親子体験農園で作業をしていると,6年生のSさんが自転車で通りかかりました。
「あっ,“自然となかよしおじさん”! ひさしぶり!」
そう挨拶してくれたので,顔を上げて「よっ,S君,元気にしとるか。どうしとる?」と返しました。すると,「今,ゲームを持って学校に遊びに行っとるんや。Yくんと遊ぶ約束しとるからな」と応えてくれました。
その後,思いがけないことを言ったので,驚きました。
「ぼく,ずっと気になっとることがあるんや。聞いてよ。ぼくが4年のとき描いた絵のことやけど,デパートであった絵画展に出してもらったきり,まだ返してもらってないねんな。返してほしいんやけど,どうしたらええと思う? おじさん」
それで,事情を尋ねました。結果,様子が少しわかってきました。それは,写生会で工事現場を描いた自分としての記念作品だということ,絵画展でりっぱな賞をいただいた作品だということ,学校のどこにも掲示されていないままなのでどうなっているか心配なこと,などでした。
これを聞いてわたしはあることを思い出しました。これまで勤務した学校で,過去の図工作品や習字作品がうず高く積まれていたところがありました。これは罪作りな話だと困惑してしまいました。図工室の壁にも10年以上前の卒業児童の作品がかかっていました。それを見たある児童が「あれはぼくのおばさんの絵やと思う。名前がそうやから」と言ったお蔭で,持ち主にお返しできた例もあるほどです。
そんなこともあって,わたしは職員会議で同僚に「掲示などで使うのなら,本人の了解を得る」「児童が卒業するまでに速やかに作品を返却する」,この二つを伝えました。そして,いくつかの作品についてお詫び状を添えて本来の持ち主にお返ししたのでした。後日,その関係者から礼状が届きました。内容の濃さにこころを打たれ,今もたいせつに保存しています。
もう一つ,10年近く(?)前に放映されたテレビ番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)を思い出します。「小学校時代,賞を取った自分の絵の行方をさがしてほしい。できれば戻って来てほしい」と視聴者に依頼を受けた,芸能人扮する探偵が学校や当時の担任等を訪ね歩く一話です。結論は,行方不明ということでした。おとなになってもなお気にかかり続けていた作品が見当たらない! 再会の願いは叶わず,それ以上どうしようもなかったのです。依頼者の落胆ぶりは視聴者にとっては想像に難くないでしょう。この番組を見ていた限りでは,学校の責任のなさぶりが際立っていました。
S君の気掛かりは“この子ならでは”のこだわりでもあります。そうでなくても,学校はいい加減さによってこうした罪を作ってはならないのです。担任は変わります。転勤もあります。図工や習字の係も変わっていきます。そのうちに,作品が放っておかれる事態がやって来る恐れが!
こうした事態が生じないように,学校関係者は心しなくてはなりません。S君には「図工室や廊下に掲示してないのなら,自分のたいせつな作品なので,返してほしいと率直に先生に伝えたらどう?」と話しておきました。「わかった!」と言って去りましたが,手許に戻ってくるように祈っています。
(注)写真は本文とは関係ありません。