東京の代々木公園4か所で採取した蚊から、9月4日にデング熱のウイルスが見つかり、とうとう公園の大部分が閉鎖されてしまったとのこと(YOMIURI ONLINE 朝日新聞DIGITAL など参照)。(東京都公園協会のお知らせ)
埼玉県の10代の女性が国内でデング熱に感染したと、厚生労働省が発表したのが8月27日。その後、代々木公園で蚊に刺されたことが判明、感染者数も次々増え9月4日までに12都道府県で計59人に上っています。
国内では70年近く、感染の報告がなかったというのに、何とも気になるニュース。
代々木公園。デング熱ウイルスはどのようにして侵入したのか…(フリー画像)
分からないことがいろいろありますね。
たとえば、海外でデング熱に感染した人が日本に来て(または帰って来て)、代々木公園で蚊に刺され、その蚊が今回たくさんの人を刺した… ということは考えられますが、では海外から来たその感染者は今どこにいるんでしょう? 病院に行っていたとしたら分かるはずなのに…
また、デングウイルスを持った蚊がたくさんいて、公園内の広範囲に生息している理由は? (おそらく採取された以外にもっと多くの“デングウイルス蚊”がいるはず。4日夜の民放ニュース番組では、その数10万匹!と見る専門家の談話を聞きました。)
感染者の中には、隣接する明治神宮で蚊に刺されたという人もいます。9月中は蚊が活動する時期ですから、感染の恐れのある区域が広がっていくと厄介。早急に、そして徹底的に駆除してほしいのですが、都の人は「他に昆虫もいるし、全域を消毒するわけにも… 1か月すれば蚊も生息することができなくなりますので、冷静に」と、まことに消極的。
◆東京だけに限らない可能性
このブログで蚊にこだわるのは、野の花や風景を撮りに行くさい、ヤブ蚊に悩まされているからです。以前山に登ったとき、防虫スプレーをまいたら、「そら、あかんやろ」という声が。生態系を壊してしまうではないか、ということですが、蚊に刺されるのはたまりません。
この時期、デング熱騒動のおかげで、ネイチャー写真を撮りに行く気がなくなってしまいました。
近く東京に行く予定もあります。早く収まってほしい…
昨年8月に日本を旅行したドイツ人女性が帰国後、デング熱にかかっていると診断され、今年始めにドイツ側から日本での感染の可能性について情報提供されました。実はこのケースが近年では一番最初の国内感染。ちょっと調べてみました。
厚生労働省の資料によると、このドイツ人女性の経緯は以下の通りです。
『日本(本州)旅行から帰国した生来健康な女性(51 歳)が、2013 年9 月9 日にドイ
ツ(ベルリン)の病院を受診。9 月3 日より、40 度の熱、嘔気、続いて、斑状丘疹状
皮疹が出現。入院9 日前に、2 週間の日本旅行(8 月19~31 日)から帰国。旅程は以
下のとおり。
8/19-21 長野県上田市
8/21-24 山梨県笛吹市
8/24-25 広島県
8/25-28 京都府
8/28-31 東京都
患者は、笛吹市において(ドイツ側の原文によると、笛吹市でのぶどう狩で)、複数個所、蚊に刺されたと申告している』
この女性は日本から帰国時、どこへも寄らず直行便で帰国しているので、日本での感染の可能性が大きいと見られています。結局、どこで感染したかは分かりませんでした。本人が「蚊にかまれた」という山梨県は、今回の代々木公園とは全く違う環境で、「デングウイルス蚊」がいるとは想像できない場所ですよね。
だから、ほかの地域で「デングウイルス蚊」に刺された可能性もあります。
デングウイルスを媒介するのは、熱帯では「ネッタイシマカ」ですが、日本国内では主に「ヒトスジシマカ」。地球温暖化でこの蚊の分布が北に広がっているという報告があります。
『地球温暖化に伴い、デング熱を媒介するヒトスジシマカの分布が北上中だ。1月には日本を旅行したドイツ人女性がデング熱にかかっていたと判明。日本で感染した疑いがあり、専門家は今後、同様の報告例が増えるのではないかと警戒する。 国立感染症研究所の小林睦生名誉所員は、2000年の現地調査で宮城県のほぼ全域や秋田県の一部で分布を確認。その後、盛岡市にも分布が拡大しているのを見つけた。今世紀末には北海道に及ぶとみられる。』(47NEWS)
◆媒介蚊の撲滅作戦
デング熱が猛威をふるっている中南米、東南アジアで、ウイルスを媒介する蚊を撲滅しようという研究も進んでいます。
たまたま、ホコリをかぶっていた日経サイエンス2012年2月号に「遺伝子組み換え蚊でデング熱を撲滅」という見出しを見てびっくり、読み直してみたところ、
『デング熱を媒介するネッタイシマカを駆逐するため、子孫を死滅させる遺伝子を持つ蚊が作られた。一部で野外放出試験も始まっている』
という内容。
メキシコで行われた試験では、ネッタイシマカのメスの飛翔筋を破壊する遺伝子を組み込んだ蚊を培養し成虫を放つと、交配により、飛べなくなって血を吸えない(栄養をとれない)メスが増え、やがて蚊の集団が全滅するというもの。実際にめざましい効果が表れたとのこと。
ところが、遺伝子組み換え生物を放出することについて、環境保護団体の反対が強く、進んではいないようです。
とりわけ、こういう計画があれば叩くのがマスコミの常。過去にインドでは誤解された報道をきっかけにトラブルになり、WHOが蚊の減少計画を断念したことがあったとも書かれています。(筆者は米のサイエンスライター、Bijal P.Trivedi)
難しい問題ですね。
ただ、デング熱に2回かかると、「デング出血熱」にかかる可能性が高く、致死率もはるかに高くなるそうですから、安閑としておれません。こういうことについて、行政や学会は「いたずらに不安をあおる」ことを恐れず、きっちり国民に説明する必要があるでしょう。
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