福祉を起点に新たな文化を創り出して知的障害者と社会をつなごうと、金ヶ崎町出身の双子の兄弟が花巻市で企画会社「ヘラルボニー」を設立した。知的障害者のアート作品をデザインした商品を開発したり、企業に障害者アートの活用を提案したりしている。目指すのは「障害を当たり前に話せる社会」だ。(藤吉恭子)
会社の設立は昨年7月で、弟の松田崇弥さん(27)が社長、兄の文登さん(27)が副社長を務める。社員6人とともに、東京と岩手を拠点に事業を展開している。
きっかけは一昨年、広告会社に勤めていた崇弥さんが中心になり、花巻市の「るんびにい美術館」で活動する知的障害者のアート作品をデザイン化したネクタイを企画・販売したことだ。品質と「かっこいい」にこだわった商品は、障害者福祉に共感する人だけでなく、ファッションに敏感な20~30歳代の若者にも選ばれ、可能性を感じた。「MUKU」のブランド名で傘やブックカバーなども展開し、今では商品は約20品目に増えた。
新会社はMUKUブランドを引き継ぐほか、工事現場の囲いを障害者アートで飾って期間限定の美術館にする「全日本仮囲いアートプロジェクト」を東京で始める。知的障害者のきょうだいがいる人が交流するコミュニティー「カタルボニー」も運営する。
構想では、スタッフに知的障害があることを事前に知らせ、宿泊者が「通常」とは異なる予想外の出来事も楽しめる「ソーシャルホテル」もあり、従来の障害者福祉とは違った視点の事業を次々に企画している。
2人の原動力になっているのが、自閉症の兄、翔太さん(30)の存在だ。「障害のある人と一緒にいることが当たり前だったが、中学生の頃、兄に対する周囲の様子を見て世間は違うと感じた」。大学を卒業して就職した後も、兄弟は「いつか福祉にかかわりたい」と思い続けてきた。
東京の広告会社に勤務していた崇弥さんが企画、県内の建設会社にいた文登さんが経営を担当。「双子の強みで、言葉なしでも互いの考えがわかる。ただ、なかなか意見を譲らず、本音でぶつかることも多い」という。社名は、翔太さんが7歳の時にノートに書いた言葉。調べても意味は分からなかったが、「それもおもしろさ」と選んだ。
MUKUの商品が昨年10月から花巻市のふるさと納税の返礼品に加わるなど、「小さな丸が次第に大きく変わりつつある」と手応えを感じる文登さん。崇弥さんも「障害者を理解するより、まずは握手してほしい。10年後に時代が追いつくようなモデルケースになりたい」と意気込んでいる。

新商品の試作品を手に「企画の力で福祉をおもしろくしたい」と話す松田文登さん(左)と弟の崇弥さん(昨年12月18日、金ヶ崎町で)
02/06 読売新聞