横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

分枝の再建を伴う腹部大動脈瘤の手術点数

2020-10-14 16:16:51 | 大動脈疾患
腹部大動脈瘤の「大動脈瘤切除術」で腹部大動脈(分枝血管再建を伴うもの)59,080 点、
腹部大動脈(その他のもの)52,000 点の請求についての解釈

分枝再建とは主たる末梢血管(総腸骨動脈、外腸骨動脈、大腿動脈)以外への吻合(腎動
脈、下腸間膜動脈、内腸骨動脈など)をいう。シンプルな Y グラフト(総腸骨動脈あるいは
外腸骨動脈に左右 1 か所だけ吻合するもの)と、ストレートグラフトは技術的に大きな差
はなく、総腸骨動脈や外腸骨動脈を腹部大動脈の分枝とはいわない。

とあり、腹部大動脈瘤の手術で通常のY型人工血管置換術やI型置換、外腸骨動脈に再建する人工血管置換術は分枝再建の保険点数は請求できない、
ということになります。こうした通達が学会を通じてありました。逆に文章として、医師になって初めてこうした文章を目にすることになりました。

また同様に弓部大動脈置換においては弓部三分枝の1分枝以上を別個再建しないと弓部大動脈置換の保険算定はできません。大動脈解離においてはよく
弓部に一部切り込んでいる上行大動脈置換術は弓部置換で請求しなさい、と指導されたことが昔ありましたが、その後、当医局でも指導・訂正され教育されております。

しかしながらこうした保険請求のコツや、保険診療については何の教科書にも記載がなく、教育システムが全く欠如してしまっていることに変わりありません。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドラマ ドクターY:腹部大動脈瘤手術後に発生する対麻痺

2020-10-05 11:54:38 | 大動脈疾患
 昨日、ドクターXのスピンオフドラマ、ドクターYが放映されたまたま視聴しておりました。
 バスケットボールの選手に腹部大動脈瘤が見つかり、人工血管置換術を受ける際に、出血部位を止血するために縫合糸をかけたところが、ちょうどAdamkiewicz動脈(アダムキービッツ動脈、と読み、日本語では、大根動脈;arteria radicularis magna)があり、それを閉鎖したために脊髄虚血が起こったというストーリーでした。このシナリオ、筆者の友人が監修しているもので、最後のテロップで名前が搭乗しておりましたが、このストーリーのほうが分かりやすい、ということで採用されたのかもしれませんが、実際の臨床ではちょっと違います。
 それは、一般にはアダムキービッツ動脈は第8胸椎から第1腰椎のレベルにあり、今回の腎動脈下動脈瘤の場合はほとんどタッチせずに手術可能であるということ、それから最近はネットワーク血流理論で、1本の動脈だけで脊髄は血流支配されているわけではなく、複数の血流支配を受けているので1本だけ閉塞しても完全な脊髄梗塞は起きないということから、腹部大動脈瘤術後の対麻痺の原因としてはアダムキービッツ動脈の閉塞よりは、今回の症例においては、突然の破裂、出血による血圧低下が脊髄血流を低下させて虚血に陥ったと考えるのが妥当です。長時間の大動脈遮断が下半身の血流障害を脊髄の一部とともに起こして発生した可能性もあります。特にこの症例の場合は突然の大量出血で止血に時間を要した可能性もあります。一般に腹部大動脈瘤の手術の際に脊髄虚血が発生する頻度は500例に1例と言われており、起こりうる合併症として必ず事前の説明項目の中に入っています。それと腹部大動脈瘤の手術で発生する対麻痺は、大動脈遮断の位置が脊髄の末端部近くを血流支配するエリアと関係しているため、主に仙随レベルのみ虚血になる可能性が高く、この場合は脊髄虚血とはいっても、下半身の完全麻痺ではなく、膀胱直腸障害とつま先立ちが出来ないなどの部分的な症状で発生することが多いと思われます。もしアダムキービッツ動脈の閉塞を疑わせる脊髄虚血が起きるとしたら、左側方開胸でアプローチして腎動脈上、特に腹腔動脈の上で遮断した場合は可能性があります。今回の手術では腹部正中切開の体位で入っていますので、もしあり得るとしたら瘤が破裂して出血した際に腹腔動脈の上で遮断して出血をコントロールしたことが関係する下半身全体の虚血だと思います。
 それから手術当日の術後から症状が出始め、翌朝には完全に対麻痺になっている経過は遅発性の対麻痺と考えられます。この時点で、輸血や輸液、カテコラミンを投与するなどの脊髄血流を改善する治療を開始したり、場合によっては脊椎ドレナージを実施すれば症状が改善していた可能性があります。夜に麻酔の研修医が執刀医に電話したのに対応せず、朝まで放置された、まさに外科医にとってあるあるなストーリーは外科医が監修しないとなかなか出てこない内容かも知れません。
 また麻酔科医の硬膜外麻酔が脊柱管内に血腫を作って麻痺が発生する可能性は、いくら上手な麻酔科医が行ってもあり得る話です。この場合は発症後8時間以内に脊柱管開放の緊急手術が必要です。
 いずれ、発症後の対応が不十分であったことがストーリーの中に暗に含まれている、というのもドラマの内容を膨らませていると思います。

