遺跡等の発掘調査で、加工された装飾品、絵画、彫刻などの芸術作品のようなものが、5万年前に一気に現れる(人類学上・考古学上の「心のビッグバン」/「文化のビッグバン」)。
現生人類ないしホモ・サピエンスは20万年前に登場した。これと「心のビッグバン」との時間差は、なぜ生じたのか。そうした変化は、どのような背景で生じたのか。かかる革命的変化を否定する意見もあり、明確な決着はついていない。
人間の歴史を大きく俯瞰すると、精神的・文化的大変化の時期がもう一つ浮かびあがる。「枢軸時代」(ヤスパース)/「精神革命」(伊東俊太郎)の紀元前5世紀前後だ。
この時期、ある意味で奇妙なことに、「普遍的な原理」を志向する思想が、地球上の各地で“同時多発的”に生成した。インドにおける仏教、ギリシャ哲学、中国における老荘儒の思想、中東における旧約思想だ。それらは、特定のコミュニティを超えた「人間」という観念を初めてもつと同時に、“欲望の内的な規制”を説いた点で共通する。
人間の歴史を「拡大・成長」と「定常化」という視点でながめ返すと、3つの大きなサイクルを見いだすことができる。これは、人口の増加・定常化のサイクルとも重なる。
(1)人類誕生から狩猟・採集時代。
(2)1万年前の農耕成立以降。
(3)200年前以降の産業化/工業化時代
紀元前5世紀前後のギリシャや中国などにおいて、森林破壊などの問題が深刻化していた。
してみると、「心のビッグバン」や「枢軸時代/精神革命」は、それぞれ狩猟・採集社会と農耕社会が、いずれも当初の拡大・成長時代をへて、環境・資源の制約に直面する中で、最初の成熟・定住期に移行する際に生じたのではないか(広井良典の仮説)。いわば、物質的生産の量的拡大から、内的・文化的発展への転換だ。
現在私たちは、“第三の定常期”への移行という大きな構造変化にが直面している。
「定常」/「脱成長」は、変化の止まった退屈で窮屈な社会ではない。
定常期は、文化的創造の時代なのだ。
私たちが迎えつつある定常化時代は、成長期にあった「市場化・産業化・金融化」から解放され、一人ひとりが真の創造性を実現していく時代なのだ。
成長・拡大の時代には、世界が一つの方向へ向かう中で「時間軸」が優位になる。
定常期には、各地域の風土的多様性や固有の価値が再発見されていくだろう。これらは、資本主義の変容/ポスト資本主義というテーマと重なる。
私たちはいま、「創造的定常経済」/「創造的福祉社会」の社会像、理念、政策を構想する時期に来ているのではないか。
*
以上、コラム「成長期終え創造の時代へ」による。
広井良典は、千葉大学法経学部教授。専攻は公共政策、科学哲学。著書は、吉村賞受賞作『アメリカの医療政策と日本』(勁草書房、1982) 、第40回エコノミスト賞受賞作『日本の社会保障』(岩波新書、1999)、第9回大佛次郎賞受賞作『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009)ほか。
【参考】広井良典「成長期終え創造の時代へ」(朝日新聞2011年1月27日付け「明日探る -公共政策-」)
↓クリック、プリーズ。↓

現生人類ないしホモ・サピエンスは20万年前に登場した。これと「心のビッグバン」との時間差は、なぜ生じたのか。そうした変化は、どのような背景で生じたのか。かかる革命的変化を否定する意見もあり、明確な決着はついていない。
人間の歴史を大きく俯瞰すると、精神的・文化的大変化の時期がもう一つ浮かびあがる。「枢軸時代」(ヤスパース)/「精神革命」(伊東俊太郎)の紀元前5世紀前後だ。
この時期、ある意味で奇妙なことに、「普遍的な原理」を志向する思想が、地球上の各地で“同時多発的”に生成した。インドにおける仏教、ギリシャ哲学、中国における老荘儒の思想、中東における旧約思想だ。それらは、特定のコミュニティを超えた「人間」という観念を初めてもつと同時に、“欲望の内的な規制”を説いた点で共通する。
人間の歴史を「拡大・成長」と「定常化」という視点でながめ返すと、3つの大きなサイクルを見いだすことができる。これは、人口の増加・定常化のサイクルとも重なる。
(1)人類誕生から狩猟・採集時代。
(2)1万年前の農耕成立以降。
(3)200年前以降の産業化/工業化時代
紀元前5世紀前後のギリシャや中国などにおいて、森林破壊などの問題が深刻化していた。
してみると、「心のビッグバン」や「枢軸時代/精神革命」は、それぞれ狩猟・採集社会と農耕社会が、いずれも当初の拡大・成長時代をへて、環境・資源の制約に直面する中で、最初の成熟・定住期に移行する際に生じたのではないか(広井良典の仮説)。いわば、物質的生産の量的拡大から、内的・文化的発展への転換だ。
現在私たちは、“第三の定常期”への移行という大きな構造変化にが直面している。
「定常」/「脱成長」は、変化の止まった退屈で窮屈な社会ではない。
定常期は、文化的創造の時代なのだ。
私たちが迎えつつある定常化時代は、成長期にあった「市場化・産業化・金融化」から解放され、一人ひとりが真の創造性を実現していく時代なのだ。
成長・拡大の時代には、世界が一つの方向へ向かう中で「時間軸」が優位になる。
定常期には、各地域の風土的多様性や固有の価値が再発見されていくだろう。これらは、資本主義の変容/ポスト資本主義というテーマと重なる。
私たちはいま、「創造的定常経済」/「創造的福祉社会」の社会像、理念、政策を構想する時期に来ているのではないか。
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以上、コラム「成長期終え創造の時代へ」による。
広井良典は、千葉大学法経学部教授。専攻は公共政策、科学哲学。著書は、吉村賞受賞作『アメリカの医療政策と日本』(勁草書房、1982) 、第40回エコノミスト賞受賞作『日本の社会保障』(岩波新書、1999)、第9回大佛次郎賞受賞作『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009)ほか。
【参考】広井良典「成長期終え創造の時代へ」(朝日新聞2011年1月27日付け「明日探る -公共政策-」)
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