自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

旅の味,極上の味

2014-04-15 | 旅行

旅には出会いが付きものです。それが上質であれば,旅の思い出が心地よく残り続けます。今回の金沢の旅でもそんな出会いがありました。ささやかなふれ合いでしたが,なんとも上品なひとときをプレゼントしてくれたのでした。

ここに住まう愚息に「ずいぶんお世話になっている蕎麦屋さんがある。一味も二味も違う。ホンマモノが味わえる。是非訪ねてほしい」と言われ,旅の途中,訪ねたのです。店の名は『蕎麦 やまぎし』。場所は金沢駅前。店の位置を尋ねて探しても,ついつい見落としてしまいそうなビルの一角に,その店はありました。

席がテーブルカウンターに5つ,座卓机が1つ。じつに小ぢんまりした店づくりです。しかも,昼の3時間だけ開店していて,準備した材料がなくなった時点で閉店。「この時間帯だけに蕎麦作りの熱を最大限込めたい」「ホンモノの味を,息長く,確かに,無理なく届けたい」という主張,志が見えてきそうな感じです。

材料の蕎麦は,地産地消の精神ですべて県内加賀市産というこだわり。それを自家製粉。純蕎麦にこだわった『蕎麦粉10割』の手打ち蕎麦。したがって,とくべつなつなぎはなし。使う水は白山麓の名水。麺とつゆだけで勝負。“この風土ならでは”を生かした“この蕎麦ならでは”への熱いまなざし。食材についてのこうした一つひとつの吟味に“この店ならでは”が息づいています。とはいえ,この手法で蕎麦を我が手の内に置きとどめるのは至難にちがいありません。

わたしはメニューから,『粗挽き入り田舎(大盛)』を注文しました。「大盛って,わたしに食べられますか」と尋ねると「大丈夫ですよ」の声。粗い粉を練って作られた蕎麦なので,腰が強い一方,切れやすいという特徴があるということでした。盛り付けを見て,「ほほーっ!」とつい思ってしまいました。「これは,ふつうでは食味できないぞ」という気持ちですね。

粗挽きですから,皮が細かく砕かれて混ざっています。いざ食べると,たしかに強味の腰が歯をとおして伝わってきました。大胆な食感です。ツルツルでは味わえない,独特のボソボソ・ゴツゴツ感。噛んでいるうちに,素朴な味がじわーっと口内に広がって,味覚を刺激しました。この,なんともいえぬ旨み! 着飾った感じではちっともないのですね。

いただきながら,店主山岸隆さんと奥様と話をすることができました。というより,店の間取りからみると,会話をたのしむひとときもたぶん山岸さんのこころの刺激になっていそうです。厨房とカウンターとは壁一つの距離,会話が行き通う距離なのですから。もちろん,店主山岸さんとの会話は厨房から出て来られてからの話です。


話は開店のきっかけ話にもなりました。山岸さんが好きだった蕎麦打ちが高じて,リタイア後に“自分ならでは”の思いを抱いて店を始めた,他県の蕎麦屋とのつながりもできた,といったことが出てきました。わたしの愚息がよく訪ねてくるという話も出て,話は気さくに続きました。「O君の親御さんかいね。もっと早く言ってもらっていたらよかったものを」。そんな感じです。

我が子が,ふるさとを離れたこの地でこうしたかたちで懇意にしていただいていることを,うれしく感じました。思いもかけない出会いができたことをとてもうれしく思った次第です。

蕎麦つゆも,滑らかさがあってばっちり。おかげさまで極上の味わいができました。

お世辞でもなんでもありません。他の店のふつうの蕎麦と比べてどうのこうのというレベルの話をしてもまったく意味がありません。この店にはこの店としての主張があり,この味があるのです。

よく似た話を一つ。わたしの漉いてきた野草紙は,その草だけを使った“純粋紙”であり“生漉き紙”です。つなぎ(他の繊維)を入れて漉く人と公開論争をした経験がありますが,結局,「どちらが優れているか」「どちらが意味があるか」なんて言い合っても無駄であることがわかりました。疲れただけでした。わたしは,どこまでも植物一つひとつの固有の特徴を紙に見出したいという立場を貫いています。今も,つなぎを入れた紙に魅力を感じることはありません。つなぎの入った紙とは,スギの繊維にコウゾ繊維を入れて,『スギ紙』と呼ぶ類いです。どんな点に着目して自分風につくり出すのか,それをはっきりさせて両立させればいいのです。多様性の共存,といったところでしょうか。

繰り返しますが,山岸さんの手打ち蕎麦は,10割を押し出した素朴な“山岸蕎麦”であることに純粋な価値があります。純蕎麦作りのなかで,我が技,我が道を極め,蕎麦道をたのしみ,拓こうとされているのです。その意気込みと熱に共感する人が訪れて,今の店が成り立っているのでしょう。

愚息がすてきな方とお近付きになれたこと,それがきっかけで旅が一層味わい深いものとなったことに感謝。

なお,山岸さんは「蕎麦粉100%手打ち蕎麦のお店」を掲げ,HP『蕎麦 やまぎし』で情報を発信されています。興味をお持ちになった方は,ぜひアクセスしてみてください。

 


誕生のラッシュ

2014-04-15 | アゲハ(ナミアゲハ)

アゲハチョウの誕生ラッシュが続いています。今日報告するのはアゲハ(ナミアゲハ)。長い冬を越しただけあって,こころの底から春を謳歌するかのような大変化です。

 
この日もそうです。起きてみると,すでに羽化した個体がいました。間もなく羽化しそうな蛹が一つ。タイミングがいいので,羽化を観察してみようと思い立ちました。

朝食を終えて,様子をみたとき,蛹がピクピクッと動きました。誕生の兆候です。そのとおり,しばらくして羽化が始まりました。

 
ググーッと,殻を押し広げて,成虫が現れました。


脚をグッと伸ばしました。 

 
あとは,スルスルッという感じで出てきました。


直近の蓋縁にぶら下がって,静止しました。 口吻をしきりに曲げたり,伸ばしたりして,ウォーミングアップをします。

 

ゆっくりゆっくり,そして確実に,翅が拡がっていきました。 ここまで,ほんの10分の出来事でした。