Global Accessibility Awareness Day(GAAD)をご存じだろうか。デジタル(ウェブ、ソフトウェア、モバイルなど)のアクセシビリティとさまざまな障害を持つユーザーについて話したり、考えたり、学んだりする日だ。2017年は5月18日が設定されており、第6回目を迎えた。
この日を受けてアップルは、新たなアクセシビリティのウェブサイトを公開。電動車いすの男性が、森の中でSiriを使ってFaceTimeでコミュニケーションしたり、ハシボソキツツキと交流したりするビデオなども公開している。また、YouTubeのApple Japanチャネルでも動画を公開している。
また5月18日は、世界各国のApple StoreでiPhoneやiPadに備わっているアクセシビリティを活用するための無料セッションが行われた。通常でも行っているものだが、普段よりもセッションの数を増やしたという。
Apple Storeで学べるアクセシビリティの活用セッション
一口に障害といっても、目や耳などの身体だけでなく、認識障害、学習障害などさまざまだ。学習への意識を維持するためのiPhoneやiPadを使った学習支援ツールの紹介セッションなどもある。「Today at Apple」から探したり申し込んだりできる。<iframe class="teads-resize" style="height: 0px !important; width: 100% !important; min-height: 0px !important; margin: 0px; display: block !important; border-image: none; padding: 0px !important;"></iframe>
Apple Ginzaでは、アクセシビリティを学ぶセッション「視覚に障害がある方のためのApple Watchの基本」が行われた。ズーム機能や画面を読み上げる機能「VoiceOver」など、Apple Watchには視覚に障害を持つ人に役立つ技術が組み込まれている。
ここでは、実際にセッションで学んだいくつかの機能を紹介しよう。なお、Apple WatchのOSは「watchOS 3」以降、iPhoneは「iOS10」以降を使用している。
まずは設定環境を整える
iPhoneから「Watch」アプリを開き、「一般」-「アクセシビリティ」を開くと、メニューが出てくる。VoiceOverは、ジェスチャーで操作する画面読み上げ機能だ。
ズーム機能をオンにすると、指でタップしたりデジタルクラウン(リュウズ)を操作して、画面を上下に動かしながら元のサイズの最大15倍まで拡大できる。
一口に視覚障害といっても、色覚、全盲、弱視、ロービジョンなどさまざまな状態がある。各個人の状態に合わせた設定をしていく必要がある。
グレイスケールは、色がない画面のほうが見やすい人のためのもの。設定するとすべてに適用され、ホーム画面やアプリケーションなども、モノクロ表示に変わる。
このほかにも、文字を太くしたり、ホーム画面のアイコンの動きなど、画面の一部の要素がよりシンプルにする「視差効果を減らす」、Apple Watchの背景の透明度を下げることで画面のコントラストを上げて見やすくする「透明度を減らす」といった機能がある。
Siriは、視覚障害者だけでなく、一般の人も知っておくと便利な機能だ。まずは、iPhoneの「設定」-「Siri」から「“Hey Siri”を許可」をオンにしておく。すると、ホームボタンを押さなくても、「Hey Siri」と呼びかければSiriが起動するようになる。
iPhoneを伏せておいたり、iPhoneと離れた状態にあってもApple Watchに「Hey Siri」と呼びかけることでSiriが起動する。もしくは、デジタルクラウンを長押しすればSiriが起動する。
たとえばカップ麺を食べるとき、「Hey siri、3分測って」と話しかけるとタイマーが設定され、席から離れていてもApple Watchが3分たったことを知らせてくれる。
これを応用して、メッセージの作成や返信、メールの返信などができる。iPhoneなら音声だけでメールを新規作成することも可能だ。
ちなみに、「何ができるの?」と話しかけると、できることをSiri自身が説明してくれる。
長めの文章をSiriで入力するときのコツは、句読点をつける場所で一拍おいて話すことだという。そうすることで長い文章も、話ことばも文章もかなりの確度で入力できて使いやすくなるという。
読み上げ機能「VoiceOver」の使い方
iPhoneから「Watch」アプリを開き、「一般」-「アクセシビリティ」-「VoiceOver」を開いてオンにすると、画面上の項目を読み上げてくれるようになる。
たとえば、待受画面の状態で時間の部分を1回タップすると時刻を読み上げてくれる。日付をタップすれば、日付を読み上げる──といった具合だ。
Apple Watchの待受画面をミッキーマウスやミニーマウスにしておくと、通常のSiriとは異なるかわいらしい声で読み上げてくれるので、試してみるといいだろう。