 一件、コメディなドラマですが、専門医をも楽しませる内容をしっかりと中に込められている、上出来なドラマだと思います。

 しかしながら、桐の箱の中に札束が入っている、これだけは実際には、少なくとも筆者の周囲ではありませんので、誤解の無いようにしてもらいたいものです。

 あとで監修した友人に詳細を聞いて忌みたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大動脈解離手術におけるダブルバレル吻合

2020-07-26 22:56:25 | 大動脈疾患


 大動脈解離において人工血管置換術を行う際は、通常は本来の血流路である真腔に血流が通るように吻合し生理的な血流を維持することが通常ですが、下行大動脈置換術や胸腹部大動脈置換術の際の末梢吻合では、偽腔から腹部分枝や腸骨動脈から血流が還流されている場合があり、この場合は真腔と偽腔の両方に血流を流す必要があります。この場合の末梢側吻合は解離によって形成されたフラップ(Intimal Flap)を一部切除し、真腔部分は全層、偽腔部分は外膜だけをつかって人工血管と吻合します。こうした吻合方法をダブルバレル吻合といいます。
 実は筆者は長い間、勘違いしていて、このバレル、という言葉、一般的には桶とか樽という意味の英語で、どうして二つの樽なのか、疑問でした。英語の試験では、a barrel of beer =ビア樽、や原油価格の基準である、1バレル=50ドルなどという時にお目にかかります。しかし、このバレルには違う意味があり、銃身という意味もあるそうです。すなわち、二つの銃身を持つ銃のことをまさにダブルバレル、と呼んでいるのです。二連銃といったり二重銃身といったりするようです、写真にあるような銃身、引き金とも二つあるような、よく西部劇で使われているものは、Double barrel shotgunで、まだ弾丸の争点が連続的に銃で可能になる前の時代、次の銃弾の発射までに時間がかかる為、需要がありました。またこのダブルバレルにはパイレーツオブカリビアンに出てくるようなピストルタイプもあります。いずれにしろ、銃の発展の過程で一時的に使われた系統の銃で、そのあと、回転式の銃弾争点装置であるレボルバーや、明治維新の頃に出現したスペンサー銃などマガジンに銃弾を装填できるタイプで現在の主流の銃が出現して、戦争ではその必要性は少なくなったといってもいいと思いますが、現在もクレー射撃では縦並びのダブルバレルが使われていたり、また護身用でポケットに入るようなピストルにもこのタイプのものがあります。また、ノスタルジーの感覚からか、いまだにこのダブルバレル、人気の銃のようです。

 先日いった博物館で、戦地で発掘されたものの中にダブルバレルショットガンを見つけ、感慨深いものがありました。
 ちなみに、ダブルバレルで吻合する、ということはよく心臓血管外科医では耳にする言葉ですが、誰一人として上記の内容を教えてくれた先輩はいませんでした。常識だったのでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

右小開胸アプローチによる大動脈弁置換術の痛みはどのくらい?

