語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】普通の国になった「幸せの国」ブータン

2013年07月31日 | 社会
 (1)「幸せの国」ブータンは、人口70万人の小国ブータンで、かつては王国だったが、前国王の提唱で立憲君主制に移行した。国王は政治的権限を持たず、国民の選挙で選ばれた議員の中から首相を選出する議院内閣制になった。
 当初は、国王の意向にもかかわらず国民たちが「国王に引き続き統治してほしい」と懇願したが、国王は権力を放棄した。

 (2)そのブータンで政権交代が起きた。現政権に対する国民の不満が高まった結果だ。
 今回の国民議会の国民議会の総選挙は、前回2008年に次いで2回目。47の小選挙区から計47人の議員を選出した。
 前回の総選挙では、ブータン調和党(DPT)が45議席を占める圧勝で、野党の人民民主党(PDP)が獲得できたのはわずか2議席のみ。
 ところが今回は、与党DPTが15議席と惨敗。代わって野党PDPが32議席を獲得する圧勝となった。
 小選挙区だと極端な議席の変動が起きる。これは日本と同じだ。

 (3)ブータンは、国の豊かさ(国の発展の指標)をGDPではなく、独自のGNH(国民総幸福量)に置いている【注】。GNHは、4つの柱から成り立つ。
  (a)持続可能で公平な社会経済開発・・・・経済成長一辺倒ではない思想を示す。
  (b)環境保護
  (c)文化の推進
  (d)良き統治

 (4)王政から立憲君主制へ移行後、与党DPTは、それまでの計画経済から市場経済へ舵を切った。
 ブータンは電気のない地域が多かったため、水力発電所を各地に建設し、町と町とを結ぶ道路網を整備した。こうした公共工事によって、経済が発展した。2011年、GDPの成長率は8.5%と南アジアで1位に躍り出た(2位はスリランカ)。同年の経済成長率は12.5%に達した、とされる。
 GDPを国の発展の指標にしない国でGDPが急成長するという皮肉な事態となった。
 この結果、電気の普及率は95%以上に上昇した(王政時代は65%)。

 (5)すると、各家庭がテレビを購入し始めた。
 ブータン国営放送は、国営放送の常に漏れず退屈な番組が多いのだが、ブータンではインドのテレビ放送も見ることができる。
 豊富な商品のCM放送を見たブータン国民の間で、消費ブームが起きた。
 欲しい商品を買うには、現金収入が必要だ。仕事を求めて首都に出て来る若者が増え、住宅不足を解消するためのマンションやアパートの建設ラッシュが起きた。
 昨夏、首都ティンプーでは、田んぼが埋め立てられ、5~6階建てアパート群が続々と建設される模様が観察された。
 経済が発展しても、首都に多数の若者が流入すると、失業率が高まる。
 加えて、消費ブームに火がついても、これまで鎖国同然だったブータンには工場がほとんどない。
 需要が増えても供給が追いつかない。インフレ発生は必然だった。激しい物価上昇が起きた。
 これに追い打ちをかけたのが、インドからの援助削減だ。
 ブータンは、インドからの援助によって国家財政がかろうじて成り立っている。中国の影響力が自国に及ぶのを恐れて中国とは国交を結ばず、インド軍駐留により自国の安全保障を確保している。インドにおんぶだっこの政治経済なのだが、ブータンに輸出する灯油に対して出ていた補助金が打ち切られ、家庭の燃料代支出が急増し、家計が苦しくなった。その不満が与党に向かった。

 (6)国民の不満は、かかる経済状態に対するものだけではない。
 急激な経済成長は伝統文化の破壊につながる。
 農村地帯では、子どもに対する教育熱が高まり、子どもたちが都会に出ていくようになった。彼らは都会で就職し、農村には戻ってこない。農村部での高齢化と過疎化が進行し始めている。日本の1960年代と同様に。当時の日本農家は、とうちゃんは都会で出稼ぎ、かあちゃん、じいちゃん、ばあちゃんの「三ちゃん農業」だった。

 (9)これまでの「幸せの国」ブータンは、単に経済が遅れていただけの開発途上国にすぎなかったのか。
 経済が発展すれば、さまざまな問題が噴出し、国民の不満が高まる、というごく普通の国になってしまったのではないか。
 ・・・・ところが、政権交代により次期首相に就任予定のツェリン・トブゲイ・PDP党首は、国是であるGNHは今後も引き続き追及していく、とメディアのインタビューに答えている。大方針は変わらない、というのだ。
 ユートピアは存在しない。その現実の中で、国の理想をどれだけ貫けるか。日本がブータンに学ぶべきことは、まだまだある。

 【注】「【社会保障】日本で暮らすブータン人も幸せか ~国民総幸福~

□池上彰「普通の国になった「幸せの国」 ~池上彰のそこからですか!? 128~」(「週刊文春」2013年8月1日葉月特大号)
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【社会】過去5年間で少なくとも723人が自殺 ~韓国のいじめ~

2013年07月30日 | 社会
 (1)2011年の暮、大邸市【注1】内有数の進学校に通っていたスンミン(当時中学2年生)は、いじめを苦に、自宅の高層マンションから飛び降り自殺をした。
 息子は、同級生から拷問同然の暴力を受けた末に自殺したのに、学校側は問題を隠蔽しようとし、まるで被害者に落ち度でもあったかのうように、法廷でも加害者の立場に立とうとした。【イム・ジョン、中学校教師】
 加害生徒(同級生2人)は、長時間続けると人気キャラクターを増やせるインターネットゲームをスンミンに代行させるうち、次第にいじめをエスカレートさせ、多額の現金や高価な服を脅し取るようになった。
 スンミンの両親は共働きだった。加害者は、凶器を用いた恐喝や暴行を被害者の自宅で常習的に行った。ラジオのコードで頚を絞め、犬のように連れ回すなど、人間の尊厳をうち壊す悪質ないじめを繰り返した。
 自宅は唯一といってよい逃げ場だ。その自宅が犯行現場になったので、親にも相談できないまま、死を選ぶことになった。
 スンミンは、苦しみに満ちた日々のことをメモに書き残していた。この「遺書」が証拠となって警察が動き出した。
 学校側は責任回避に躍起になった。被害者遺族に謝罪するどころか、加害生徒を擁護する姿勢まで示した。
 事件の数ヶ月前に事故死していた同じ学校の女子生徒が、実は事故死ではなく、いじめを苦にして自殺していたという事実が判明した。
 イム・ジョンは、法廷闘争を決意した。
 加害生徒は満14歳超となり、刑事責任を問うことができた。初犯の未成年者は起訴猶予にするのが慣例だが、検察は起訴に踏み切った。大法院(日本の最高裁にあたる)は、昨年6月、2人に懲役2年6ヵ月および懲役2年の実刑判決を下した。
 加害生徒の保護者、担任教諭および校長などに対する民事訴訟も提訴され、いずれも原告勝訴の判決が下った。

 (2)スンミン事件は、少年犯罪に対する刑事処罰だけでなく、教育現場の制度が変わる契機となった。
 昨年2月(事件2ヵ月後)、政府の教育科学技術部が「学校暴力根絶総合対策」を発表し、国会に校内暴力に特化した「学校暴力対策特別委員会」を設置した。
 同年5月、異例の速さで「学校暴力予防および対策に関する法律」を公布した。
 政府の総合対策は、次の4本柱で構成される。
  (a)学校長と教師の役割および責任の強化
  (b)申告・調査体系の改善および加害生徒に対する措置の強化
  (c)予防教育の拡大
  (d)保護者の教育拡大
 被害生徒を保護するため、各学校に独自の対策自治委員会を設置させ、校内暴力だけを担当する「相談教師」の雇用も義務づけられた。
 被害生徒からの通報や相談の窓口を一本化するため、「117」番のワンストップダイヤルでつながる「学校暴力申告センター」を全国17ヵ所に設け、24時間体制で運用することになった。

 (3)一方、加害生徒に対しては、加害事実の成績簿への記載、対策自治委員会の判断による強制転校も可能になり、全般的に厳罰化傾向が強まった。
 しかし、成績簿への記載は受験に直接影響するため、人権問題に発展しかねない・・・・という主張もある。
 強制転校させられる問題生徒を受け入れる学校側の事情もある。
 現場の混乱は、簡単には鎮静しない。

 (4)一罰百戒を狙った拙速な対策は、さしたる効果をあげていない。「相談教師」は1年契約の非正規職なので、必ずしも専門性があるとは言えない。117番は、匿名の通報を受けると学校側に連絡して調査を促すので、誰が通報したか、知れわたってしまう恐れがある(被害者保護の意識が欠けている)。責任回避を優先する学校の隠蔽体質が変わったとは思われない。【イム・ジョン】

 (5)昨秋、教育科学技術部が、小学校高学年から高校までの514万人を対象に、「第二次学校暴力実態調査」を実施した。深刻な校内暴力が11万件あった。なかでも中学校での被害がもっとも多い。
 昨年末から今年にかけて、「青少年暴力予防財団」が実態調査を実施した。校内暴力の被害者の半数近くが自殺を考えたことがある、と回答している。
 教育科学技術部が作成した資料から割り出された自殺生徒数は、昨年前の過去5年間に723人。だが、校内暴力を原因とした事例は11件しか報告されていない。

 (6)イ・ジェホ・「学校暴力被害者家族協議会」本部長は、次のように指摘する。
  (a)統計で示された家庭問題256件、うつ病122件、その他182件のほとんどが、成績といじめを苦にした自殺に二分される。
  (b)異常な競争原理が家庭や教育現場で横行している。<例>成績を維持するのが辛く、順位を落としたら親に申し訳ない、とトップクラスの優秀な生徒が自殺。
  (c)生徒は、ストレスのはけ口として、殴ったり殺したりする場面が映し出されるネットのゲーム感覚【注2】で弱そうな子を標的にしたいじめを繰り返す。
  (d)クラスに序列のようなものができあがり、いじめられる子が決まると、残りの大多数は。自分の身を守ろうと、加害生徒寄りの傍観者に徹する。勇気をもって仲裁に入ろうとしても、親から「絶対に関わるな」と言い聞かされる。
  (e)生徒の厳罰は必要だが、変えるべきは保護者と教師の意識だ。

