発達障害の大学生が増えている。入学後、人間関係がうまくいかなかったり、授業の履修計画を立てられなかったりするなどの問題を抱え、退学してしまうケースもあるという。昨年4月には障害を理由とする差別を禁じた「障害者差別解消法」が施行され、大学側は対応を求められるようになった。各大学の実態と課題を探った。
■10年で32倍
2月16日、下京区の公益財団法人「大学コンソーシアム京都」で開かれた「関西障害学生支援担当者懇談会」。関西各大学の担当者が年2回集まる会合で、発達障害の学生を取り巻く現状や支援のあり方について活発な意見が交わされた。
日本学生支援機構によると、発達障害の大学生(短大、高等専門学校含む)は2016年度で4150人にのぼり、06年度(127人)の約32倍。発達障害の認知が広がったことなどが背景にあり、関西でも同様の傾向にある。
懇談会では、ある大学から、「先生に質問したいので一緒に来てほしい」と学生に相談された事例が報告された。学生は教授と1対1で話をすることに精神的な負担を感じるのだという。別の大学からは「時間割が組み立てられない」との相談が年100回以上ある、との報告があった。
同様の相談は各大学とも増え、懇談会では、支援のあり方に頭を悩ます担当者の声が多く聞かれた。
■個室で対応
障害者差別解消法は、国公立大には障害のある学生に不当な差別的扱いを行わないことと合理的配慮をすることを義務付け、私立大にも努力義務を課した。
施行前から各大学で支援が進んでおり、龍谷大(伏見区)は14年に「障がい学生支援室」を開設。学生の緊張を和らげるため、横になれるソファや一人になれる個室を設けた。「気軽に相談し、大学生活のペースをつかんでほしい」と支援コーディネーターの滝本美子さんは話す。
同志社大(上京区)では、臨床心理士が学生と教員をつなぐコーディネーターとなり、教員らに授業の録音や録画の許可を求めたりしている。また、入学直後に問題を抱えるケースが多いため、合格後から相談に訪れるよう呼びかけ、履修登録の支援などを行っている。
■少ない窓口
ただ、全ての大学で支援体制が整備されているわけではない。
日本学生支援機構の調査(16年度)では、障害がある学生の支援情報をホームページ(HP)などで公開している大学(短大、高専含む)は全体の45・7%で、何らかの支援窓口があるのは66・6%。大学コンソーシアム京都によると、府内でも専門窓口をHPで公開しているのは加盟47大学(短大含む)中7大学にとどまる。
支援担当者と教員の間で情報が共有されていない大学もある。ある大学の担当者は「カウンセラーは守秘義務があり、個人情報を伝えることは慎重にならざるを得ない」と話す。
大学コンソーシアム京都は現在、先進的な大学の取り組みをまとめ、各大学に紹介することを検討している。学生交流事業部の藤井啓太郎次長は「大学間の連携を強め、障害がある学生が十分な学びの機会を得られるよう、各大学を支えていきたい」としている。
発達障害 対人関係を築くのに困難を抱える「自閉症スペクトラム障害(ASD)」や、不注意が見られる「注意欠如・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算が苦手な「限局性学習障害(SLD)」などがある。生まれつきの脳の障害が原因とされる。文部科学省の2012年調査では、公立小中学校の児童・生徒の6・5%に発達障害の可能性があると指摘されている。
◇不安解消 一声かけて
京都大障害学生支援ルームの村田淳准教授(福祉社会学)に支援のあり方を聞いた。
Q 高校と大学の違いは。
大学では、時間割を自分で選択し、教室や近くに座る学生も講義ごとに変わります。発達障害は、臨機応変な判断が苦手な場合があり、大学に入ってから困って相談にくる学生もいます。
Q どのような支援が必要ですか。
大学では近年、集団で討議する授業が増えています。発達障害の学生は苦手な場合があり、教職員は発達障害への理解を深め、つまずいている学生がいれば、声をかけて不安を解消したり、相談窓口を紹介したりする必要があります。
Q 進学時に心に留めることは。
大学の支援体制を調べることも重要ですが、やはり自分が何を勉強したいかが大切です。自分で判断できない場合は、周囲としっかり相談してほしいと思います。