語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~

2013年09月30日 | 社会
(1)増税路線
 (a)相続税の課税最低限である基礎控除が40%も減る。
 (b)共通番号法が成立した(2013年5月24日)。
 (c)納税者を管理抑圧する改悪国税通則法が今年1月から実施された。
 (d)今後、給与所得者や年金所得者の増税が検討される。

(2)給与年収・・・・5年間で負担が37万円増
 <例1>男性(働く妻、子ども無し)
 (a)給与年収・・・・450万円(給料+賞与) 
 (b)給与所得控除・・・・144万円
 (c)給与所得・・・・306万円((a)-(b))
 (d)社会保険料控除・・・・61万円(健康保険料23万円+厚生年金保険料38万円)
 (e)所得控除・・・・99万円((d)+基礎控除38万円)
 (f)課税所得・・・・207万円((c)-(e))
 (g)課税額・・・・52万円(所得税11万円+住民税23万円+消費税18万円【注1】)
 (h)年収に占める税負担率・・・・25%([(d)+(g)]÷(a)) ←年収の4分の1

 <例2>5年後の<例1>
 (a)給与年収・・・・450万円(給料+賞与) 
 (b)給与所得控除・・・・27万円【注2】
 (c)給与所得・・・・423万円((a)-(b))
 (d)社会保険料控除・・・・74万円(健康保険料28万円【注3】+厚生年金保険料46万円【注4】)
 (e)所得控除・・・・112万円((d)+基礎控除38万円)
 (f)課税所得・・・・311万円((c)-(e))
 (g)課税額・・・・89万円(所得税22万円【注5】+住民税32万円【注6】+消費税35万円【注7】)
 (h)年収に占める税負担率・・・・36%([(d)+(g)]÷(a)) ←年収の4割弱j

 【注1】消費税5%で標準的支出(年間350万円支出)に対するな課税額。
 【注2】極端に減らす方向性がすでに打ち出されている。2011年・2012年の税制改正大綱では、年収600万円の場合は6%と。
 【注3】毎年約1万円ずつ増額していく。5年後には5万円程度、負担が増える。健康保険料に含まれる介護保険料も年々増額していく(2012年度は1.50%から1.55%へ)。
 【注4】毎年約7,0801万円ずつ増額していく(2004年度改定)。5年後には3万5千円程度、負担が増える。
 【注5】給与年収が同じでも、課税所得が上がれば、課税額も増える。 
 【注6】同上。
 【注7】消費税10%で標準的支出(年間350万円支出)に対するな課税額。

(3)その他の負担増・・・・(2)と合せて5年間で負担が50万円増
 (a)消費増税に伴う便乗値上げ
 (b)年少扶養控除38万円の廃止(2010年)による年間76,000円の負担増。ちなみに、子ども手当は2011年に廃止。
 (c)課税額上昇に伴う保育料の負担増(保育料は税制転用方式で算定される)。

(4)結論
 2000年から始まった税制改定により、増税は消費税にとどまらず、今後あらゆる税負担が増えていく。
 年収450万円の人は、5年後、400万円を切る生活実感になる。同様に、400万円の人は300万円台に・・・・。

□浦野広明(税理士)/聞き手・まとめ:白井基夫(編集部)「5年後の苛酷な負担 ~消費税増税に待った! 2」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
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 【参考】
【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~
【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~
【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~
【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~
【経済】円安による費用増はすでに政治的問題
【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~
【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場
【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~
【経済】円安を止められなくなるリスク
【税】富裕層への増税を支持する富裕層
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~

【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~

2013年09月29日 | 震災・原発事故
 (1)9月7日、国際オリンピック委員会総会における最終プレゼンテーションで、安倍晋三・首相は、福島の状況を「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)と発言した。「私が安全を保証します。状況はコントロールされています」 「港湾内で完全にブロックされている」

 (2)9月13日、山下和彦・東京電力技術顧問は、「今の状況はコントロールできていない」と、安部首相の「国際公約」を否定した。

 (3)9月19日、安部首相は東京電力に対して、停止中の5、6号機について「事故対処に集中するため、廃炉を決定してもらいたい」と要求した。

 (4)今も一定量の放射性物質が外海に流出し続けていることは科学的に疑いがない事実だ。研修者の間でも認識は一致している。事故直後の2011年3~4月に海へ放出された放射性物質は3,500兆~5,000兆Bqと、今よりケタ違いに多い。その後、現在まで毎日漏れている量を全部足しても、最初に出た量の1%にも及ばない。【神田穰太・東京海洋大学教授】
 東電の試算でも、2011年5月以降に漏れ出した汚染水の放射性物質の総放出量は、セシウム137で20兆Bqとされる。これ自体とんでもない数字だが、事故直後に放出された量は、それをはるかに上回る尋常でない数値だった。

 (5)これまでに海洋汚染で、太平洋の魚にはどんな影響が出ているか【注】。
 海水1リットルあたり1Bqを超えると、基準値の100Bq超の魚が出やすくなる。今、1Bqを超えているのはフクイチのごく近海だけで、魚から検出されている数値は下がり続けている。太平洋は非常に広いので、放射性物質は薄まっていくし、海魚は塩と一緒に放射性物質をどんどん対外へ排出する。汚染が同じ場所にとどまる陸上のほうが、被害は深刻だ。【神田教授】

 (6)海魚と比べて、希少な塩分を体にため込む性質のある川魚のほうが、放射性物質を取り込みやすい。
 原発事故後、福島県や北関東のヤマメ・イワナなどから高い放射線量が検出された所以だ。

 (7)顕著な海洋汚染はまだ現れていないが、汚染が現在も進行中である事実は変わらない。
 海中に放出された放射性物質は、海底に沈むが、海底での堆積や生物への蓄積するメカニズムはまだよくわかっていない。「安全」という判断は、慎重に行わなくてはならない。
 9月18日発表の水産庁調査結果によると、
  (a)福島県沖のババガレイ・・・・170Bq/kg
  (b)同エゾイソアイナメ・・・・370Bq/kg
などと、海底近くに棲息する魚から特に高い放射線量が検出される傾向がある。

 (8)今後さらなる危機が太平洋を襲う可能性がある。
 もっとも警戒を要するのは、高濃度の汚染水をため込んだタンクだ。タンク1基分の汚染水が漏れると、一気に数十兆Bqが放出される。近海の魚からも、再び高い数値が検出される事態となる。
 8月に発覚したタンク漏れ汚染水300トン。このときは24兆Bqが放出された。
 東電は、いま事故が起きたのと同型タンク350基の取り替えを計画している、というが、いかにも危うい。
 時期も発注先もまだ決まっていない。

 (9)怖いのは地震だ。本来は基礎を念入りに造らなければならないのに、今は基礎のコンクリートにヒビが入っている。被曝の問題もあって、十分な作業ができないという事情があるにしても、強い揺れで底が割れる恐れがある。【筒井哲朗・「プラント技術者の会」/国内外石油プラント建設従事者】