2020-06-24 17:35:53 | 大動脈疾患
 最近の弁膜症手術の多くは右小開胸アプローチでの小さい創で行うことが多くなっています。横須賀市立うわまち病院では大動脈弁置換術の約6割で右小開胸アプローチを採用しています。
 胸骨正中切開の手術と比較して、側方開胸の手術は胸骨を切開しないので術後の呼吸不全がきたしにくく、回復が明らかに早いうえ、出血が少なく術後の循環、呼吸も安定してることを多い為、術後管理する側にとっても手がかからない患者さんが多いです。
 しかしながら肋間神経は、正中にある胸骨を支配する神経よりもたくさんあるために痛みを強く感じる可能性があります。そのため肋間神経ブロックをしたりして痛みを少しでも軽く済むような処置をしておりますが、痛みがゼロという訳には行きません。痛みは若い患者さんほど強く感じる一方、80歳以上の患者さんなど高齢者はあまり痛くないとおっしゃることがほとんどです。
 30代の患者さんで、右小開胸アプローチで大動脈弁置換した患者さんに聞いたところ、以前に経験した上腕の骨折の時と同じくらいの痛みだ、とおっしゃっていましたが、痛み止めの内服薬を変えたところ、痛みが消えて笑顔が出てほっとしました。時間とともに痛みは軽くなると思いますが、患者さんによって痛み止めの効き具合や、種類も違うのが現状ですので、その患者さんに合う痛み止めを探して適切な処方をすることが重要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

内腸骨動脈瘤破裂に対する緊急手術のアプローチ

2020-06-19 00:21:24 | 大動脈疾患
 動脈瘤破裂の救命治療の最優先は、破裂している動脈瘤の上流を遮断して出血を制御することです。内腸骨動脈瘤破裂は心臓血管外科医でもそれほど経験することはありませんが、定時の予定手術においても腹部正中切開では、視野が非常に悪い動脈瘤です。しかしながら、腹部側方切開から後腹膜アプローチにすることで視野が良好となり、その上流の総腸骨動脈の遮断が容易で、また、一方の外腸骨動脈の遮断も容易です。この日本の動脈の制御をしたうえで内腸骨動脈瘤を切開して、瘤から分岐する血管からの血液のバックフローを制御すれば救命できます。
 しかしながら、瘤が総腸骨動脈にまで及んでいて腹部大動脈で遮断する必要がある場合は、腹部正中切開からの開腹アプローチが有利で確実と考えられます。
 いずれも瘤と血腫の位置、解剖学的な位置関係などから総合的に判断する必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大動脈瘤切迫破裂と大動脈瘤破裂

2020-06-03 21:51:14 | 大動脈疾患
 「切迫破裂」という言葉があります。心臓血管外科領域で切迫破裂とは通常は大動脈瘤の破裂しかかっている状態を指します。破裂しかかっている、とは、まだ破裂していない、今後破裂に向かって進行していく状態をさすため、CT検査で破裂所見を認めません。
 大動脈瘤破裂のCT所見とは、破裂に伴う血腫形成を指します。腹部大動脈竜であれば、後腹膜血腫、胸部大動脈瘤であれば縦隔血腫を認めれば破裂と診断します。瘤はCTで認めるが、破裂していない状態で、瘤に起因した疼痛があれば通常は切迫破裂といいます。また、血腫は認めないが急速に瘤が拡大したり、瘤の変形などを認めれば広義に切迫破裂としてもいいと思います。
 切迫破裂の治療は、緊急手術の適応となりますが、切迫破裂かどうか判断が難しい場合は、入院、安静、疼痛管理、降圧管理で厳重管理します。その間に術前検査を進めます。

 医学用語で似た状態のものとして、切迫流産という言葉があります。参加の専門ではないので正確ではないかもしれませんが、切迫流産は流産していませんが、今後流産に向かって病態が悪化していく可能性が極めて高い症状がみられることを言います。

