『ヒラタアブの成長(13)』で,孵化と直後の風景を写真でご紹介しました。誕生後,卵から離れていったその初齢幼虫は,やがて食餌行動をしたはず。
ところで,仮定の話ですが,卵がアブラムシ集団の間にあったり,卵のすぐ傍にアブラムシが一匹でもいたら,生まれたばかりの幼虫はどんな行動に移るでしょうか。ただし,幼虫がアブラムシを“餌”と認めた場合の話です。
それを考えるヒントを,このほど得ました。卵から孵ってほとんど時間の経っていないと思われる幼虫が,殻の脇で,アブラムシを食べているのが観察できたのです。下写真です(幼虫の体長は1.5mm)。
殻は,すぐ前まで幼虫が入っていたものでしょう。事の流れを推測すれば,生まれ出たその場にアブラムシがいた,それを幼虫が認知した,そして同時にそれを餌と認知した,結果さっそく食べ始めた,ということなのでしょう。すべて遺伝子の導く業です。
それにしても,幼虫のどこでそれを認知したのでしょうか。嗅覚か,視覚か,触覚か。ふしぎふしぎ。
これまで観察してきた状況は,ヒラタアブの幼虫はアブラムシを食べることにおいては目が無く,大食漢であることを物語っています。ことごとくそうでした。動物の行動は,基本的には,食べるために動く(運動する)という点で共通しています。逃げるという行動も,他の動物が我が身を“食べる”,つまり食べられるという点から身を守るために起こるものです。
したがって,ヒラタアブの幼虫の姿は非常に動物的だと言い表すことができます。
わたしが関心を抱くのは,生まれたばかりの幼虫が一休みをするのか,それともすぐに食餌行動に移るのか,という点に絞られます。写真の幼虫は,たぶん,一休みをすることなくアブラムシを口にしたのではないでしょうか。
こう考えると,食にかける幼虫の貪欲さやたくましい生き方は,種としての生存競争を生き抜く,この種ならではの戦略に思えてきます。どんどん食べて,どんどん早く成長してという知恵です。ただ,それにとどまるわけではありません。そんなことだったら,一人勝ちになります。どんな戦略を講じて生き抜こうとしても,天敵がきっちり現れます。生きものの世界には,圧倒的に強いスーパースターは存在しません。
自然界はとにかくうまくできていて,バランスが保たれています。じつに多様ないのちが織り成す世界です。それを垣間見るおもしろさがわたしにはあります。