 (7)いじめと自殺を防ぐさまざまな取り組みが始まっている。
   (a)加害生徒の「立ち直り」を目的とした施設の全国各地における建設。【韓国教育当局】
   (b)被害者に対する配慮欠如が不毛な訴訟に発展しやすいため、学校や加害生徒の保護者に対する説得。
   (c)校内暴力から被害生徒が一時的に避難できる代替教育の場の設定(今年7月に「学校暴力被害者学生総合支援センター」が開設)。

 【注1】テグ市。韓国東南部の都市。
 【注2】韓国で、一日も欠かさずオンラインゲームに熱中する生徒の割合は11.4%(非常に高い)。サイバースペースで横行するいじめに関する国際的調査(「全世界のサイバーいじめ」)によれば、韓国における416人の調査対象者のうち43%が暴言、脅迫、中傷、仲間外れなどのいじめを経験していた。サイバー世界に蔓延する暴力性が、現実の生活に移し替えられ、受験一辺倒の競争社会で疲弊した子どもたちの犯罪を助長している。

□ベ・ヨンホン(ジャーナリスト)「政府の総合対策でも歯がたたない韓国のいじめ問題 過去5年間で少なくとも723人が自殺」(「週刊金曜日」2013年7月26日号)

 【参考】
【スウェーデン】いじめ防止の取り組み
【社会】教育委員会は壊すより立て直す方が賢明
【社会】教育委員は何をなすべきか ~民意を汲みとる~
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【社会保障】「救急医療たらい回し」を救え ~埼玉・神奈川・佐賀の挑戦~

2013年07月29日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)救急崩壊が止まらない。
 救急車の出動件数は、年々増加の一途で、昨年は全国で過去最高の580万件超となった。
 他方、救急病院の数は増えるどころか、中核救急病院(二次救急病院)はこの10年間で、神奈川県では66、埼玉県では25も姿を消した。

 (2)埼玉県川越市に、3年前、「川越救急クリニック」が生まれた。医師は、上原淳(49歳)・院長のみ。ほかに看護師2人。開業時間帯は、救急が忙しい夜間だ(16時から翌朝9時まで)。この時間帯に、多い時には救急車が1日15台も来る。救急車の受け入れは20時頃からが多い。かくて、「川越救急クリニック」は、たらい回しされて行き場のなくなった救急患者の駆け込み寺となった。
 <例>男性、75歳、道で「頭がふらついて転倒」・・・・この訴からすると、単なる転倒だけではなく「脳の異常」リスクが加わっていることが推定され、診断するには整形外科と脳外科の2人の専門医が必要となる。しかし、2人ともそろっている医療機関はなかなか見付けがたい。たらい回しになる。
 しかし、この場合でも「川越救急クリニック」は受け入れる。なぜなら、上原医師は身体全体を診る「救急専門医」だからだ。
 実は、日本にはこの救急専門医が圧倒的に不足している。整形外科医1.7万人に対し、救急専門医は3千人しかいない。 ために、複数の疾患の可能性がある患者の受け入れは断られることが多くなってしまうのだ。
 ちなみに、<例>の患者は、CTでは脳に異常はなかったが、レントゲン検査で大腿骨骨折が判明。救急クリニックでは手術はできないが、要治療が骨折だけと判明すれば受け入れる医療機関はすぐ見つかる。事実、転院先はすぐ見つかり、しかも患者の自宅のすぐそばにある病院だった。

 (3)日本の救急病院は次のように分類される。
  (a)一次病院・・・・帰宅可能な軽症患者を受け入れ
  (b)二次病院・・・・要入院の中等症患者を受け入れ
  (c)三次病院・・・・緊急治療・手術が必要な重症患者を受け入れ
 この日本型システム上最大の問題は、医師の診断前に、症状の重さを患者、家族、救急隊が決定しなければならない点だ。ために、本当は重症だった患者が(a)に行って手遅れになったり、軽症患者が(b)や(c)に行って救急医を疲弊させている。
 埼玉県には、(b)が130施設もあるが、救急専門医は110人しかいない。しかも、その中の60人は(c)にいて、(b)には28人しかいない。救急医のかかる偏在も大きな問題だ。【上原医師】

 (4)米国やカナダでは、ERシステムをとる。軽症から重症まで全ての患者を救急総合医が見て、病名と重症度を診断する。ER医師の役目は診断のみ。軽症患者の初期治療は行うが、それ以外の患者は、それぞれの専門医にバトンタッチする。
 日本でもERシステムをを採用している病院はあるが、そのどこも、治療のために専門医チームを同じ病院内に備えている。
 この窓口であるERだけを独立した施設にしたものが川越救急クリニックだ。 
 救急病院の一番の氏名は、一刻も早く診断して、高度な医療機関に行く必要のある人を選別(トリアージ)することだ。「川越救急クリニック」では、高度な治療が必要な人は、すぐ近くにある大学病院の救命救急センターに搬送する。【上原医師】

 (5)川越救急クリニックのような診療所は日本初の施設で、画期的な試みだ。ただし、経営は苦しい。2億円の借金でクリニックを作ったが、想定していた「救急告示病院」の認定を受けられなかった。救急告示病院とは、厚労省の定めに基づき県が認定するもので、認定されると診療報酬において優遇される。
 <例>救急車1台の受け入れにつき、診療報酬が200点加算される。年間千台受け入れる川越救急クリニックは、それだけで年間200万円の診療報酬を受け取ることができる。
 しかし、24時間対応ができないことが大きなネックとなって、認定されなかった。こうしたことから、多数の患者を受け入れても収入はなかなか伸びない。
 ローンやスタッフ人件費を払うと、上原院長の手元に残る年収は、僅か200万円だ。
 借金返済のため、週3回、他の病院で麻酔医として働く。週4日は16時から9時まで川越救急クリニックで勤務し、週3日は8時から18時まで他の病院で麻酔医として勤務する。平均睡眠時間は3時間だ。仕事が重なる火曜日は完徹で、次の仕事に向かう。
 本来、救急システムがしっかりしていれば、こんな小さな救急クリニックが存在する必要はない。しかし、今の日本、特に埼玉ではこのような施設を必要とする人がたくさんいる。そのことがわかったことは大きな収穫だった。【上原医師】

 (6)救急車が患者宅に到着してから搬送先の医療機関を見付けるまでの待機時間が、全国の政令指定都市でワーストワン・・・・だったのが、神奈川県川崎市だ。
 そこで、「最後の砦」的病院が誕生した。昨年6月、大幅リニューアルした「川崎幸病院」がそれだ。川崎市重症患者救急対応病院の指定を受け、「救急患者を絶対に断らない」という目標を掲げて新しい試みを始めた。
 一般的に言って、救急病院が患者を断るのは、①専門医がいない、という理由のほか、②慢性的なベッド不足も理由だ。
 川崎幸病院はERシステムを採用しているので①はクリアしているが、ベッドが満床の場合はやむなく断っていた。これでは「最後の砦」になれない。そこで、満床であっても救急患者を断らなくても済む新たなシステムを開発した。
 ベッド満床時に患者を受け入れt場合、ERシステムで患者を診断した後に他病院へ転送することになる。ここで大きなネックになるのが転送作業だ。医師・看護師は診療や看護で忙しく、その作業をする余裕がない。また、転送のための救急車を持つ病院も少ない。こうした事情から転送を前提に救急患者を受け入れる病院はほとんどない(現状)。
 川崎幸病院は発想を転換した。転送作業を専任で行うセクションを作ったのだ。「救急救命士」【注】を「救急コーディネーター」と名づけ、転院業務先任者として雇用した。現在、救急コーディネーターは17人。日勤と夜勤の2交代制で、常時3~5人が勤務する。彼らは、救急車からのホットラインの対応、診療・検査・治療などの医療職の補助も行い、転院が必要となった場合、一時的に簡易ベッド(「ホールディングベッド」)に患者を移し、転院作業を開始する。
 転院先を決めるまでの時間は、目標は1件1時間だが、予定どおりにはなかなか終わらず、5~6時間かかることもある。1日で80もの病院に連絡することもある。時間帯としては夜中、季節としては冬(特にインフルエンザ流行期)が大変で、高齢者や酩酊者は転送が難しい。

 【注】約20年前にできた資格。プレホスピタルケア(医療機関到着前医療)の専門職。救急車内で「除細動」「気管内挿管」などを行う。基本的に、職場は救急車内。有資格者45,000人のうち6割は消防署員で、残り4割は資格を持ちながらその力を発揮できる場がない。

 (7)佐賀県医務課は、「iPad」(アップル社)を活用した「99さがネット」を作った。2年前から、県内全域に適用されている。
 「iPad」の画面に、県内全ての救急病院の情報がほぼリアルタイムで表示される。「見える」情報は、大きく次の2つだ。
  (a)県内のどの病院にどんな専門医がいるか。専門医は、20項目(脳外科・整形外科・救急専門医んまど)に及ぶ。脳外科と整形外科の両方の専門医がいる病院、救急専門医のいる病院が一目でわかる。
  (b)どの病院がどのくらい搬送を受け入れているか。どの病院が搬送を断っているか、もわかる。断った理由もわかる。救急隊が書き込む。
 この「iPad」を使えば、救急病院の現状がリアルタイムに見えてくるので、無駄な電話をする必要がなくなった。
 救急隊(消防署)の管轄外の情報も簡単に入手できる点で、システムが効果を発揮する。
 このシステムでは、救急病院の側も情報を共有できる。これまで、どの病院がどんな理由で断っているのかわからなかったが、互いの病院の状況が詳しく「見える」ようになった。互い、あそこがそれだけ頑張っているのなら、うちでもそんなに断れない、という良い意味での競争が生まれた。情報の「見える」化で、病院と救急隊との関係も非常に紳士的なものに変わった。
 このシステムは、現在、栃木、群馬、奈良などで使われている。群馬では、採用から1ヵ月で、救急病院が出した受け入れ不可の件数が、110件から75件に大幅に減った。

□塩田芳享(ジャーナリスト)「「救急医療たらい回し」を救え 埼玉、神奈川、佐賀の挑戦」(「週刊文春」2013年8月1日葉月特大号)
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【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~