 切迫、という言葉をつけることで、悪い事態が発生しかかっていることを指す。切迫医療崩壊、という言葉があるとすれば、新型コロナウィルス患者さんで病院内があふれかえって通常医療が出来なくなりそうな状態や、PPEが足りなくなって手術などの治療が出来なくなりそうな状態といっていいと思います。東京、埼玉などは差し詰め、4月中は切迫医療崩壊であった、と言ってもいいのかもしれません。現に実際の新型コロナウィルスの患者さんが検査してもらえない、入院が出来ない、という状態が実際に起きていたことは、実際の医療崩壊が起きた瞬間といえるのかもしれません。
 神奈川県の場合は一定数のCOVID-19患者さんが発生しましたが、用意されたベッド数の2割くらいしか埋まっていないことを考えると、医療崩壊には至らずに第一波を残り超えたと言えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大動脈閉塞バルーンによる大動脈遮断と出血のコントロール

2020-05-29 15:35:52 | 大動脈疾患


 前回、腹部大動脈瘤破裂に対する左開胸、下行大動脈遮断による救命処置について言及しましたが、より、スマートな方法として、下行大動脈内に大動脈閉塞バルーンを挿入し、それを膨らませることで大動脈遮断して腹部大動脈瘤破裂の出血を制御する方法があります。大動脈閉塞バルーンは経カテーテル的に左上腕動脈から挿入することが一般的で、報告しているのを聞いたところ、閉塞するまで20分以上かかることが多いとのことでした。血管の蛇行がなく簡単にガイドワイヤーが進む症例は短時間で実施可能ですが、上腕動脈は屈曲している症例も少なくないため、造影CTで屈曲蛇行がないことが条件となります。20分かかるとすると、2分で開胸、5分で下行大動脈遮断という方が現実的かもしれませんが、下行大動脈遮断も大動脈閉塞バルーンも技術的に難しい場合もあるため、手技の習熟が必要であり、やはり慣れていて確実な方法を選択するというのが緊急の判断として必要です。
 バルーンによる閉塞では、大動脈圧や人工心肺による送血圧に負けて閉塞位置がずれたり、それによって遮断が不十分になる可能性があり、また、遮断部位が血管吻合などの近くの場合は縫合針でつついてバルーンを破裂させたり、手技の刺激だけでバルーンが破裂することもあります。こうした手技実施中は破裂て突然大出血するかもしれないということを想定の上、手術操作をしなければなりません。こうしたときの突然の大出血は、心臓が止まってしまうほどの血圧低下を呈することが多く、瞬時に大動脈遮断するなどの止血手技を行う必要があります。バルーンで遮断しておきながら、万が一の遮断ができるような部位を確保し、さらに遮断鉗子を瞬間にできるように手中に置いておくことが必要です。
 まさにこの、遮断鉗子を手の届くところに置いておく様というのは、突然襲われてもいいように食事しているときも拳銃をテーブルの上、しかも右手で直ぐにとって撃てるところに置いておくようなものです。
 ちなみに筆者は、幼少期に親から、夜寝る前に必ず枕元に着るものを準備して寝るようにとしつけられていました。万が一の時にとっさに衣服を着て逃げられるようにと。まさかその教訓をその後本当に実践することがあろうとは予測もしませんでしたが・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コードブルーの山ピーのような・・・下行大動脈遮断