 【注】
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介類から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
【原発】汚染された魚介類が慢性的に流通 ~スーパーマーケット~
【原発】放射能と東京オリンピック招致
【原発】大手スーパーの真鱈から放射能検出 ~関東・東海地方~
【原発】東京湾の汚染
【震災】原発>東京湾に放射能汚泥が堆積中 ~海の汚染~
【震災】原発>無防備都市--東京を覆う放射能
【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ
【震災】原発>海洋汚染 ~グリーンピースの調査・水産学者の「原子力村」~
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記
【震災】原発>汚染食品のデータをどう読むか
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ

□小泉耕平・河嶌太郎(本誌)「汚染水の湾外流出は「周知の事実」 止まらぬ太平洋汚染の“意外な"実態」(「週刊朝日」2013年10月4日号)
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 【参考】
【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~

2013年09月28日 | 震災・原発事故
 (1)五輪誘致を機に、原発事故に対する政府の関わり方が決定的に変わった。国が積極的に出張って、カネも人も出す。事実上の国際公約にしたのだから。
 ただし、万事解決するかというと、現実には難しい。メルトダウンした核燃料が今どうなっているのかすら、まったく分からない状態だから。手の打ちようがない。5、6号機の廃炉にしても、そもそも再稼働できる状態ではなかった。汚染水対策から目先を変えてリーダーシップを演出するネタに使ったまでのことだ。
 事実、安部首相が「コントロールされている」と言ったそばから、
  (a)貯水タンク近くの井戸の地下水から、ストロンチウムとトリチウムが検出された。
  (b)数日後、トリチウムが15倍の4千Bq/リットルに跳ね上がった。
  (c)9月11日、海からわずか150mの排水溝でも検出。
  (d)9月13日、山下和彦・東京電力フェロー(技術顧問)は、「今の状況はコントロールできていないと我々は考えている」と、首相発言を真っ向から否定。

 (2)このタイミングで国が対策に乗り出した理由は、五輪招致がすべてではない。別の「下心」があった。
 つまり、銀行がこれまで東電につぎ込んだ4兆円の融資を守るために公費を投入し、すべてを国民につけ回すためだ【注1】。
 「国が前面に出る」とは、「銀行を守る」ことにほかならない。
 そのカラクリは次のとおり。
 東電に融資している銀行団は、汚染水の流出を参議院選挙(7月)前から問題視していた。
 東電は、(a)この10月に地方金融機関の中心に800億円の借り換えがあり、さらに(b)12月にはメガバンク中心に2,000億円の借り換えと、3,000億円(推定)の新規融資が予定されている。
 汚染水問題は、これから先、どれくらいの資金が必要になるか、わからない。となると、東電は債務超過に陥る可能性が高い。
 そんな企業に融資したら、それこそ特別背任だ。現に、北関東の地域金融機関の一つが、借り換えに難色を示している。だから、国という「保証人」が必要だった。

 (3)東電を支えるため、銀行団から継続して融資を引き出す必要がある。そのため、「国の確約」がいる。だから、国は「汚染水問題は税金で対処するから、東電の負担はそれほど増えない」というポーズを示す必要があった。
 そのタイミングが、(2)のとおり10月と12月。
 それに合わせて、9月3日に「国費投入」が決定された。
 事実上の政府保証(税金で支払う)がついた融資は、銀行にとっておいしい商売になる。リスクなしで利息が転がりこむからだ。4兆円なら、年利1%でも400億円。これほどボロい商売はない。

 (4)「国費投入」は、震災直後に国が「東電は破綻させない」と決めた時からの規定路線だ。
 2011年4~5月ごろ、東電を破綻すべきかどうかが議論されていた【注2】。当時、いちばんのポイントは、東電が事故の免責の主張をするかどうかだった。責任をかぶることを嫌がった政府は、勝俣恒久・東電会長(当時)を連日説得し、「東電は絶対に守る」という約束のもとで責任を認めさせた。
 歪みは明らかだ。

 (5)実は国は、すでに税金を東電に投入している。
  (a)昨年7月末、原子力損害賠償支援機構を通じて、東電に1兆円の公的資金を注入した。この際、議決権の過半を握り、実質的に国有化した。にも拘わらず、かたくなに第三者を装ってきた。
  (b)被災者への損害賠償について、原子力損害賠償支援機構を通じて、上限5兆円を貸し付け、今後の利益で分割払いさせる仕組みを作った。
  (c)除染費用を国や自治体がいったん支出した後、東電に請求する仕組みも作った。
  (d)廃炉費用についても、政府は研究開発費として2012年度補正予算から盛り込んでいる。地下遮水壁を「凍土方式」にしたのは、鉄板などを使った遮水壁では研究開発にならないからだ。貯水タンクについても同様だ。
  (e)だから、現在、研究開発にとらわれず国費投入ができる特別措置法の制定が検討されている。

 【注1】
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~

 【注2】
【震災】原発>握りつぶされた「東電解体案」 ~東電の政治力~
【震災】原発>経産省の原発推進&東電護持と天下りとの関係 ~経産官僚が守るのは自分の生活~
【震災】原発>息を吹き返す東京電力

□鈴木毅(編集部)「安部政権、「汚染水」対策の真の狙いは-- 国費投入で銀行ボロ儲け」(「AERA」2013年9月30日号)
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 【参考】
【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~
【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
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【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~

2013年09月27日 | 震災・原発事故
 (1)常総生活協同組合が、千葉、茨城の15市町に住む18歳以下の子ども146人を対象に、尿検査を実施中だ。2012年11月に開始し、2014年明けに終わる。
 初めの10人を終えたとき、すでに9人からセシウム134ないし137を検出していた。予備検査を含めた最高値は、1.683Bq/リットル。参考までに調べた大人は2.5Bq/リットルという高さだった。
 すでに測定を終えた85人中、7割の58人の尿から、1Bq以下のセシウムが出ている。
 セシウム134ないし137は、自然界に存在しない物質だ。千葉、茨城の子どもたちが、原発事故で飛び散ったセシウムを体内に取り込んでいるのは間違いない。

 (2)福島を中心に200人以上の子どもの尿検査を続けている「福島老朽原発を考える会」(事務局長:青木一政)によれば、子どもの尿からセシウムが検出された例は、
  (a)岩手県一関市在住の4歳の女児(2011年9月)
  (b)静岡県伊東市在住の10歳男児(2012年11月)
 (a)の場合、4.64Bq/リットルという高さ。祖母の畑でとれた野菜を気にせずに食べていた。試しに測定したら、干しシイタケから1,810Bq/kgのセシウムが検出された。

 (3)食品に含まれる放射性セシウムの基準値は、一般食品100Bq、牛乳と乳幼児食品50Bq、飲料水と飲用茶10Bqだ。
 ただし、基準そのものに不信感を持つ消費者が多い。検査もサンプル調査にすぎない。だから、東日本の食材を敬遠し、なおかつ1Bqでも気にする。

 (4)常総生協が、2012年度、食品1,788品目を調査した結果によると、280品目からセシウムが検出された。
  (a)米・・・・74%
  (b)きのこ・・・・63%
  (c)茶・・・・50%
  (d)一般食品・・・・3割近く
 セシウムが検出された米を毎日、納豆を1日おき、鶏肉・マイタケを週2食、レンコン・アジを週1食食べただけで、10μSv/年超となる。

