語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】“アホノミクス”と決別するために ~「人間嫌い」の安倍首相~

2015年03月31日 | 批評・思想
 (1)2011年から2013年まで(2012年12月に安倍政権発足)、純金融資産を5億円以上持つ超富裕層の純金融資産総額が、株価上昇もあって29兆円増えた。
 一方、直近の「相対的貧困率」と「17歳以下の子どもの貧困率」は過去最悪を更新。さらに、働いているのに年収が200万円以下の人たちが2013年には1,100万人を超えた。
 最低賃金が全国平均で時給780円(最低は沖縄県などで677円)。この金額で1日8時間、月に22日働いても月収は119,152円にしかならない。

 (2)(1)の状況で、どうして多くの人がアベノミクスにまだ幻想を抱いているのか。
 今も安倍政権は支持率50%をキープしている。そこにあるのは絶望に基づく期待ではないか。言われているような成果をアベノミクスが生まないとしたら「われわれに明日はない」と追い詰められた人たちが発した悲鳴のような思いが、支持の相当の部分を占めている。
 こうした実態を安倍首相は知らない。というより、知ろうとしない。本質的にはどうでもいい、ということだろう。
 安倍首相は、「景気回復のあたたかい風を、全国津々浦々までお届けしていく」とし、そのためには大企業がまず元気になってもらわないと、と言っていた。大きいものがより大きく、強いものがより強くなり、富が滴り落ちて全体に波及するという「トリクル・ダウンの経済学」だ。

 (3)ところが、2月2日の参院予算委員会では「私の経済政策はトリクル・ダウンではない、底上げだ」と答えた。
 ここで本質的な問題は、富が滴り落ちて全体に波及するという後半が付け足しであって、唯一にして最大の関心は、強いものがより強くなる、大きなものがより大きくなる・・・・ということにあることだ。
 「底上げ」なんて、何もしていない。
 安倍政権が社会保障制度で最初に手をつけたのは、生活保護の引き下げだった。
  (a)総選挙の政権公約に、生活保護費の「生活扶助」(日常生活費に相当する)の給付水準1割削減を掲げた。・・・・何の根拠もない数字なのだが、2013年から3年がかりで670億円の削減が断行されている。
  (b)特定秘密保護法が成立した国会では、生活保護法が戦後初めて大きく改悪され、2015年度予算では冬季加算と住宅扶助のダブル引き下げが目論まれている。
    ①低所得者と比較して、生活保護受給者の住宅費のほうが高い、というのだが、これは広義の貧困ビジネスがらみの問題であり、贅沢をしているということではない。
    ②日本の生活保護の補足率は2~3割と言われるが、生活保護を給付される水準にあるのに受給していない低所得者と比較して、生活保護受給者の家賃が高いと言って、何の意味があるのか。底を上げるどころか、底を抜くようなことをしている。
  (c)そもそも、政治家が「底」という言い方をすること自体、不遜だ。民主主義国家においては、国家は国民に奉仕するサービス事業として位置づけられる。国家というサービス事業者にとって、国民は唯一にして最大の顧客だ。大切な大切なお客様だ。ところが、彼らはこの関係を逆転させようとしている。国民を国家に奉仕させようとしている。

 (4)では、どうしたらよいか。
  (a)無視してメディアが喧伝するアベノミクスに関心を示さないこと。
  (b)彼らの言うことをよく分析して、そこに潜む問題を徹底的に洗い出すこと。どう踊らせようとしているのかを見抜くこと。

 (5)(4)-(b)の対象とすべき文書の一つは、昨年6月末に閣議決定を経て出た「日本再興戦略改定2014 未来への挑戦」だ。
 国家のために国民をこき使おうとする文書だ。
 中に「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」という項がある。稼ぐ力という言葉自体、品がなくて身もふたもない。
 その中で、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化が盛んに謳いあげられている。一見感心してよさそうだが、どうしてどうして。そもそもは、企業の内部管理のあり方を問う時、そこには企業の社会的責任(CSR)というテーマが表裏一体の関係でセットになっているはず。ところが、彼らはCSRを徹底的に無視している。コーポレート・ガバナンスを話題にするなら、そこには、やはり、企業があまりにもひたすら儲けばかりを追求せず、企業もまた社会的存在であることをどこまで意識できるか、ということが議論の俎上に載ってしかるべきだ。そもそも、企業の内部管理が問い直されるようになってきたのは、そのような問題意識が広まったからだ、という面がある。

 (6)2014年5月、文部科学省の有識者会議「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」で前原金一・経済同友会専務理事が、奨学金の延滞者に関して「警視庁とか、消防庁とか、防衛省に頼んで、1年とか2年のインターシップをやってもらえば」と発言した。
 今や多くの大学生が有利子の奨学金を借りて、卒業と同時に数百万円の借金を背負う。しかし、返済できずに滞納する人が急増し、現在33万人に達する。
 で、前原専務理事だが、彼は奨学金を貸し付ける日本最大の組織「日本学生支援機構」の外部政策企画委員を務める人なのであった。すでに具体的な話が進んでいた。
 その「検討会」の2か月後に集団的自衛権が閣議決定された。
 それぞれをつなげてみると、実は日本が一つの方向へ行こうとしているように見える。

 (7)統一地方選挙が迫っている。投票する際のポイントは何か。
 注意すべき用語がある。「全国津々浦々」「取り戻す」「世界一」という言葉を使いたがる人は要注意だ。そういう人は、「格差」「貧困」という言葉を使いたがらない。安倍首相の施政方針演説には、「貧困」は1回、「格差」はゼロだった。
 安倍首相の語りの中には「人間」が出てこない。施政方針演説や日本再興戦略にも登場してない。唯一登場したのが、2013年半ばに「成長戦略」がらみ言及した、大阪万博の「人間洗濯機」ぐらいだ。
 安倍首相は「国民」という言葉はよく使うのだが。「人間」嫌いなのだ。
 チーム・“アホノミクス”の最大の特徴は、人のために涙する目を持たないことだ。
 逆に人の言うことに傾ける耳を持っているか。人のために涙する目を持っているか。人に対して差し伸べる手を持っているか。それらが問われる。チーム・“アホノミクス”は、いずれも持っていない。

□浜矩子×雨宮処凜「怒れる女子会 “アホノミクス”と決別するために」(「週刊金曜日」2015年3月27日号)
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 【参考】
【言葉】アベノミクスの心理学 ~「人間嫌い」の安倍首相~

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【言葉】アベノミクスの心理学 ~「人間嫌い」の安倍首相~

2015年03月30日 | 批評・思想
雨宮/統一地方選挙が迫りました。投票する際のポイントは何かありますか。

浜/注意すべき用語はあります。「全国津々浦々」「取り戻す」「世界一」ということばを使いたがる人は要注意です。そういう人は「格差」や「貧困」という言葉を使いたがらない。安倍首相の施政方針演説で貧困は1回、格差はゼロでした。安倍首相の語りの中には「人間」が出てこない。施政方針演説や日本再興戦略にも登場してない。唯一あるのが、13年半ばに出た「成長戦略」で言及した、大阪万博の「人間洗濯機」ぐらいです。

