7月24日、小津安二郎監督“浮草”を鑑賞いたしました。
Tさんの感想です。
ロケ地は志摩でしたね。冒頭を白い灯台と黒のビール瓶の対比で始めたこの作品。監督好みの“赤”がいたる場面で見られました・・・
〇 提灯に書かれた文字
〇 バーの入り口のガラス戸の市松模様
〇 庭先に植えられた葉鶏頭
〇 芝居小屋の消火器セット
〇 アイスキャンディー、かき氷(苺シロップ)。そしてとどめは汽車のティルランプの赤でした。
その、撚りを戻した二人の行く先が“桑名”だったのはちょっと残念。JR四日市駅近くには当時“みなと座”という名の芝居小屋があったらしいので・・・。
他にも“昭和を切り取った”場面のいくつかを挙げますと・・・。
〇 和服・・・昭和30年代はまだ普段着にキモノを着る人が多かったようです(歩きながら帯を結ぶなど朝飯マエ)。笹竹やトンボ柄浴衣は涼しさを呼んでいる。
〇 下駄・・・カラッ コロッ カラッ コロッとリズミカルな音は無言で歩く人の心模様を表しているようです。
〇 団扇と蚊取り線香が夏の風物詩。扇風機でさえまだまだ贅沢品でした。
〇 床屋の剃刀研ぎのベルト(鮫の皮?)・・・阿倉川駅近くで昭和40年頃まで営業していた「山口理容店」を懐かしく思い出しました。
〇 煙草・・・男女共にどんどん吸っていたが、三井弘次が器用に輪っかをポッポッと吹き出すのには驚愕。京マチコの擦ったマッチの捨て方も絵になっていたし。
〇 風呂敷包み・・・昔の人達は、旅をする時でも最小限の荷物をたった一枚の風呂敷包みで。現代人は、何が詰まっているのか大きなキャリーバックをガラゴロと曳く。
俳優について
①京マチコ・・・魅力全開。当時彼女は34歳で、抜群のスタイルと美貌に裏打ちされたあの艶やかさはどうだ。現代の女優で彼女に匹敵する者がいるだろうか?国定忠治は余興(おまけ)で得した感じ。
②バーの女給役の賀原夏子のストリップ(スリップ姿の間違いでした。自分ながら転記間違いに笑ってしまいました。陳謝)はド肝を抜かれた(作品の中では唯一人セミヌード)
③子役・・・台詞の有る子も無い子も実に活き活きしていた。チンドン屋の後ろをついて歩く子、祖母に連れられて芝居小屋に来ている子。3等車の固くて狭い木製の座席に臍を出して眠りこけている子等々。中でも一座の子役の男の子は名脇役。彼は同じく34年製作の「お早よう」でも起用されていた芸達者な“島津雅彦”という人で、子役だけで役者を卒業したとか。今頃(63歳くらいか?)どうしているかしら。
④若尾文子・・・この夏、東京で彼女の出演映画作品が60本上映されているとか。「健康も芸のうち」と言われますが、ずーっと現役を続けている彼女にエールを!
※ 子役の島津雅彦さんは、昭和27年鹿児島で生まれています。日活の撮影隊がロケーションに来た折、当時5歳だった島津が月丘夢路に花束を渡したのがきっかけで映画界入りし東京へ出ましたが、小学6年生の時学業専念のため鹿児島へ戻りました。松竹大船製作の「喜劇満願旅行」昭和45年が出演の最後となっています。当時17歳でした。