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横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

上行大動脈の拡大

2019-12-17 16:12:32 | 大動脈疾患
 上行大動脈の拡大で心臓血管外科に紹介される患者さん、少なくありません。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では上行大動脈が4cmを超えている場合は定期的なフォローアップの対象としています。主にCTでサイズのフォローアップをしていますが、他に心エコーで大動脈弁逆流がないかも同時にチェックしています。

 上行大動脈の拡大している人ではさらに拡大して手術が必要な胸部大動脈瘤にまで進展する可能性や、大動脈解離発症のリスクがあると考えられます。特に喫煙している人や高血圧、高脂血症を合併している人、大動脈疾患や突然死の家族歴のある患者さんは要注意と考えます。

 フォローアップの期間は、最初は年一回程度のCTでフォローアップですが数年変化がない患者さんは二年に一回程度としています。
 フォローアップと同時に禁煙や、他の生活習慣病のチェック・指導もしているため実際はフォローアップ中に大動脈解離を起こした患者さんは経験していませんが、拡大が進行して人工血管置換+大動脈弁置換術を実施した患者さんは少なからずいます。

 大動脈解離や大動脈瘤の家族歴のある患者さんにもスクリーニング的にCTを撮影し、大動脈の拡大がないかをチェックしています。親子や兄弟で手術した患者さんも少なくなく、一家で三人手術した家族もあります。また、三人兄弟で三人とも大動脈瘤破裂を起こしており、三人目でようやく救命された患者さんという事例も複数経験しています。
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抗凝固療法中のステントグラフト内挿術

2019-12-07 22:06:48 | 大動脈疾患
 ステントグラフト内挿術においては、ステントグラフトと瘤壁の間のスペースは通常、血栓化してしまうことが多いのですが、抗凝固療法中は血栓ができにくくなるので、その分、Type IIのエンドリークのリスクが上がると考えられます。ステントグラフト自体が約10%に何らかの追加処置が必要になりますが、その頻度が上昇すると考えられます。
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超高齢者の大動脈瘤のフォローアップ

2019-11-12 22:54:49 | 大動脈疾患
 高齢だから、という理由で大動脈瘤があっても手術しない、ということが決まっていても、最終的に大動脈瘤が破裂したら苦痛のため救急車を呼んで病院へ搬送されます。搬送された病院では救急医などが最善の治療をして救命しようとする努力が注ぎ込まれ、心臓血管外科医も招集します。その場になると何とか助けてほしい、と希望される患者さんやご家族が多い為、結局緊急手術となることが少なくありません。
 破裂性大動脈瘤の手術は時間もかかるし術後の合併症も多く発生し入院期間も長くなります。どうせ手術するなら破裂する前に、ということが患者さんご本人にとっても納得いくものと思います。

 その意味で小さめの動脈瘤で手術するまでの大きさでない場合も高齢者でも本当に拡大してくるようであれば手術を検討するので通院可能な患者さんには定期的に検査をしております。100歳以上の患者さんでフォローアップしてる患者さんもいますし、90代で他の病院では手術しないと判断された患者さんでも横須賀市立うわまち病院では、定期的に検査し、拡大傾向があれば手術も検討し、実際に手術を受ける患者さんもいます。

 90歳以上で手術した患者さんの成績がいいのは元気で選ばれた患者さんを治療しているからではないかと思われます。
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脊髄栄養動脈を閉塞する可能性のある大動脈手術における脊髄虚血予防対策③

2019-10-22 06:22:42 | 大動脈疾患
外科手術を実際に行う場合の具体的は脊髄虚血の予防対策として

① AKAの同定 造影CTやMRIで部位を同定しておけばどこを再建する、注意するか、または手順などを事前に検討することができます。

② 椎骨動脈、内腸骨動脈の血流支配の確認 こちらも造影CTやMRIで確認が必要です。特に椎骨動脈は左右差があることが多いのでどちらかの鎖骨下動脈を閉塞する手技を行う場合は注意が必要です。

