オリンピックで、報道カメラマンがどのメーカーのカメラを使うかは業界と写真愛好家の大きな関心の的。ロンドン五輪ではどういう情勢になっているのでしょうか。
◇朝日の記事から
開幕前の7月21日付け朝日新聞朝刊経済面(電子版も)で、「キヤノンvsニコン」を取りあげた記事が出たのをはじめ、ネットでも関心が集まっています。
記事によると、
『プロ用の機種の売り上げが全体に占める割合はごくわずか。だが「プロに評価されれば、消費者にも選ばれやすくなる」(ニコンの田中秀彦マネジャー)だけに、五輪での「勝敗」が事業全体に与える影響は大きい。』
とあります。
これはそうだと思いますね。とくに、写真が売れるかどうかに生活がかかっているフリーの写真家や、歴戦のつわもの揃いの海外通信社系カメラマンは、機材の選択にシビアなはず。だから、彼らが選んだカメラこそ「現時点では最高の報道用カメラ」ということになります。そうすると、一般の人も、「そうか、やはり○○○製カメラがいいのか…」となって、○○○製のカメラがプロ用、入門用を問わず全般的に売れる… これはカメラメーカーにとって大きい。
朝日の記事は、報道現場がニコン全盛だったころの、フイルム時代の事情には触れず、『かつてはキヤノン優位が続いたが、前回の北京五輪ではニコンが肉薄。』という流れで書いています。
そして『今大会に向け、ニコンは暗いところでも高速で連写できる新機種「D4」を投入。キヤノンは動くものにピントを合わせ続ける力を高めた「EOS-1DX」で対抗する。』と結んでいます。
新機種のスペックについては、個人的に「キヤノンの高感度性能は良いわけだし、そんな風に決めつけてしまっていいのかな」と首をひねる記事ではありますが…
◇那和秀峻さんのブログでは
報道現場におけるキヤノンとニコンの対決の歴史については、写真家・ライターの那和秀峻さんのブログ「徒然なるままに---ロンドン五輪でのニコン・キヤノンの宿命対決」が詳しい。
それによると、『ニコンFは新聞社、雑誌社、通信社の標準装備カメラであり、1964年の東京オリンピック以来、ニコンFがずっと王座に君臨してきた。』わけですが、
『湾岸戦争の取材時にニコンF4が砂漠の細かい砂で作動不良を起こしたが、キヤノンEOS-1はそういうトラブルが少なかったことで、両者の使用比率が逆転した。』とのこと。
これは知らなかったですね。
デジタルになると『(ニコンは)デジタル一眼レフのニコンD1でふたたび優位に立った。しかし、キヤノンは高速連写と大きめのAPS-Hセンサーで高感度ノイズを少なくしたEOS-1Dを投入し、このシリーズをアップデートしていくことで優位に立った。一時はオリンピックや世界陸上などのビッグイベントでキヤノン7対ニコン3という差になったと言われている。しかし、ニコンは35ミリ判で高速連写と高感度特性も大幅に向上させたニコンD3を2007年に発売し、2008年の北京五輪ではキヤノン6対ニコン4と追い上げてきた。』
さすが報道出身の那和さん。明快な解説です。
◇「白と黒」個人的な感想
某新聞社での経験(写真部ではありません)から言うと、たぶんEOS-1Dのころだと思いますが、新聞社がカメラ・レンズをそれまでのニコンからキヤノンに変えていった時代がありました。新聞社が持っている過去のレンズ資産は膨大なもので、それを別のマウントのレンズに置き換えるのは大変なこと。それだけデジタルでの画質が「見てよ、分かるでしょ。全然違う」――キヤノンの方が圧倒的に良かったのです。
このころのオリンピックで報道カメラ席を写した写真を見ると、軒並みキヤノンの白レンズで、ニコンの黒レンズはチラホラ。中にはニコン製ではなさそうな古い感じの黒レンズも(ライカ?)。
デジタルならキヤノン、という印象。それがしばらくして「キヤノンが絶対いいというわけでもなさそう。ニコンもだいぶ良くなってきたらしい。ニコンに戻し始める動き(同業他社)も出てきた」という話に。そして北京五輪ではキヤノン6対ニコン4という比率になって現れます(個人的に見た感じでは5分5分でしたが)。
ゆうべ、日本初の金メダルを獲得した女子柔道の試合を見ながら、報道席のレンズの色もチェックしていました。
柔道の試合会場の照明はあまり明るくないですね。速いシャッタースピードに加え、暗所でもノイズの少ない写真が撮れる… こういう厳しい条件で選ばれたのはどちらのカメラ・レンズか…
おや黒レンズのほうが多いかな? いやいや、やっぱり白レンズもある。フ~ム、決めかねます。
酔いも手伝って、数をかぞえ切れず、よくわかりませんでした(何のこっちゃ)。
なんとなくニコンの方に勢いは感じましたが… そのうち「対決」の結果を判定する記事が出るでしょう。