四半世紀にわたり、聴講生として大阪府立大(堺市)で学ぶ男性がいる。重度の身体障害者として、自立や社会参加について考えてきた。自らの思いや学んできたことを表現した物語が、周囲の支援で絵本になった。マイノリティー(少数者)を含めた誰もが幸せに暮らせる社会への思いがにじむ。
絵本のタイトルは「トマトちゃんとアボカドくんのであいのたび」。
体を支えられず、座ることもままならない重度の体幹機能障害がある日野博司さん(51)=堺市北区=が書いた。障害者年金を受けながら自宅で両親と3人で暮らし、大学のほかはデイサービスに通う。
「野菜なのか果物なのかわからない」と悩むトマト。「マヨネーズやわさびじょうゆで食べられるような子は果物じゃない」と仲間外れにされて泣いていたアボカド。2人が出会い、物語は始まる。
獣と鳥の間で苦しむコウモリ。飛べない鳥のダチョウ。そんな、さみしさや疎外感を抱えた「登場人物」が次々と加わり、誰もが幸せに暮らせる国を探し求める――。
■終わりのない訓練
ストーリーには、「自立」について向き合い続けた日野さんの半生が、色濃く投影されている。
障害がわかったのは生後6カ月の時。「自分で何でもできるようにならないと、生きていけない」。養護学校の高等部を卒業後、10代の終わりから20代半ばにかけて、障害者施設で障害の克服に明け暮れた。
歩けるようになるためのリハビリや、発語のためのトレーニング。朝の着替えから1時間汗だくになる。食事中も姿勢を保持しスプーンを使う訓練……。しかし、先が見えない日々に、体も心も疲れてしまった。
「子どものころから訓練を受けてきた。でも、終わりのない訓練だった」。障害を受け入れ、施設を退所した。
その翌年の1990年から、府立大で聴講を始めた。
講義で出会い、勇気づけられたのが「『依存』による積極的自立」という考え方だ。
自力で身の回りのことをするのに2時間かけるより介助を受けて15分で済ませ、意思決定して社会参加した方が、自立した人間らしい――。自らも四肢まひがあり、障害者支援の米国の先進地で学んだ故・定藤丈弘(さだとうたけひろ)さんの教えだった。
その考えに支えられ、日野さんは街に出かけ、大学で学び、学生たちと触れ合ってきた。社会問題や歴史、ジェンダーなど幅広く受講し、とりわけ児童虐待に関心を持ったことも創作につながった。右手の震えを左手で押さえながら人さし指で一つ一つパソコンのキーを押し、2年がかりで物語を完成させた。
絵本として世に出るようになったのは、一緒に学ぶ仲間の協力があったからだ。
車いすを押してもらってキャンパスを移動する日野博司さん。学生にとって「物知りで頼れる先輩」=堺市中区の大阪府立大、滝沢美穂子撮影 2015年10月21日 朝日新聞 |
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