2020-05-28 01:01:38 | 大動脈疾患
 コードブルーの主人公の山ピーがドラマでやっているような、外傷患者に対して行う下行大動脈遮断。遮断した瞬間に血圧が回復して劇的な救命が可能になる。実際にこのシーンにあこがれて、救急医を目指すという人が多いように思います(実際の救急医のドクターは100%否定しますが・・・)。その証拠に、外傷に対する下行大動脈は、救急医の中では武勇伝のように語られ、それでもし救命したのであれば、まさにレジェンドとなります。
 実際に下行大動脈を遮断して救命が可能となるのは、腹部大動脈瘤破裂の症例で、しかも手術室の中という環境に限られるのではないでしょうか。腹部大動脈破裂では、破裂部位の上流で大動脈を遮断する必要があり、通常の開腹アプローチでは血腫や、破裂による出血の勢いでその上流にアプロ―チできない場合は、直接瘤の上流の正常部分に到達できないため、同じ開腹創からの場合は、胃の頭側にある小網をあけて腹腔動脈の上流で横隔膜脚のレベルで遮断するか、または左開胸して下行大動脈の横隔膜上の部分を遮断するかに限られます。小網をあけて腹腔動脈上を遮断するのに数分で到達可能ですが実際に出血を手で圧迫していて手が離せないような状況では不可能であり、この場合は別創の左開胸アプローチが唯一の上流遮断です。左第5~6肋間で10cmほどの皮膚切開で開胸し、手をいれて下行大動脈をつかみ、Debakey鉗子で盲目的に遮断します。この下行大動脈遮断で注意が必要なのは、盲目的操作のため肺や周囲組織の副損傷が起きたり下行大動脈が解離したり、開胸部の肋骨や肋間動脈からの出血の制御に難渋したりすることがあることです。また、テーピングしてしっかり大動脈を把握して遮断する訳ではないので、遮断鉗子が容易にずれることもあります。また、上位の大動脈遮断によってそれより下位の大動脈分枝の血流が遮断されるため、長時間の遮断は臓器虚血のリスクがあります。特に脊髄、腎臓などの虚血による対麻痺や腎不全が術後に見られる可能性があるので、通常は大動脈瘤の直上に出来るだけ短時間のうちに遮断鉗子をかけなおす、または大動脈切開して上流部に大動脈閉塞用バルーンや尿道カテーテルを挿入して遮断する必要があります。皮膚切開から下行大動脈遮断までの時間は通常5分ほどですので、腹腔動脈上遮断と同様に緊急時に容易に到達可能な大動脈遮断方法です。
 この下行大動脈遮断によって腹部大動脈瘤破裂の症例を何度も救ったことがありますが、他の疾患や外傷性出血に対して救急外来で開胸し下行大動脈遮断しても、次の止血などの処置がうまく行かないと意味がありません。心臓血管外科医が下行大動脈遮断するのは、その手技によって救命の可能性があるからであって、コードブルーの山ピーのようなドラマのシーンを再現するような場面は通常はありません。下行遮断したことでその場は救命した患者さんをみて、スタッフに山ピーみたい、って言われたことがあるので、このような記事を書いてみました。

 腹部大動脈瘤破裂の症例はその場は救命できても、その後の多臓器不全、腹部コンパートメント症候群など種々の病態を乗り越えないといけません。手術室から生還しても、まだまだ油断はできません。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腹部大動脈瘤手術時の出血とその対応

2020-04-15 17:13:02 | 大動脈疾患
 腹部大動脈瘤の人工血管置換術において、大動脈瘤の中枢、末梢側遮断したあとに瘤を切開して、壁材血栓を除去したあとに、腰動脈からの出血を止血してから、中枢側、末梢側と人工血管を吻合して再建します。大動脈瘤切開したときに起こる出血は自己血回収装置で回収し、洗浄赤血球として患者さんの体に返血します。しっかり血管遮断されていれば遮断部位から出血することはほとんど経験しません。よって腹部大動脈瘤手術の多くは瘤切開時に腰動脈からバックフローとして出血してくるものが殆どです。また、石灰化高度などの理由で末梢側遮断ができない症例に関しては、フォーリーカテーテルを血管内腔から挿入してバルーンを拡張させて遮断する場合もあります。このときにバルーン遮断が不十分であると、末梢側からのバックフローが出血として手術視野の妨げになることもあります。
 手術操作で他に、剥離面、大動脈瘤壁を切開したときに静脈損傷をしたり、など他の要因の出血もありえます。