③ 冷却  脳循環停止や頸動脈再建を伴う弓部大動脈手術の脳保護のように、冷却することで脊髄虚血のダメージを小さくすることができます。より低体温の方が有効性が高いのですが、その手術を脳循環停止を伴うような超低体温(20℃以下)とするのか、25℃程度の低体温とするのかは議論の余地がありますが、これらの低体温とするには心停止を伴うため、上半身の循環補助も考慮する必要もあります。心拍動下に下半身の循環遮断する場合は34~35℃くらいまでしか冷却することができないので、この範囲での対策となります。

④ 鎖骨下動脈の拍動血流維持したままの手術 十分な冷却はできませんが、鎖骨下動脈の拍動血流維持のままの手術は、椎骨動脈経由の前脊髄動脈への血流を維持したままの手術が可能です。この場合は冷却をあまりしないので、止血能が良いことが多く、多量の出血が脊髄虚血の一因と言われているので、こうした多量出血を予防できます。また、ステントグラフト留置は、心拍動下での手術である為、椎骨動脈血流を維持しながらの手術となり、このため人工血管置換術よりも対麻痺の発生頻度が低いと言われています。

⑤ 術中の血圧維持、貧血予防: 低血圧、貧血がより脊髄虚血を助長すると言われ、これを予防するような管理が重要です。MEPに異常が検出されたときに低血圧、貧血を改善することで虚血が改善したという報告もあります。ヘモグロビン値で10g/dl以上、平均血圧80mmHg以上を維持するように麻酔管理、術後管理します。

⑥ 大動脈解放時の肋間動脈の(一時的)閉塞による側副血行圧低下の防止:AKA血流はネットワーク支配されていると言われ、大動脈を解放して血圧が低下したところで、肋間動脈から大量のバックフローがあるとAKAに向かう血流を盗血(スティール)してしまうため、大動脈解放と同時に肋間動脈をA-Shield catheterで一時的に閉塞するか、結紮閉塞させることでAKAに向かう血流圧を低下させずに済みます。

⑦ 肋間動脈再建:同定されたAKAに繋がる肋間動脈に人工血管を縫着し、そこから分枝血流送血して脊髄血流を維持します。大動脈解放後にMEPが消失した症例で、肋間動脈再建して血流再開したところMEPが復活した経験を聞いたことがあります。

⑧ 血流改善が期待できる薬剤を使用:血圧を上昇させるための昇圧剤、輸液。有効性は不明ですがプロスタグランジンE1(PGE1)が脊髄血流を改善する可能性があります(この血流改善作用が脊柱管狭窄症の症状改善作用のメカニズムと言われています)。

⑨ 脊髄ドレナージ:虚血に伴う浮腫が原因で脊髄内圧の上昇を防止して、この圧上昇がさらに虚血を悪化させることを防止するために、閉鎖空間である脊髄腔から圧を逃がすためのドレナージチューブを留置して、脊髄腔圧を8~15cmH2O以下にして虚血の悪化を防止することが期待されます。

⑩ ナロキソン: 機序はしりませんが、脊髄腔圧を低下させることで効果があると言われています。

⑪ ステロイド: 脊髄浮腫の悪化防止に期待できる可能性があります。

⑫ 術中の内腸骨動脈の血流維持: 大腿動脈からの送血をしながら内腸骨動脈の血流維持をすることで、内腸骨動脈経由の脊髄血流を維持したまま手術することで脊髄血流が低下することを防止します。

これらの方策を駆使しても完全には予防できないかもしれませんが、外科医としてはこれらを十分考慮、準備して手術に向かわなければなりません。
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脊髄栄養動脈を閉塞する可能性のある大動脈手術における脊髄虚血予防対策②

