任がもてるかどうかすごく悩んだわけです。

 ただ考えているうちに、彼女の苦しみの核心にあの出来事はあると思いました。彼女のことを描くためにはどうしてもあの出来事について触れざるをえない。それができないくらいなら、この映画をどうして撮るんだろうとまで思いました。

 また、入れるかどうかだけじゃなく、どういうふうに入れるかを考えました。例えば、いわゆる最もセンセーショナルな部分を取り上げ都合よく使ってしまったら、それはとんでもない罪になります。彼女の話を聞きながら、「自分も同じような状況に置かれたら、同じことを絶対やらなかったとは思えない」、私はすごく感情移入しました。

 だれも助けてくれない中で起きた悲しい出来事です。映画を見る人たちもそれを分かるように全体の文脈を残せれば、私なりの責任を果たしたことになるのではないかと思いました。そのために、彼女の母親と夫との確執や、医者に見離されたこと、そして彼女はそれについて今どう思っているか、全部で16分以上を入れました。なるべくカットせずに。

 11月に、映画に出てくれた患者さんのために試写会を岡山でやりましたが、発表した瞬間に皆の間にすごい動揺が広がりました。映画に出たのはいいけれど、見て耐えられるかどうか、また自分がどういうふうに描かれているだろうかと、怖くなったからです。

 当日、大抵の人がきてくれましたが、私が一番心配していたあのお母さんは最初いませんでした。映画が始めてから1時間くらいたってタクシーで駆けつけてきましたが、すでに彼女のシーンは終っていました。映画が終ったあと質疑応答を行うと、彼女が皆の前で手を上げて「想田さん、あのシーンが入っていないですよね」と尋ねてきました。その調子から明らかに「入ってなければいい」と思っていることが伝わってきました。

 「いや、入っています」と私が応えると、彼女は「入れちゃったんですか」。そこに落胆と怒りを感じました。「じゃぁ、皆知っているんですか?私は生きていけないじゃないですか」とおっしゃいました。私にはすごいショックで、崖っぷちに立たされたような気持ちで言葉がありませんでした。

 ところがそのとき、最初のシーンに登場する患者さんが手を上げてこう言われたんです。「私はあなたとは長い付き合いですが、今まであなたの本当の苦しみが分かっていなかった。こういう形だけど、その話を聞けてよかった。私も子供を育てたし、大変な思いをしました。同じような気持ちで苦しんでいるお母さんがたくさんいるはずです。あのことを知っても、あなたに対する態度は変わらないし、これからも友だちでいたい」とおっしゃったんです。

 そこから議論が始まり、本人の顔もだんだん明るくなっていきました。最後には「映画に出れて良かった」とおっしゃってくれました。その理由を聞くと、「この15年間、人に話せば全員が敵になる、だれも味方はしてくれないと思っていました。でもそうではないと初めて分かりました。そして同じことで悩んでいる人がたくさんいます。この映画に出ることによって彼らの力になることができれば、すごくうれしい」と言われました。

 質問: これまでのインタビューで、想田監督はアメリカのテーマも描きたいとおっしゃっていますか、具体的には何を撮影されたいのですか?

 想田監督:それは内緒です(笑)。いつも15 から 20くらいのテーマのリストがあるんです。そのリストの中で、アクセスしてくれる人から作っていくんです。たまたま「選挙」と「精神」にそういうアクセスがありました。今作っている途中の平田オリザ氏と青年団のドキュメンタリーもリストにあり、たまたまアクセスをくれましたので、3番目に作ることにしました。

 ある個人に焦点を当てたとしても、ある集団に当てたとしても、私の眼はいつもその背後にある社会に向きます。ですからある程度その社会を分かっていないと、私の観察映画は成り立たないのです。だから撮るとしたら、日本かアメリカですね。それ以外の国ではとても難しいと思います。


穴だらけの障害者福祉政策 小幅修正にとどまる自立支援法「改正」

2009年05月29日 23時44分26秒 | 障害者の自立
 大きな課題である所得保障についても、障害年金の水準引き上げは財源確保が困難であることを理由に、将来の課題として先送りされた。

 所得保障が不十分な一方、過大な負担を課す自立支援法は憲法第13条(幸福追求権)および第25条(生存権)に反しているとして、5月20日までに62人の障害者が全国8カ所の裁判所に提訴している。

手薄な障害者福祉と貧困

 あまり知られていないが、日本の障害者関連予算は先進国でも際立って低い水準だ。対GDP比での障害者分野の社会支出はスウェーデンの約8分の1、米国の約2分の1にとどまる。「障害者の範囲が狭い一方、年金の対象者が少なく、水準も低いためだ。就労や社会参加の場が少ないことも一因だ」(尾上浩二・DPI日本会議事務局長)。