 (5)国が測定する対象には偏りがあり、食品からセシウムが出ていないなどと断定できる状況ではない。事実、ウチで測定しても、木の実や青果から10や20Bq程度が出るケースは結構ある。【関井守・放射能測定所運営者(東京都荒川区)】

 (6)「週刊朝日」誌の調査によると、
  (a)今回の調査結果によると、54食品中12食品からセシウムが検出された。セシウム134と137の合算で、
    ①この秋に収穫されたばかりの茨城産のレンコン・・・・22.68Bq/kg
    ②栃木産の牛乳・・・・4.43Bq/kg ⇒ 毎日コップ2杯を飲むと10μSv/年
    ③都内中堅で購入した群馬産ホウレンソウ・キャベツ・生シイタケから検出。6品目中4品目から検出。ホウレンソウは、26.12Bq/kg
    ④群馬県北産のアユの甘露煮、生栗からも検出
    ⑤三陸沖の魚を使ったサバ味噌煮缶詰・・・・15.52Bq/kg ⇒ 基準値より低いが、回遊性の魚としてはかなり高い。
    ⑥三陸沖の魚を使ったサンマの冷凍一夜干し・・・・4.73Bq/kg ⇒ 基準値より低いが、回遊性の魚としてはかなり高い。 

  (b)5月の調査結果によると、
    ①茨城産タケノコ・・・・93.81Bq/kg
    ②茨城産レンコン・・・・16.99Bq/kg
    ③群馬産メグスリノキ・・・・50.54Bq/kg 
    ④栃木産菌床シイタケ・・・・11.45Bq/kg
    ⑤静岡産茶・・・・24.38Bq/kg 

  (c)群馬、栃木、茨城、千葉で線量が高いとされる8ヵ所の畑の土壌をサンプル調査したところ、大地の放射能汚染はまだ続いている。
    ①もっとも汚染されていたのは、千葉県柏市の3,736Bq/kg
    ②ついで、茨城県守谷市の2,106Bq/kg

 (7)フクイチから千km離れている大分県の干しシイタケから、18.61Bq/kgが検出された。
 都内スーパーと直取引されたものが、そのまま販売され、かつ、検査をすり抜けた・・・・とセシウムが出たシイタケ農家は説明している。

□桐島瞬(ジャーナリスト)「セシウム検査で判明した子どもの体内被曝の深刻度」(「週刊朝日」2013年10月4日号)

 【参考】
【原発】「超高濃度汚染米」の発見 ~現行検査体制の落とし穴~
【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012
【震災】原発>「穴」の多いコメ検査体制 ~基準越えセシウムが検出~
【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~
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【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~

2013年09月26日 | 震災・原発事故
 (1)福島原発事故は、想定される最悪の事故ではなかった。大きく言えば、2つの幸運が日本を破局から救った。

 (2)第一、福島原発が日本列島の東側に位置していた。
 日本列島では、西風が卓越風で、事故が発生すうれば放射能雲は東に流れる。膨大な放射能の大部分は太平洋に流れた。日本は海に救われた、とも言える。
 もし東側に国境を接して別な国があったとすれば、その国は壊滅的な打撃を受けることになった。
 事故発生時は、冬型の気圧配置が緩み始める時期だったから、気流には複雑な乱れがあり、西側にも僅かだが放射能は流れた。その結果、図に示したような汚染地域を生み出すに至った。
 もし、この事故が、若狭湾や四国や九州の、日本列島の西側で起きていたら、日本列島のほぼ全域が「帰宅困難地域」になってしまう。
 これは、予測や可能性ではない。現実に2011年3月11日に日本で起こったことだ。

 (3)第二、原子炉の蓋が飛ばなかった。チェルノブイリ原発事故では、原子炉の蓋が吹き飛んだために、原子炉の放射能の半分近くまでもが環境に噴出し、莫大な被害をもたらすことになった。
 福島事故でも、原子論も圧力が設計値を超えていたため、いつでも原子炉本体の蓋が吹き飛ぶ可能性があった。原子炉の蓋が吹き飛べば、チェルノブイリの惨劇が再現されることになる。そうなれば、現場に人が接近することもできなくなり、第二、第三の爆発を防ぐこともできなくなる。そうなれば、北海道と西日本にしか人は住めなくなってしまう。
 しかし、幸運にも、福島事故では原子炉建屋は吹き飛んだものの、原子炉本体の蓋が飛ぶには至らなかった。

 (4)福島原発が日本列島の東側に位置しており、、辛うじて原子炉の蓋が吹き飛ばずに済んだため、これだけの大事故でありながら、深刻な汚染は北関東から南東北の一部にとどまった。
 とはいえ、一部といっても被害は甚大だ。
 2013年6月25日、環境省は、汚染状況重点調査区域の地図を公表した。この地図は、市町村ごとの空間線量が0.23μSv/時超の地域を示したもので、政府公認の汚染地図としての意味がある。
 この空間線量は、1年間の外部被曝線量に換算すると、およそ2mSvだ。
 現在の法体系では、一般の被曝限度量は1mSv/年だから、その限度の2倍の被曝を強いられる地域、ということになる。

   

 (5)大きな汚染地域は、まず宮城県北部と岩手県南部の一帯、次の福島県浜通りと中通りから栃木県、群馬県の北部の山岳地帯にいたる一帯、そして茨城県南部と千葉県北部を含む一帯、と複雑に入りくんでいる。
 山林の汚染された土壌は、大雨などが降ると川を流れ下り、流れが緩やかになれば川底に堆積し、あるいはそのまま海に流れ出て、河口部の海底に沈殿することになる。日本の国土の70%以上は山林であり、この山林の土壌に染み込んだ放射能量は膨大なものになる。山林の腐食土壌に沈着した放射能を除去することなど、あり得ないことだ。
 土壌バクテリアは、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質であっても、環境に存在する多様な微量成分と同様に対比の中に凝縮していく。この土壌微生物たちが凝縮して取り込むため、水が浄化される仕組みだ。
 首都圏の汚水処理場の活性汚泥が強い放射能を持つに至ったのは、対比が放射能を凝縮したのと同様、土壌微生物の働きによるものなのだ。堆肥に依存する有機農業は、原発とは共存できない。

 (6)懸念さるべきは、栃木県から群馬県にかけての山岳地帯の汚染状況だ。この地域は、関東平野を潤す利根川水系の水源域だ。広大な関東平野の豊かな水田は、この利根川水系の恵みのもとにある。森林の林底の腐食層に凝縮された放射能は、大雨が降るたびに濁流とともに流れだし、田畑を侵すことになるだろう。本来その現象は関東平野の比翼な大地の形成に役立っていたはずなのだが、いったん放射能に汚染されてしまえば、汚染の拡大を意味することになる。
 と年側は河口の近くで分流して、江戸川に流れ込む。やがて放射能は東京湾の海底土壌にも地屈せ気されていくことになるだろう。
 明治31年の大洪水の際に、渡良瀬川の足尾銅山の鉱毒が江戸川に流れ込み、本所・深川まで流れ込んだことを、忘れてはなるまい。

