非正規雇用の割合あh、今や働く人の4割(2,000万人)に迫ろうとしている。この10年間、非正規雇用は(「景気回復」後も)一貫して増加している。
一方、非正規雇用問題の構図が変化している。実は、非正規雇用の変化は、児童虐待、「派遣村」、ブラック企業などの新しい社会問題を引き起こすことにも密接に関係している。
多くの非正規雇用に共通している特徴は、期間を定めて雇用される有期雇用であり、給与も正社員とは区別されて年功賃金が適用されない時給制が多い。
非正規雇用にはどのような種類があるか。総務省の労働力調査は次のように分類している。
①パートタイム労働者
②アルバイト
③労働者派遣事務所の派遣社員
④契約社員
⑤嘱託
これらの主な担い手は、それぞれ、①は主婦、②は学生、④は定年後の再雇用者だ。
非正規雇用の中で、従来から一貫して最大多数を占めているのは①だ。①は、かつてから女性労働問題の中心だった。
かつての女性労働問題の構図は、こうだ。
(1)20代までは女性もほとんどが学卒と同時に正社員として就職するが、結婚や出産を機に退職を迫られる。
(2)子どもに手がかからなくなったころに再度就労しようとすると、非正規雇用としてしか働き口がない。
(3)彼女らは「主婦」なるがゆえに男性の稼得を支える「家計補助」的就労だと見なされ、
・賃金は極端に低く押さえられ(「お小遣い水準」)、
・男性の雇用を安定させるための「雇用の調整弁」の役割を押しつけられた。
(4)ただし、多くの主婦にとって家事や育児と両立しやすい短時間労働、転勤なき雇用は、むしろ望ましいものだった。正社員に比べて「仕事が楽」だった。
低賃金が強く問題になったのは、シングルマザーにおいてだ。彼女らは「家計自立」のために就労するのだが、(3)の低賃金が適用された。このため、働く貧困(ワーキング・プア)を早くから体現することになった。
以上は、1990年代までの非正規雇用問題の構図だが、2000年代に入ってから大きく変貌する。
近年の新しい変化は、次の二段階で考えることができる。
(甲)家計自立化
(乙)基幹化・過酷化
(a)問題1・・・・非正規雇用でありながら、担い手が「家計自立型」に変化した結果、貧困問題を引き起こしている。
(b)問題2・・・・非正規雇用でありながら、過酷な仕事が要求され、生活が破壊される。
(a)’非正規雇用(低賃金・不安定)で家計を自立しなければならない労働者が急増した。2000年代の「フリーター」の登場がその先駆だ。それまでは20代の非正規雇用率は10%程度だった。大学の卒業と同時にほとんどの若者は正社員で就職していた。ところが、2000年代以降、就職できずに②に就く若者が急増した。それまでは「家計補助」だからよいとされてきた非正規雇用が、キャリアを形成し、自立していかねばならぬ若年層にまで拡大して社会問題化した。
より深刻なのは、③や④が登場し、かつ、増加してきたことだ。③や④はフルタイムで働く非正規雇用だ。週5日、1日8時間以上働くことが通常で、勤務日程も自由にならない。③や④は「家計自立型」の労働者なのだ。
厚労省の調査【注】によれば、「自分自身の収入」で生活を賄っている者は、①のうち34%、③70.9%、④74.7%だ。
しかし、雇用の「担い手」は家計補助型の学生や主婦から、家計自立型の若い労働者になったにもかかわらず、正社員と同じような年功賃金が保障されなかった。これが、「年越し派遣村」問題(2008年)の背景だ。
(b)’第二の変化は基幹化・過酷化だ。基幹化とは、重責を担わされること。非正規雇用における「楽な仕事+低処遇」の構図が崩れつつあるのだ。
<例1>①で卸販売会社に入り、1か月後に総務部課長の辞令が出た。ただし、手当はなく、試用期間の賃金のまま瀬責任だけ負わされた。
<例2>①で保育園に勤務。朝9時から勤務の約束が、実際には朝7時半からになり、土曜日にはシフトを入れないはずが、土曜日にも出勤を強制された。自分の子どもが肺炎になったときも、病欠をとらせてもらえなかった。
①であっても、責任の重い仕事を企業が丸投げする事例が増加している。
女性の就労率を表す「M字型カーブ」が変化し、台形に近づいている。出産の直前まで働き、出産後も出勤する。
男性の非正規雇用化、賃金の下落に伴い、「主婦」の労働者の足元を見て加重労働を押しつける企業が増加しているのだ。
同様に、家計自立型の④の責任も増大している。
<例3>有料老人ホームに勤める④。毎日サービス残業が2~3時間あり、休憩もとれない。月の休みは希望休で月9日あるが、行事の準備などで休みでも出勤することがある。入居者からのクレームや上司からの圧迫もある。有給をとれず、過剰労働から腰痛を発症した。