2013年07月28日 | 社会
 (1)李克強・中国首相の経済政策を指すニックネーム「リコノミクス」が急速に普及している。
 リコノミクスは、次のの3本柱から成る。
  (a)刺激策はしない。
  (b)レバリッジ(借り入れを伴う高利回り投資)からの脱却。
  (c)構造改革。
 狙いは、バブルが崩壊しかけている中国経済の建て直しだ。
 2008年のリーマン・ショックを皮切りに世界金融危機が巻き起こった際、中国政府は4兆元(当時のレートで57兆円)の巨額を投じて景気刺激を実施し、景気を短期間で回復させることに成功した。しかし、その「後遺症」は深刻化する一方だ。
 産業構造がいびつになり、造船・セメント・板ガラスなどの産業で生産量が過剰になった。地方政府が設立した第三セクター「融資平台」による公共工事が膨張し、不動産価格が高騰した。李首相は、経済成長を犠牲にしてでも経済構造を改革しようとしている。

 (2)リコノミクスの影響は、中国経済にはっきりと及び始めた。
 6月、上海銀行間取引金利(SHIBOR)が2度にわたり過去最高に跳ね上がり、上海証券取引所の株価が暴落。
 7月5日、民間造船最大手「中国溶盛重工集団」(江蘇省)は資金繰りが悪化し、政府に支援を求めたことを発表。
 7月19日、中国人民銀行(中央銀行)は市中銀行の貸出金利を自由化すると電撃的に発表。
 ・・・・と、世界のメディアが報じる大ニュースが立て続けに発生している。
 危機が差し迫っていた2008年以来、中国政府が刺激策を採らなければ2,000人以上の労働者が失業すると想定された。今は状況が全く異なる。有効求人倍率は1年以上1倍超で、失業者増を心配しなくて済む。
 要するに、リコノミクスは人民に「痛み」を伴う改革なのだ。
 李首相は、「中国が先進国に仲間入りするためには、発展途上国体質の改革が急務」という危機意識を強く持っている。途上国体質の代表例は、ヤミ金融(シャドーバンキング)だ。それを撲滅しようとしている。

 (3)シャドーバンキングとは、その英語の原意は「ノンバンク」に近く、銀行を介さない金融業務のことだ。ヘッジファンドはその一例だ。
 中国のシャドーバンキングの中心をなすのは、①「理財商品」と②「委託貸し付け」だ。
 中国で資金需要が最も多いのは、中小企業と不動産関連プロジェクトだ。銀行は、事実上、融資できない。政府が厳格に定める預金準備率や貸出金利が妨げになるからだ。そこで考案されたのが①と②というわけだ。
 ①は、金融商品の一種で、投資家から集めた資金を中小企業や不動産開発プロジェクトなどに振り向け、リターンを投資家に還元する仕組みだ。
 ②は、政府が債務保証するため信用力が高い国有企業が銀行から融資を得て、それを信用力の低い他社に又貸しする仕組みだ。
 ちなみに、①は日本ではあまり普及していない私募ファンドのようなものだ。銀行の預金金利だと年2.5%ほどしか得られないのに対し、①は年5~6%の利回りになることが多いため人気がある。
 本来、銀行は融資できない企業に、①を介した投資の形態で資金を回す。銀行業管理委員会(金融庁)によれば、投資額は2009年から8倍に膨れ上がり、3月末現在、8兆2,000億元(130兆円)に達した。 
 最近では競争が激しくなり、2桁台の利回りを標榜して実態が不明朗なプロジェクトに投資するものが増えている。投資先が倒産するなどして投資家に資金が戻らないケースが数件報じられている(実際にはもっと多く発生)。

 (4)(3)-①の決算期は6月末に集中する。投資家に戻す資金が大量に必要になる。
 銀行もノンバンクも資金を得ようとコール市場で調達したが、ふだんの資金需要が多い時期と異なり、人民銀行が資金を放出しなかった。そこでSHIBORが過去最高に急騰してしまった。中国人民銀行が資金を供給しなかったのは、今まで黙認してきた①を減らすためとみられる。
 (1)-(b)が発動されたのだ。
 SHIBOR急騰のショックは、たちまち上海株を暴落させ、余波は世界に拡散した。
 不安覚めやらぬ7月5日、香港証券取引所に上場する「中国溶盛重工集団」は資金繰りが悪化して政府・銀行に支援を求めていることを発表した。
 しかし、国務院は同日、次のような内容の「指導意見」を発表した。
 <盲目的な投資が生産能力の過剰を悪化させることを防止するため、生産能力過剰が深刻な業種、規則に反する建設プロジェクトに対し、いかなる形式でも新規信用供与または直接融資することを厳禁する>
 中国政府は、鉄鋼、非鉄金属、セメント、自動車、平板ガラス、造船、風力発電、太陽光パネルなどを「過剰業種」に指定している。
 政府は、「中国溶盛重工集団」を始めとする造船会社を過剰業種に指定し、これまでも銀行融資を厳しく制限してきた。世界的な需要減に直面する中、何らかの手段で資金を得ていたはずだ。(3)-①か②かは不明だが、シャドーバンキングを使って資金調達していた可能性がある。(3)-①の解約が増えたことで資金繰りが悪化したのかもしれない。

 (5)シャドーバンキングの総額がどれぐらいの規模になるか、不明だ。欧米金融各社は35兆元(560兆円)前後の数字をあげている。
 中国の銀行融資の半分ぐらいはシャドーバンキングに頼っている(推定)。本当に全部つぶすと、企業や地方政府が使える資金は半分しか残らず、企業が大量破綻しかねない。

 (6)(5)の懸念があるさなかの7月19日、人民銀行は銀行貸出金利を自由化する、と電撃発表した。
 銀行間競争が激化し、リスクが高い企業に融資を振り向け、シャドーバンキングの拡大を抑える狙いがある、と目される。
 むろん、造船・鉄鋼などの「生産過剰深刻業種」には融資できない。
 一時の痛みを乗り越えられれば、中国は途上国的体質を払拭し、日本より筋肉質な経済大国に生まれ変われる。
 けれども、企業倒産が相次いで失業者が増大すれば、社会不安を招く可能性がある。
 高度成長期の日本、1980年代の韓国や台湾では、大規模な反政府デモが起き、政治体制の変革を強いられた。 
 経済の減速に目をつぶってでも構造改革をする、というのは、これまでの中国にほとんどなかった。北京(党中央)の長老は、失業者が増え、天安門事件のような大規模民衆デモが起きいることを恐れていたからだ。しかし、李首相のシャドーバンキングつぶしは本気らしい。対処に失敗すれば、経済特区の広東省深圳辺りでデモが始まるかも。当局の対応次第で全土に広まり、大混乱する恐れがある。

 (7)日本にどんな影響が及ぶか。
 少々の景気減速で収まった場合、日本にとってはさほど影響はないどころか、プラスの影響もあり得る。
 しかし、中央政府が経済構造をトップダウンで変革しようとすると、たいてい失敗した(過去の経験)。あまり急進的な政策を推し進め、金融が大混乱に陥れば、アベノミクスによる株高や景気回復も消し飛ぶ。1997年には消費増税とアジア通貨危機が重なり、その影響で翌年の成長率がマイナスになった。
 日本のGDPに占める輸出の割合は14%、うち対中輸出は18%。つまりGDP2%少々を対中輸出で稼いでいる。
 懸念されるのは、リーマン・ショック後に円高が進み、中国進出熱とともに生産拠点を移した日本企業だ。昨年から今年にかけてようやく工場が完成し、これから元を取る、という会社が少なくない。その今、タイミング悪く中国経済がおかしくなったら、連鎖破綻が日本企業に及ぶ。大企業では、工作機械の数値制御装置で世界大手のファナック(中国の売上高比率が高い)、建設機械のコマツや日立建機といいった業種は巻き添えをくらう。
 経済不安が政府批判に直結すれば、中国は「反日カード」を切るだろう。
 アベノミクスは震駭する。

□谷道健太(ジャーナリスト)「「アベノミクス」を襲う中国影の銀行」(「サンデー毎日」2013年8月4日号)
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 【参考】
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド

【食】成型肉の発癌リスク ~原発事故被曝牛も激安焼肉店に~

2013年07月27日 | 社会
 (1)焼肉店で成型肉が多いベスト・スリーは、カルビ、ハラミ、タンだ。
 タンの成型肉は、肉をふつうにカットすると形にバラつきが出るので、同じ形にカットするために、折り曲げて結着しているケースが多い。牛タンの喉のあたりは筋肉だから丸くなっていない。いろんな部位を集めて丸く形を整えているのだ。
 カルビは、霜降り加工以外に、赤身と脂身を二層に結着している場合もある。

 (2)店側はよい肉を使っているかのようにアピールしたいので、成型肉を使っていることをあまり知られたくない。だから、「やわらか加工を施して食べやすくしています」などと書いて、消費者が逆に「いい肉だ」と勘違いするような表示が目につく。
 「よく焼いて食べましょう」という表示は、「自己責任で食べてください」という意味だ。

 (3)成型肉は、見た目だけでは天然の肉と区別できない。だが、七輪で焼いてみると、肉厚の成型カルピ肉などは、トングで挟むだけで結着した筋に沿って肉がバラバラに崩れたり、肉の脂に火がすぐにつき、中まで火が通っていないにも拘わらず表面がすぐ焦げてしまう。その肉をトングで押すと、中からどんどん脂が溢れてきて、残った肉は縮れた筋肉のようになる。薄い成型カルピ肉も、焼くと火が出やすく焦げやすい。焼き加減が非常に難しい。
 焦げた肉は発癌リスクがあるので、なるべく食べないほうがよい。他方、成型肉は焦げるほどしっかり焼かないと食中毒が懸念される。だから、成型肉は避けたほうが安心だ。

 (4)肉の焦げは昔から体に悪い、とされている。近年、様々な調査報告が発表されている。
  (a)高温で焦げるほどに調理された肉を食べ続けると、膵臓癌になる恐れが60%以上高くなる。【ミネソタ大学、2009年】
  (b)豚肉や牛肉の赤身肉を週に1.5回以上フライパンで焼いて食べている人は、進行性前立腺癌の危険率が30%も上昇する。直火焼きなどで高温調理した赤身肉を週に2.5回以上食べると危険率はさらに40%まで上昇する。【アミット・ジョシー博士らの研究チーム、南カルフォニア大学公衆衛生学教室】

