<かつてトラファルガーの戦いで、ネルソン提督が乗るヴィクトリー号を支えて大活躍したテメレール(フランス語で勇猛果敢の意)も、今や老朽船と化し、1838年9月6日、テムズ川沿いのロザハイスにあるに向けて曳かれていった。>
<同時代の人びとは、沈みゆく夕陽に彼が託した意味合いを直ちに読み取った。ある批評家は、「壮麗なる水平線は、テメレール号の輝きが栄光のうちに没していくことを詩的に暗示している」と評している。>
<ターナーは展覧会のカタログに、トマス・キャンベル(1777-1844)の詩をベースにした次の2行を載せた。〈戦いにも、吹く風にも立ち向かってきた旗も/もはやその姿をととめず〉。戦艦を曳く小さな蒸気船のマストに掲げられた白い旗は、あたかも降伏のしるしを表しているかのようである。>
●色彩のコントラストで時代の変化を表現
<日没の空の鮮やかな茜色と、迫りくる宵闇の冷たい青色の対比は、白と金色に塗られた帆船の優美な姿と、ずんぐりとした蒸気船の黒ぐろとしたシルエットの対比とも呼応している。ターナーはこうしたコントラストを際立たせるため、現実にはもはやマストもなく、すっかり古びていたテメレール号を、往時の雄姿で描いた。また、本来は西に向けて進んでいるはずのテメレール号の後方に沈む夕陽を描き込むことで、効果的な構図を作り出している。>
□荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』(東京美術、2017)のpp.56-57「時の移ろいと歴史の変遷への思いを投影《戦艦テメレール号》」から一部引用
【参考】
「【ターナー】の松と『坊っちゃん』」
J・M・W・ターナー《解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号》1839年 油彩、カンヴァス ナショナル・ギャラリー蔵
<同時代の人びとは、沈みゆく夕陽に彼が託した意味合いを直ちに読み取った。ある批評家は、「壮麗なる水平線は、テメレール号の輝きが栄光のうちに没していくことを詩的に暗示している」と評している。>
<ターナーは展覧会のカタログに、トマス・キャンベル(1777-1844)の詩をベースにした次の2行を載せた。〈戦いにも、吹く風にも立ち向かってきた旗も/もはやその姿をととめず〉。戦艦を曳く小さな蒸気船のマストに掲げられた白い旗は、あたかも降伏のしるしを表しているかのようである。>
●色彩のコントラストで時代の変化を表現
<日没の空の鮮やかな茜色と、迫りくる宵闇の冷たい青色の対比は、白と金色に塗られた帆船の優美な姿と、ずんぐりとした蒸気船の黒ぐろとしたシルエットの対比とも呼応している。ターナーはこうしたコントラストを際立たせるため、現実にはもはやマストもなく、すっかり古びていたテメレール号を、往時の雄姿で描いた。また、本来は西に向けて進んでいるはずのテメレール号の後方に沈む夕陽を描き込むことで、効果的な構図を作り出している。>
□荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』(東京美術、2017)のpp.56-57「時の移ろいと歴史の変遷への思いを投影《戦艦テメレール号》」から一部引用
【参考】
「【ターナー】の松と『坊っちゃん』」
J・M・W・ターナー《解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号》1839年 油彩、カンヴァス ナショナル・ギャラリー蔵