近年は学生の②の責任も増している。「バイトリーダー」などの役職に就き、会計、②の新規採用など、店舗のすべての業務に責任を負う学生も珍しくない。こうした学生は、授業中やゼミナールの最中にも仕事先から呼び出され、顧客のクレームや②の欠員などに対応が求められる。テスト期間中も休むことができず、留年・退学に至る場合もある。営業ノルマがあり、こなせなければ自社製品を毎月何万円も買う学生もある。
「ブラックバイト」が広がった要因は、親の収入減少、日本の大学の授業料が高額、奨学金制度の未整備だ。
以上のほか、「トライアル雇用」の非正規雇用の問題も深刻だ。新社員は「正社員になるため」と通常の正社員よりも過剰に働かされる。法律上の規制はなく、むしろ逆に政府は導入促進を打ち出している。
<例4>大手化粧品会社の販売職。責任は正社員と同じだが、待遇が正社員と契約社員とでは異なる。命令を拒否すると正社員になるのに不利になるという気持ちから、正社員より働いてきたが、6年働いても一向に正社員になれない。本来責任者がとるべき責任を取らされたり、正社員が休む分を契約社員でありながら働かされたりする。
非正規雇用の変化は、さまざまな社会問題を引き起こしている。
第一、貧困の増加。
第二、労働の過酷化。労働者はメンタルヘルスを病んだり、学業と両立できなくなる。労働能力そのものが破壊されてしまう。育児中の母親の虐待が発生する要因の一つに、加重すぎる労働で精神を病んだケースもある。
第三、産業に「リスク」が生じている。保育園や介護において、無理な働かせ方がサービスの安全そのものを掘り崩す。企業にとってリスクであるとともに、消費者にとってリスクだ。事実、日本より非正規雇用化が進んでいる韓国では、短期労働者が責任ある仕事を行うため、交通などの安全が損なわれている。
仕事の過酷化は、労働力不足の原因となっている。私生活と両立できないような長時間労働や責任を企業が求めることで、これに対応できる労働者が減少しているのだ。
貧困や過酷労働は、さらなる少子化を進めてしまう。
労働力確保のためにも、企業は今のやり方を見直さざるを得ない。
【注】厚生労働省「就労形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年)
□今野晴貴「非正規雇用の構図に大きな変化が起きている 企業と消費者のリスクも高まる」(「週刊金曜日」2014年11月21日号)
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一方、非正規雇用問題の構図が変化している。実は、非正規雇用の変化は、児童虐待、「派遣村」、ブラック企業などの新しい社会問題を引き起こすことにも密接に関係している。
多くの非正規雇用に共通している特徴は、期間を定めて雇用される有期雇用であり、給与も正社員とは区別されて年功賃金が適用されない時給制が多い。
非正規雇用にはどのような種類があるか。総務省の労働力調査は次のように分類している。
①パートタイム労働者
②アルバイト
③労働者派遣事務所の派遣社員
④契約社員
⑤嘱託
これらの主な担い手は、それぞれ、①は主婦、②は学生、④は定年後の再雇用者だ。
非正規雇用の中で、従来から一貫して最大多数を占めているのは①だ。①は、かつてから女性労働問題の中心だった。
かつての女性労働問題の構図は、こうだ。
(1)20代までは女性もほとんどが学卒と同時に正社員として就職するが、結婚や出産を機に退職を迫られる。
(2)子どもに手がかからなくなったころに再度就労しようとすると、非正規雇用としてしか働き口がない。
(3)彼女らは「主婦」なるがゆえに男性の稼得を支える「家計補助」的就労だと見なされ、
・賃金は極端に低く押さえられ(「お小遣い水準」)、
・男性の雇用を安定させるための「雇用の調整弁」の役割を押しつけられた。
(4)ただし、多くの主婦にとって家事や育児と両立しやすい短時間労働、転勤なき雇用は、むしろ望ましいものだった。正社員に比べて「仕事が楽」だった。
低賃金が強く問題になったのは、シングルマザーにおいてだ。彼女らは「家計自立」のために就労するのだが、(3)の低賃金が適用された。このため、働く貧困(ワーキング・プア)を早くから体現することになった。
以上は、1990年代までの非正規雇用問題の構図だが、2000年代に入ってから大きく変貌する。
近年の新しい変化は、次の二段階で考えることができる。
(甲)家計自立化
(乙)基幹化・過酷化
(a)問題1・・・・非正規雇用でありながら、担い手が「家計自立型」に変化した結果、貧困問題を引き起こしている。
(b)問題2・・・・非正規雇用でありながら、過酷な仕事が要求され、生活が破壊される。