2019-10-22 06:11:11 | 大動脈疾患
 脊髄虚血の診断は、一番はその症状で、上肢は動くのに下肢が動かない対麻痺を診た場合は最初に疑います。しかし、一度発生した対麻痺は回復する症例もありますが、そのまま後遺症として残ってしまう可能性も高い為、発生を未然に防ぐか、早期に検出して出来るだけ後遺症を軽くするための治療を早期に開始する必要があります。

 症状出現前に検出可能な最も鋭敏な検査モダリティとしては、MEP(運動誘発電位)です。脊髄虚血は主に脊髄の前側である運動領域が障害を受けるため、後ろ側の感覚領域の異常を検出するSEP(感覚誘発電位)よりもMEPのほうが脊髄虚血に関与すると言われます。下肢筋肉を電気刺激しそれで誘発された脳波の反応を検出するものです。脊髄虚血が起こると、このMEPが検出されなくなるため、虚血が起こった瞬間を診断して対策することができます。

 術中にMEPに異常が検出され、原因となる肋間動脈の血行再建したり血流遮断を解除したらMEPが正常化し、脊髄虚血による対麻痺を回避できたという報告もあります。
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脊髄栄養動脈を閉塞する可能性のある大動脈手術における脊髄虚血予防対策①

2019-10-22 05:36:19 | 大動脈疾患
 脊髄の血流支配は、複数の栄養動脈から行われていると聞いています。
 教科書的なのは、Adamskievics動脈(アダムキーヴィッツ動脈 以下、AKA)という、一般に第8~11胸椎レベルから8割分岐すると言われる肋間動脈から分岐して椎体内に向かう動脈です。この部分だけ肋間動脈だけ太いので、大根動脈という異名もあります。このAKAを閉塞すると、脊髄の前側を主に栄養するため、運動領域が主に虚血になり、運動脈を起こします。胸椎レベルでの運動領域の脊髄梗塞は下半身の麻痺を意味し、両下肢が動かなくなる「対麻痺」を後遺症として残します。脳梗塞の場合は、椎体交叉を通じて反対側の上肢と下肢の半身が麻痺する片麻痺(半身不随とも一般に言われます)を呈するのに対して、一般には交通事故などで脊椎麻痺を起こしたときに対麻痺は見られ、その後の生活は車いすでの移動が必要になる生活です。患者さんとしても非常につらい生活を強いられますし、心臓血管外科医としても非常につらい合併症です。
 胸腹部大動脈置換術においては2-5%の術後発生率で、胸部大動脈置換や下行大動脈置換術でも発生の可能性が1%ほどあると言われています。このつらい合併症を予防するためにはどのような対策があるのか。外科医はこの予防のための最大限の努力をする必要があります。

 脊髄の血流支配はAKA1本だけではなく、多重支配であると最近は言われており、その一本だけ閉塞したからといって必ずしも対麻痺が発生するとは限りません。周辺の肋間動脈がAKAとネットワークを形成しており、その周辺を広範囲に閉塞した場合により発生しやすいくなり、またAKAのような脊髄に到達する動脈は複数本ある場合もあります。よって広範囲に肋間動脈や腰動脈を閉塞した場合に発生しやすくなります。急性大動脈解離の場合で、肋間動脈や腰動脈が広範囲に偽腔から分岐し、偽腔が血栓閉塞したり血流が低下した状態には発生しやすくなります。また、腹部大動脈置換術後に胸部の大血管手術を行う、またはその逆の場合は発生頻度が高まります。例えば、下行大動脈にステントグラフト留置術を実施後に、胸腹部大動脈置換術を施され、その間の正常部分からAKAが分岐している場合に、この正常部分が瘤化したり解離して拡大した場合には最も脊髄虚血が起こりやすい肋間動脈閉塞を起こす手術をしなければなりません。こうした患者さんの手術をする場合にいかに脊髄虚血の発生頻度を極力低下させるのか、非常に議論のあるところです。