雨宮/そうなんですか(笑)。国民という言葉はよく使うのに。

浜/チーム・“アホノミクス”の最大の特徴は、人のために涙する目を持たないことでしょう。逆に人の言うことに傾ける耳を持っているか。人のために涙する目を持っているか。人に対して差し伸べる手を持っているか。それらが問われます。それらのいずれも彼らは持っていません。

□浜矩子×雨宮処凜「怒れる女子会 “アホノミクス”と決別するために」(「週刊金曜日」2015年3月27日号)
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    支那連翹
   

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【食】コレステロールの摂取上限がなくなった ~2015年度から~

2015年03月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)食事におけるコレステロール摂取は、制限しなくてよい。
 こういう見解が、肥満者の多い米国で示された。
 食事から各栄養素を摂取する目安を決める「食生活ガイドライン諮問委員会」が、2月19日に公表した『2015年度報告書』は、「コレステロールは過剰摂取を心配する栄養素ではない」と明言している。

 (2)米国ほど明示していないが、日本の「食事摂取基準」でも、2015年度版からは、コレステロールの摂取上限目安量は削除された。
 従来、卵などコレステロールの多い食品の摂取と心臓疾患との関連を調べた一部の研究で、リスクが増える結果が出ていた。しかし、その後の大規模な全国調査やシステマティックレビューなどで、関連は認められなかったためだ。
 そもそも人間は、必要なコレステロールの8割を体内(肝臓など)で合成している。食物から摂取するのは2割程度だ。
   食事からの摂取量が増えると、肝臓での合成を減らし、
   食事からの摂取量が減ると、肝臓での合成を増やす。
 こうした仕組みがあるから、健康な人の場合、食事からのコレステロールを制限する必要はない。
 ・・・・これが新しい食事摂取基準のメッセージだ。

 (3)以上からして、「コレステロールフリー」という強調表示が不要になる。
 食用油売り場では、半分以上の商品に「コレステロール・ゼロ」の表示がついている。安い商品ほど大きく「コレステロール・ゼロ」表示されている。
 <例>日清オイリオ「キャノーラ油(1,300g入り)」や「サラダ油(1,300g)」。
 一方、比較的高価なオリーブ油や胡麻油などには表示がない。

 (3)実は、コレステロールは、油脂類の中では動物性脂肪(肉の脂身、ラード、バターなど)に多く含まれているだけで、植物油にはもともと含まれていないのだ。
 栄養成分表示でコレステロールの量が義務表示になっていたら一目でわかることだが、コレステロールが「低い」「ゼロ」と強調したい場合にしか表示されていないので、オリーブ油や胡麻油にはコレステロールが含まれているのだという誤解を招きかねない。
 
 (4)コレステロール・ゼロ表示の基準にも問題がある。
 食用油の場合、コレステロール・ゼロ表示ができるのは、次の①かつ②の場合だけだ。
   ①コレステロール・ゼロの量が5mg未満/100g
   ②脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有割合が15%以下
 なぜコレステロール・ゼロ表示に飽和脂肪酸が入ってくるかというと、コレステロールをゼロに減らしても、そのために飽和脂肪酸が増えたらダメという趣旨だ。
 植物油の場合、そもそもコレステロールは100g当たり0~24mgなので条件をクリアする。
 しかし、飽和脂肪酸については、安い菜種油(7.06%)、サフラワー油(7.36%)であればゼロ表示できるが、胡麻油は15.04%なので②の条件をわずかに超える(ゼロ表示できない)。
 しかし、(2)のようにコレステロール摂取上限がなくなった以上、誤解を招く「コレステロール・ゼロ」表示はなくすべきだ。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「植物油のコレステロールゼロ表示は合法的優良誤認--なのだけれど」(「週刊金曜日」2015年3月20日号)
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【沖縄】日米安保が日本国憲法を踏みにじる ~辺野古の不当逮捕~

2015年03月29日 | 社会
 (1)米軍普天間飛行場の移設を伴う新基地建設問題をめぐって、日本が暗黒時代に遡ったような異常事態が続いている。
 日米安保が日本の平和憲法を凌駕する。
 この言葉は、沖縄の米軍基地問題について言われ続けてきた。その正しさが、このたび、あからさまな人権侵害を伴う形で証明された。
 米軍は、ウチナーンチュの人権、表現の自由、集会・結社の自由、言論の自由を踏みにじっている。その米軍によって、暴力的な拘束が行われた。
 米軍は刑事特別法【注】を乱用し、新基地に反対する市民を拘束した。
 基地に抗う沖縄県民を敵視し、実力を行使してでも弾圧する・・・・と宣言したに等しい。歴史的な出来事だ。在沖米軍が掲げてきた「良き隣人」政策の完全な崩壊を示す。
 米軍の強権行使に異議をとなえず、理不尽極まる逮捕を追認した安倍晋三政権は、米軍の愚行の共犯だ。

 (2)事件は次のように始まった。
 2月22日朝、名護市辺野古の新基地建設に向けた海上工事が進むキャンプ・シュワブの門前では、早朝から新基地建設への抗議行動を続ける市民と県警などの小競り合いが続いていた。
 そんな中、市民による抗議行動を指揮していた山城博治・沖縄平和運動センター議長(62)は、休憩を呼びかけた。
 だが、一部市民と県警がもみ合った。混乱を避けるため、山城議長が、基地との境界線から下がるように市民を制止した。
 そこへ、米軍の警備員が背後から襲いかかった。仰向けになった山城議長の両足を3人がかりで掴み、基地内に引きずり込んだ。山城議長を取り戻そうとした男性も拘束された(その瞬間を地元2紙の記者が撮影した)。
 すぐさま憲兵隊が、後ろ手錠をかけた。山城議長らは、後ろ手錠のまま路上に放り出された。犯罪者に対する扱いですら、これほど乱暴ではあるまい。
 幅広い年代層が押し寄せる新基地建設への反対運動の根強さに業を煮やした国防総省や在沖海兵隊の幹部の支持の下、リーダー(山城議長)を狙い撃ちにしたことは火を見るより明らかだ。
 米軍は4時間も拘束した後、沖縄県警名護署に引き渡した。
 名護署は、刑特法に違反し、無断で基地に侵入した容疑で山城議長ほか1名を逮捕したが、翌23日夜、那覇地検は勾留請求を断念し、2人は釈放された。強奪のような身柄拘束を踏まえると、公判維持は困難なのであった。