 (5)高温調理すると、蛋白質から発生するHCAs、脂質の焦げ部分に含まれるPAHsなどが癌物質に変化するため、発癌性が上昇する可能性が高くなる。だから、焦げた人工霜降り肉なぞ、とんでもない。そもそも、脂だらけの肉は動脈硬化を引き起こす飽和脂肪酸が多分に含まれているのだから。【白澤卓二・順天堂大学大学院医学研究科教授(加齢制御医学講座)】

 (6)成型肉のほか、激安焼肉店を支えているのは、安価な外国産牛肉だ。
 今年2月、米国産牛肉の輸入月齢が30ヵ月以下まで緩和された。ために、米国産牛肉が大量に日本に入ってきている。
 米国産牛肉のなかでも9,激安焼肉店で一番重宝されるのが「タン」だ。米子気宇では牛タンを食べる食習慣がない。国産牛の3分の1ほどの価格で仕入れることができる。
 だが、米国産のタンは、BSE問題がクローズアップされた時期に、扁桃などのプリオンが溜まりやすいとされる危険部位がタンについたまま輸入されるケースが再三あった。<例>「トロタン」として出されている脂肪部分が付いたタンは、扁桃が近い下の付け根の部分だ。

 (7)激安焼肉店の中には、国産牛しか使っていないところもある。
 だが、ある焼肉店に表示してあった個体識別番号を調べてみると、「H23 11 06 去勢(雄)ホルスタイン種」とあった。この牛は、一昨年11月に福島県二本松市で出生後、1ヵ月で栃木県に売られていた。福島県の酪農関係者によれば、この年に誕生した福島県の牛は、原発事故の影響で全く売れなかった、という。
 最近では、ホルスタイン種の去勢された雄の仔牛の売値は、4~5万円。原発事故の後は、売れても仔牛で1~1.5万円くらいだった。それでも売れない牛なんてたくさんいた。この店で出している牛は、出生が2011年11月だから、種付けは震災が起きる直前の1月か2月。餌にもよるが、仔牛が胎内にいる間に母牛が被曝した可能性8もある。この年の7月に牛肉から放射性物質が検出されたが、これは飼料由来のものだった。餌が汚染されていた福島県、栃木県、宮城県、岩手県は、一時期出荷制限を行っていた。この仔牛は出荷制限解除のすぐ後に生まれたことになる。【福島県の酪農関係者】

□椎名玲(ジャーナリスト)+本誌取材班「「激安ニセモノ食品」が危ない ①焼肉チェーン店編」(「週刊文春」2013年7月18日号)

 【参考】
【食】安い牛肉の食中毒リスク ~成型肉~
【食】安い回転寿司の吐き気がする事実 ~代用魚・添加物・薬剤~
【食】【TPP】多くの食品衛生法違反 ~交渉参加国からの輸入品~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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【食】安い牛肉の食中毒リスク ~成型肉~

2013年07月26日 | 社会
 (1)肉を安く出せるには訳がある。
 5トンの材料から11トンのハムができる。

 (2)今年4月、焼肉大国の韓国で、クズ肉を集めて人工的に作られた「整形カルピ」が大量に出回っていることが報道され、国民にショックを与えた。米国、ドイツなど産地が異なる牛肉にクズ肉を結着した「多国籍カルピ」、骨のない外国産牛肉に食用接着剤で骨を付けた「骨付きカルピ」が、韓国産牛肉に偽装されていたのだ。日本人観光客が多数訪れる有名焼肉店でも出されていた、という。

 (3)実は(2)のような加工肉は我が国でも珍しくない。40年ほど前に開発された「成型肉」がそれだ。当時、牛肉は高級食材だった。捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くよう加工した。
 <例>スーパーなどで販売されているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。赤身肉と脂身が不自然に混ざり合い、一目で人工的に作られた肉であることがわかる。

 (4)技術の進歩もあって素人目には天然の肉と見分けがつかない「霜降り加工」を施した成型肉が安価な焼肉店、ステーキ店、しゃぶしゃぶ・すき焼き店、ファミリーレストランなどに出回っている。
 食べ放題、1皿200~600円台のカルビ肉を出している激安焼肉店、千円以下で提供しているステーキ肉店・・・・では、大量に成型肉を使っているところもある。
 米国、オーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜降り加工肉を作るケースが多い。脂は国産のほうが上。牛脂の質がよいと、どんな肉でも美味しく化けてしまう。とはいえ、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があるし、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加えたりする。

 (5)成型肉を大別すると、次の3つあって、こうした成型肉の製造・販売は合法ではあるが、品質をごまかしやすく、消費者は知らずして食品添加物を摂取してしまう可能性がある。
  (a)結着肉・・・・ハラミなどの内臓・腹横筋・脂身・すね肉・肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めた上で、食べやすい大きさにカットしたもの。結着剤の中に含まれていることのあるリン酸塩は摂取しすぎると骨を弱くするが、退色防止になるし、弱アルカリ性なので、肉を日持ちさせる効果がある。<例>サイコロステーキ。牛横隔膜などを吸うまい重ね合わせた肉(「ミルフィーユ」)。
  (b)霜降り加工肉(インジェンクション加工肉)・・・・近年めざましく進化。剣山のような注射器針の機械で圧力をかけながら練乳、牛脂を肉に注入して作り上げる。和牛霜降り肉と見分けがつかないレベルに達している。市場規模は年間6千トンにもなり、牛肉のほか馬肉、豚肉にも用いられる。
  (c)やわらか加工肉・・・・肉の筋や繊維を細かく切断し、酵素添加剤を加えて肉をやわらかくしたもの。ハラミなどによく使用されている。その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味つけする場合も多い。

 (6)肉をやわらかくするために主流となっているのが酵素添加剤(パパイン酵素など)。これと結着剤などの添加物を小さなブロックにカットした硬い肉にまぶし、型に入れて押し固めたものが「カットビーフ」なる結着肉。ハムのようにどこを切っても同じ形になる。厚みを指定するだけでロスなくグラム計算できる。
 こうした成型肉は、食べ方に注意しないと食中毒の心配を伴う。成型肉は、しっかり焼かなくては安心して食べられない。スーパーなどで販売する場合、「加工肉」であること、「中まで火を通してください」の表示が義務づけられている。しかし、ステーキ以外の外食産業は、いまだに法的に義務化されていない。ほとんどの消費者は成型肉であることを知らずに口にしている。

 (7)2009年、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で、成型肉の角切りステーキを食べた43人にO-157食中毒が発生した。
 肉は大きなブロックにカットされて運ばれてくるが、肉の外側面は大気、人の手、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすい。他方、肉の内側は雑菌がないので、普通の肉は表面さえ焼けばレアでも食べられる。しかし、成型肉の場合、加工の際に針、刃などで切り込みを入れることで外側の菌が内部まで侵入してしまうことがある。
 だから、成型肉は、仲間でしっかり火を通す必要がある。
 ペッパーランチでは、客が自ら肉を焼いていたため、レアやミディアムで食べた人が食中毒になった。
 ペッパーランチのような食中毒は、いつ起きてもおかしくはない。激安焼肉店に成型肉が大量に流通しているからだ。
 焼肉店では客が自ら肉を焼く。店側の表示が不十分な場合、客が生焼けの肉を食べてしまう可能性が高い。そもそもカルビ肉は、半生で肉の柔らかさが残っている状態で食べるものが美味しい。よく焼いてしか食べることができない成型カルビ肉はを焼肉店で提供すること自体、無理がある。
 東京都は、飲食店に成型肉の中心部を75度で1分間加熱の徹底を指導している。「肉をよく焼いてください」「肉を焼くときはトングを使ってください」などとメニューや貼り紙に表示するよう指導している。

□椎名玲(ジャーナリスト)+本誌取材班「「激安ニセモノ食品」が危ない ①焼肉チェーン店編」(「週刊文春」2013年7月18日号)

 【参考】
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【社会】スノーデン事件が教える国とハッカーの深刻な対立

2013年07月25日 | ●佐藤優
 エドワード・スノーデン容疑者は、24日午後(日本時間同日夜)にも滞在中のモスクワ・シェレメチェボ空港から、政治亡命を申請しているロシアに入国する可能性が出てきた。

□記事「スノーデン元職員入国へ 現地報道 ロシア側の書類整う」(2013年7月25日付け朝日新聞)

   *

 (1)スノーデン事件は、今後の国際秩序に無視できない影響を与える。
 NSAは、シギント【注1】では他国の追随を許さない世界最強の機関だ。
 CIAの元職員でNSAの契約職員だったスノーデンは、有能なハッカーだ。高校教育を修了していないスノーデンがCIAに就職したのは、ハッキングという特殊技能を持っているからだ。ちなみに、米国のみならず英国、露国、イスラエルなどのインテリジェンス機関もハッカーを重要な戦力にしている。
 しかし、正規職員として採用するハッカーに関しては、身辺調査で問題がなくても、思想傾向を数年間かけて調査した後に採用するのが通常だ。
 なぜなら、ハッカーに共通する独自の世界観があるからだ。

 (2)コンピューター・ギーク【注2】たちは、われわれの社会になくてはならない存在になっている。徐々にポジティブな意味合いを持つようになっている。官庁でも企業でも、今日ではコンピューターとネットワークなしでは業務に差し支える。こうしたインフラストラクチャとしてのITはを支えているのがギークたちだ。
 ギーク抜きにシギント活動はできない(インテリジェンス界の常識)。
 しかし、ギークは深刻な問題をインテリジェンス業務に与える潜在的危険性がある。それは思想絡みの問題だ。
 ギークたちは政府、軍、大企業のようなピラミッド型の組織で働くことを嫌っている。そうした組織で働く人たちのことをギークたちは「ワンク(wonk)」【注3】、「スーツ(suits)」【注4】と呼ぶ。 
 ギークとワンクの間の、一種の文化的対立は深刻だ。かつてギークたちは、「われわれは王様も大統領も投票も拒否する。われわれが信じるのはラフ・コンセンサスと働くコードだ」とまで言い放った。
 ワンクたちは、ギークたちの技術力を使わないわけにはいかない。しかし、それは一筋縄ではいかないだろう。安全保障を含めて、われわれの社会システムが技術に依存すればするほど、この文化的対立は深刻になるだろう。
 コンピューター言語を自由に操ることができるギークたちには、言語、民族、国家にタイする意識が希薄なのだ。第三者的に観察すれば、ギークたちの世界観はアナーキズムに親和的だ。

