ジャコウアゲハの生態を追っていると,「大まかにはこういえるが,そうでない場合もたくさんある」という例によく出会います。例外例といえるものなのですが,じつは,生きものの世界はそう厳密に成り立っているわけではなく,あいまいさが多い感じがします。このあいまいさこそがファジーさを生み出しているのですが,いのちにかかわる諸相は多様で豊かですから,ファジーであることが当たり前のようにも思えます。
今回は,卵の産み付け場所についてご紹介しましょう。これまでに,食草以外にも,竹や植木鉢,イネ科植物などに産んだ例を取り上げました。植木鉢の例では,産んでいる場面の写真を載せました。
産卵場所についていえる原則は,ウマノスズクサの裏側に産み付けるという点です。産卵時の格好は,からだを曲げて排卵孔を葉の裏に付けます。アゲハはそういう産み付け姿勢を,遺伝子情報として受け継いでいるのです。
葉の裏であっても,中ほどでなく縁に近い場所に産むことがあります。それにしても,やはり裏面にはちがいありません。
上写真の例は,明らかにアゲハの産卵姿勢による結果だとわかります。
ところがこの度,葉の表側の縁に産み付けられた卵を見つけたのです。産卵姿勢を想像すると,支柱につかまって葉の裏面に産卵しようとしたはず。ところが表だったのでしょう。
表側でも,縁でなく中程に卵が付いた例が見つかりました。こうした例はめったに見られません。
茎の先端に近い葉です。葉が軟らかくて,垂れ下がっているので,アゲハの産卵姿勢に影響を与えたのかもしれません。
葉の表にわざわざ産むとは考えられません。その場所は,雨や日照り,天敵などの自然条件を考えると,たいへん不利だからです。
そうした中で表に産み付けられるのは,ファジーさの一例といえます。おもしろい例外例です。
ファジーといえば,次の例もその一種です。竹に産み付けられた卵です。横に茎があることから考えると,アゲハは茎か葉につかまりながら葉の裏側に産卵したつもりになっていたのでしょう。
結局,葉の裏側に卵を産み付けるのが原則なのですが,実態はたいへんファジーであることがわかります。