 (3)22日は、午後から、辺野古埋め立てに向けた海上工事の強行や、海上保安官による女性への馬乗りなどの過剰警備に抗議する集会が開催される予定だった。冬の観光最盛期でバスの確保がままならない中、県下全域から2,800人が集まった。
 その抗議集会に主役の一人(山城議長)の姿はなかった。不当逮捕糾弾が集会の柱になった。

 (4)米軍は刑特法を意のままに拡大解釈し、かつてない強権的な身柄拘束に踏み切った。
 日米安保体制に付随する刑特法が憲法より上位に立ち、国民の基本的人権が侵される構図が鮮明に照らし出された。
 1957年(米施政下)、伊江島で、強制接収された射爆場内に入ったとして住民5人が逮捕された。米兵が境界線を示す木製看板を5人の後ろにそっと置き、無断侵入を仕立てた。58年前の不当逮捕劇は、植民地意識丸出しという点で、このたびの「山城議長逮捕」と地続きだ。

 (5)米軍優位の刑特法の構造はいびつだ。「排他的な基地管理権」に基づき、米軍側が基地内で身柄を拘束して日本の警察に引き渡す仕組みだ。その妥当性は問われず、警察は手続き上、身柄を渡されれば逮捕せざるを得ない。
 刑特法上の逮捕手続きは、緊急逮捕となる。
 刑事訴訟法上の緊急逮捕は、一定の重い罪でやむを得ない場合に限り、令状発布を受けずに実行できる。長期懲役、禁固3年以上の罪に限定されている。これに対して、刑特法の基地内への侵入罪が科す懲役は1年以下だ。本来なら、刑特法は緊急逮捕ができないが、厳密な定めもない形で米軍が狙いを定めた者を拘束できる仕組みだ。
 日本の罪刑法定主義はないがしろにされ、露骨な二重基準が放置されている。
 民主主義を尊ぶ国とその軍隊が、反対運動をする住民を弾圧する。米本国ではあり得まい。在沖米軍は自ら「悪しき隣人」に成り下がった。
 
 【注】刑特法:米軍の法的地位などを定めた日米地位協定に付随し、基地への侵入などを摘発する。米軍の権利を特別に保護する。

□松本剛(琉球新報)「安保が憲法を凌駕する 辺野古の不当逮捕が意味するもの ~リレーコラム沖縄(シマ)という窓~」(「世界」2015年4月号)
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 【参考】
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
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【中東】軍事的な解決策しか発想できない米国 ~また同じ失敗~

2015年03月28日 | 社会
 (1)かつてアルカイダは、ビン・ラディンの指導の下、米国とパキスタン、そしてサウジアラビアの支援を得て勢力を拡大した。その背景はアフガニスタン戦争だ。当時は延べ10万人ほどのイスラム戦士が世界中から集まっていた、とされる。あの戦争がイスラム勢力を本格的に武装化した。その状態が展開して現在に至り、「イスラム国」まで生み出した。
 ただし、アルカイダ以上に「イスラム国」は寄せ集めという側面が強い。
 アルカイダと「イスラム国」とでは、その成立過程がかなり違うが、世界中からイスラム戦士を集めて、司令部の指揮の下で団結させて戦うということは、そう簡単にできることではない。
 米国は今回、「イスラム国」に対して軍事的に対応しようとしているが、過去と同じ失敗を繰り返そうとしているのではないか。
 「イスラム国」は未成熟のテロ組織であり、内部に大きな問題を抱えていることも明らかだ。そのような組織が勢力を拡大する背景に、米国を始めとする欧米諸国に対するこれまでの不満が中東で渦巻いていることがある。軍事的対応だけだと彼らの怒りを先鋭化させ、さらに増殖させる可能性がある。この点に目を向けるべきだ。
 その米国の戦略に日本が同調していく中で、今回の人質事件が起きてしまった。そういう側面も見なければいけない。
 日本の中東への人道支援は、重要な意義を持っているが、それを米国主導の有志国連合という文脈の中に組み込ませるべきなのか。

 (2)「イスラム国」は自分の国を作って領域を拡大することだけを目的としていて、アルカイダなどと違って欧米先進国への攻撃に関心を持っていない点が特徴の組織だ・・・・と、世界中のアナリストが、米国による空爆が始まる直前まで言っていた。
 米国も、タリバンのそのような性格を知り、和平交渉は可能だと考え、実際に交渉を試みている。
 「イスラム国」も本来、米国まで攻撃に行く意志も能力もない。
 米国の権益の集まるイラク北部のクルディスタン地域に「イスラム国」の攻撃が始まったので、米国は動かざるを得なかった。ヤジディ教徒に対する人権侵害が甚大だった、ということもある。
 しかし、「イスラム国」の被害を受けているクルドへの支援にとどめていたら、状況はかなり違っていた。

 (3)米国は、これまでイラクで3回大きな失敗をしている。
  (a)イラク戦争。
  (b)イラクの戦後処理を中途半端にしたまま、投げ出すような形で2011年末に撤退した。米軍撤退後の混乱が予想されていたにもかかわらず撤退してしまい、「イスラム国」の勃興を招いた。
 米国内の世論の問題もある。もともとイラクへの軍事的関与については、オバマ大統領のみならず米国世論も慎重だった。しかし、米国人ジャーナリストが二人殺されたことで、米国の世論は大きく転換し、それまで40%に満たなかったイラクへの軍事的関与への支持は、事件後、70%にまで上昇した。かくして、8月にイラクへの空爆を開始、9月にはシリアに空爆を拡大した。

 (4)「イスラム国」拡大の背景には、「アラブの春」がシリア内戦に波及したことがある。
 シリアのアサド政権と対峙する勢力にサウジアラビアやカタールなどが強くテコ入れした背景には、イラク・シリア・イラン3国のパイプライン構想があった。3か国共同でパイプラインを建設し、ヨーロッパに石油天然ガスを供給するという計画に対し、自らの権益を脅かされることを恐れたサウジアラビアが反アサド勢力を支援した。
 一方で、イラクから米軍が撤退し、2006年からイラクで捕まっていたバクダディも2010年に釈放されている。米国がイラクの状況を軽視し、情勢を見誤っていたことは否定できない。
 マリキ政権は発足当日にスンニー派の副大統領の逮捕状を出し、副大統領はクルド人居住区に逃げている。イラクの破綻国家化は見えていた。にもかかわらず、米国は責任を放棄し、撤退してしまった。
 内戦状態に陥ったシリアも、破綻国家化していく中で、「イスラム国」の勢力が拡大していった。

 (5)現在、米国が打ち出している軍事的関与は、限定的な形だ。大量の地上部隊の投入は、オバマ大統領が大統領選で掲げた政策(イラク撤退)の誤りを自ら認めることになる。大量の部隊を長期にわたって展開することはない。
 3年間と期間を限定した上で、特殊部隊を、人質などの救出作戦と「イスラム国」指導部に対する直接攻撃やインテリジェンス目的に使う、としている。要するに、特殊部隊しか使わない、と。
 一方で、共和党の強硬派や軍部は、大量の部隊を一気に投入しないと制圧できない、という考え方だ。マケイン上院議員(共和党)は「シリア攻撃」も武力行使容認決議案に含めるべきだ、と発言している。
 軍事的な解決策しか発想できない点が、米国の限界だ。