□藤田祐幸(元慶應義塾大学物理学助教授)「福島後をどう生きるか ~失われた沃野と私たちの責任~」(「世界」2013年10月号)
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 【参考】
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
【原発】汚染された魚介類が慢性的に流通 ~スーパーマーケット~
【原発】放射能と東京オリンピック招致
【原発】大手スーパーの真鱈から放射能検出 ~関東・東海地方~
【原発】東京湾の汚染
【震災】原発>東京湾に放射能汚泥が堆積中 ~海の汚染~
【震災】原発>無防備都市--東京を覆う放射能
【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ
【震災】原発>海洋汚染 ~グリーンピースの調査・水産学者の「原子力村」~
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽
【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記
【震災】原発>汚染食品のデータをどう読むか
【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ

【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~

2013年09月25日 | 震災・原発事故
 「世界」10月号は、「イチエフ 未収束の危機 ~汚染水・高線量との苦闘~」を特集する【注】。以下、その巻頭論文の抜粋、要旨。

 (1)ウランが核分裂すると放射性物質(核分裂生成物)ができる。核分裂生成物の放射能の強さは、もともとのウランが持っていた放射能の強さの1億倍にも達する。発熱量も非常に多くなる。
 フクイチは、事故後から汚染水がどんどん環境中に漏れていた。多くの構造物は地下にあって確認できないが、強烈な大地震を受けて、いたるところでコンクリートにひび割れが生じているはずだ。つまり、いたるところから汚染水が流出し、現在まで途切れることなく続いてきた。
 核分裂生成物は、200種類に及ぶ放射性物質の集合体だ。うち、現時点で重視さるべきは、3つの放射性物質だ。
  (a)セシウム137・・・・揮発性が高く、事故直後から大量に大気中に放出され、東北地方から関東地方にかけて土地を猛烈に汚染した。
  (b)ストロンチウム90・・・・セシウム137とほぼ同量生成されたが、揮発性は高くなく、大気中に出てきた量はセシウム137の1,000分の1程度。逆にいえば、炉心にそのまま残存していたが、水溶性であるため、いま汚染水となって流出している。
  (c)トリチウム(三重水素)・・・・水そのものの形で汚染水に含まれている。

 (2)これまでやってきたことは、ゼオライトなどを用いて汚染水の中からセシウム137を除去すること。
 しかし、ゼオライトではストロンチウム90を除去できない。
 トリチウムは水そのものだから、何をやっても除去できない。
 いま、東京電力は汚染水をタンクに入れてしのいでいるが、すでに40万トンに達している。いずれ、破綻せざるをえない。
 ストロンチウム90の法令上の基準値は、30Bq/リットルだ。タンクから漏れ出た汚染水の8,000万Bqという濃度がいかに猛烈なものであるかが知られよう。

 (3)ALPSが稼働しないのは、欠陥があるからだ。
 しっかりした装置を設置できるような作業現場ではない。ネズミが入り込んでショートさせ、全所停電を引き起こした電源盤変圧器にしても、屋外のトラックの荷台に置かれてあった。300μSv/時という猛烈な被曝現場だ。京大原子炉実験所では、20μSv/時超の所は高線量区域として立ち入りが制限される。300μSv/時の場所に電源盤を設置する作業は容易にできることではない。
 ALPSにしても、状況は同じだ。
 仮にALPSが稼働しても、汚染水問題は解決困難だ。今の汚染水は猛烈な高濃度で汚染されている。環境に流すことが許される濃度の何百万倍という汚染の強さだ。
 通常の手段で、千倍、きちんとやれば万倍、もしかすると十万倍の濃度も処理できるかもしれない。しかし、百万倍は難しい。ましてや、装置をきちんと設置し、運用していくことすら難しい現場で、許容濃度から百万倍超の汚染水を許容濃度以下にすることは、まず実現不可能だ。
 しかも、ALPSではトリチウムを除去できない。

 【注】(1)小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)/聞き手:熊谷伸一郎(本誌編集部)「インタビュー 福島第一原発はどうなっているのか」
    (2)藤田祐幸(元慶應義塾大学物理学助教授)「福島後をどう生きるか ~失われた沃野と私たちの責任~」
    (3)片山夏子(東京新聞社会部原発班記者)「ルポタージュ 福島第一原発作業員 ~収束しない現場の現実~」
    (4)筒井哲郎(プラント技術者)「原発事故の収束作業は誰が担っているか? ~求められるプロジェクト管理の視点~」
    (5)田辺文也(社会技術システム安全研究所主宰)「福島第一原発は地震に耐えたのか? ~検証なき再稼働への疑問~」
    (6)船橋晴俊(法政大学社会学部教授)「原子力政策は何を基準とすべきか」
    (7)細野祐二(公認会計士)「原発による不良資産を隠蔽する虚妄の廃炉会計改訂骨子案」
    (8)川口雅浩(毎日新聞内部監査室委員)「廃炉に潜む原発新増設の論理 ~自民党政権下で原子力政策の「見直し」はどう進むか~」
    (9)葉上太郎(地方自治ジャーナリスト)「フタバ 原発に翻弄された町 第2回 ~ばらばらになった町民たち~」
    (10)諸富太郎(京都大学大学院経済学研究科教授)「再生可能エネルギーで地域を再生する ~「分散型電力システム」に移行するドイツから何を学べるか~」
    (11)高橋真樹(ノンフィクションライター)「自然エネルギーで進める、まちの復興」

□小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)/聞き手:熊谷伸一郎(本誌編集部)「インタビュー 福島第一原発はどうなっているのか」(「世界」2013年10月号)

 【参考】
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
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【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~

2013年09月24日 | 震災・原発事故
 (1)汚染水タンクは、連結部分にプラスチックの素材を使っている。ここが壊れたら、タンクの内容物が流れ出し、太平洋に直接流れ込む。そうなると、影響は今の汚染水漏洩の比ではない。
 地震が、地盤が不均一でデコボコになる不等沈下や隆起を引き起こすと最悪だ。不等沈下で、端と端との沈下量が違うと、タンクが歪みを起こし、接合部に亀裂が入ってしまう可能性がある。
 事前に地盤の調査をしっかり行っておけば、こうした事態を防げる。
 しかし、東電はそれを怠った前科がある。後に300トンもの汚染水漏れを起こすことになったタンクは、貯水試験中に地盤が20cmも沈下したことで基礎にヒビが入り、解体されて別の場所に移設したものの一つだった。このタンクは、地盤沈下の際にパーツに歪みが生じていた可能性がある。
 そもそも、3・11の時にフクイチ周辺の地盤は70cmも沈下した。タンクの重みが沈下を促した可能性もあるが、3・11の地震で地盤が弱くなっていた可能瀬もある。

