常念が見える部屋から

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季節の移ろいに写真を添えて発信します。

横浜物語

2010年08月09日 | 横浜物語
露草


横浜の旅の後もくだんの旅行会は日本の各地を回る旅を重ねた。

何年かして義兄は癌の宣告を受け、つらく厳しい癌治療を受ける身になった。

病状は一進一退し、義兄から強い意志と、弱気が交錯する便りを何度か頂いた。

秋になって 衝撃的な手紙が届いた「残されたわずかな人生を息子夫婦と姉妹に見守られて静かに終わりたい、これまでのご厚情に感謝しつつも、今後の交流は没とし、今後見舞はもちろん葬儀に関わる一切の関係を断ち切って欲しい」という内容だった。

納得がゆかず問い合わせた電話口の家族は、癌の末期特有の激痛をモルヒネで抑えながら、来るべきその日を待つ状態だという。

本人の堅い意志なので、どなたの見舞いもお断りしているという家族に懇願し、ようやく入院先を突き止め、早朝鎌倉大船の病院に急いだ。

甥夫婦と姉さんが迎えてくれ、重苦しい雰囲気が漂う中病室に案内された、そこには、体を海老のように曲げて、束の間の安眠に浸る義兄がいた。

ゆり起こそうとする甥を制して病室を出た、そして甥夫婦が駅まで送るというその好意に甘えた。

あまり親しい付き合いがなかった甥夫婦のこの申し出が嬉しくて、さっきまでの胸のつかえが取れた思いがした。

しかし 道すがら様々な思いが胸に溢れてきて声にならなかった、駅に着くと甥の嫁さんが急行券を買ってきて、新宿まで急行電車で行けば疲れも少ないからと言いながら渡してくれた。

電車が発車するまで二人で見送ってくれた。

しばらくして天国に旅立った義兄から銀河鉄道を経由して手紙が届いた。
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