□春名幹男×常岡浩介「イスラム国--問われる日本の中東政策」(「世界」2015年4月号)
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 【参考】
【中東】日本人が目で見た「イスラム国」の実態
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【安保】「人質救出作戦」は「バカ派」の妄想 ~米軍ですら失敗~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(2)~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(1)~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【中東】安倍政権の「大失態」 ~「イスラム国」日本人人質事件~
【中東】【本】『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
【中東】に敵をつくった安倍政権 ~二つの愚策~
【中東】なぜ「イスラム国」がはびこったのか
【中東】崩壊の抑止というシンポ ~「イスラム国」どこから来たか~
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
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【中東】日本人が目で見た「イスラム国」の実態

2015年03月27日 | 社会
 (1)常岡浩介・ジャーナリストは、これまで3回「イスラム国」の領域に入った。報道では、「インターネットを駆使し、洗練された広報戦略を持ち、統治システムと軍事力を擁する最強の過激組織」であるが、「イスラム国」の実態はそんなものではなかった。
  (a)2014年9月、クワイリス空軍基地(シリア北部アレッポ県)の攻撃は、基地のある方向に向けて迫撃砲を2発発射しただけで、反撃を避けるため全速力で退散・・・・といった状況であった。戦略に基づく指揮命令系統の中で行われる作戦・・・・という雰囲気ではなく、現地の判断で勝手に行動していた印象であった。ただし、バクダディとその周辺の参謀たちが指揮する系統だった作戦もある、という話もある(未確認)。
  (b)「イスラム国」がイラク第二の都市モスルを短時日のうちに陥落させたこと、急速に勢力を拡大させたことから、精強な軍隊を擁しているというイメージができたのかもしれない。しかし、<例>クルド人との激戦が続いたコバニ(アイン・アル=アラブ)ではクルド側の兵力は4割が女性で、高齢の女性まで前線に出ていた状態だったが、戦闘では「イスラム国」が劣勢で、最終的に撃退された。戦死傷者の比率は、クルド側より「イスラム国」側のほうが数倍の差で悪かった。いくら空爆などの支援があったとはいえ、「イスラム国」は女性と老人の部隊に勝てなかった。「イスラム国」側は、人海戦術で突撃しては撃退されることの繰り返しであった。戦術を考えているのか不明という点で、(a)と共通する。実際の戦闘で「イスラム国」側が勝利した実例は少ないであろう。
  (c)「イスラム国」側の首都としているラッカは、ゴミだらけだ(市民サービス停止が推定される)。電気はあるが、中心部の商店街は9割の店がシャッターを下ろしている(市民は脱出)。「イスラム国」の宣伝映像では民衆が活気づいた生活をしていて、「イスラム国」統治下で幸せに暮らしている様子を映し出していたが、宣伝と実態とではかなり違う。
  (d)「イスラム国」の支配領域ではローカルプロバイダーは全面的に禁止されている。携帯電話も通信会社が営業を禁止されているので、一般市民は電話で知人と話すこともできず、ネットでメールを送ることもできない。ラッカでは、数カ所、衛星によるネットシステムが生き延びているだけだ(「愚かな政策」)。上層部はネットや電話をスパイが利用するということを理由にしている。しかし、通信の数が激減したことで、かえって「イスラム国」の中枢による通信が特定されやすくなる。・・・・人海戦術をしてはいけない(a)のようなところで人海戦術を行い、人海戦術をすべきところでそれをしない。ただし、ユーチューブなので流れる洗練された宣伝ビデオは専門部隊で作っている。

 (2)常岡ジャーナリストが見た内部の統治状況はどうか。
 「イスラム国」の統治は、完全にサダム・フセインの模倣だ。
 本来のカリフ制は、コーランの内容に基づいて税金が安く、福祉は自主的な助け合いに、軍事は義勇兵の志願によるので、むしろ政府からの強制や関与の少ない自由なものだ。
 ところが、実際の「イスラム国」の支配地域は、
   ・極端な密告社会であり、
   ・言論は完全に統制され、
   ・反体制派は次々に処刑されている。
   ・上意下達で、
   ・下からのボトムアップの回路がない官僚社会で、これもフセイン時代と同じだ。  
 軍事行動麺でも、表向きは「聖戦」と言っているが、実際にやっていることはクルド人や反対派の虐殺だ。化学兵器を使い始めた、という情報もあり、事実であれば、これもサダム・フセインと似ている。
 「イスラム国」の事実上の支配者は、フセイン政権のバース党の残党だ。バクダディは飾りでしかない。彼は一度だけ説教している姿がインターネットで流れたが、その内容は当たり障りのないものだった。

□春名幹男×常岡浩介「イスラム国--問われる日本の中東政策」(「世界」2015年4月号)
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 【参考】
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【安保】「人質救出作戦」は「バカ派」の妄想 ~米軍ですら失敗~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(2)~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(1)~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【中東】安倍政権の「大失態」 ~「イスラム国」日本人人質事件~
【中東】【本】『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
【中東】に敵をつくった安倍政権 ~二つの愚策~
【中東】なぜ「イスラム国」がはびこったのか
【中東】崩壊の抑止というシンポ ~「イスラム国」どこから来たか~
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
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【詩歌】静御前伝説

2015年03月26日 | 詩歌
 しづやしづ
 しづのをだまきくり返し
 昔を今になすよしもがな

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【本】『ナニワ金融道』の青木雄二の生涯を夫人が語る

2015年03月26日 | ノンフィクション
 本書は、夫人による、読みやすい語り口の、青木雄二・伝。
 そのまだ若い死(享年58)の後、彼と関わりのあった人々にインタビューして回り、人生を辿りつつ、伴侶としての感想を加える。

 青木は、工業高校(土木専攻)を卒業後、山陽電鉄に入社した。しかし、社会の現実(<例>春闘で要求したら4割も賃金が上がった)を奇妙だと感じることが多かったらしい。小学生時代のガキ大将は、気持ちにそぐわないと上司をもぶん殴る社会人となった。
 3年で辞めて、父の郷里の岡山県久米南町役場に再就職した。しかし、岡山県の片田舎の、風通しの悪い風土が肌に合わなかった。3か月で辞めて、大阪に出奔。職を転々とした。最後に漫画家として立つ。
 売れっ子になってから、朝の10時から夜の10時まで、ほとんど休憩もなしに仕事をしていた。高収入なのにロクな食事を摂らず、インスタントラーメンで済ませることも多々。そして大量の喫煙と飲酒。
 50歳で結婚してから栄養面では改善した。計理などの事務面の負担も減った。しかし、好事魔多し。腱鞘炎、膵臓炎、扁平上皮癌・・・・といくつも発病し、最後に肺癌が命を奪った。