 また、脊髄の栄養支配は肋間動脈系だけでなく、鎖骨下動脈から分岐する椎骨動脈の枝である前脊髄動脈から栄養される分、または内腸骨動脈の分枝で骨盤内を栄養する枝から精髄内へ向かう枝なども関係すると言われ、これらがあるために肋間動脈をすべて閉塞しても必ずしも対麻痺が発生していないのはこのためと言われています。前述のステントグラフト留置後で肋間動脈が閉塞した症例や胸腹部大動脈置換後で肋間動脈や腰動脈を広範囲に閉塞している症例に追加の大動脈手術をする場合に特に発生しやすい為、十分な対策を検討する必要があります。

②へ続く
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人工血管には弁はついていないんですか?

2019-09-08 04:57:40 | 大動脈疾患
 大動脈疾患の講演のあとのフロアからの質問で、「人工血管には逆流防止弁はついていないんですか?」、こんな質問をいただきました。
 今まで考えたこともなかったので、はっとさせられる質問でした。

 そもそも人工血管は動脈のかわりとして使用するため、逆流防止弁はついていません。これは静脈には逆流防止弁がついているのに、動脈には逆流防止弁がついていないのと同じです。
 動脈の場合の血流が順行性に流れる仕組みとしては、収縮期は心臓の圧が直接伝わって順行性にながれ、拡張期は大動脈弁が閉鎖して逆流防止になるのと同時に弾性動脈の反射波で順行性に流れます。この流れの向き・パターンは、動脈の位置によってなかり異なります。大動脈弁に近い大動脈では、順行性の向きのみですが、末梢動脈になると、三相性になったりします。

 一方、静脈ではこうした心臓の収縮圧が流れに関与することはなく、心臓の吸引圧と筋肉の収縮による絞り出し効果などで心臓に向かって進んでいくため、重力に逆らって血液が心臓に帰るためには逆流防止弁が必要になります。
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左開胸手術時の循環虚脱に対する対応(Beatingで行う下行大動脈置換術)=心尖部送血

2019-09-03 05:06:14 | 大動脈疾患
 下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤手術において、下半身の部分体外循環で下半身の循環を維持しながら、上半身は自己の心臓・肺による通常の循環下で実施されることが多いと思います。この場合は常温で行われるため、上半身への循環補助ルートを特に用意しないで行うことが多いのですが、確実に中枢側の遮断、吻合が出来ることが条件です。
 この左開胸で実施する手術する際に、上半身への送血ルートは、右腋窩動脈への人工血管の縫着かカニュレーションによって行われることが多いのですが、出血や呼吸トラブルなどで急に必要になった場合はどうするのか?急いで右腋窩動脈を露出して、そこからカニュレーションするのに、何分かかるでしょうか?10分以上かかってしまい、緊急時には間に合いません。また弓部大動脈や上行大動脈へのアクセスは通常は視野が胸骨の裏に入っていて困難です。もしALPSアプローチで行っていたのなら可能ですが、下行、胸腹部大動脈手術の場合は、下行大動脈以下の処置の為、行いません。
 ここで一番確実なのは、やはり心尖部送血です。同一視野から簡単な手技で送血管を留置可能です。下行大動脈置換術の時に中枢側の遮断部位が裂けて出血した、大動脈解離を発生した、などで循環停止で中枢側吻合を行ったり、上行~弓部置換術へ突然のConversionを行う際に、急に上半身への送血ルートを確保し、冷却して循環停止下に処置をする必要が出てきます。こうした場合に、短時間で確実な送血ルートの確保は生命の維持に必須となります。
 しかし、心尖部送血を行うにも注意すべき点がいくつかあります。確実に先端を上行大動脈に留置するために、経食道エコーで先端位置を確認する。カニューレをガイドワイヤーを使用したタイプで確実に上行大動脈へ先端を誘導すること。これにより左房送血や心室中隔穿孔を防ぐことができます。緊急の場合ほど、こうした手技はブラインド操作で行わず、経食道エコーでの観察したに確実に行うべきです。

