鐵炮百合 2020年01月04日 | 春を呼ぶ朝 大村正次著「春を呼ぶ朝」 ―稱名瀧― 鐵炮百合 今日は 部屋の机に 鐵炮百合の鉢が座って 圍爐裡の薬罐を見下ろしてゐる。 もう仲直りが出来たのだ。 婆さんの神経痛が横になり 爺さんの中風が茶を呑んでゐる。 なんといふ白つぽい、筒(つつ)のながい花だらう― 喧嘩の種の鐵炮百合。 一つの花は右向、一つの花は左向― 奇態な二提の鐵炮だ。 それはラッパのやうに砲先(つつさき)をひろげ 白い虚無をみせてゐる。 老人(としより)達は二人きり もらつた子供も出ていつた。 だるい 風のない 人生の午后。