 身近な人(夫人)による性格観察が興味深い。
 仕事(漫画作品)のための綿密な取材。まっすぐで、開けっぴろげで、幾分子どもじみた性格。他方、さまざまな拘り。
 デザイナー会社経営の経験から、作品に対する編集者からの注文(「ここを直して」とか)には、我を張らずに応じた。注文主の意向を第一とした。これが広く読者を獲得する一因となった、と夫人は書いている。

□青木若代『夫・青木雄二 ~ナニワの異端漫画家の真実~』(廣済堂出版、2004)
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【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~

2015年03月26日 | ●佐藤優
 (1)3月10~12日、鳩山由紀夫・元首相がクリミア自治共和国(ウクライナ)を訪問した。
 日本政府は、ロシアによるクリミア併合を認めていない。首相経験者(鳩山由紀夫)がクリミアを訪問し、現地で公職に就いている人と会見することは、クリミアに対するロシアの統治が合法的だ、と日本が認めることにつながりかねない。外交的に望ましくない。
 しかし、鳩山元首相は、そのようなことは十分承知した上で、独自外交を行っている。

 (2)当然ながら、ロシアは鳩山元首相の訪問を大歓迎した。3月11日にクリミアで会見が行われた。
 <鳩山氏は、今回の訪問が日本政府の立場に反するとして批判が出ていることについて、次のように答えた。
「日本政府は基本的に欧米とくに米国の意向を気にするものですから、クリミアの問題に関して欧米と同じ対応をするということで現在制裁を加えている立場にあります。その立場からすると、制裁をしている状況の中で、日本人がクリミアに行くのはけしからん、というふうに政府は思っているかもしれません。しかし私は外交というものは幅広く考えるべきであって、必ずしも外務省の考えだけが正しいとは思っていません。むしろ正確にこの地域の人々の気持ちというものを理解をして、平和裏に問題を解決していったクリミアの皆さん方が、希望してロシアに編入されたという事実を日本の皆さんにもっと知っていただくことこそが私たちがやるべきことではないかと思います。その思いのもとで、必ずしも政府の立場に沿ってはおりませんが、むしろだからこそ来る価値があると、そんな思いのもとで、みんなやって参っております。」>【注1】

 (3)大多数のクリミア住民がロシア編入を望んだのは事実だ。
 しかし、ロシアの軍事力を背景に行われた住民投票が、既存の国際法の原則に反することは明白だ。
 さらに、3月15日にクリミア併合1周年を記念して放映されたテレビ番組「クリミア、祖国への道」で、プーチン・ロシア大統領は、次のように述べた。
 <ロシアはクリミア情勢が思わしくない方向に推移した場合に備えており、核戦力に臨戦体制を取らせることも検討していた。しかし、それは起こらないだろう、とは考えていた。>【注2】
 このプーチン発言を踏まえた場合、ロシアがクリミアに干渉してない、という話は通らない。

 (4)もっとも、鳩山元首相は、単なるリップサービスでロシア寄りの姿勢を見せているわけではあるまい。
 米国のオバマ政権の外交力低下を背景に、対米自主外交を考え、ロシアへの接近を図っているのだ。

 (5)ロシアがクリミアに対する領土的野心がないことを本気で示そうと考えているならば、北方四島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島)を日本へ引き渡せばよい。
  「クリミアをロシア領と認めることと引き換えに、北方領土返還を実現する」
 ・・・・というような帝国主義的な取引外交を考える政治家が、今後出現するかもしれない。

 【注1】記事「日本はクリミアを支援できるはず」(「ロシアの声」 2015年3月12日)
 【注2】記事「プーチン大統領:クリミア情勢如何ではロシアの核戦力が臨戦態勢に入ったかも知れない」(「ロシアの声」 2015年3月15日)

□佐藤優「単なる「リップサービス」とは思えない ~佐藤優の人間観察 第106回~」(「週刊現代」2015年4月4日号)
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 【参考】
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
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【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
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【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
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【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
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【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
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【古賀茂明】原発廃炉と新増設とはセット ~「重要なベースロード電源」論~

2015年03月25日 | 震災・原発事故
 (1)3月17日および18日、原発の幾つかの廃炉が正式に決まった。
  (a)関西電力美浜1、2号機(福井県)
  (b)日本原子力発電敦賀1号機(福井県)
  (c)中国電力島根1号機(島根県)
  (d)九州電力玄海1号機(佐賀県)

 (2)(1)の5原発には問題が幾つもある。
  (a)いずれも運転開始から40年前後の「老朽」原発である。
  (b)原発の運転は原則40年と定められている。運転延長のための特別基準をクリアするには、いずれの原発も数百億円規模の追加投資が必要で、とても経済的にペイしない、とされてきた。
  (c)要するに、(1)-(a)~(d)の5原発廃炉の理由は、純粋に経済的な理由からだ。「原発政策が動き出した」からでは、まったく無い。
  (d)そもそも、数百億円もの追加投資が必要になるのは、極めて危険な原発だからだ。そんなものは、本来、規制うんぬんではなく、電力会社が自己責任で廃炉にするのが当然だ。

 (3)経産省はしかし、「基準が厳しくなったのだから政府の責任だ」などと屁理屈をこねて、廃炉費用などを毎年電力料金に上乗せして消費者につけ回しする仕組みを作った。
 廃炉の決定が今日まで延びたのは、電力会社がこの会計制度変更を待っていたからだ。

 (4)同じ3月17日、関西電力は、やはり老朽化した高浜1、2号機と、美浜3号機の再稼働申請を行った。
 3基の原発の再稼働だけでは世論に叩かれる。で、美浜1、2号機の廃炉を免罪符にしたのだ。
 また、高浜1、2号機、美浜3号機は設計が古く、数千mに及び電源ケーブルの被覆材が難燃性でない、という問題がある。これらを交換すると膨大なコストがかかる。よって、難燃性の塗料を塗るだけで済ませるため、3つの原発廃炉で許してもらおう、という魂胆もある。

 (5)現在、日本の原発は1基も稼働していないので、原発依存度はすでにゼロだ。
 ところが、不思議なことに、「原発依存度をどれくらい下げるのか」という議論が行われている。
 そこには、動いていない原発48基の多くを動かすべきだ、という前提がある。

 (6)さらに、昨年4月の原発を「重要なベースロード電源」と位置づけたエネルギー基本計画。
 実は、この時点で原発の新増設は決まっていた。
 なぜなら、原発が「重要なベースロード電源」なら、原発依存度ゼロはもちろん、5%とか10%などではなく、相当な割合が必要になるからだ。