 筆者は下行大動脈置換術で遠位弓部大動脈に中枢側遮断を行う症例で、遮断が不十分なために遮断鉗子の位置を少しずらしてかけなおした際に、大動脈壁が断裂して大量出血した症例を経験したことがあります。遮断鉗子をかけなおす手技を実施した時点ですでに大動脈瘤は大きく切開して、肋間動脈の止血を行おうとした時点でしたので、事すでに遅しで、そこからの体制を立て直すのが困難でした。なんとか、新しい遮断鉗子を出して、その中枢側に遮断して出血がコントロール出来ている間に上半身への送血ルートを確保しないといけない場面で、心尖部送血を行い、冷却して循環停止下に中枢側吻合をすることでその場をしのぎました。低体温、循環停止下の吻合主義の為、心停止、脳循環停止によるリスクが上昇した手術となりました。

 この事例では二つの検討すべき点があります。一つは遮断部位で大動脈壁が断裂すること自体、非常にまれなことですが、これは遮断鉗子をかけなおす手技を行ったことが原因で、ラバー付きの鉗子のラバーがずれて鉗子の金属が直接大動脈壁にあたっていたことが断裂の原因であったことです。最初から遮断が不十分にならないような遮断の仕方を行うことで一回の遮断手技で中枢側吻合を行うべきであったと思います。そのためには周囲組織の十分な剥離と露出が必要でした。周囲には反回神経や迷走神経、動脈靭帯なども剥離が困難であったとはいえ、剥離範囲を大きくすることが安全な遮断に繋がると思います。
 もう一点は万が一に備えてあらかじめ上半身への送血ルートを確保しておくかどうか、ということになります。非常にそうした可能性がたかい、また必要性が不確定な場合は腋窩動脈送血できるように血管を露出、テーピングしておくなどしてもいいと思います。心尖部送血に慣れている施設であれば、この症例のようにいざというときは心尖部送血、という手順がスムーズにいければ問題ないと思います。心尖部送血が経験ない施設、外科医にとっては日ごろからシミュレーションしておくか、腋窩動脈をあらかじめ露出させておくしかないと思います。

 また、常温・心拍動下の手術でも必ず送血路を確保して、上半身の循環も循環補助しながら行う、という考えもありますが、これ自体が過大侵襲な手術といえます。習熟された施設では、非常時の対処がしっかりできるのであれば、より低侵襲な方法を選択すべきであると思われます。
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心臓に繋がる太い動脈が左手の薬指に通っている?

2019-08-31 07:48:05 | 大動脈疾患
古代のローマ人は、心臓に繋がる太い動脈が左手の薬指に通っていると信じられていて、その大事な左手の薬指に大事ね指輪をつけた。これが、結婚指輪や婚約指輪を左手の薬指につけ始めたりゆうだそうです。それで、最初に婚約指輪をつけたことで有名なのは、クレオパトラだとか。その当時はダイヤモンドではなかったようです。ダイヤモンドが宝石として珍重されるようになったのは16世紀のヨーロッパで、研磨技術の発達と、大航海時代の始まりがきっかけ。日本でダイヤモンドが一般化するようになったのは、そこからかなり遅れて筆者の生まれた1960年代だそうです。
心臓に繋がる太い動脈、これ、まさに、ザ*大動脈ですよね。指に大動脈があるローマ人、どんなからだしていたんでしょうか?指に大動脈瘤ができたり、大動脈解離ができたら、外科医としては初心者レベルの手術になりそうです。現代の社会事情のように、再建しなくていい、という条件ならですが。
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血管吻合は解ける糸で縫うんですか?

