自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

「ぼくの作品,返してほしいなあ。どうしたらいい?」

2012-11-07 | 随想

親子体験農園で作業をしていると,6年生のSさんが自転車で通りかかりました。

「あっ,“自然となかよしおじさん”! ひさしぶり!」

そう挨拶してくれたので,顔を上げて「よっ,S君,元気にしとるか。どうしとる?」と返しました。すると,「今,ゲームを持って学校に遊びに行っとるんや。Yくんと遊ぶ約束しとるからな」と応えてくれました。

その後,思いがけないことを言ったので,驚きました。

「ぼく,ずっと気になっとることがあるんや。聞いてよ。ぼくが4年のとき描いた絵のことやけど,デパートであった絵画展に出してもらったきり,まだ返してもらってないねんな。返してほしいんやけど,どうしたらええと思う? おじさん」

それで,事情を尋ねました。結果,様子が少しわかってきました。それは,写生会で工事現場を描いた自分としての記念作品だということ,絵画展でりっぱな賞をいただいた作品だということ,学校のどこにも掲示されていないままなのでどうなっているか心配なこと,などでした。

これを聞いてわたしはあることを思い出しました。これまで勤務した学校で,過去の図工作品や習字作品がうず高く積まれていたところがありました。これは罪作りな話だと困惑してしまいました。図工室の壁にも10年以上前の卒業児童の作品がかかっていました。それを見たある児童が「あれはぼくのおばさんの絵やと思う。名前がそうやから」と言ったお蔭で,持ち主にお返しできた例もあるほどです。

そんなこともあって,わたしは職員会議で同僚に「掲示などで使うのなら,本人の了解を得る」「児童が卒業するまでに速やかに作品を返却する」,この二つを伝えました。そして,いくつかの作品についてお詫び状を添えて本来の持ち主にお返ししたのでした。後日,その関係者から礼状が届きました。内容の濃さにこころを打たれ,今もたいせつに保存しています。

もう一つ,10年近く(?)前に放映されたテレビ番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)を思い出します。「小学校時代,賞を取った自分の絵の行方をさがしてほしい。できれば戻って来てほしい」と視聴者に依頼を受けた,芸能人扮する探偵が学校や当時の担任等を訪ね歩く一話です。結論は,行方不明ということでした。おとなになってもなお気にかかり続けていた作品が見当たらない! 再会の願いは叶わず,それ以上どうしようもなかったのです。依頼者の落胆ぶりは視聴者にとっては想像に難くないでしょう。この番組を見ていた限りでは,学校の責任のなさぶりが際立っていました。

S君の気掛かりは“この子ならでは”のこだわりでもあります。そうでなくても,学校はいい加減さによってこうした罪を作ってはならないのです。担任は変わります。転勤もあります。図工や習字の係も変わっていきます。そのうちに,作品が放っておかれる事態がやって来る恐れが!

こうした事態が生じないように,学校関係者は心しなくてはなりません。S君には「図工室や廊下に掲示してないのなら,自分のたいせつな作品なので,返してほしいと率直に先生に伝えたらどう?」と話しておきました。「わかった!」と言って去りましたが,手許に戻ってくるように祈っています。

(注)写真は本文とは関係ありません。 

 


ジャコウアゲハ観察記(その175)~植木鉢作戦Ⅲ⑨~

2012-11-07 | ジャコウアゲハ

11月6日(火)午前7時。昨日再び現れた個体が,植木鉢の縁(エン)に取り付いていました。どうやら前蛹期を迎えたようです。目が離せません。今度は行方不明にならないように見守っておこうと思います。もう一方の個体は,ここ数日間同じ葉にいます。今日,これまでの最低気温は11.5℃(0時39分)。風がほとんどなく穏やかな感じです。

昼見ると,2個体とも植木鉢の土の上を歩いていました。いよいよ前蛹期近しという感じです。

夕方見ると,1個体の行方がわからなくなっていました。そして,もう1個体は鉢の内側の壁で静止状態に入っていました。頭や,腹の後方辺りに絹糸が観察できました。ここでからだを固定することに決めたのでしょうか。それとも,単なる落下防止策なのでしょうか。 

頭付近を拡大すると,確かに絹糸が付いています(矢印部分)。

 

この日の最高気温19.5℃,最低気温6.2℃(24時現在)。 

11月7日(水)午前7時。今日は立冬。朝の最低気温4.6℃(午前6時29分)。起きて見てみると,場所を移動していました。そうして,似たような場所で,似たような格好をしていました。いよいよこれは前蛹になる直前だと直感できます。ただ,問題は尾端の固定がまだ,それに帯糸もまだの状態です。このままでは変化はないはず。

 

もう1個体は今も見当たらないままです。

この日の最高気温17.9℃。最低気温は上述した4.6℃でした(22時現在)。

 


ウスタビガ,羽化する!

2012-11-07 | 昆虫

10月13日(土)の記事で,ウスタビガの繭について取り上げました。昨夜から今朝にかけて,無事この繭から成虫が生まれました。

早朝,部屋のガラス窓を見ると,それがとまっていました。「あっ,生まれたんだ! よかったー!」。そんなわくわく感が広がっていきました。

オスの特徴を備えています。地色は赤褐色,前翅の先が突出しています。翅を開張したときの長さは90mm。平均的な大きさです。円い斑紋を見ると,向こうの色が透けているのがわかります。つまり,透明な膜になっているのです。 

たっぷりの毛で覆われています。あったかそう!

からだ中,毛だらけです。翅もまたそうです。

メスを探して,子孫を残す役目を担い,それを果たすと静かに死を迎えます。ただそれだけの,成虫としてのいのち。口吻は退化していて,なし。空腹を満たそうとして何かを食べるわけでもありません。これが晩秋を生きるいのちの一コマです。