(a)’非正規雇用(低賃金・不安定)で家計を自立しなければならない労働者が急増した。2000年代の「フリーター」の登場がその先駆だ。それまでは20代の非正規雇用率は10%程度だった。大学の卒業と同時にほとんどの若者は正社員で就職していた。ところが、2000年代以降、就職できずに②に就く若者が急増した。それまでは「家計補助」だからよいとされてきた非正規雇用が、キャリアを形成し、自立していかねばならぬ若年層にまで拡大して社会問題化した。
より深刻なのは、③や④が登場し、かつ、増加してきたことだ。③や④はフルタイムで働く非正規雇用だ。週5日、1日8時間以上働くことが通常で、勤務日程も自由にならない。③や④は「家計自立型」の労働者なのだ。
厚労省の調査【注】によれば、「自分自身の収入」で生活を賄っている者は、①のうち34%、③70.9%、④74.7%だ。
しかし、雇用の「担い手」は家計補助型の学生や主婦から、家計自立型の若い労働者になったにもかかわらず、正社員と同じような年功賃金が保障されなかった。これが、「年越し派遣村」問題(2008年)の背景だ。
(b)’第二の変化は基幹化・過酷化だ。基幹化とは、重責を担わされること。非正規雇用における「楽な仕事+低処遇」の構図が崩れつつあるのだ。
<例1>①で卸販売会社に入り、1か月後に総務部課長の辞令が出た。ただし、手当はなく、試用期間の賃金のまま瀬責任だけ負わされた。
<例2>①で保育園に勤務。朝9時から勤務の約束が、実際には朝7時半からになり、土曜日にはシフトを入れないはずが、土曜日にも出勤を強制された。自分の子どもが肺炎になったときも、病欠をとらせてもらえなかった。
①であっても、責任の重い仕事を企業が丸投げする事例が増加している。
女性の就労率を表す「M字型カーブ」が変化し、台形に近づいている。出産の直前まで働き、出産後も出勤する。
男性の非正規雇用化、賃金の下落に伴い、「主婦」の労働者の足元を見て加重労働を押しつける企業が増加しているのだ。
同様に、家計自立型の④の責任も増大している。
<例3>有料老人ホームに勤める④。毎日サービス残業が2~3時間あり、休憩もとれない。月の休みは希望休で月9日あるが、行事の準備などで休みでも出勤することがある。入居者からのクレームや上司からの圧迫もある。有給をとれず、過剰労働から腰痛を発症した。
近年は学生の②の責任も増している。「バイトリーダー」などの役職に就き、会計、②の新規採用など、店舗のすべての業務に責任を負う学生も珍しくない。こうした学生は、授業中やゼミナールの最中にも仕事先から呼び出され、顧客のクレームや②の欠員などに対応が求められる。テスト期間中も休むことができず、留年・退学に至る場合もある。営業ノルマがあり、こなせなければ自社製品を毎月何万円も買う学生もある。
「ブラックバイト」が広がった要因は、親の収入減少、日本の大学の授業料が高額、奨学金制度の未整備だ。
以上のほか、「トライアル雇用」の非正規雇用の問題も深刻だ。新社員は「正社員になるため」と通常の正社員よりも過剰に働かされる。法律上の規制はなく、むしろ逆に政府は導入促進を打ち出している。
<例4>大手化粧品会社の販売職。責任は正社員と同じだが、待遇が正社員と契約社員とでは異なる。命令を拒否すると正社員になるのに不利になるという気持ちから、正社員より働いてきたが、6年働いても一向に正社員になれない。本来責任者がとるべき責任を取らされたり、正社員が休む分を契約社員でありながら働かされたりする。
非正規雇用の変化は、さまざまな社会問題を引き起こしている。
第一、貧困の増加。
第二、労働の過酷化。労働者はメンタルヘルスを病んだり、学業と両立できなくなる。労働能力そのものが破壊されてしまう。育児中の母親の虐待が発生する要因の一つに、加重すぎる労働で精神を病んだケースもある。
第三、産業に「リスク」が生じている。保育園や介護において、無理な働かせ方がサービスの安全そのものを掘り崩す。企業にとってリスクであるとともに、消費者にとってリスクだ。事実、日本より非正規雇用化が進んでいる韓国では、短期労働者が責任ある仕事を行うため、交通などの安全が損なわれている。
仕事の過酷化は、労働力不足の原因となっている。私生活と両立できないような長時間労働や責任を企業が求めることで、これに対応できる労働者が減少しているのだ。
貧困や過酷労働は、さらなる少子化を進めてしまう。
労働力確保のためにも、企業は今のやり方を見直さざるを得ない。
【注】厚生労働省「就労形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年)
□今野晴貴「非正規雇用の構図に大きな変化が起きている 企業と消費者のリスクも高まる」(「週刊金曜日」2014年11月21日号)
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