2019-08-05 04:11:37 | 大動脈疾患
 大動脈瘤の手術を受ける患者さんのご家族の質問です。
「血管を縫うのは溶ける糸で縫うんですか?」

 たいへんいい質問です!
 血管吻合は、吻合した後に圧がかかる場所でもあるので、糸が解けた後に吻合が外れてしまっては困ります。よって、正解は解けない糸で縫います。実際にはポリプロピレンのモノフィラメント糸(一本の繊維でできた糸)、または複数の細いポリエステル糸を寄り糸にして出来たものなどを使います。これらの素材は生体内では変化しないので、何十年経過してもその吻合部にとどまります。これらの糸の素材は生体内で全く変化しないのが特徴で、外もありません。人工血管の場合は時間が経過すると自己組織が入り込んでいって一体化し、あとで吻合部が外れたりしないような構造になっていきます。

 昔、刑事コロンボという映画で、冠動脈バイパス術の際に、故意に短期間で解けてしまう糸で吻合して術後に吻合部が外れて突然死させる、という殺人事件をテーマにしたものがありました。今から思うと、すごいストーリーです。


 「じゃあ、抜糸はいらないんですね!」と言われ、「その通りです!」とお答えしましたが、一度人工血管を腹部大動脈に吻合し、その後しばらくして、吻合に使用した糸を抜糸するって頼まれても不可能です!!
 一方、皮膚や腹壁を縫合する場合は、溶ける糸=吸収糸を使っています。ですので、手術創に関しても抜糸は必要ありません。最近は抗菌性のある吸収糸を使用することが多くなっています。
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大動脈解離における送血部位と働き方改革

2019-07-29 07:41:40 | 大動脈疾患
大動脈解離における送血部位は、
①大腿動脈、②腋窩動脈、③上行大動脈、④心尖部 と主に4つの部位があります。
横須賀市立うわまち病院では①安全で確実、②より速く人工心肺が開始できる、③創部の数を少なくする、④手技が簡便という観点から選別している関係上、選択の頻度は
①上行大動脈送血、②大腿動脈、③心尖部送血、④腋窩動脈送血の順です。

世間では、腋窩動脈からの送血が最も安全ではないか、として第一選択している施設もありますが、術前の慎重なCT評価を行うことで、どの方法も安全、確実な選択として採用可能と考えます。腋窩動脈には人工血管を縫着するため、20-30分人工心肺開始まで長く時間がかかります。夜間の緊急手術が多い大動脈解離の手術としては、より短時間で人工心肺を開始して、より短時間に手術を終えることができる方法を選択するということを考えると、腋窩動脈は最終選択になります。また、同じ理由で確実に救命できる方法を第一選択するということを考慮すると、置換範囲を出来るだけ小さくすることが理に適っており、弓部大動脈置換や大動脈基部置換を極力行わず、出来るだけ上行大動脈置換術にとどめることが重要です。
 このことが結果的に限られた病院のリソースを有効に利用し、働き改革にも貢献する方法であると考えられます。
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腹部大動脈瘤に対する治療:ステントか、人工血管置換術か

2019-07-02 18:50:11 | 大動脈疾患
 腹部大動脈瘤に関する外科治療は現在、ステントグラフトか、もしくは従来の人工血管置換術か、どちらがいいのでしょうか?患者さんも悩むようで、どちらにすべきか、質問されることがあります。

 もちろん、患者さんによってそれは違うので、その診察をしている専門医の意見や適応について個別に相談することと思います。
 ステントグラフトは低侵襲なので、小さい傷ですむことから、侵襲に耐えられない患者さんにとっては、まさに福音といえます。呼吸機能が悪い、心機能が悪いなどの理由で全身麻酔に耐えられない、または開腹手術の既往があり、特に人工肛門が増設されているなど通常の開腹による人工血管置換術が困難、こうした患者さんはステントグラフト治療を最初に考える症例です。こうしたステントグラフト手術の出現により、今まで手術できない、もしくは非常にリスクが高い、と考えられてきた患者さんが手術可能となってきた、その分、手術対象となる患者さんの数が増えて、また手術に対するステントグラフト手術の頻度が増加しているのが現状だと思います。