 (3)米国はいま、スノーデンがNSAの契約職員にすぎない、と彼の役割を矮小化することに腐心している。
 しかし、スノーデンが契約職員だった理由は、能力が低いからではない。インテリジェンスに非合法活動は不可欠だ。だから、万一、事故が生じたときに備えて、外部の民間会社の契約職位9ンのカバー(偽装)で重要な任務に当たらせるのだ。スノーデンの年収は、20万ドル(1,980万円)で、かかる高給で処遇していることからも、CIA中堅幹部相当(日本外務省の課長ないし局審議官級、一部上場企業の部長級)の扱いをスノーデンは受けている、と見たほうがよい。

 (4)FBIに逮捕されれば終身刑を受けるリスクを冒して、なぜかかる暴露をスノーデンは行ったのか。
 背後で中国や露国のインテリジェンス機関が動いている、という見方の根拠は薄弱だ。
 スノーデン自身は、「米政府が世界中の人々のプライバシーやインターネット上の自由、基本的な権利を極秘の調査で侵害することを良心が許さなかった」と述べている。これが真実の動機だろう。
 スノーデンの視座は、国家悪を断罪するアナーキズムに近い。CIAは、シギントには強いが、ヒューミント【注5】に弱い。スノーデンの過剰な正義感がはらんでいる危険を採用時にCIAが見抜けなかったことが、この事態を引き起こした原因だ。

 【注1】通信や電磁波を媒介とするインテリジェンス活動。合法・非合法両面での通信傍受を中心とする。
 【注2】ギーク(geek)とは「変人」「オタク」の意。ニュアンスとしては日本語のオタクより悪い印象を与える。
 【注3】ガリ勉野郎。
 【注4】スーツを着ている野郎。
 【注5】人間によるインテリジェンス。

□佐藤優「スノーデン事件が教える国とハッカーの深刻な対立 ~佐藤優の飛耳長目86~」(「週刊金曜日」2013年7月12日号)
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【社会】「ワタミ」の偽装請負 ~渡辺美樹・前会長/参議院議員~

2013年07月24日 | 社会
 (1)渡辺美樹・参議院議員が6月27日まで会長を務めたワタミ【注】は、次の3事業を主力事業としている。
  (a)国内外食(居酒屋)
  (b)介護
  (c)高齢者宅配弁当

 (2)(1)-(c)は、「ワタミの宅配」のブランド名で、主に高齢者の自宅に「まごころ御膳」などの調理済み食材を宅配する事業だ。売上高は388億円と介護事業を上回り、経常利益は27.5億円と国内外食事業をしのぐ(2012年度)。グループの稼ぎ頭だ。
 この事業は、他の事業と大きく異なるビジネスモデルだ。弁当を客のもとへ運ぶのは、ワタミの従業員ではない「まごころスタッフ」。彼らは業務委託契約を結んだ個人事業主なのだ。
 請負の場合、ワタミ側は労災保険料を始めとする社会保険料、業務に係る経費を負担しない。これにより、大幅なコストカットが実現できる。ただし、注文者(ワタミ)は日々の業務に関する指示はできない。当然ながら、勤怠管理、休日管理もできない。請負人は自らの決裁判断で業務を行う。
 ワタミ社員いわく、まごころスタッフは全国各地にある営業所ごとで契約し、そこで担当エリアを与えられる。配達の際の携帯料金、ガソリン代は「自分持ち」。報酬は1軒配達するごとに115円、弁当が1個増えるごとに15円加算される。運べば運ぶほど儲かる仕組みだ、うんぬん。

 (3)と・こ・ろ・が、まごころスタッフは「請負」と呼ぶには極めてマユツバな実態がある。契約書には書かれてないが、「50軒ルール」なる社内の暗黙のルールがあって、累積で50軒を超えた人には新規の客が回されなくなる。「ちょっと数を減らしてくれないか」などとワタミが通告したりする。
 同業他社へ行って仕事をしたら訴える、などと営業所長が脅したりもする。
 会社は細かい指令をたくさん出す。
 「ワタミの宅食」と書かれたマグネットを必ず車に貼れ」
 「産地を問われたら、中国産はほぼ使っていないと言え」
 営業活動までさせる。弁当を取るのを途中で止めた客のリストを渡し、「あななたちにとっても得なんだから、もう1回行って注文するようお願いしてきてくれないか」。
 要するに、「請負」という形態をとりながら、実質はワタミの指揮命令系統下にある従業員と同じ業務を行わせている(疑い)。

 (4)偽装請負を裏付ける社内文書が存在する。
 まごころスタッフの手数料明細書だ。「リーダー手数料」という記載があり、2万円が振り込まれている。
 一部のまごころスタッフを「リーダー」と呼び、業務委託契約にはない仕事をさせていた。その対価として「リーダー手数料」という名目で、毎月1~3万円程度の金額を支払っていた。
 例えば、1日1~2時間、営業所内の清掃、本部から送られてくる文書の管理、電話対応(営業所に社員が常駐していない場合には電話がリーダーの携帯電話に転送される設定にするよう指示される)・・・・といったリーダーの仕事をこなす。
 冷蔵庫の温度を毎朝チェックしてサインせよ、と指示されるリーダーもいた。
 要するに、自ら決裁判断できる請負ではなく、事実上ワタミの労働者であることを裏付けるのがリーダー手数料だ。
 営業所という会社の管理下で働き、対価を受け取っていると労働者性は強い。労働者性を判断する上では、「会社側が指揮・監督していたかどうか」が重要になる。しかし、直接指示していなかったとしても、彼らが作業していたことを黙認することも指揮監督にあたる。だから、このケースは請負でない可能性が高い。広い意味で偽装請負と言える。【菊一功・元横浜労働基準監督署長】 

 (5)ワタミ自身、偽装請負の認識があった。
 リーダー手数料が発生していた業務を請負からパート社員が行うよう、今年3月にワタミ本部から全国の営業所へ通知した。2通のメールのタイトルは、「リーダー手数料支払まごころスタッフの対応について」と「リーダー手数料の廃止に伴うパート社員登録確認について」だ。
 ただし、パート契約はあくまでリーダー手数料を払っていた部分の仕事だけ。弁当の宅配は今までどおり業務委託のままだ。
 つまり、旧リーダー手数料支払い対象者は、請負である「業務委託契約」とパート社員である「雇用契約」の2つを締結している。パートとしての勤務時間は正確には分からないから、ワタミは、リーダー手数料と同額を最低賃金で割った時間分働いたことにして給与明細を作っている。
 同じ会社の密接に関連した業務をしているのに、委託と雇用で線引きしている。企業にとって都合のよい使い分けだ。労基署の監査で指導が入る可能性が高い。
 一般的に企業が個人と業務委託契約を締結するのは、翻訳業・弁護士などの専門性が高い「丸投げ系」の仕事が多い。それ以外の仕事は指揮監督下に置かずに業務を行うことは実質的に困難だ。ワタミの宅食のように実態が労働契約になってしまうと、企業側は労災加入義務などの労働法上の義務を履行していないため違法と見なされる。【浜村仁之・ヒルトップ行政書士事務所代表】
 このように極限までコストカットし、安い労働力で利益をあげる「ワタミ的ビジネスモデル」は確かに一見合理的だ。しかし、短期的に利益だけを追求することは、大量の労働者を痛めつけ、社会的損失となる。【佐々木亮・弁護士】

 【注】「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~

□記事「ワタミ渡辺美樹前会長 高齢者宅配弁当“偽装請負”証拠文書」(「週刊文春」2013年7月18日号)
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【中国】凄まじい貧富の格差

2013年07月23日 | 社会
(1)アラブ王族に肩を並べる「太子党」桁外れのバブルな日々
 北京市内だけで、総資産1,000万元(1億6,000万円)以上を保有する富裕層が18万人にものぼる。
 メルセデス・ベンツの最高級車Sクラスの販売台数は年間15,000台(国別第1位)。
 1億円も珍しくないフェラーリの新車販売ダイスうも日本を抜き、北米に次ぐ世界第2位。
 富裕層の大部分を共産党の幹部が占める。その子息(太子党)は、成人すると北京市内に最低でも3軒の家を持つ。実家、仕事用マンション、パーティ用別荘だ。別荘といっても高級マンション最上階のペントハウスや、中庭付きの伝統様式の豪邸(四合院)で、日本円で10億円相当の物件も少なくない。
 彼らは決まって毎週末に盛大なパーティを開き、仲間の太子党を招く。珍味より安全な食材が重視され、天然飼料で育てられた豚肉(1万円/kg)、完全無農薬のチンゲン菜(3,000円/束)など、市場価格の20~30倍の食材ばかり。
 パーティの目的はインサイダー情報の交換。「例の土地がそろそろ売りに出る」「来年にはあそこの再開発も始まりそうだ」etc.。
 中国に跋扈する大富豪の最近の流行は、昨夏オープンした「ルイ・ヴィトン・メゾン上海」。1点もののオーダーメイドを受け付けているVIP向け店舗。旅行用スーツケースは最低100万円から、靴は50万円から。

(2)摩天楼の地下スラムに暮らす「鼠族」の生活水準
 13億人の中国人民のうち、富裕層は都市部を中心に少なくとも50万人程度存在する。残りの12億9,950万人は貧困に喘いでいる。
 摩天楼の地下に「鼠族」が棲息する。「鼠族」とは、地方から大都市に出稼ぎに来た低賃金労働者のことだ。賃料高騰によりまともな部屋に住めない彼らは、主にビルの地下をねぐらにしている。
 鼠族は、6畳1間に3段ベッドを2つ置き、夫婦、それぞれの両親、子ども・・・・の3世代7人が寝起きする。家賃は月額3,000円程度。窓はなく、炊事洗濯する場所はなく、トイレは共同。食事はインスタントラーメンが主だ。
 彼らの大半は、建設現場で働く。中国では工事が終わるまで一切給料が支払われない(契約)。建物完成後、業者がトンズラすれば、まったくのタダ働きとなる。
 こうした鼠族が北京市だけで100万人以上いる(推定)。