 (2)さらに、次にフクイチを襲う地震の問題がある。  
 福島で今後、震度6の地震が発生することもあり得る。
 それ以上に懸念されるのが、海溝の反対側で起こる大地震だ。大地震のあとに海溝などのプレート境界で起こる大地震の「双子」のような地震のことだ。インドネシア・スマトラ沖大地震(2004年12月、M9.1)後にも、2012年4月にM8.6の地震が起こった。
 こうした地震は、沖合の海底における巨大地震になるので、地上で感じる揺れがさほど大きくない場合でも、3・11のような大きな津波に襲われる可能性がある。安部首相のいわゆる「フクイチに作られた港の護岸の中にとどまっている汚染水」が、一切合切混ざって海に広がってしまうことになる。
 3・11と同じ高さの津波が襲ってくれば、当時より地盤が70cm沈下しているので、3・11より70cm高い津波が襲ってくることになる。
 タンクは、杭で地面に固定されているわけではない(地盤が不等沈下したとき歪みが起きやすくなるから)。津波の直撃を受けたら、簡単に移動・転倒してしまう。こうして倒壊したタンクは、太平洋の沖合に流されていく。高濃度汚染水が詰まったタンクが太平洋を漂流することになれば、国際社会における日本の信用は地に堕ちる。

 (3)津波の再来に、東電はいかなる対策をとっているか。
 石を金網で包んだ応急対策の防波堤しかない。抜本的な対策は、何ひとつとっていない。

 (4)ふたたび地震が起きた際、汚染水以上に破滅的な事態となるのは、爆発によって建屋が損傷している4号機だ。
 耐震補強と称して支柱を入れたりしているが、そもそも建屋自体がひどく損傷しているので、根本的な対策は難しい。4号機のプールには、大量の使用済み燃料が入っている。地震によってプールが崩落したら、また、水が無くなったら、大変な事態になる。
 燃料プールには、1,553本の燃料集合体がある。うち、1,331体が使用済みで、放射性物質の塊になった集合体だ。広島型原爆で14,000発分の放射性物質(セシウム137換算)が含まれている。
 
 (5)東電は、プール内のガレキを除去して、今年11月に燃料棒の取り出しを始める、としているが、作業は困難を極める。使用済み燃料は発熱しているし、地震による壊れ方次第では、再臨界の可能性もある。それ以上に可能性が高いのは、放射線を遮蔽しているプールの水が地震で漏れてしまって失われ、人が近づけなくなり、収拾作業がほとんど不可能なほど難しくなってしまうことだ。
 4号機は、3・11後1年をかけて、爆発で骨組みがむき出しになっていた5階以上の床の上の部分がようやく撤去された。東電は、その建屋の真横に、巨大な庇のように4号機を覆う建物(「燃料取り出し用カバー」)を建設中だ。これを足がかりに燃料棒の取り出しを進める計画だ。
 だが、燃料棒取り出し作業は慎重この上なく進めなくてはならない。もし、取り出す際に燃料棒が折れたら、そこから放射性クリプトン(肺癌を引き起こす)のガスが出てくる。このガスは、セシウムを吸着するようなフィルターでは除去できない。作業員は避難するしかない。風向きによっては、東京にまで到達するかもしれない。 

□記事「徹底解明「原発汚染水」 これが真相だ ~あなたと家族の生命がかかっている~」(「週刊現代」2013年10月5日号)
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 【参考】
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
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【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~

2013年09月23日 | 震災・原発事故
 (1)汚染水は海洋で薄まっても、放射性物質が無くなるわけではない。
 拡散した放射性物質も、生物が集めて濃縮されていく。「生物濃縮」される。
 魚介類の放射性物質による汚染について、これまで放射性セシウムが注目されてきた。しかし、問題なのは放射性ストロンチウムだ。セシウムは軽いので、建屋の爆発とともに舞い上がり、風にのって遠くまで運ばれた。一方、ストロンチウムは重いので、汚染水となって海に出て、海底にジワジワと広がっていく。
 魚介類などに含まれるストロンチウムは、測定が非常に難しい。急いでも15日くらい、下手をすると1ヵ月間くらい要する。魚は鮮度のよいうちに食べたいというニーズがあるから、流通前の検査項目には入っていない。

 (2)タンクから流出している汚染水には、このストロンチウムが大量に含まれている。東電が稼働させている放射性物質除去装置の「サリー」(東芝製)は、セシウムしか除去できないからだ。
 事実、問題のタンク周辺を通り、外洋に直接つながる排水溝で採取された水からは、高濃度のストロンチウムが検出され続けている。
 9月11日には、前日までの10倍超の220Bq/リットルのストロンチウムが検出された。
 海が汚染されているのは確実だ。しかるに、この排水溝にはいまだに常時モニタリングする体制すら構築されていない。

 (3)放射性ストロンチウムがこのままダダ漏れし続けたらどうなるか。
 セシウムは粘土質などに強固に吸着されるので、川底や海底に溜まり、水から除くのは容易だが、ストロンチウムは広がりやすく、汚染はより深刻なものとなる。
 幅広い種類の魚を汚染し、さらに生物濃縮で大きな魚になるほど多く蓄積してしまう可能性が高い。しかも、ストロンチウムは計測がセシウムよりずっと困難だ。
 さらに、成人の場合、体内に入ったセシウムが代謝・排出によって半分になる期間が100日間であるのに対し、ストロンチウムはカルシウムに似ているため骨や歯に取り込まれてしまい、体内で半減するのに18年間を要する。長い間骨の中にとどまって、血液を作る骨髄に放射線で傷をつける。そのため白血病や骨癌の原因になる。
 チェルノブイリ周辺の子どもたちも、歯に放射性ストロンチウムが取り込まれていた。
 ストロンチウムを避ける調理法はない。せいぜい、骨を避けること、丸ごと食べる小魚などを極力避けることくらいだ。

 (4)セシウムやストロンチウムより厄介なのは、トリチウム(三重水素)だ。水の分子を構成している水素原子の中まで、科学的性質は水素とまったく同じだ。酸素と結合して水を作る。水から水を分離できないから、トリチウムを除去することは、とても困難だ。
 汚染水漏れを起こしたタンク周辺では、すでにこのトリチウムが地下水に到達し、観測井戸の水から15万Bq/リットル超の高濃度で検出されている。
 半減期12年のトリチウムが放出する放射線エネルギーは、セシウムやストロンチウムのそれより危険性は低い。しかし、人体の60%は水分で、DNAにも水素原子が含まれているから、そこへトリチウムが入ると、やがてDNAの構造に異常が生じる。トリチウムの危険性は、それが放出する放射能によるものだけではない。

 (5)放射性物質を蓄積しやすい魚は、アイナメ・カレイ・ヒラメなど海底に棲む底生魚だ。スズキやメバルなど沿岸部の狭い範囲で一生を過ごす魚にも汚染が続く。国の基準値100Bq/kgを大幅に超える魚もある。
 スーパーなどで、関西圏の産地などが明示されている魚介類がある一方、「太平洋産」という表示のものがある。これは本来、沖合で獲れた魚につける表示なのだが、汚染された海域に近い場所で獲れたものが紛れ込んでしまう可能性がある。
 また、カマボコやツミレなど加工食品に入るものや、外食産業で「白身魚」などと括られてしまうものは、産地が不明だ。当分、要注意だ。