 さて、一方、従来の開腹による人工血管置換術は、ステントグラフト手術が増加する分は減少しているともいえます。人工血管置換術のほうは、特徴といえば、確実であり、再発が少ないということでしょうか。一方で、ステントグラフト手術の場合は、手術そのものは低侵襲である一方、経年の大動脈壁の変化によってずれてマイグレーションしたり屈曲したりという変化が起こる可能性や、エンドリークによって瘤の縮小がみられない、といった不確実性が残ります。また血管損傷などの特有のリスクもあります。

 では、どちらを選択するのが正しいのか、これは患者さんがネットで検索しても答えが書いていないのが現実です。というのも、ネットの情報は偏っているため、というのが正直なところだからです。多くの民間の施設から出されているネットの情報は、コマーシャルであり、患者を呼び集めるための道具ですので、初めから正しい情報であるとは限りません。また、検索する患者さんの方でも、自分が欲しいというか、信じたい情報のほうばかりを検索する傾向にあり、信じたくない情報は無視してしまうように検索されるし、選択もされないため、情報が偏ってしまうからです。
 中立的な立場の学会や公共の情報ソースを比較することが比較的正しい情報が得られることになりますが、実際はその患者さんによってどちらが正しいのかは異なるため、患者さんの正しい情報をもっている専門医に中立の立場で判断してもらうことが最も正しいと言えると思います。

 横須賀市立うわまち病院では、ステントグラフト手術はハイリスクの症例を主に対象に、一方、80歳未満で特にリスクが少ない患者さんは、より確実な人工血管置換術を、というのが妥当かと思っています。あとは解剖学的な瘤の形態がステントグラフトが確実に成功するものかどうかも重要と考えています。
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急性大動脈解離におけるオープンステントのサイジング = 真腔の長径

2019-06-12 05:01:17 | 大動脈疾患


急性大動脈解離の緊急手術において、横須賀市立うわまち病院では救命を優先するために、過大侵襲は行わず出来るだけ短時間に手術が終わるような工夫を最大限行っています。これは大動脈解離を発生させる原因となった最初の大動脈内膜の裂け目(エントリー)を切除する範囲で人工血管置換することで、置換範囲を最小限にすることでもあります。横須賀市立うわまち病院を含む自治医大さいたま医療センター心臓血管外科のグループでは一貫してそうした手術方針を行うことで、国内でもトップクラスの救命率を保ってきました。すなわち、エントリー切除が出来るならば弓部分枝を再建せずに上行大動脈置換で手術を終える、ということです。当グループでは約8割の患者さんで、急性大動脈解離に対する術式を上行大動脈置換術としています。昔は上行大動脈置換術と言っても5時間以上を要するのが普通でしたが、最近では人工血管の進歩、ノウハウの蓄積などで、平均の手術時間は3時間ちょっととなり、昔の半分で済む、ちょっとした手術といえるようになってきました。

施設によっては特に若い患者さんには全例、弓部大動脈置換術を行う、という積極的に拡大手術を行うところもあります。結果的に救命率には有意差はない、ということで、後々の憂いをなくすことに重きをおいて弓部置換を行っているところもあります。これだと、やはり5時間くらいは速くてもかかってしまいますし、今週の緊急手術は7時間弱かかり、翌日のスタッフへのダメージが大きいものとなります。