 日本社会事業大学の佐藤久夫教授(障害者福祉)は、「障害者はごく一部の特別な存在であるとの日本人の障害者観は、そうした障害者観に基づく政策の反映だ」と指摘する。

 実は、障害者自立支援法の見直しは、障害者観や障害者福祉政策の抜本的転換の好機だ。というのも、自立支援法施行から1年半後の07年9月、わが国は障害者権利条約に署名し、抜本的な権利保障の拡充を世界に向けて公約したからだ。障害者権利条約は、従来の医学的な観点とは異なり、障害は社会との関係性において生じると見なしている。そして障害のある人が障害のない人と同じように権利を保障されるための「合理的配慮」がなされていることを、条約は締結国に義務づけている。政府与党は、障害者自立支援法を見直す際、障害者権利条約の趣旨をしっかりと受け止め、抜本的な改正を視野に入れるべきだった。

 障害は貧困とも深くつながっている。生活保護を打ち切られ、07年6月に「おにぎりが食べたい」と書き残して亡くなった北九州市の男性は、肝臓に障害があり、寝たきりの生活だった。しかし、肝機能障害は障害者手帳の交付対象でないため、障害者福祉サービスを受けることができなかった。今年4月に東京都内で開催された「派遣村」相談会でも、来場相談した124人のうち47人が疾病や障害を持っていたが、障害者手帳の所持はわずか5人だったという。これは、障害者福祉のセーフティネットが機能していないことを意味する。制度のあり方は再検討を迫られている。


臓器移植法「改正」に反対する緊急声明

2009年05月29日 01時36分32秒 | 障害者の自立
特定非営利活動法人 DPI日本会議
 議長 三 澤  了


 DPI(障害者インターナショナル)は、「われら自身の声」を掲げて、障害
当事者主体の活動を進めている国際組織として、国連にも認められているNGO
組織である。私たちDPI日本会議は、その国内組織として、1986年の結成以降、
障害者の人権と地域での自立生活の確立を目指して活動を続けてきた。この間、
国際的には国連・障害者権利条約の策定には力を注ぎ、国内的には「障害者自立
支援法」やバリアフリー法等への取り組みを進めてきた。
 DPI日本会議には、身体・知的・精神障害や難病等、障害種別を超えた当事
者団体が結集している。特に、脳性マヒ等の全身性障害やALSなどの難病など、
どんなに重い障害があっても地域で暮らせる社会を目指している。また、「障害
者=あってはならない存在」とする優生思想に反対し、「優生保護法」撤廃等の
動きをつくりだしてきた。
 いうまでもなく、どんな障害があっても地域で暮らせる社会をつくる前提は、
その生命の価値が等しく認められることである。
 臓器移植法の「改正」案について、昨日(5月27日)、衆議院・厚生労働委員
会で審議が開始された。以下、DPI日本会議として反対の緊急声明を行うもの
である。

①「脳死」については世界の色々な実例から見ても明らかなように脳死と診断を
されながら十何年も生き続けた事例や、時間が経って意識が戻り周りの人たちの
声が聞こえていた等という症例まである。心臓が動き、まだ暖かい体温のある人
間を「死」と決めつけ臓器を取り出すことはどうしても納得が出来ない。
 「脳死」状態にある人を「人の死」と定義する時、「回復しても障害が残る」
等の障害者の命を軽視する価値観が潜んでいるのではないかとの疑念が生じる。
 生きる可能性を尊重される命と、生きる可能性を全否定される命を選別するこ
とは、紛れもない優生思想であり、障害者の人権尊重の立場からは到底認められ
ない。

②特に今回の改正の動きは、WHOでの外国渡航による臓器移植制限の動きを背
景にして、ドナーの年齢引き下げや「脳死」の定義拡大を図るためのものであり、
私たちとしては容認できない。
 これまで障害者は「自らの意志をもたない」との偏見のもとに長い間おかれ、
その主体的な意志を無視され続けてきた歴史がある。また、重度障害があるため
に、時には自らの意志を伝達することが、障害のない者の「通常」の方法では困
難な状況になることもありうる、そうした立場から、私たちは大きな恐怖すら感
じざるを得ない。
 特に、最近の福祉・医療の財政抑制が続いてきている日本の社会状況を前にす
る時、私たちの命が軽く見られ、何時、治療停止や一方的に「ドナー」にされる
か分からない時代が到来する、その予兆として懸念するものである。

③今求められているのは、「他人の死」を前提にするのではなく、どんなに重度
の障害や難病等があっても生き抜いていけるための適切な医療を確保することで
ある。また、「障害=不幸」との差別意識の根深さの背景には、社会的な支援体
制の欠如がある。どんな障害があっても、一人の人間として自立して当たり前に
地域で暮らせる介護等福祉サービスの充実を進めていくことが必要である。