(3)「蟻族」
 国内には100万人の「蟻族」がいる。
 その住処は、都市近郊のマンションの1室。3DKに40人以上の若者が肩を寄せ合って暮らす。1人分のスペースはベッドの上だけ。
 家賃は月額1,000円。
 彼らの多くは、北京大など難関校の卒業生だ。就職先が決まらず、チラシ配りや家庭教師のバイトをして糊口をしのいでいる。
 そんな貧乏暮らしも立ち行かなくなると、彼らは次第に「黒い仕事」に手を染めていく。違法なコピー商品を売りさばくのは序の口で、最近では市販の食用油の10分の1以下の価格の「地溝油」を扱ったりする。これはホテルなどの下水道の汚水から油を分離抽出したもので、闇マーケットで販売する。

(4)年10万件の暴動が発生する「中国版アパルトヘイト」
 中国には3つの階級が存在する。
  (a)特権階級
  (b)「都市戸籍」を持つ人民
  (c)「農村戸籍」の人民 
 (a)は、浙江省のエリート校・江山高校に娘を通わせ、学校が主催する15日間で3万元(48万円)のサマースクールに参加させるため渡米させたりする。7月6日、韓国・アシアナ航空のボーイング777機がサンフランシスコ国際空港で着陸に失敗し、亡くなった中国人3人がそれだった。 
 (b)を見ると、2011年に北京市で働く労働者の平均年収は、56,0000元(90万円)、非民間企業で働く従業員の全国平均年収は42,500元(68万円)だ。
 (c)の農村部の生活は、(b)の何倍も深刻だ。しかも、強固な戸籍制度(中国版アパルトヘイト)によって、貧困地帯からの脱出は認められていない。国民を「都市戸籍」と「農村戸籍」に分断してきたのは、都市部への食糧の安定供給のためだったが、これが現在では差別政策として機能している。
 農村戸籍を持つ者は、農業以外への就業や都市部への移動が厳しく制限される。だが、現実には農村を抜け出して歳へ出稼ぎに行く「農民工」は2億5千万人にのぼる。
 こうした出稼ぎ労働者が「鼠族」になって北京や上海で最底辺の生活を送っている。中国の社会保障は戸籍地での申請が基本なので、彼らは医療、年金、失業保険もろくに受けられない。さらに、農村戸籍の子どもたちは都会の公立校に通うことすら原則としてできない。
 農民工の子弟のなかにも勉学に励み、大学受験をめざす学生はいるが、大学が立地する省の戸籍を持つ学生は、他省の学生よりはるかに合格ラインが低い。北京や上海の大学では、戸籍が「田舎者を排除するシステム」として機能している。
 たとえ一流大学を卒業しても、家柄やコネがなければ、結局は貧困を脱出できない。
 近年、中国経済が好況事業を中心に成長してきたことで、コネや人脈のある党幹部や官僚の子弟の方が就職に有利になっている。企業は学生自身の優劣ではなく、億単位の工事を発注してくれる「父親」の存在を重視する。
 そして、多くの大学生が失業者となり、「蟻族」に身を沈める。現在、中国の大卒就職率はわずか35%。ちなみに、就職氷河期が叫ばれる日本は93%だ。

□記事「のたうつ赤龍「中国」の凄まじき貧富」(「週刊新潮」2013年7月25日号)

 【参考】
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド
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【食】安い回転寿司の吐き気がする事実 ~代用魚・添加物・薬剤~

2013年07月22日 | 社会
 (1)日本の外食産業の市場規模は23兆円。
 うち1兆3千億円(5.7%)を寿司店が占める。
 そして、寿司店のうち4割弱(5千億円)を回転寿司チェーンが占める。

 (2)回転寿司チェーン店が、1皿100円程度の安さで提供できる秘密は何か。
  (a)多店経営に伴うスケールメリット。
  (b)安価な代用魚の使用。
  (c)安い外国産ネタの使用。
  (d)着色剤や食品添加物などを加えて安い魚介類を寿司ネタに加工。

 (3)代用魚。
 7年ほど前までは高級魚を誤認させるような代用魚が多く出回っていた。
   (a)マグロ・・・・アカマンボウ(深海魚)をマグロとして出した。テラピア(外国魚)がタイに化けた。ロコ貝(巻貝)をアワビと表示して出した店も珍しくなかった。だが、水産庁が2007年に「魚介類の名称のガイドライン」で表示基準を細かく定めてからは、代用魚は減少してきている。それでも、消費者が誤解しかねない表示が散見される。
   (b)えんがわ・・・・本来はヒラメを使うが、1匹のヒラメからは4貫ほどしか取れない。よって、回転寿司店で出ることはない。多くの回転寿司店では、巨大魚のオヒョウやカラスガレイを代用魚にしている。ただ、「ヒラメのえんがわ」と表示していなければ違法ではない。
   (c)サーモン・・・・本来キングサーモンを指すが、回転寿司店のサーモンの多くはアトランティックサーモンとトラウト(ニジマス)だ。これらは本来身肉が白いのだが、天然魚はアスタキサンチン(赤い色素が含まれる)を含む甲殻類を捕食することから、身肉がオレンジ色になっていく。回転寿司店のサーモンの多くは養殖だから、身肉はきれいなオレンジ色にはならない。ところが、合成科学物質の着色剤を塗り込んだ餌を食べさせることで身肉に色を付けている。
   (d)いくら・・・・鮭の卵より一回り小さい鱒子が使われていることが多い。
   (e)穴子・・・・江戸前の穴子が出てくることはまずない。ほとんどは中国で養殖されたもので、体長150cm以上にもなるクロアナゴという巨大アナゴを養殖しているところもある。南米で獲れるウミヘビの仲間のマルアナゴを中国で加工して寿司ネタにするところもある。

 (4)外国産ネタ。
 ネタの産地に関してホームページに記載している店も多い。外国産の割合は、4分の3から5分の4ほどとなり、ほとんど外国産と言ってよい。
 外国産の問題は、添加物などの使用を伴う加工の問題と密接に関連している。
 寿司業界には、寿司ネタの卸を専門に扱う水産加工業者(「ネタ屋」)が多数存在する。業者が加工を委託する工場は、ベトナム、台湾、韓国などアジア諸国に点在し、わけても中国での加工が圧倒的に多い。欧州、南米、北米などから中国に魚介類を運び、寿司ネタに加工しているのだ。
 <例>チリ産サーモンを100円で出す場合、店舗の人件費や経費が10円、シャリが8円、日本でネタを加工した場合の加工代が10円、ネタが一切れ20円以上だと、原価率が50%超となる場合もある。ところが、あらかじめ中国で加工すれば加工代は3円で済む。かくて、外国で安い魚を買い叩き、加工は中国で行って原価率を低く抑える。
 魚をさばくなど、人の手で行わねばならない作業は、沿岸部の小さな加工工場で行うことが多い。中国や東南アジアの小規模工場の衛生状態は決して良いとは言えない。浄水不十分、大腸菌の心配がある。
 事実、中国、ベトナム、インドネシア、タイ、韓国から輸入された魚介類から大腸菌などの細菌類が検出されるケースが相次いでいる。エビ、イカ、フグ、タコ、えんがわ、ウナギ、ウニ、しめさば、ホタテ貝、穴子、サーモンなどで違反例が見られる。
 
 (5)外国産ネタ(その2)。
 養殖される穴子、ウナギ、エビ、カレイあんどは、養殖や加工の段階でさまざまな薬剤が使用されている。
   (a)中国やベトナムの養殖場は、下水が流れ込む川の水をそのまま引いたり、狭い生け簀で短期間に人工飼料で大きく育てる。ために、魚のストレスや餌の食べ残しによる水質汚染が原因で病気が発生しやすい。その防止策として、大量の抗生剤や抗菌剤、ホルマリンなどの薬剤が使用されている。
   (b)最近、ベトナムの養殖場でエビの病気が大量発生した。回転寿司の蝦は養殖ものだ。いろんな薬剤が使用されている。やせ細ったエビでも、ポリリン酸ナトリウムを加えると、甘エビや蒸しエビがプリプリになる。ポリリン酸ナトリウムはリン酸塩の一種で、エビの保水剤として使用されているが、摂りすぎると体内のカルシウムとリンのバランスが崩れて、骨の成長を阻害し、鉄の吸収異常などを引き起こす可能性がある。ポリリン酸ナトリウムは加工助剤なので表示義務がない。PH調整剤として一括表示されているだけだ。その存在を知る人は少ない。
   (c)養殖エビは、黒変防止剤として次亜塩素酸ナトリウムを使うケースもある。次亜塩素酸ナトリウムは、強酸性物質と混合すると有毒な塩素ガスが発生する。漂白効果と保存効果があって、食品添加物として認められており、酸化防止剤として使用されている。
   (d)寿司ネタの蒸しエビには20~30の添加物が使用されている。加工穴子も添加物が多い。ウニにも食品添加物が使用されている。身崩れや変色を防止するミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)がそれで、使用すると苦味が出やすい。
   (e)近年、ウニは中国からの輸入量が増えているが、昨年、中国産の生食用ウニから腸炎ビブリオ(食中毒菌)が基準値の14倍以上も検出された。