 (7)すべての原発はいずれ廃炉になるから、「重要なベースロード電源」維持のためには、いつかは原発の新増設が必要になる。
 事実、原子力小委員会(経産省)の昨年末の報告書でも、新増設を認めるべきだ、という意見が幾つも書かれている。
 新増設について、宮沢洋一・経産相は、言う。
   「現時点では想定していない」=「将来は認める」

 (8)(3)の会計基準変更は、直近の廃炉対策だけでなく、新増設する原発のためでもある。
 廃炉コストがいくらになっても、すべて消費者に転化できれば、電力会社は安心して原発を新設できるのだ。
 廃炉関係の政策も、結局はすべて原発推進のためなのだ。

□古賀茂明「原発廃炉と新増設 ~官々愕々第148回~」(「週刊現代」2015年4月4日号)
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 【参考】
【古賀茂明】改革逆行国会 ~安倍政権の官僚優遇~
【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~
【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
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【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
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【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
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【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


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【原発】赤字拡大で経営危機 ~原発大手アレバ社~

2015年03月24日 | 震災・原発事故
 (1)仏アレバ社は、世界最大の原子力産業複合企業だ。そのアレバ社が、深刻な経営危機に直面している。
 2014年度の純損失が49億ユーロ(6,600億円)に達し、同じく赤字だった2013年度の10倍にもなるのだ。好転のきざしは見えない。

 (2)危機の大きな要因は、経営戦略の破綻だ。アレバ社が社運を賭けて開発した新型原子炉「欧州加圧水型炉(EPR)」の、実用化の目処が立たないのだ。
 EPRの1基が、フィンランドで、2005年に建設に着工したのだが、
  ・2009年の営業運転開始予定が2018年にまで延びた。
  ・しかも、完成しても当初の費用見積額30億ユーロが85億ユーロに膨張するのが確実視されている。
  ・その超過分の支払をめぐって、同社はフィンランド側と国際商業会議所で仲裁手続き中だ。もし、支払責任を負わされたら、会社の存続が危うくなる。
  ・さらに、買収したウラン鉱山(アフリカ)も、ウラン価格低迷で評価損を計上する結果となった。

 (3)(2)は社内的要因だが、社外的要因もアレバ社の経営を厳しくした。
  ・欧州で原発の需要が低迷している。<例>ドイツの「脱原発」。
  ・「3・11」福島第一原発事故を契機として、世界的に原子力政策見直しの気運がある。
  ・原油価格低下に伴って、原発発電の価格競争力が後退した。

 (4)アレバ社は、3月4日に経営再建策を発表した。
  (a)国営の「フランス電力公社(EDF)」との連携強化と共同の原子力プラント輸出会社の設立。
  (b)中国市場の開拓とアフリカのウラン鉱山部門の中国売却
 ・・・・などが列挙されていたが、打開策にはほど遠い。

 (5)アレバ社の株式を99%所有する仏政府も、この問題では精彩を欠く。
 2012年に当選したオランド大統領(社会党)は、選挙中、環境派の支持を得るため、電力の原発依存度75%を「2025年までに50%に抑える」と公約した。だが、社会党政権はちっとも公約を実行せず、当初連立を組んでいた環境政党「ヨーロッパ・エコロジー=緑の党」は、2014年4月に政権を離脱した。
 国際環境団体グリーンピースなどは、「大統領の公約破り」と批判している。

 (5)フランス国内の原子力産業従事者は、22万人(アレバ社員45,000人を含む)以上だ。彼らの雇用を考えると、オランド(社会党)政権は容易に「脱原発」に踏み切ることができない、という事情がある。
 ただ、アレバ社の危機は、オランド政権の原子力政策のみならず、戦後フランスの「核優先」策(独自核戦力保持と国内原発58基との数が象徴する)を揺るがすのは確実だ。

□成澤宗男(編集部)「原子力大手アレバ 赤字拡大で経営危機」(「週刊金曜日」2015年3月20日号)
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    緋寒桜
   

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【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区

2015年03月23日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)安倍政権は「国家戦略特区」に力を入れる。「国家戦略特区」諮問会議は、3月3日、今国会に提出する国家戦略特区法改正案に盛り込む規制緩和追加策の中に、「特区内での外国人医師受け入れ拡大」方針を固めた。
 日本の医師免許を持たない外国人医師による診療は、現在、「臨床修練制度」によって、厚生労働大臣が指定する病院で指導医の監督の下、研修としてのみ認められる。
 外国人医師受け入れの政府が強調する理由は「日本の医師不足解消」だ。しかし、本音は医療ツーリズムの促進だろう。
 外国人医師による診療については、現在継続中のTPP交渉テーブルに出されている。医師免許のクロスライセンスにつながってくる。
 TPPでは、モノやサービスだけでなく、人の移動も自由化されるのだ。 

 (2)TPPだけではない。今年経済統合するASEANでも、医師免許の共通化が予定されている。そのうえ、日本、インド、中国、オーストラリアなどを含む16か国で交渉中の「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」では、医療全般の大幅な規制緩和が検討されている。
 だが、クロスライセンスが解禁されて、医師たちが報酬や待遇のよさを求めて国境を越え始めたらマイナスの影響も出てくる。
 <例1>南アフリカ・・・・医師や看護師がどんどん待遇のよい国へ流出してしまい、国内の医師不足が深刻なレベルになっている。
 <例2>スイス・・・・医師や看護師不足をポーランドからの移民で解決しようとした結果、当のポーランドで医療従事者が足りなくなった。
 <例1><例2>のように、医療関係の人材を外国にとられてしまった国では、その分、しわ寄せが残った医師たちに過剰な負担となってのしかかり、国民が十分な医療を受けられなくなっている。本来、医師のような高度人材はその国の財産なのだ。その財産をとりあげる、ということは、相手国に大きな損失を与えることになる。

 (3)政府が掲げる「医師不足の解消」という大義も疑問だ。
 現在、日本の医師たちは、絶対数が足りない中で診療報酬を抑えられ、長時間労働という過酷な環境の中にいる。そんな条件の国に、他国から質の高い医師が集まるだろうか。

 (4)(3)の問題を解消する方法が一つある。これが、おそらく今回の外国人医師受け入れ拡大の狙いだろう。大きなビジネスチャンスをもたらすからだ。
 外国人医師を受け入れる際、公的医療保険の診療報酬では高額な給与を払えない。そこで、病院は高額な給油を
捻出するために、公的保険がカバーしない高額の自由診療を増やしていく。
 その結果、公的医療保険でカバーされる診療は、病院のメニューの中から減っていき、自由診療が中心になってくる。
 外国人医師たちが高級取りになれば、日本人医師たちも同等の給与を要求するようになるだろう。
 病院は、さらに自由診療のメニューを増やしていくことになるだろう。
 公的医療保険が使える診療が減り、公的医療保険だけでは医療を受けられなくなった日本人は、民間医療保険にも加入せざるをえなくなる。
 かくして、外資系医療保険会社の悲願、日本市場への大幅な参入が実現する。
 この体制が整備されたところで、TPPが締結されれば、ラチェット条項により、広げられた規制緩和は永久に固定化される。
 
