横須賀うわまち病院心臓血管外科

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腎動脈再建または腎動脈上遮断する腹部大動脈瘤の腎保護

2020-01-17 07:02:19 | 大動脈疾患
 傍腎動脈腹部大動脈瘤は通常の腎動脈下腹部大動脈瘤と比較して格段に手術難易度が上昇します。その理由として術野が深くて操作しにくい、血流遮断中の腎保護が必要という点があります。
 腎保護に関しては、主に
①冷却したリンゲル液で還流する
②腋窩動脈などに吻合した人工血管から直接分枝還流する
③PCPSや人工心肺を回してその側鎖や別回路から選択的腎還流する
という方法があります。

 比較的短時間で腎動脈遮断が済むと予測される場合(腎動脈上遮断して腎動脈の別個再建は行わない場合など)は冷却したリンゲル液(5℃)で還流するだけで十分な場合が多く、横須賀市立うわまち病院でも多くの症例で行ってきました。
 腋窩動脈に人工血管を縫着して還流する方法は、前任地の自治医科大学附属さいたま医療センターで多く行われていましたが、人工心肺の運転になれている筆者としては同じ選択的腎還流でもなんらかの循環補助を使用しながら行うPCPSを使用した還流を行ってきました。PCPSスタイルでは、大腿動静脈からの部分体外循環を行うことで腸骨動脈領域を介して下半身の循環維持しながら大動脈の操作ができるメリットがあります。しかしながら出血した血液は血液回収装置で洗浄赤血球として返血されるため大量出血した場合は凝固因子が欠乏してしまいます。
 大量出血が予想される場合は、やはり出血した血液を即座に返血できる人工心肺を利用した選択的還流にメリットがあります。ヘパリン量が多く使用されるため止血困難に陥る可能性がありますが、中枢側吻合が脆弱な部位で行うなど吻合に不確定要素がある症例や吻合に時間がかかると予想される症例においては最適な手段となります。この人工心肺を使用した症例でしか救命できない症例もあります。人工心肺を使用すると脱血管さえ入っていれば、静脈側に直接返血出来るので、この返血回路があるだけで相当出血の対応にはメリットがあります。いわゆるサッカー回しのような状態です。筆者もこの人工心肺によって救われた症例を経験しています。
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