□記事「徹底解明「原発汚染水」 これが真相だ ~あなたと家族の生命がかかっている~」(「週刊現代」2013年10月5日号)
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【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出

【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~

2013年09月22日 | 震災・原発事故
 (1)原発汚染水はどこから来るのか。
  (a)冷却水・・・・400トン/日の水を循環させて冷却している。そのうち原子炉建屋から溢れ出た汚染水などを、タンクに移している。ところが、1,000基あるタンクの一部から300トンの汚染水が漏れ出ていた。漏出した汚染水は地下にしみこみ、排水溝などを伝って、すでに海に出てしまった、と目される。漏れが発見されたタンクは1基だけだが、他のタンクからも漏出している危険性は十分にある。ちなみに、東電はタンクのパトロールをしているが、配管(汚染水をタンクに移送)はチェックしていない。配管はポリエチレン製で、熱によって伸縮するから水漏れがよく起こる。それを保護するために養生シートを巻き、さらに保温材を巻くため、目視では状況が確認できない。だが、実際には配管のいろんな箇所が壊れている。配管の一部は、2,000μSv/時超の線量を示す。人が1時間浴びると、2週間以内に死亡する線量だ。
  (b)地下水・・・・原発構内に阿武隈山地から1,000トン/日の水が流入する。うち、400トン/日の地下水が原子炉建屋に流れ込んでいる。残り600トン/日が海へ出ていくが、そのうち300トン/日は敷地内で汚染されている。
  (c)雨・・・・年間400万~500万トンの雨が降り注ぐ。これが地下水となって、川や海に流れ込む。ただし、大量に降雨があっても、あるいはいくらタンクに移送しても、汚染水は増えも減りもしない。建屋内の汚染水が地下水とつながり、海へ流れ出ているからだ。 

 (2)タンク自体が危険要因だ、という指摘もある。津波の名残が建屋から溢れ出し、その汚染水をタンクに移送するなどして、海水を含むことになったタンクが多数ある。タンクは、塩分を含む環境下では、年間最大1.5mmのスピードでタンクの腐食が進む。
 タンクの蓋のスティールは6mmで、壁面はたった12mmしかない。ボルトがある継ぎ目はさらに腐食のスピードが早い。
 要するに、放射性物質と海水が混じった汚染水はタンクを内側から腐らせるのだ。
 事実、汚染水が漏れだしたタンクは、メーカーによれば5年保証なのだが、すでにサビだらけ。配管部分のパッキンは腐食し、ボルトは緩んでいる。

 (3)地中から、あるいは原発から、隣接する湾内に流れ込んだ汚染水は、水中カーテン(「シルトフェンス」)に囲まれた0.3粁米の囲いの中に収まっている、とされる。放射性物質の濃度が高いのが、この範囲だからだ。安部首相のいわゆる「湾内でブロックされている」発言の根拠だ。
 事実はしかし、福島原発に隣接する湾内にある海水の半分が、毎日外洋に流出している。
 汚染水は、太平洋全体に拡がる一方、「海のホットスポット」を作り出している。フクイチの20km圏内の海底に、セシウム137の濃度が局地的に高い場所(「アノマリー」)が見つかっている。アノマリーの場所は、沿岸からの距離によって決まるのではなく、海底の地形と土質によって決まる。窪地や、海底土の粒子が細かいところだ。
 「海のホットスポット」に棲息する魚介類が高濃度で汚染されているのは確実だ。

 (4)現在、建屋内に溜まっている汚染水は5万トン。
 これとは別に、海に向けて原発の下をゆっくり移動している汚染地下水が20万トン以上ある。
 今後、さらに高濃度の汚染水が、太平洋に流れ出るリスクを日本は抱えている。

 (4)政府は、タンクを密閉性が高い溶接式に切り替え、故障中の「ALPS」を早急に再稼働させようとしている。しかし、効果は疑問だ。
  (a)地上タンクから漏れたとされる300トンの汚染水には、8,000万Bqのベータ線放出核種がある。その正体はストロンチウム90だ(推定)。規制値以下の濃度に制御するには、30Bqつまり100万分の1以下にしなくてはならない。それを汚染の激しい現場で達成するのは非常に困難だ。
  (b)そして、トリチウムは除去する方法がない。
  (c)ちなみに、セシウム137は、揮発性が高く、事故直後から大量に大気中に放出され、東北地方から関東地方にかけて土地を猛烈に汚染した。
 ともかく原子炉建屋に流入する地下水を止めようと、政府は凍土壁を作るプランをぶち上げた。長さ1.5km、幅500m以上。前例がない。
 しかし、内容は実に心もとない。一気に凍るため、短期間での運用には適している、とされる凍土壁だが、維持には莫大な電力が必要だ。廃炉までの30~40年間、使い続けるのは、技術的にも経済的にも現実的でない。
 しかも、凍土壁が完成するのは2年も先。それが機能する保証もない。

 (5)恐るべきシナリオもある。タンクの周囲から17万Bqという超高濃度汚染水が検出されている。これは明らかにおかしい。タンク内の汚染水の濃度が急上昇するはずがない。
 事故後の水素爆発で飛び散った燃料棒の一部が土中にあり、地下水を汚染している可能性があるのだ。これは、土中に原子炉があるようなものだ。

 (6)東電が、海への汚染水流入を止めようとして水ガラスで遮水壁を作った影響で、原発の敷地全体の地下水位が上がり、地上のタンクの設置場所が50cmも浮き上がった。
 地下水を汲み上げれば地盤沈下が起こり、せき止めれば地盤が上がる。フクイチは非常に危ういバランスの上に成り立っている。

□記事「徹底解明「原発汚染水」 これが真相だ ~あなたと家族の生命がかかっている~」(「週刊現代」2013年10月5日号)

 【参考】
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【隠蔽】年金申請書類を紛失、言い逃れのテクニック ~日本年金機構~

2013年09月21日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)またしても日本年金機構で、旧社会保険庁時代の不祥事に匹敵する不祥事が発覚した。
 年金(遺族年金を含む)受給申請書類を適切に処理しないまま、店晒しにしていたのである。
 当然、老後の生活を揺るがし、世帯主を喪った遺族の生活を圧迫した。

 (2)機構本部発表の「プレスリリース」(8月9日付け)によれば、これら不祥事は、兵庫事務センター(書類を集中的に処理する事務センターの一つ)で発生していた。
 同事務センターが過去2年半に受け付けた書類のうち、少なくとも250件が未処理だったことが判明。
 このうち、受け付けた書類そのものを紛失し、処理しようにも処理できないケースが57件もあった。これらについては、書類の再提出を求める、という負担を年金請求者に負わせている。
 最悪なことに、その間に年金を受給できないまま死亡していた人まで出ていた。

 (3)本来なら、事態を把握した時点で機構本部のとるべき措置は、
  (a)まず国民に向けて情報公開し、謝罪することだ。
  (b)同時に、他にも書類を紛失した事務センターがないかを調査し、
  (c)専用の相談窓口を設けて、少しでも不安を感じて問い合わせてきた人への相談体制を充実させることだ。