 (5)国家戦略特区による経済成長とは、いったい誰のためのものなのか。
 東日本大震災から4年目。被災地では深刻な医師不足が起きている。
 安倍政権は、被災者から、今以上に医療従事者を奪うのか。

□堤未果実「戦略特区で進む外国人医師受け入れで健康保険が崩壊する ~ジャーナリストの目 第244回~」(「週刊現代」2015年3月28日号)
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【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~

2015年03月22日 | ●佐藤優
 (1)2月22日、米軍基地キャンプ・シュワブ(沖縄県名護市)の前で、山城博治・沖縄平和運動センター議長と男性1人が、基地内に正当な理由なく侵入したとして、日米地位協定の実施に伴う刑事特別法違反容疑で逮捕された。
 米軍に雇われた日本人警備員が、私人逮捕した。
 シュワブの幹部は、24日、藤田幸久・参議院議員(民主党)の問いに対して、拘束は「上からの指示で動いた。何回か警告したが、基地に入ってきたからだ」と答えた。
 日本人警備員は、米軍から警備を委任されているだけでなく、米軍の傭兵として、米軍の指揮命令系統に従って日本人を拘束した。現行犯、準現行犯については、司法警察職員に限らず、誰でも逮捕することができる【刑事訴訟法第213条】。
 現場には30人の警官がいた。にもかかわらず、警備員は山城議長らを警察官には引き渡さず、基地内へ連行した。
 <しかし警備員は警察官のいる方向とは逆の基地内に山城議長らを引きずり込んだ。後ろ手に手錠を掛け、基地内の建物に入れてから手錠を解いたようだが、その後約4時間も拘束を続けている。刑事特別法を逸脱した人権弾圧だ。
 米施政権下の1957年の伊江島で、強制接収された射爆場内に入ったとして、住民5人が逮捕される事件があった。米兵が境界線を示す木製看板を5人の後ろにそっと置き、無断立ち入りで逮捕するという不当逮捕事件が起きている。今回の事件と何が違うというのか。
 復帰前の米統治下で繰り返された米軍による人権蹂躙(じゅうりん)の記憶を呼び起こす事態だ。暗黒社会に逆戻りさせてはいけない。山城議長らは23日夜に釈放された。本来ならば逮捕、送検するべきではなかった。辺野古への基地建設に反対する意思表示は県民の民意だ。米軍は抗議行動をする市民に指一本でも触れることは許されない。>【注1】

 (2)この事件で、米軍が未だ占領者であるという意識を持っていることが可視化された。
 この事件は、日本の主権侵害という点でも深刻だ。那覇地検が、山城議長らを釈放した背景に、「日本は独立国だ。米軍による私人逮捕は行きすぎだ」という検察官僚の苛立ちが反映している。
 今回の事件で、沖縄県民と沖縄県外の日本、外国に居住する在外沖縄人の対米感情は悪化した。このような事件が2、3回繰り返されれば、辺野古新基地に対する反対闘争は、反米的性格を帯びてくる。
 もっとも、沖縄で活動する米国の情報将校や総領事館員は、米軍基地が沖縄県民の敵意で囲まれるような事態は米国の国益を毀損すると理解しているので、今後、傭兵を用いた私人逮捕について慎重になるだろう。

 (3)沖縄以外にも日本国内に米軍基地はある。そこで、日本の警察官の前で私人逮捕が行われ、米軍が被拘束者を4時間も警察に引き渡さないような事件が発生した場合、政治家やマスコミはどのような反応をするか。
 恐らく「日本の主権が侵害された」と激しく反発をするだろう。
 なぜ反発するのか。日本の名誉と尊厳が毀損されたと考えるからだ。
 では、日本人の圧倒的多数が、沖縄で起きた私人逮捕になぜ反発しないのだろうか。東京の政治エリート(国会議員、官僚)、全国紙記者の集合的無意識の問題なのだろうが、沖縄人を同胞と見なしていないからだ。だから、辺野古新基地をめぐって起きている沖縄人に対する差別と抑圧に対して、無関心でいられるのだ。
 そればかりか、沖縄はカネが目的で辺野古反対闘争を行っている、という類の差別言説が書籍となり、ビジネスとして成立しているのだ。
 この種の本に対して、沖縄の政治家、マスメディア関係者、有識者も、「徹底的に無視する」という対応を取っている。差別を食いものにする輩の土俵に乗ると、事実上の宣伝になり、彼らのビジネスに貢献する。だから、無視する賢明な対応をとっている。

 (4)沖縄には、沖縄流の闘い方がある。
 <沖縄国家公務員労組は4日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、移設予定地に隣接する米軍キャンプ・シュワブのゲート付近に反対派市民が設営したテントの撤去に向けた業務は職員に苦痛を与えるとして、関わらせないよう内閣府沖縄総合事務局に申し入れた。
 労組が事務局に提出した申し入れ書によると、撤去に向けた反対派への監視活動は「県民と敵対し精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛だ」と指摘、テント撤去が目的の業務に職員を動員しないよう求めた。労組によると、対応した事務局幹部は「国道の不法占用を正常化するための業務だ」と説明したとしている。>【注2】
 これは、共同通信の配信記事で、記者は辺野古新基地建設がはらんでいる構造的問題をよく理解している。
 辺野古で警備している沖縄県警の警察官、沖縄防衛局に雇われているガードマンの多くは沖縄人青年だ。反対派と対峙する現場に、日本人の高級官僚や政治家は出てこない。こういう手法は、典型的な植民地における分断統治だ。
 沖縄人を沖縄人と敵対するような行動に駆り出すことに、国家公務員労組が異議申し立てをした、という出来事は、沖縄に対する構造的差別を脱構築しようとする現実的な動きだ。

 (5)民主国家は、国民を代表するという前提で成り立っている。
 しかし、辺野古新基地の建設に関して、東京の中央政府は、沖縄県および沖縄県以外の日本に居住する沖縄人の意思を代表していない。
 中央政府に雇用されている国家公務員は、日本国家のために仕事をする。現在、国家公務員といsての職務遂行が沖縄人の良心に反するという危機的状況が発生している。沖縄国家公務員労組は、「県民と敵対し精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛」をもたらす作業に限定して、沖縄人職員を外せ、という緊急避難を要求している。沖縄人として正当かつ当然な要求だ。沖縄国家公務員労組は、労働組合として、やるべき要求をしっかり行っている。

 (6)沖縄における廃藩置県(琉球処分)が失敗した。
 東京の政治エリート、全国紙記者、有識者がこの現実を認識しない限り、沖縄と日本の情報空間はますます乖離していく。沖縄人は、これまで沖縄人性を失ったことはない。これからも失わない。
 沖縄にとって死活的に重要な事柄は、いかなる対価を支払っても沖縄人自身が決定する。

