詞書に、同じころ妻を失った藤原実資(小野宮右大臣)が、作者に「遣はし」た歌への「返し」とある。古事記以来、黄泉(よみ)の国へは地下道を通ることになっているが、「空の旅」と明言するのは珍しいのではないか。前に挙げた、野辺送りの煙からの連想と思われる。いずれにしても、この巻のどの歌からも哀切の情が、時空を超えてひしひしと伝わってくる。
現代詠の「みんな」は、残された男二人と空の女二人のつもり。
【略注】○ひとりにもあらぬ=(悲しいのは)あなた一人だけではない。
○なき人=(「たち」を補って)亡くなった妻たち。
○藤原為頼=雅正の子。弟為時の娘は紫式部。この一首だけ。