 (6)回転寿司店の怪。
   (a)奇形魚を出荷している業者もある。「フィーレ」というおろした状態やサク取りした状態で流通している。
   (b)日本では禁止されている有毒ガスの二酸化炭素を外国でマグロやブリに吹きかけて輸入する業者もある。品質が悪くなって黒ずんだマグロに浴びせると、見る見るうちに赤みを帯びてうまそうな血合いの色に変わっていく。
   (c)マグロには皮下出血や血栓が出る場合もある(「うたれ」)。一般の寿司店では返品するか、生で出さないで調理するのだが、「うたれ」マグロを大トロとして出す回転寿司店がある。返品されたマグロを大量に安く仕入れる回転寿司店に再び卸されることもある。
   (d)本来のネギトロは、「中落ち」で作るが、回転寿司店では安価な赤身の部位を使用することが多い。脂が少ないため、クリーム状の食用油脂(ショートニング)や雑魚の魚油を混ぜるのだ。ショートニングはトランス脂肪酸の含有率が高い。心臓疾患、血栓の原因になり、米国や韓国ではショートニングの使用は外食店でも表示しなければならない。ネギトロに入れる人工脂「トロミユ」はショートニング系の半硬化脂で、冷やすと固くなるので寿司ネタにするととゆどよくとろみが出て人気だ。ネギトロには、他にも油を安定させるための乳化剤、旨みを加えるための化学調味料やグリシン、保存目的のPH調整剤などが使用されている。
   (e)納豆巻き用納豆にも化学調味料、酸化防止剤がよく使用されている。「××マヨサラダ軍艦」などにも添加物が大量に加えられている。業務用マヨネーズには、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、保存料などが使用されているものが多い。
   (f)シャリも外部の炊飯加工会社に委託して酢飯の状態で運ばれるケースが多い。寿司の合わせ酢は、米酢と砂糖、食塩、昆布だしが基本。しかし、観点寿司店の多くは、米酢に比べて4分の1から10分の1という安価な醸造酢に化学調味料やPH調整剤、人工甘味料などの添加物を加えている。最近では、醸造酢より安価な合成酢まで登場している。醤油も、脱脂大豆から作られる醤油風調味料を出しているところも多い。

 【注】「【食】【TPP】多くの食品衛生法違反 ~交渉参加国からの輸入品~

□椎名玲(ジャーナリスト)+本誌取材班「「激安ニセモノ食品」が危ない ②回転寿司チェーン編」(「週刊文春」2013年7月25日号)

 【参考】
【食】【TPP】多くの食品衛生法違反 ~交渉参加国からの輸入品~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介類から放射性セシウム~

2013年07月21日 | 震災・原発事故
 (1)福島第一原発2号機近くの海際の井戸から高濃度の放射性物質トリチウムが検出されている。海水汚染の広がりが懸念されている。
 こうした中、同原発から南へ約10km地点で採取した魚介類から放射性セシウムが検出された。
 NGOグリーンピース・ジャパンが福島県で継続的に行っている魚介類調査で明らかになった。
 事故収束から、ほど遠い状況にあることが改めて明らかになった。

 (2)同調査は、今年6月15日から17日にかけて、福島県の5港(富岡港・久之浜港・四倉港・冨神崎港・小名浜港)で、地元漁業者などの協力の下、各港で水揚げされた魚介類を入手し、第三者機関で検査した(ゲルマニウム半導体検出器を使用)。
  (a)サンプル中もっとも汚染値が多かったのは、同原発から南へ約10kmの富岡港で採取した貝類のバテイラ(シッタカ)。91Bq/kgの放射性セシウムが検出された。
  (b)同港で採取したアカモクから10Bq/kgの放射性物質。
  (c)同港で採取したナガアオサから52Bq/kgの放射性物質。
  (c)同港で採取したフクロフノリから81Bq/kgの放射性物質。
  (e)四倉港で採取したアカモクから17Bq/kgの放射性物質。
  (f)小名浜港で採取したアイナメから39Bq/kgの放射性物質。
  (f)小名浜港で採取したマゾイから25Bq/kgの放射性物質。
  (f)小名浜港で採取したスズキから49Bq/kgの放射性物質。

 (3)高濃度汚染水漏洩の原因は未だに特定されていない。
 よって、効果的な対策もとられていない。
 政府や東京電力による調査と対策の強化が必要だ、当然。
 それ以上に、第三者機関による客観的な調査体制の構築が急務だ。地元漁業関係者もそれを求めている。

 (4)グリーンピース・ジャパンは、食卓に並ぶ魚介類の7割を販売するスーパーマーケットに安全対策強化を求めるオンライン署名を実施中だ【注】。 

 【注】「緊急オンライン署名 「スーパーマーケットさん、売っているお魚、放射能検査して!」

□花岡和佳(グリーンピース・ジャパン)「福島第一原発周辺の海水汚染続く 魚介から放射性セシウム検出」(「週刊金曜日」2013年7月19日号)

 【参考】
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
【原発】汚染された魚介類が慢性的に流通 ~スーパーマーケット~
【原発】放射能と東京オリンピック招致
【原発】大手スーパーの真鱈から放射能検出 ~関東・東海地方~
【原発】東京湾の汚染
【震災】原発>東京湾に放射能汚泥が堆積中 ~海の汚染~
【震災】原発>無防備都市--東京を覆う放射能
【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ
【震災】原発>海洋汚染 ~グリーンピースの調査・水産学者の「原子力村」~
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記
【震災】原発>汚染食品のデータをどう読むか
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ
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【社会】「市民参加」の形骸化 ~東京都小平市~

2013年07月20日 | 社会
 (1)5月26日、東京都小平市において、市内を貫通する都道の整備計画見直しの是非を問う住民投票が行われた。大規模公共事業に対する市民の反応を探るよい機会だった。しかし、投票率が50%未満だったため、住民投票は不成立となった。
 この住民投票は、小平市議会が制定した住民投票条例に基づいて実施された。
 そして、この条例は、都道整備計画に疑問を抱く市民たちが、地方自治法で定める直接請求の手続き(有権者の50分の1以上の署名)を経て議会提案にこぎつけたものだ。議会は、市民発議の条例案に若干の修正を施した上で成立させている。

 (2)(1)をつぶさに検討すると、いろんな問題点が浮かびあがる。その一例は次のとおり。
  (a)現行地方自治制度には明らかに欠陥がある。
  (b)草の根自治運営者は、ひょっとして、自治の本質を十分理解していないのではないか(疑念)。

 (3)地方議会に条例案を提出できるのは、議員か首長だ。このいずれも住民に必要な立法に取り組まない場合、住民自身が条例案を発議し、それを議会で審議させる仕組みが補完的に設けられている(条例制定の直接請求)。一定数の署名を集めることで、住民にも条例提案権が実質的に付与される。
 問題は、住民発議の条例案を議会に提出するのは首長であることだ(住民に提案権者としての地位が認められない)。しかも、首長は案するに当たり、自分の意見を付記できる。よって、住民発議の条例案に反対する旨の意見を付することも可能だ。事実、小平市の住民投票条例案も、市長は否定的見解をたっぷり付して議会に提案していた。
 直接請求する市民には、議会で意見を述べる機会が法律上付与されている。小平市の場合、請求代表者3人に合わせて30分間、わずか30分間のみ付与された。市長以下の執行部には、本会議および特別委員会の審議を通じてさんざん自分たちの意見を述べているのに。
 議事録によれば、議員と執行部とが通謀し、両者で条例案を貶し合っている場面もしばしば登場する。
 こんな理不尽をなくするためには、直接請求に基づく条例制定の提案者は、首長ではなく、当の市民とすべきだ。

 (4)議事録を追うと、小平市議会に限らず、我が国の多くの地方議会が患っている「生活習慣病」を発見できる。
 その一つは、常に執行部に相手をしてもらわなければ、議会を成り立たせられない習性だ。
 制度上、議会は議会の意思で独自に運営できる。必要があれば首長やその部下職員を呼んで説明を求めればよいが、そうでなければ執行部を同席させなくてよい。むしろ審議する案件の関係者に来てもらい、説明を受けたり事情を訊いたりするほうが有効な場合が多い。
 その典型が(1)の案件で、請求した市民たちの代表者をまず参加させるべきだった。
 しかるに、(1)の案件の審議に当たり、特別委員会で説明する機会もなければ、議員から質問を受けることもなかった。議員たちは、本来の当事者を抜きにして、ひたすら執行部職員を相手に質疑を繰り返すのみだった。
 住民投票に反対の議員は、執行部から「本件は住民投票になじまない」との答弁をもらって溜飲を下げる。
 住民投票に賛成の議員は、執行部を説き伏せられず、「議論が噛み合わない」などと不満をぶつけている。
 不毛なやりとりに貴重な時間を費消するより、市民代表者を呼んで条例案の内容でも質せばよいのに、議場では執行部以外の人を相手にしなかた。惰性に陥ったままだった。

 (5)「市民参加」が形骸化している。
  (a)市民参加は、都の計画を受け入れることだけを求められているにすぎない。都の住民への説明会は、かなりの時間を都が作成したビデオの上映に充て、残り時間の質疑では多くの人が質問しきれないままだった。
  (b)小平市は、都の整備計画に市が同意したのは「市都市計画審議会」から妥当である旨の答申がなされたからだ、という。しかし、同審議会委員15人のうち3分の1は国や都の公務員だし、2人の公募委員も市が自分たちで選んでいる。審議会委員の一人は、「書類さえ整っていればすべてを認めることになっていた」と告白している。
  (c)「書類さえ整っていればすべてを認めることになっていた」ならば、市の都市計画行政への信頼は大きく毀損される。意見陳述の内容が当たっているかどうか、議会として関係者に糺すべきではないか。

□片山善博(慶大教授)「小平市住民投票に見る自治の不具合 ~日本を診る 46~」(「世界」2013年8月号)
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【原発】新潟県知事を攻撃する官僚の手口 ~問題点を隠蔽して再稼働~

2013年07月19日 | 震災・原発事故
 (1)7月5日、廣瀬直己・東京電力社長と泉田裕彦・新潟県知事との会談が行われた。これは柏崎刈羽原発再稼働申請に関する会談なのだが、決裂して終わった。
 東電と地元自治体との安全協定では、東電が原発関連施設を新増設しようとするときは、事前に地元の了解を取ることになっている。
 今回、東電は、事前了解がないまま、フィルターベント【注】の設置計画を含む柏崎刈羽原発再稼働申請を行う、と発表した。明らかに協定違反だ。

 (2)マスコミは、泉田知事が、(1)の手続き違反を利用して東電を批判し、再稼働を止めようとしている、と報道した。
 しかし、これは上っつらだけを捉えた報道だ。
 本当はもっと根深い問題がある。しかるに、それが報道されない。
 肝心のことが報道されない裏に、原発推進官僚による世論誘導があった。物事の本質から目をそらさせ、あくまで単なる手続きの問題にすぎない、と国民に思わせたいのだ。

 (3)さらに、(2)の世論誘導の一環として、「変人泉田」作戦が展開されている。
 経産省や規制庁の役人が、「泉田知事は昔から変人で有名だった」という悪口を流布しているのだ。
 とんでもないデマだ。
 田中俊一・原子力規制委員会委員長も、経産省から出向している規制庁の職員に洗脳されたのか、7月3日の記者会見で、「他の自治体の首長が納得しているなか、泉田氏はかなり個性的な発言をしている」という趣旨の侮辱的発言をしている。
 今回も、洗脳された記者たちは、泉田という変人が、手続き論で揚げ足をとって、原発再稼働を止めようとしている、という理解で記事を書いている。