なお、この機能を利用するにあたり注意しておきたいのは、Apple Watch本体から音が出ることだ。たとえばiPhoneをカバンに収納したままでも、Apple Watchを操作してメールやメッセージを読み上げられるが、周囲に聞こえてしまうのでプライバシーや周囲の状態に注意したい。なお、iPhoneの場合は、イヤホンやヘッドホンなどをしていれば周囲に聞こえることはない。
VoiceOverは、Siriで簡単にオン/オフを設定可能だ。「VoiceOverをオン」「VoiceOverをオフ」と言えば、その通りに設定してくれる。都度、iPhoneから設定しなおさなくても済むので便利だ。
また、「VoiceOver」の項目で「Tapicタイム」をオンにしておくと、バイブレーションで時刻を知ることができる。画面全体を一度手で覆い、ディスプレイが暗くなった状態で画面をダブルタップする。すると、時刻を長い振動と短い振動で教えてくれる。
たとえば11時16分だった場合、長い振動が1回、短い振動が1回で「11時」を表す。続いて長い振動が1回、短い振動が6回で「16分」を表す、といった具合だ。
少し慣れが必要かもしれないが、何度か経験するうちに分かるようになる。また、分だけを知りたいときは、トリプルタップすると同様の方法で知らせてくれる。
目に障害を持つ人は、時間の感覚がずれてしまうことがあるという。確認の頻度が高いときは、トリプルタップにするなど、ダブルタップと使い分けることでより便利に使えるようになる。
意外な“iPhoneを探す”の使い方
Apple Ginzaには、目に障害を持つスタッフがいる。視野が95%欠けている状態でiPhoneやApple Watchを使っているという。今回のセッションでは、リアルな利用者としてさまざまなことを教えてくれた。
視覚障害を持つ人が、うっかりiPhoneを床に落としてしまうと、どこにあるかすぐに分からず大変なことがある。そんなときに役立つのがApple Watchを操作し、iPhoneから音を出すことでiPhoneを探せる機能だ。
Apple Watchの画面を下から上へスワイプすると「コントロールセンター」が起動する。バッテリの残量の確認や機内モード、消音といった設定を簡単に行える。
その中にあるiPhoneマークをタップするとiPhoneがある場所を音で知らせてくれる。ちなみに、長押しするとiPhoneのフラッシュライトを光らせながら同様の音が鳴る。
なお、自宅の1階と2階など、同じWi-Fiネットワークにいるときは、Bluetoothがつながらない距離でも使える。
視覚障害者の中には、風呂から上がるときに家族に知らせたり、なにか家で困ったことがあったときの手段としてこの機能を使っている人もいるという。使い方次第で、iPhoneが子機のようにもなる。
なお、iPhoneとApple Watchが離れているときは、文字版の上に赤いアイコンが表示され「接続されていません」と言われて探せなくなる。逆に言えば、オフィスや店の外に出てこのアイコンが表示されていたら、iPhoneはバッグの中にしまったのではなく、オフィスや店の中に置き忘れてきたと気づける。筆者も自宅や外出先でよく使用する機能だ。
いざというときのために知っておきたい「SOS」
Apple Watchのサイドボタンを長押しすると、「電源オフ」と並んで「緊急SOS」(メディカルIDを設定していれば3つ)が表示される。緊急時の番号がとっさに浮かばなくても、緊急電話をかけられる。日本では、「警察」「海上保安庁」「火事、救急車、救急」の3つが初期設定で表示され、それらをタップするとかけられるしくみ。
また、サイドボタンをそのまま押し続けるとカウントダウンが始まり、警告音が鳴り自動的に緊急通報用番号にかかかるという。
iPhoneの「ヘルスケア」アプリで「メディカルID」を作成すると、緊急連絡先を設定できる。緊急SOSを利用したときに、家族などを設定した相手に利用したというメッセージが通知されるという。
視覚障害に役立つiPhoneアプリ
このほか、iPhoneアプリで便利なものの一つが、カメラで映した被写体の名前がわかる「Aipoly Vision」という。テキストの読み上げ機能などは有料。
視覚障害者にとって、食事のとき、口に入れるまでなにか分からないのは怖いことだ。このアプリを使うと、何があるかを読み上げてくれる。目の前のお皿に何が入っているかを確認するときに便利だという。
試しにMacBookを何度か撮影してみると、「ノートパソコン」「ノートパソコンあるいはエンベロープ(封筒)」と表示された。形から推測するものとしては、意外と正しい判断なのではないかと感じる。
今回は、主にセッションで紹介された機能やアプリの使い方を紹介してきたが、まださまざまな使い方があるという。Apple Watchは、主に通知ツールとして受け身で使用している人が多いかもしれない。しかし、実は使い方によっては生活をサポートする強力なツールとして利用できるのだ。
視覚障害者の方が語った「小さい世界でいろいろなことができ、iPhoneを子機のように使える。使ってみたらiPhone持つより人生変わるかな、というぐらい安全になった」と言葉が印象的だった。
2017年05月19日 CNET Japan