④国連では2006年12月に障害者権利条約が採択され、2008年5月に正式発効して
いる。わが国においても、その批准に向けた国内法の整備が火急の課題となって
きている。障害者権利条約の基本精神は、「私たち抜きに、私たちのことを決め
ないで!(Nothing About Us, Without Us!)」である。
 そうした点からも、私たち障害当事者の人間の命の平等性を守る立場からの意
見を十分ふまえた上での対応を強く求めるものである。





【連絡先】
〒101-0054 千代田区神田錦町3-11-8 武蔵野ビル5階
特定非営利活動法人 DPI日本会議
office@dpi-japan.org
TEL03-5282-3730、FAX03-5282-0017

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尾上浩二 DPI日本会議
Koji Onoue, Tokyo Japan
onoue@dpi-japan.org
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臓器移植法改正案:実質審議入り 衆院厚労委

 衆院厚生労働委員会は27日、A~Dの4案が議員立法で提出されている臓器
移植法改正案について、実質審議に入った。各案の提出者に対し、与野党各8人
が15分ずつ質疑をし、▽「脳死は人の死」か否か▽臓器提供に関する本人の意
思確認の在り方--などを中心に論戦を繰り広げた。

 4案のうち、A案提出者の河野太郎氏(自民)らは、「脳死を一律に人の死」
とするA案について、「世論調査の結果などから理解は得られている」などと主
張。これに対し、「社会的合意が形成されているか疑問だ」との反論もあった。

 法改正を巡る焦点は、現行法が禁じる15歳未満からの臓器摘出を認めるか否
かだ。本人が生前に意思表示をしていなくとも、家族の承諾などがあれば摘出を
可能とするD案提出者の根本匠氏(同)らは、「親が子供の気持ちをそんたくし
て意思表示することは可能だ」と説明した。

 移植推進派は今国会での法改正を目指しているが、4案とも過半数を得られず、
すべて廃案となる可能性もある。

視覚障害者パソコン講座のサポーター募集/川崎のNPO

2009年05月29日 00時58分39秒 | 障害者の自立
 川崎市内の視覚障害者を中心に結成しているNPO法人(特定非営利活動法人)川崎市視覚障害者福祉協会が、秋に向け視覚障害者のためのパソコン講座を開催するに当たり、講師を補助するボランティアを募集する。マウスを使わずキーボード操作による指導となるため、ボランティアを育成する「パソコンサポーター養成講座」を開催予定で参加者を募っている。

 養成講座は同市中原区にあるエポック中原で七月一日と同八日の二回、昼と夜の二コースで実施する。昼コースは午後二時から、夜コースは午後六時半からいずれも二時間程度を予定。昼・夜ともに各十人を募集する。

 パソコンに搭載できる音声ソフトが大幅に進化しており、キーボード操作などに慣れれば、障害があっても、メールを送受信したり、インターネットで各種のニュースなどを聞きながら操作ができるという。ただし、マウスの操作ではなく、キーボードの操作になるため、ボランティアにもどんなポイントで視覚障害者に操作を伝えるか事前に養成講座で学んでもらうという。

 同協会は六十年ほどの歴史があり今年一月にNPO法人になったばかり。庶務担当の舩橋光俊さんは「視覚障害者がパソコンを使えるようになれば情報のバリアーがかなり解消する。関心のある人にぜひ参加してほしい」と話している。

 サポーター養成講座は参加費千円。申込期限は六月十五日まで。原則メールでjyunsann@gmail.com

 秋の障害者向け講座では、交通費程度の実費を協会が負担する。問い合わせは高橋吉四郎会長電話044(865)6856。


新型インフルエンザ:「ハイリスク者」対策、県協議会で意見聞く /岐阜

2009年05月29日 00時57分18秒 | 障害者の自立
 新型インフルエンザの県内発生に備え、妊婦や乳幼児、障害者ら感染時に重篤になる恐れのある「ハイリスク者」に特化した対策を検討する「県新型インフルエンザ医療保健福祉協議会」が27日開かれ、医師や障害者施設の代表から、意見を聞き取った。

 岐阜大医学部の村上啓雄教授が、大阪での感染者7人への遺伝子検査で感染2日後には4人しか陽性を示さなかったことを明らかにし、遺伝子検査で感染が把握できない可能性もあると指摘した。

 参加した医療関係者から、マスクの着用について「感染者が感染拡大を防止するためには効果があるが、健康な人が急いでマスクを求める必要はない」との意見が出たほか、冨田成輝・県健康福祉部長は「障害者施設で感染者が出た場合、施設への財政支援を今後検討する」と述べた。県は、意見を基に来月中に具体策をまとめる