(1)「産学連携」とは、企業と大学などの研究機関がタッグを組むことだ。
安倍政権は、成長戦略における重要分野として医療を掲げている。「医薬研究における産学連携」が称揚されている。
この状況下で起きたのが、製薬会社ノバルティスファーマの臨床試験問題だ。
(2)ノバルティスが販売する降圧剤バルサルタン(商品名「ディオバン」)の効果について、京都府立医科大学や東京慈恵会医科大学など5大学が臨床試験を行った。その結果、血圧を下げる効果だけでなく、他の降圧剤と比べて脳卒中などの予防効果もある、とされた。
「研究成果」をノバルティスは販売促進の宣伝として利用し、降圧剤バルサルタンは年間売上げが1,000億円を超えるヒットとなった。
(3)ところが、後になって、
(a)5大学の臨床試験にノバルティスの社員たちが身分を隠したまま参加していたことが発覚した。
(b)さらに、研究チームに巨額の資金支援がなされていたことも判明した。ノバルティスは、「奨学寄附金」として5大学に総額11億3,290万円を提供していた。
(c)臨床試験のデータが操作されていたことも明らかになった。
(c)に及んで、2月下旬、東京地検特捜部が、薬事法違反(誇大広告)の容疑でノバルティスおよび5大学を家宅捜索した。刑事事件に発展したのだ。
(4)臨床試験の規模が大きかった京都府立医大、慈恵医大は、いずれも「バルサルタンにはほかの降圧剤よりも脳卒中などの発症を抑える効果がある」との結論を導いていた。両大学で、データが不正に操作されていたことが確認された。
ノバルティスは、京都府立医大に3億8,170万円、慈恵医大には1億8,770万円の「奨学寄附金」を提供していた。
(5)疑惑が持ち上がってから、ノバルティスは、「社員を臨床試験に関与させない」などの再発防止策を公表していた。しかし、舌の根も乾かぬうちに、別の不祥事を起こした。
白血病治療薬の臨床試験にも社員が参加。論文を宣伝に利用していた。
同じ不正を繰り返したばかりか、副作用の情報を収集するために患者個人の情報を東京大学医学部付属病院から得ていた。景品を用意し、営業社員たちが患者データの収集を競い合っていた。
(6)ノバルティスが背一致した「社外調査委員会」医院長の原田國男・弁護士は、臨床試験の実態は「製薬会社丸抱え」だった、と批判した。「問題行為の範囲や規模が拡大し、たじろぐほどだった」(原田弁護士)から、“底なしの腐敗”の様相を呈していたらしい。
(7)不正な論文を掲載した一流医師にも問題があった。慈恵医大が論文を発表した「ランセット」は、世界的権威のある医学誌だが、その日本支社であるエルゼビア・ジャパンがノバルティスの降圧剤の宣伝に広告代理店として関与していた。それにとどまらず、ノバルティスは、「ランセット」掲載の慈恵医大論文の別刷りをエルゼビア・ジャパンに大量発注し、購入した別刷りを宣伝に使っていた。
(8)伝染病のように、関係するものがすべて腐敗している。
産学の垣根を取り払った結果、ビジネスの論理が深く浸透し、科学者の倫理や企業の節度をなぎ倒してしまった。
「産学連携」は、「産学癒着」そのものだった。
□「ノバルティス事件が示した“底なしの腐敗” 「産学連携」とは「産学癒着」そのもの ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年4月18日号)
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安倍政権は、成長戦略における重要分野として医療を掲げている。「医薬研究における産学連携」が称揚されている。
この状況下で起きたのが、製薬会社ノバルティスファーマの臨床試験問題だ。
(2)ノバルティスが販売する降圧剤バルサルタン(商品名「ディオバン」)の効果について、京都府立医科大学や東京慈恵会医科大学など5大学が臨床試験を行った。その結果、血圧を下げる効果だけでなく、他の降圧剤と比べて脳卒中などの予防効果もある、とされた。
「研究成果」をノバルティスは販売促進の宣伝として利用し、降圧剤バルサルタンは年間売上げが1,000億円を超えるヒットとなった。
(3)ところが、後になって、
(a)5大学の臨床試験にノバルティスの社員たちが身分を隠したまま参加していたことが発覚した。
(b)さらに、研究チームに巨額の資金支援がなされていたことも判明した。ノバルティスは、「奨学寄附金」として5大学に総額11億3,290万円を提供していた。
(c)臨床試験のデータが操作されていたことも明らかになった。
(c)に及んで、2月下旬、東京地検特捜部が、薬事法違反(誇大広告)の容疑でノバルティスおよび5大学を家宅捜索した。刑事事件に発展したのだ。
(4)臨床試験の規模が大きかった京都府立医大、慈恵医大は、いずれも「バルサルタンにはほかの降圧剤よりも脳卒中などの発症を抑える効果がある」との結論を導いていた。両大学で、データが不正に操作されていたことが確認された。
ノバルティスは、京都府立医大に3億8,170万円、慈恵医大には1億8,770万円の「奨学寄附金」を提供していた。
(5)疑惑が持ち上がってから、ノバルティスは、「社員を臨床試験に関与させない」などの再発防止策を公表していた。しかし、舌の根も乾かぬうちに、別の不祥事を起こした。
白血病治療薬の臨床試験にも社員が参加。論文を宣伝に利用していた。
同じ不正を繰り返したばかりか、副作用の情報を収集するために患者個人の情報を東京大学医学部付属病院から得ていた。景品を用意し、営業社員たちが患者データの収集を競い合っていた。
(6)ノバルティスが背一致した「社外調査委員会」医院長の原田國男・弁護士は、臨床試験の実態は「製薬会社丸抱え」だった、と批判した。「問題行為の範囲や規模が拡大し、たじろぐほどだった」(原田弁護士)から、“底なしの腐敗”の様相を呈していたらしい。
(7)不正な論文を掲載した一流医師にも問題があった。慈恵医大が論文を発表した「ランセット」は、世界的権威のある医学誌だが、その日本支社であるエルゼビア・ジャパンがノバルティスの降圧剤の宣伝に広告代理店として関与していた。それにとどまらず、ノバルティスは、「ランセット」掲載の慈恵医大論文の別刷りをエルゼビア・ジャパンに大量発注し、購入した別刷りを宣伝に使っていた。
(8)伝染病のように、関係するものがすべて腐敗している。
産学の垣根を取り払った結果、ビジネスの論理が深く浸透し、科学者の倫理や企業の節度をなぎ倒してしまった。
「産学連携」は、「産学癒着」そのものだった。
□「ノバルティス事件が示した“底なしの腐敗” 「産学連携」とは「産学癒着」そのもの ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年4月18日号)
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