 (4)ところが、機構本部は、
  (a)「処理の遅れたお客様対応に忙しかった」という屁理屈をひねり出し、
  (b)今年1月中旬に事態を把握しながら8月9日まで7ヵ月間も「隠蔽」を決め込んだ。
  (c)その間、何をしていたかというと、関西地区の職員を駈り出し、密かに事案の処理を急いでいた。

 (5)要するに、機構本部は、
  (a)自己保身には本能的なまでの抜け目なさを発揮し、
  (b)迷惑をかけた年金加入者には頬かむりを決め込んだ。
  (c)そして、呆れるばかりの不誠実、事なかれ主義よりも悪質なのは、「隠蔽」によって、公的年金制度の信頼を破壊的なほど揺るがせてしまった。・・・・そのことに、機構本部は気付いていない。

 (6)岩瀬達哉・社会保障審議会日本年金機構評価部会委員は、「プレスリリース」が公表された当日に開催された同部会の席上で、リリースではよく分からなかった事実関係を機構側に質した。再発防止策をたてるにあたり、事実関係の把握は、最低限、必要なことだからだ。
 特に集中的に質したのは、57件の申請書類を紛失したことに係る説明だ。常識的に考えて、57件もの書類を紛失するのは、職員が故意に捨てるか、不正に持ち出して紛失するか、「犯罪的行為」がなければ発生しないはずだ。
 この点、機構側はどのような調査を行い、どのような結果を得ているのか。
 ところが、何度同じ質問を試みても、機構側は「いまだ調査中」といった趣旨の回答を繰り返すばかりだった。挙げ句のはて、人を喰った説明までやらかした。
 「書類がロッカーやキャビネットの隙間に落ちていた、ということも過去にはあった。また、書類を管理するロッカーが不足しているところもあり、キチンと管理できなかった可能性もある」
 では、兵庫事務センターでは新たにロッカーを購入した事実はあるのか、と問うと、「それはわからない」と回答するのであった。
 要するに、
  (a)一般論を交え、
  (b)論点を攪乱するばかりで、
  (c)ついぞまともな説明をしなかった。

□岩瀬達哉「謝罪より保身で被害拡大 7ヵ月も隠蔽されていた日本年金機構の“犯罪行為" ~ジャーナリストの目 第174回~」(「週刊現代」2013年9月14日号)
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【食】表示を求める声が米国で拡大 ~遺伝子組み換え食品~

2013年09月20日 | 社会
 (1)米国の遺伝子組み換え(GM)食品に係るアンケート調査結果【注】によれば、
  (a)表示するべきだ・・・・93%
  (b)食品に含まれる遺伝子組み換え作物(GMO)に係る健康影響などを懸念・・・・4分の3
  (c)発癌性やアレルギー誘発を恐れる・・・・(b)のうち37%
  (d)GM野菜・果物・穀類を食べない・・・・半数
  (e)GM魚を食べない・・・・4分の3
  (f)GM家畜の肉を食べない・・・・3分の2

 (2)(1)の調査は、GM食品表示を求める市民運動(いま全米で広がっている)を背景にしている。
 「GMOを知る権利」を宣言して取り組んでいる草の根運動は、37州に広がった。
 GM食品表示法案を議会に提出した州も、26に達した。
 きっかけは、カルフォニア州における住民発議によるGM食品表示法案投票(昨年11月)だった。僅差で法案は成立しなかった(49%対51%)。食品業界やバイテク業界が投票日直前に30分に1回テレビコマーシャルを流し、その結果逆転された。しかし、これがきっかけになって、運動が全米に広がった。

 (3)わけても注目されるのが、ワシントン州だ。
 同州では、署名が規定数を上回って有効となり、GM食品表示法案が州議会に提出された。しかいs、州議会は期限(4月28日)まで何も対応を示さず、不成立となった。ために、次のステップとして、11月5日に住民投票が行われることになった。

 (4)もう一つ注目されている州が、バーモント州だ。
 同州では、GM食品表示法案が下院で可決されたが、上院での可決は来年1月まで行われないことになった。
 2005年、同州はモンサント社から農民を保護する法案が議会で可決されたものの、当時の州知事が拒否権を行使して成立しなかった。
 今回も、上院での可決は確実視されているものの、州知事の対応が注目されている。

 (5)アラスカ州では、いま米国食品医薬品局(FDA)の承認を間近に控えたGM鮭に対する反対運動が州ぐるみで強まっている。
 今年初め、GM魚への表示を義務づける法律を施行している。

 (6)メーン州では、GM食品表示法案を下院が141対4で、上院が35対0(全会一致)で可決した。
 しかし、施行については、「メーン州と同州に近接した5つの州が同様の法案を可決成立させる」という条件が付けられた。

 (7)コネチカット州議会上院も、GM食品表示法案を35対1で可決した。
 これにより有望になったが、この法案も、施行に条件が2つ付いている。(a)(6)と同様に、北東部の他の4州で採択され、そのうち1つがコネチカット州と隣接していること。(b)米国北東部で同様の表示法が採択された際に、それらの州の総人口が2,000万人超であること。
 いずれもバイテク業界が大規模なロビー活動を行った結果だ。

 (8)米国でGM食品表示が進めば、TPPで最大の案件の一つになっているGM食品表示廃止問題で、米国政府は他の国に対して圧力をかけるのが難しくなる。
 米国における市民運動の取り組みが注目される。

 【注】7月27日付け「ニューヨークタイムズ」。

□天笠啓祐「GM食品表示を求める消費者の声が全米中に広がりつつある」(「週刊金曜日」2013年9月13日号)

 【参考】
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【食】食品表示はどこまで信用できるか ~遺伝子組み換えでない/表示なし~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【食】効能表示をしたい健康食品業界と歯止めをしたい消費者庁
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
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【食】中国における食品汚染事件 ~悪質ケース50(抄)~

2013年09月19日 | 社会
 (1)2011年より前に大きな話題となった事件があった。
   ①2004年 理髪店で集めた人毛からアミノ酸を抽出し、醤油を製造した事件。
   ②2006年 アヒルの卵に工業用着色剤「蘇丹紅」を用いた事件。
   ③2008年 有害物質メラミンが粉ミルクや牛乳に混入した事件。