 腰動脈のバックフローやその他の出血で、その出血量が多いと出血性ショックに陥る危険があり、特に自己血回収装置のほうへ1500ml以上回収される場合は血行動態が不安定になりやすく、早期に輸血、回収血の返血などで循環血液量を維持する必要があり、これが間に合わないとショックから心停止に至る危険もあるため、この腰動脈の止血は迅速に行う必要があります。
 石灰化が著しくて縫合糸の針が通らない場合は、石灰化病変をペアン鉗子などで破砕して除去し、針が貫通しやすくしてから糸かけをすることが必要です。この際に大動脈瘤壁の外膜を損傷して、下大静脈や腸骨静脈から出血させるとさらにリスクが上がります。大静脈の損傷による出血の場合は、直接縫合糸をかけると静脈壁が裂けてしまうリスクがあるため極力周囲組織と一緒に縫合閉鎖して止血することがコツです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本における急性大動脈解離の緊急手術の成績は世界一!?

2020-01-23 09:37:36 | 大動脈疾患
 European Journal of Cardiothoracic Surgery doi:10.1093/ejcts/ezz323
 Patient trends and outcomes of surgery for type A acute aortic dissection in Japan/-
によると、日本の心臓血管外科データベースを利用した2008年から2015年の8年間に手術を実施された急性大動脈解離11000例以上の解析結果が報告されています。
 これによると、11843例の解析を行い、上行大動脈置換術の30日死亡率は7.6%、弓部大動脈置換術のは9.5%といずれも10%を切っており、特に2008年から2009年の成績と2014年から2015年の成績を弓部大動脈置換術で比較すると12.7%から9.5%と有意に改善しております。上行大動脈置換術においてはこの年代による死亡率の差は8.4%と8.5%と差はありませんでした。
 海外のデータベースを利用した成績調査では15-20%の死亡率の報告があり、それに比較すると日本国内の成績がきわめて優秀といえます。これは日本の心臓血管外科医の技術が素晴らしい、ということもさることながら、日本の救急医療体制、CTの普及率など社会的な基盤が整備されていることも関係していると思います。

 この中で、80歳以上の患者さんが12%から20%と増加し、また特に腎障害(Cr>2)を有する患者さんが有意に増加しているにもかかわらず、成績が向上している点が素晴らしいと思います。
 オープンステントが商業ベースで使用できるようになったのが2014年なので、この研究対象期間の後の調査をすると更に成績が向上している可能性があります。

 ちなみに横須賀市立うわまち病院心臓血管外科における急性大動脈解離の手術死亡率は、この3年間においては3/30と3%となっております。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弓部大動脈置換術におけるShaggy Aorta Syndromeに対するBrain Isolation Technique

2020-01-20 23:22:34 | 大動脈疾患
 弓部大動脈瘤のにおいて粥状硬化の著しい症例=Shaggy aortaでは、特に脳梗塞のリスクが高くなります。これは大動脈の操作において大動脈壁からはがれた可動性の粥腫が脳に塞栓を起こすためで、人工心肺を回して大動脈内の血流パターンが変わった瞬間に起こる可能性や性状の悪い頸部分枝にカニューレを挿入する操作などでも起こります。
 これを可能な限り回避する方法の一つがBrain Isolation Techniqueです。これは、大動脈を介して弓部分枝に人工心肺中に血流がいかないようにする方法で、具体的には両側腋窩動脈から送血し、同時に左総頚動脈は人工心肺開始と同時に遮断して、遮断部位の遠位側を切開してこの切開孔から選択的脳還流を行う方法です。この方法では脳還流するための操作を、より性状の良好な部位を操作することも予防に繋がっています。両側腋窩動脈を露出して人工血管を縫着するなど手技や回路が複雑になり、手術時間もシンプルな弓部置換に比較して2時間近く長くかかりますが、より安全な方法を選択することが結果的に早く終わり早期に退院することにもつながります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大動脈カンファレンス