 【注1】社説「市民の逮捕送検 米軍の弾圧は許されない」(琉球新報 2015年2月24日 )
 【注2】記事「辺野古新基地:テント撤去業務「苦痛だ」労組訴え」(沖縄タイムス2015年3月5日)

□佐藤優「山城議長への私人逮捕は日本への深刻な主権侵害 ~佐藤優の飛耳長目 第105回~」(「週刊金曜日」2015年3月13日号)
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 【参考】
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【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
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【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
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【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
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【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
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【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
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【食】復活した「魚肉ソーセージ」 ~添加物満載~

2015年03月21日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)「子どもに魚を食べさせよう」という気運が広がっている。
 消費者ニーズに敏感な企業は、対応も機敏に、一時下火感のあった「魚肉ソーセージ」を復活させつつある。
 スーパーでは、「機能性食品」「トクホ」「カルシウム1本で1/2日分」などのポップで消費を喚起。小さなお子さんを持つ家庭なら「ほかより体によさそう」と買いそうだ。

 (2)「魚肉ソーセージ」の原材料の多くは食品だ。
 だが、食品=安全という構図は、加工助剤やキャリーオーバーといった免罪符のおかげで崩れつつある。
 加工助剤やキャリーオーバーの定義は、添加物が微量に残留しても「ほとんど残らない」「微量で効果が出ない」場合はゼロとされる。
 本当の「ゼロ」なら、「ゼロ+ゼロ=ゼロ」だ。
 しかし、「微量含有のゼロ」は、「微量+微量=微量×2」となり、取り方によっては基準を超える量を摂取してしまう危険性をはらむ。

 (3)「魚肉ソーセージ」なので、「魚肉」なくして商品は作れないが、原材料名に魚の種類が書かれていないのは不安になるはずだ。
 結着材料は、そもそも「肉自体の結着力が劣る原材料を使用する」場合に使われる。
 ソーセージの場合、JAS規格で粗ゼラチンと粗ゼラチン以外の結着材料(でん粉、小麦粉、コーンミール、植物性たん白、脱脂粉乳、卵白)の2つに使用区分されている。使用されているでん粉、植物性たん白、大豆たん白などはすべて食品だが、加工助剤やキャリーオーバーというグレーゾーンに位置し、さらにポストハーベスト農薬の危惧も払拭されない。

 (4)マルチフーズ「フィッシュ ソーセージ」や日本水産「おさかなのソーセージ」に添加されている食品添加物とその用途は、
  ①炭酸カルシウム・・・・酸度の調整やカルシウム補給などの強化剤
  ②調味料(アミノ酸など)・・・・うま味を出す
  ③くん液・・・・いぶした時と同じ色や香りをつける
  ④香辛料抽出物・・・・食欲増進や美味しさ演出
  ⑤香料・・・・香りを出す
  ⑥着色料・・・・(食欲をそそるための)見た目

 (5)(4)の用途を見てもわかるとおり、どれひとつとして必要不可欠なものはない。
 逆に、添加することで、より多くの添加物摂取につながる危険性がある。
 ②と⑤は、一括表示が認められている添加物。
 ③は、フェノール類やアルデヒド類が含まれ、不純物には人に対する発癌性が疑われるとの報告がある添加物。
 ④は、食材の香辛料から、ある成分を超臨界炭酸ガス抽出などによって抽出したもの。
 ⑥の赤色106はタール系の合成着色料で、変異原性実験が陽性を示している添加物。
 合成の⑤や⑥料は、注意欠如・多動性(ADHD)を起こすとの指摘もある。
 国が安全性を認め、健康に害はないと表明しても、小さな子どもが食べるものに、何故かくも多くの添加物を使用した商品をつくるのか。

□沢木みずほ(薬食フードライフ研究家)「添加物満載で復活を遂げた「魚肉ソーセージ」 子どもに食べさせるのは・・・・ちょっと」(「週刊金曜日」2015年3月13日号)
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【匠の技】名古屋城再建、のシャチホコに託す ~プロジェクトX 29~

2015年03月20日 | ノンフィクション
 名古屋城は、1612(慶長17)年12月、その天守閣がほぼ完工。シャチホコに使われた金の量は雌雄合わせて320kg、小判に換算して17,975両だった。
 しかし、復元されたシャチホコには、元の4分の1の88kgしか使われていない。それ以上の予算がなかったためだ。それでも、時価で1億円もした(復元開始は1957(昭和32)年)。

 シャチホコは高さ2.6mもある。その巨大な雌雄2体のブロンズ像は、文化財修理の第一人者と言われていた大谷隆義・鋳物職人が請け負った。彼の工房は大阪にあったが、製作は城の横にある作業小屋で行われた。

 できあがったブロンズ像に金の鱗を施す作業は、大阪造幣局へ依頼された。
 金をかぶせる技術は鎚金といって、江戸時代にはキセルやかんざし、明治以降は金杯や銀杯など鎚金師の腕が要求される仕事がたくさんあった。
 しかし、杯のような単純な形状の加工は機械にとって代わられた。追い打ちをかけたのが、日中戦争下の1940(昭和15)年に贅沢品の制作を禁じた「7・7禁令」だ。
 使わない技術はすたれる。が、大阪造幣局にはその技をもつ職人がいたのだ。
 シャチホコの胴体をおおう鱗は、雌が126枚、雄が112枚。厚さ1mmの銅の基板に銀メッキを施し、その上に漆を塗ったものが鱗になる。この鱗1枚1枚に金板をかぶせていく、複雑な形状をもつ頭部も、同様の工程でつくられた金片で覆っていくのだ。
 サビつく寸前の技術を発揮する機会だ・・・・と勇んで、奥野茂一は取り組み始めた。
 だが、使える金の総量が最大のネックとなることが分かった。使える金は江戸時代に使われた金の4分の1でしかない。計算してみると、金箔1枚の厚さは0.15mm。葉書より薄い。金槌でたたけば、破れる。ヘラを使って金を延ばして鱗に張りつけようとしても、やはり破れる。
 奥野は、「共付け」という伝統的な技を援用した。破れたら、火で溶かして穴をふさぐのだ。しかし、火を離すタイミングが問題だった。タイミングを間違えると、表面が凸凹になったり、継ぎ目ができたりする。
 鱗1枚に金をかぶせるまで2週間かかった。しかし、費やした時間は無駄ではなかった。その期間に奥野は、「共付け」の高度な技をマスターした。
 1959(昭和34)年7月、すべての鱗の取り付けが終わった。

□NHKプロジェクトX制作班・編『曙光激闘の果てに ~プロジェクトX挑戦者たち 29~』(日本放送出版協会、2005)の「①名古屋城再建 金のシャチホコに託す」
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