出来るだけ上行大動脈置換の術式を採用して、3時間で手術を終え、早くあがりたい、こんな風な心理で緊急手術に臨むことが多いのですが、エントリーが弓部にあったりして、弓部置換を行わざるを得ない症例もあります。こうした症例の多くは最近は遠位側の真腔にFrozen Elepahnt trunk(オープンステント)を入れることが多くなっています。
オープンステントを入れる際のサイジング、これはステントが入るDistal Endの真腔の長径のサイズを選択しています。長さは基本的に60mmと短くすることで、対麻痺のリスクを少しでも少なくしたいと考えています。最近は60mmの長さでは、角度的にオープンステントが内膜を押して新たなエントリーを作ってしまうSINE(サイン = Stentgraft Induced New Entry)という現象が起こるリスクがあるので、90mmを採用するところもある、と聞いていますが、やはり少しでも短い方が気持ち的に安心です。
ステントグラフトの内径に関しては、他に、短径と長径の平均の1割増し、だとか、トレースした内膜の円周を3で割ったもの、などを採用する施設もあるようですが、結果的にはほぼ同じ数値になるそうで、最もシンプルな長径とすることで、緊急手術中の無駄な混乱を防ぐ目的ともしています。
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楽器(Saxophone)を演奏する患者さんに腹部大動脈瘤が見つかったら?

2019-06-04 21:59:45 | 大動脈疾患
 外来でお会いした患者さん、腹部大動脈瘤が見つかったということで紹介されてきました。
 その患者さんは吹奏楽を演奏する趣味をお持ちで、それが生きがいだそうです。腹部大動脈瘤を手術すると、術後に腹圧がかけれなくなって演奏ができなくなるのではないか、と不安だそうです。その演奏にはかなり腹圧を必要とするらしく、手術をしたために演奏ができなくなるのでは、もう生きている意味がないのでたとえ大動脈瘤が破裂しても手術は受けたくない、そうおっしゃいました。

 サックスなどの吹奏楽器を演奏するのに、そんなに腹圧をかけて音を出しているんですね。しかしながら、それだけ腹圧をかけて演奏することをしている時こそ、腹部大動脈瘤が破裂する危険が出てくる、そうも考えられます。
 年齢が若い場合はやはり長期的に不安のあるステントグラフトよりは確実な人工血管置換術が望ましいのですが、それによって腹部正中切開の手術痕が残っても、普通通りの腹圧をかけたりは全く問題ありません。よって破裂の危険を冒して演奏するよりは、手術で大動脈瘤を早急に治してしまって、そのあと好きなだけ演奏をすればいいのではないでほうか。そういう説明をしたところ、納得され早急に手術の方向で準備をすることになりました。

 確かに大動脈瘤は通常破裂さえしなければ症状はありません。しかし、予防的に治療する意義の大きい病気であります。
 病気ってなんでもそうですが、早く治す方が治しやすい、安全に治療できる、などメリットが大きいと思います。
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腹部大動脈瘤手術における腎動脈再建

2019-03-27 23:13:33 | 大動脈疾患
腹部大動脈瘤手術においては腎動脈との位置関係が重要で、腎動脈にかかる腹部大動脈瘤の場合は難易度もあがり、またその手術戦略の検討は重要になります。

まずは腎動脈の上で遮断するかどうか、腎動脈の血流を一時的に遮断するかどうか、という問題があります。

一時的に遮断を腎動脈上でおいて、腎動脈下で人工血管と吻合する場合は、遮断中の時間が腎虚血の時間であり、可能であれば冷却した生理食塩水か乳酸加リンゲルなどを還流することで腎保護をはかるというのが一般的です。

しかしながら、腎動脈を再建する場合は、人工血管の中枢側吻合をおき、そのあと、腎動脈の血流再建を行う必要があり、単なる冷却水の還流だけでは不十分です。その間の約1時間前後の間、腎臓の保護を目的とした腎還流が必要になります。

腎血流の維持目的の還流の方法は
①腋窩動脈に人工血管を縫着し、その血流を導いて腎動脈に直接還流する方法。自己の血流を使うため、ポンプなどの装置不要という意味で低コスト。人工血管を縫着せずとも、送血管などのカニュレーションを行い、そこから脱血するという方法もあります。

②PCPSまたは人工心肺 : 代替静脈経由右房脱血 ⇒ FA送血しながら分岐させたルートで腎動脈の還流を行う。

こうした方法をあらかじめ検討しておく必要があります。
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