 (4)どうでもよいことを報道している反面、泉田知事が指摘している安全基準の重大な欠陥については、ほとんど報道していない。
 安全基準の重大な欠陥とは何か。
 <例>中越沖地震の際、柏崎刈羽原発で変圧器の火災事故が起きた。その原因が、原子炉建屋と変圧器がある建物が離れた地盤上にあって、地震でその間をつなぐケーブルが大きく揺れたことにより、変圧器が引っ張られて傾き、それによって内部の金属同士が接触して発火した。・・・・この事実を新潟県が突き止めた。
 そこから得られた教訓は、フィルターベントを作るなら、原子炉建屋と同一の地盤上に置かなければならない、ということだ。
 そうしないと、大震災で炉心損傷が起きた時に、原子炉建屋からフィルターベントに通じる長い配管が地震の揺れで破断し、高濃度の放射能が生のまま排出されるリスクが高くなる。
 にもかかわらず、東電は、離れたところにフィルターベントを建設する予定だ。
 今の安全基準では、こういうことは禁じられていない。
 なぜか。
 これを禁じたら、多くの原発が再稼働できなくなる恐れがあるからだ。

 (5)(4)の一事をもってしても、泉田知事が東電や規制委員会を批判するのは当然のことだ。
 実際には、(4)以外にも新潟県は数十項目の重要な指摘を行っている。
 と・こ・ろ・が、田中委員長は、3月13日の会見で、これに対する回答義務はない、と驚くべき発言をしている。

 (6)規制委員会は、回答できないような重大な指摘をされてしまったので、内容の議論を避け、泉田知事への個人攻撃で、「変な人」が「変なこと」を言っている、という形で処理しようとしているのではないか。
 マスコミは、泉田知事が指摘している問題点を具体的、かつ、詳細に報道すべきだ。
 そうすれば、どちらが正しいか、たちまち明らかになるだろう。

 【注】事故で生じた蒸気やガスから放射性物質を除去して排気する装置。

□古賀茂明「新潟県知事を攻撃する官僚の手口 ~官々愕々第72回~」(「週刊現代」2013年7月27日・8月3日号)
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【社会】学校もこんなにブラック ~公教育の劣化~

2013年07月18日 | 社会
 (1)非常勤講師は、正規と違って「校務」(担任や部活など)を持たないが、週約20時間の授業を受け持ち、授業のない時間にプリントやテスト作り、採点、成績評価などをこなす点では正規と変わらない。しかし、月給は手取り14万円ほど。ボーナスも退職金もない。年収にして3倍の開きがある。【愛知県の男性、県立高校、30代】
 正規教員の平均と同じ週18時間の授業を受けもち、手取りは月約20万円。社会保険はない。【神奈川県の女性、県立高校、30代】
 塾、家庭教師、コンビニ、引っ越しのバイトをして生活費を稼ぐ講師もいて、バイト代のほうが多い例もある。【前記女性など複数の非常勤講師】
 
 (2)高校の非常勤講師は、正規になるまでの「見習い」と目されがちだが、今や欠かせない「戦力」だ。文部科学省の調査では、公立高校の非常勤講師ら「兼務者」は年々増え続け、2012年度は36,500人、全教員の17%を占める。
 定時制高校の教員の3割が非常勤ら「兼務者」。全公立高校より1割も多い。【文科省】 
 正規教員の代わりに非常勤を雇う自治体が相次いでいるのだ【注】。
 担任を持たない専門教科の教員は、もともと時間給の非常勤に代替しやすい。それに、これから人口が減るのに、雇うとクビを切れない正規は増やせない。非常勤は、将来生徒数が減ったら辞めてもらう調整弁だ。【ある自治体の幹部】

 (3)学校現場で格差にあえぐのは、非常勤ばかりではない。「臨時」教員もそうだ。
 国に統計はないが、その数は非常勤に匹敵する、とも言われる。
 臨時教員は、1年ごとに契約更新される非正規ながら、正規教員と同じように担任や部活などを受けもつ。
 月給は40万円ほどあるが、正規より5万円ほど低い。昇給は40代でストップ。ボーナスも退職金も正規より数十%低い。毎年雇用を打ち切られる不安を抱えながら、なんとか正規と同じ年数を働いても、生涯賃金は5,000万円は少ない。県によっては1億円の差が出るところもあるだろう。【首都圏の県立高校で30年近く働く50代の男性臨時教員】
 今の月収は30万円ほど。校長に目をつけられたら更新してもらえないので、10年間働いて職員会議で発言したのは1、2回。今いちばん心配なのは、退職後の「再任用(再雇用)」。ここでも正規が優先採用される。【神奈川県の公立高校で働く50代後半の女性、約10年前非常勤から臨時に「昇格」】

 (4)教員間に待遇格差をつけるやり方に矛盾はないか。
 国は、自治体が非常勤らを活用するのを黙認してきた。今さら待遇改善に乗り出すと、誤りを認めることになる。だから、非常勤にせめてボーナスや退職金は出すべきだ、と言っても抵抗されてしまう。【労組出身の民主党議員】
 今、正規教員の負担が増大している。教科だけ受け持つ非常勤が増えても、正規は増えないので、少ない人数で、生徒の生活や進路指導、部活、さらには増え続ける事務作業をこなさなくてはならない。一方、非常勤講師も、仕事が教科だけでは細切れのパート労働のようになり、成長の機会が奪われている。要するに、公教育が劣化する。【山口正・日本福祉大学教授】
 結局被害を被るのは子どもたちだ。

 【注】私学では一層この傾向が強い。
【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負
【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~

□大場弘行(本誌)「学校の婚活パーティーは「年収の壁」で玉砕」(「サンデー毎日」2013年7月14日号)

 【参考】
【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~
【本】ブラック企業の実態
【社会】若者を食い潰すブラック企業 ~傾向と対策~
【本】ブラック企業の「辞めさせる技術」 ~違法すれすれ~
【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~
【社会】第二回ブラック企業大賞候補 ~7社1法人~
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【社会保障】「3年育休」の問題点 ~安部政権の「女性活用」政策の矛盾~

2013年07月17日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)4月発表の「成長戦略」では、中核に「女性力を生かす」が据えられ、「5年間で待機者ゼロ」「女性管理職の登用」「3年間の育児休業」などが華々しく打ち出された。
 5月には、有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」で、女性が30代後半になると妊娠しにくくなることについて注意を喚起する「生命(いのち)と女性の手帳」の配布を打ち出した、
 これら一連の提言から浮かび上がるのは、「女は家へ帰れ」政策だ。

 (2)3年育休は、「パンが食べられないなら、お菓子を食べればいい」と言うのと変わりはない。
 2010年5月に第1子を出産した女性のうち、出産前後に自発的に辞めた54.1%の内訳を見ると、「続けたかったが、両立が難しい」と「解雇、退職勧奨」を合わせて45.8%で、「育児に専念したかった」の40.7%を上回る【「21世紀出産児縦断調査結果」、2012年】。
 ちなみに、同年に職場に残った46%のうち9割、つまり全体の4割しか育休をとっていない。とらない理由のトップは、「職場の雰囲気yた仕事の状況から」となっている。
 必要なのは、「3年育休のお願い」ではなく、子どもを産んでも解雇されず、仕事と育児の両立ができる働き方への改革だ。

 (3)日本の女性は、「3年育休以前」だ。
 正社員でさえ、落ち着いて両立ができない職場環境の中で、さらに追い詰められているのは非正規社員の女性たちだ。彼女らの早産は、専業主婦や正社員の2.5倍にのぼる。おなかが張るなどの早産の兆候がでても、立場の弱さから休みをとりにくいことが影響している可能性がある。
 妊娠で仕事を切られ、生活苦から中絶を決意した派遣社員もいる。
 千葉市では、手話通訳の臨時職員が育休を市から拒否され、日本弁護士連合会に人権救済を申し立て、2004年、育休を取得させるよう勧告も出た。
 こうした事件の続発に、向こう1年間の雇用継続見込みがある場合などは、非正規でも育休をとれるとの改定が行われた。だが、育休などの負担を避けたいから女性を非正社員として採用する会社が多い中、制度を生かせる非正規は少ない。
 グローバル化の中でリストラが横行し、夫の扶養に依存して3年も育休をとれる女性そのものが減っている。
 にもかかわらず、女性の賃金は正社員でさえ男性の7割、非正規では半分にとどまる。妻が働いても保育料を負担できない層が目立つ。夫の賃金が低いのに、子どもを保育園に預けられないため働けない「貧困専業主婦層」だ。かかる女性たちの実情に「3年育休」は無力だ。
 こうした女性たちの背景にあるのは、家事や育児、生活の時間を働く上でほとんど考慮しない日本の仕組みだ。
 必要とされるのは、育児期における短時間勤務制度と、男性を含めた残業禁止の徹底だ。

 (4)「3年育休」は、出産退職の呼び水として作用しかねない。その一つが「3歳児神話」だ。
 「3歳児神話」は1998年の「小子化白書」で合理的な根拠は認められないとされ、以来劣勢が続いてきた。それが「3年育休」キャンペーンで息を吹き返した形だ。
 実は、安部政権は子育て中の在宅ワークにも熱心だ。この制度は通勤の負担を省けるメリットがあるが、仕事に集中できにくいデメリットもある。女性に子育てと仕事の二重負担を負わせることで、保育所への公費節約となる恐れも否定できない。
 また、「3年育休」は企業の女性採用の抑制策にも転化しかねない。
 この仕組みは、女性の自発的な育児退職を促す効果もある。夫に理解があり、企業にも理解があって3年育休をとれたにしても、変化の激しい今の企業社会で妻が家事と育児を引き受ければ、復帰しても働き続けるのは苦しい。
 「3年育休」は、「女は家へ帰れ」政策として機能しかねない。 

□竹信三恵子「安部政権は裏声で「女は家へ帰れ」と歌う ~「女性活用」政策の矛盾を検証する」(「世界」2013年7月号)
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