2020-01-19 08:17:20 | 大動脈疾患
 大動脈外科におけるカンファレンスが、二か月に一回程度の頻度で行われているので可能な限り筆者は参加させていただいております。大動脈手術件数日本一のハイボリュームセンターで行われているカンファレンスだけあって症例も豊富で、提示される症例すべて、とても勉強になります。若手中心で運営されている施設だけあって、参加者の中で筆者がおそらく最高齢ということもあり、参加する方として恐縮するところもあり、またざっくばらんなディスカッションが行える場所として有意義です。最近横須賀市立うわまち病院で経験した難しい症例と同じような病態の治療報告があったりして共有できるところもまた通常の学会とも違って有意義です。
 胸部外科学会の地方会と重なることが多いのでその場合は出席できないことがありますが、可能な限り参加して日常の苦労などを共有できる場でもあるので可能な限り今後も参加したいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腎動脈再建または腎動脈上遮断する腹部大動脈瘤の腎保護

2020-01-17 07:02:19 | 大動脈疾患
 傍腎動脈腹部大動脈瘤は通常の腎動脈下腹部大動脈瘤と比較して格段に手術難易度が上昇します。その理由として術野が深くて操作しにくい、血流遮断中の腎保護が必要という点があります。
 腎保護に関しては、主に
①冷却したリンゲル液で還流する
②腋窩動脈などに吻合した人工血管から直接分枝還流する
③PCPSや人工心肺を回してその側鎖や別回路から選択的腎還流する
という方法があります。

 比較的短時間で腎動脈遮断が済むと予測される場合(腎動脈上遮断して腎動脈の別個再建は行わない場合など)は冷却したリンゲル液(5℃)で還流するだけで十分な場合が多く、横須賀市立うわまち病院でも多くの症例で行ってきました。
 腋窩動脈に人工血管を縫着して還流する方法は、前任地の自治医科大学附属さいたま医療センターで多く行われていましたが、人工心肺の運転になれている筆者としては同じ選択的腎還流でもなんらかの循環補助を使用しながら行うPCPSを使用した還流を行ってきました。PCPSスタイルでは、大腿動静脈からの部分体外循環を行うことで腸骨動脈領域を介して下半身の循環維持しながら大動脈の操作ができるメリットがあります。しかしながら出血した血液は血液回収装置で洗浄赤血球として返血されるため大量出血した場合は凝固因子が欠乏してしまいます。
 大量出血が予想される場合は、やはり出血した血液を即座に返血できる人工心肺を利用した選択的還流にメリットがあります。ヘパリン量が多く使用されるため止血困難に陥る可能性がありますが、中枢側吻合が脆弱な部位で行うなど吻合に不確定要素がある症例や吻合に時間がかかると予想される症例においては最適な手段となります。この人工心肺を使用した症例でしか救命できない症例もあります。人工心肺を使用すると脱血管さえ入っていれば、静脈側に直接返血出来るので、この返血回路があるだけで相当出血の対応にはメリットがあります。いわゆるサッカー回しのような状態です。筆者もこの人工心肺によって救われた症例を経験しています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腹部大動脈瘤術後の十二指腸穿孔

2020-01-16 02:02:06 | 大動脈疾患
 腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後しばらくして十二指腸穿孔を起こすことがあります。
 これは十二指腸壁が人工血管に接している場合、長期間の人工血管の拍動刺激により小腸壁に穿孔を起こすもので、これにより人工血管感染、人工血管吻合部仮性動脈瘤(破裂)などを引き起こし、死亡率の高い病態です。
 こうした状態の予防の為、人工血管置換術後は動脈瘤壁をラッピングして人工血管と小腸壁の間にクッションになるものを留置します。このクッションの目的で大網を間に充填している施設もあると聞きます。まれですがラッピングした大動脈瘤壁の拍動刺激で十二指腸穿孔を起こすこともあります。
 治療はまず、十二指腸穿孔部は通常直接閉鎖して大網充填します。人工血管を除去して同じ部位に再度人工血管を吻合留置する方法と、人工血管を除去して大動脈は閉鎖し非解剖学的バイパス術(両腋窩ー大腿動脈バイパス)を行う方法、人工血管は除去せず大網充填を行う方法などがあります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020オペ初め

2020-01-04 08:01:29 | 大動脈疾患
2020年最初のオペは腹部大動脈瘤破裂にたいする人工血管置換術でした。

昨年2019年は元旦に緊急のCABGでしたのでした!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする