おい、お前、男だろう? それなら身分はさておいて、思い切って告白しろよ、と自分に言い聞かせている男。身分が低いとはいっても、「五位の摂政」などとあだ名される貴族。思いを寄せる女は、さらに高根の花か。
ひらかなy114:おとこなら おもいのうちを あけるのに
みぶんちがいが きになっている
ひらかなs1425:ひとならば おもふこころを いひてまし
よしやさこそは しづのをだまき
【略注】○いひてまし=言ってしまうだろうに。
○よしやさこそは=たとえこのように。
○しづのをだまき=「倭文(しず)の苧環(おだまき)」。倭文は古代布、倭文を作る
ための糸球が苧環。「賎(しず)」に掛ける。賎は、身分の低いこと・者を指す。補説
参照。
○藤原惟成(これしげ、これなり、両読み)=雅材の子。花山院の寵臣。出家して悟
妙。37歳で没。
【補説】倭文①「上代は<しつ>。唐から輸入された<綾(あや)>に対して、日本古来の織
物の名。こうぞ・麻などの繊維から作った横糸を青・赤などに染めて、乱れ模様に織り
あげたもの。」
②「奈良時代にはシツと清音。古代の織物の一。穀(かじ)・麻などの緯(よこいと)を
青・赤などで染め、乱れ模様に織ったもの。あやぬの。しずはた。しずぬの。倭文
織。」
苧環①「績(う)み麻(お)(=つむいだ麻糸)を、内側を空(から)にして球状に巻いた
もの。」
②「つむいだ麻糸を、中が空洞になるように円く巻きつけたもの。」
二項とも、①は旺文社版『古語辞典』、②は岩波版『広辞苑』。