大村正次著「春を呼ぶ朝」
―稱名瀧―
鐵炮百合
今日は 部屋の机に
鐵炮百合の鉢が座って
圍爐裡の薬罐を見下ろしてゐる。
もう仲直りが出来たのだ。
婆さんの神経痛が横になり
爺さんの中風が茶を呑んでゐる。
なんといふ白つぽい、筒 のながい花だらう―
喧嘩の種の鐵炮百合。
一つの花は右向、一つの花は左向―
奇態な二提の鐵炮だ。
それはラッパのやうに砲先 をひろげ
白い虚無をみせてゐる。
老人 達は二人きり
もらつた子供も出ていつた。
だるい 風のない 人生の午后。
―稱名瀧―
鐵炮百合
今日は 部屋の机に
鐵炮百合の鉢が座って
圍爐裡の薬罐を見下ろしてゐる。
もう仲直りが出来たのだ。
婆さんの神経痛が横になり
爺さんの中風が茶を呑んでゐる。
なんといふ白つぽい、
喧嘩の種の鐵炮百合。
一つの花は右向、一つの花は左向―
奇態な二提の鐵炮だ。
それはラッパのやうに
白い虚無をみせてゐる。
もらつた子供も出ていつた。
だるい 風のない 人生の午后。