(2)2011年春から、それまでを上回る頻度で、衝撃的な食品汚染事件が多発した。なぜ急増したか。一因は、双匯「痩肉精」事件(次の①)を機に、中国政府が食品汚染事件を積極的に公開する姿勢を示したことだ。
 この姿勢を後押ししたのが、ミニブログ「微博(ウェイボー)」(現在5億人強がアカウントを持つ)だ。
 「微博」は、(a)東日本大震災と、(b)同年(2013年)7月23日の中国高速鉄道事故をきっかけに急速に普及した。政府が事件を隠蔽したくとも隠せない環境が生まれたのだ。例えば、次の事件は、(a)と(b)の間に発生している。
   ①2011年3月(河北省) 双匯「痩肉精」事件・・・・「双匯」(中国最大手)の豚肉供給業者が発癌性が認められている「痩肉精」を使用していたことを国営テレビ局「中国中央電視台(CCTV)」が暴露した。 
   ②2011年3月(上海市) 着色まんとう事件
   ③2011年3月(重慶市) ホルムアルデヒド漬け毛血旺事件
   ④2011年4月(山東省) 工業用漂白剤使用乾燥湯葉事件
   ⑤2011年4月(北京市) 亜硝酸塩鶏唐揚げ事件
 「アルカリ性洗剤混入プレミアム牛乳事件」((3)-(a)-⑦)は、「微博」の書き込みにより明るみに出た。「微博」が、食品汚染事件を直接・間接的に公けにする役割を担ったのは確かだ。

 (3)3年間弱(2011~13年)の食品汚染事件の特徴は、大きく2つ。
  (a)大企業が事件の主役として登場した。中国全土や地方の著名企業・ブランドで、信頼されていただけに、その不祥事が消費者に与えたショックは大きく、食品への信頼を失わせた。
    ①2011年3月(河北省) 双匯「痩肉精」事件【双匯】((2)-①) 
    ②2012年1月(北京市) 「満記甜品」大腸菌事件【満記甜品】 
    ③2012年3月(雲南省) 雲南大型地溝油事件【雲南豊瑞油脂】
    ④2012年4月(河北省・浙江省) 毒カプセル皮膜事件【修正薬菜】
    ⑤2012年4月(山西省) 塩素入りコカ・コーラ事件【コカ・コーラ】
    ⑥2012年6月(四川省達州市) ウォルマート病気豚肉販売事件【ウォルマート】
    ⑦2012年6月(上海市) アルカリ性洗剤混入プレミアム牛乳事件【光明】
    ⑧2012年7月(広州市) 発癌性カビ毒混入南山粉ミルク事件【亜華乳業】
    ⑨2012年11月(上海市) 可塑剤入り高級白酒事件【酒鬼酒】
    ⑩2012年12月(山東省) ケンタッキー抗生物質・成長ホルモン剤鶏肉事件【ケンタッキー】
    ⑪2013年4月(北京市) 「農夫山泉」ミネラルウォーター品質疑惑事件【農夫山泉】

  (b)非食用の化学物質や重金属による汚染が急増している。
 アルミニウム、痩肉精、ホルムアルデヒド、亜硝酸ナトリウム、牛肉骨、吊白塊、亜硝酸塩、工業用パラフィン、工業用マグネシウム、可塑剤、工業用苛性ソーダ・・・・。使用された化学物質や重金属は枚挙にいとまがない。
 これだけの化学物質が食品用に「開発」されるにあたり、黒幕的化学者が存在する。【宮靖・週刊誌「新世紀」(調査報道で知られる)電子版記者】

 (4)中国で頻繁に食品汚染事件が起こり、しかも大企業が名を連ねる一因に、中国の脳層や食品加工企業の「集約化」が極端に遅れていることがある。2011年6月現在、中国には45万社の食品メーカーがあったが、このうち80%以上が従業員10人以下の零細企業だった。
 農業も産業化が遅れ、農家のほとんどは零細農家だ。
 こうした零細企業・農家の商品・農作物は、仲買人が買い付け、最終的にメーカーまで行きつく。メラミン事件((1)-③)やケンタッキー事件((3)-(a)-⑩)は、末端の生産者や農家が汚染に手を染めていることにメーカーが気付かず、発生した事件だ。
 世界第2位の経済大国、中国の大都市はその繁栄を謳歌するが、一方、内陸部の田舎では、その日の生活に事欠くような貧村がある。食品汚染の生産現場は、多くがこうした寒村だ。
 毒カプセル皮膜事件((3)-(a)-④)では、河北省の寒村で皮革製品の廃棄物から工業用接着剤を抽出する作業が行われていた。事件発覚後、同村を支えていた「産業」は壊滅した。村民のその後の困難は、想像するに難くはない。

 (5)食品汚染を起こす大企業に、中国の消費者の失望は高まるばかりだ。
 大企業の犯罪が後を絶たないりゆうは、「中国は“犯罪コスト"が低すぎる」【呉暁波・著名な経済ジャーナリスト】からだ。
 メラニン事件((1)-③)を引き起こした後も、何事もなかったかのように中国の乳業メーカーは営業し続ける。
 これだけ事件が続くと、驚きを超え、神経がマヒしてくる。いまの中国に安全な食べ物なんて、ない。【河南省出身のカメラマン、30歳男性】
 極力安全な食材を買い、自分で料理する。野菜は比較的安心な上海産を選んでいる。「地溝油」(((3)-(a)-③)が怖いので、レストランでは食べたくない。【公告会社で働く上海人、40歳男性】

 (6)行政側も、手をこまぬいているわけではない。大事件には、そのつど逮捕者を出し、重罪を課しているほか、工場閉鎖や巨額の罰金を科している。近年、市民の関心の高まりを受け、重罪を課す傾向が増えている。

 (7)中国の食品汚染問題は、社会の仕組みや貧困、国民の考え方と密接に関係している。食品問題だけに焦点をあてるのではなく、社会構造に真剣に取り組まない限り、今後も新たな汚染事件が発生するだろう。

□杜丘由宇(ライター、上海)「中国現地メディアが報じた 食品汚染事件悪質ケース50 2011~2013」(「週刊朝日」2013年9月20日号)
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 【参考】
【食】「危ない中国産」を見破る法 ~ジュース・菓子~
【食】中国産ウナギ肝から国際基準の1.5倍のカドニウム
【食】外食、どのメニューに中国産が入っているか ~中国食品を見破れ(3)~
【食】安いものにはウラがある ~成型肉の添加物~
【食】中国産から身を守るためのQ&A ~中国食品を見破れ(2)~
【食】中国食品を見破れ ~スーパー・外食~
【食】中国猛毒食品(2) ~アサリ・エビ・ピーナッツ・漬物・ウナギ~
【食】中国猛毒食品 ~絶対に食べてはいけない遺伝子組み換え米~
【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド

【国際】プーチン大統領、米国へ怨みを倍返し ~シリア問題~

2013年09月18日 | 社会
 (1)本来グローバルな経済問題について話し合う場のG20サミットは、9月5~6日(於サンクトペテルブルグ)では、シリア問題をめぐる米露の駆け引きが中心テーマとなった。
 6日、プーチン・露大統領とオバマ・米大統領が20分間会談した。シリアに対する限定的な武力行使に係る両者の主張は溝が埋まらず、会談は決裂した。会談後の会見で、
  (a)プーチンは、シリアが攻撃されたら助ける、と述べて米国を牽制し、
  (b)オバマは、安保理決議がなくても軍事行動に踏み切る考えを表明した。

 (2)そもそも、米露首脳会談が行われたこと自体、米国が守勢に立っていることを示す。
 8月1日、エドワード・スノーデン・元CIA職員の1年の期限付き亡命をロシアが認めた。これに反発した米国が、9月上旬、G20の際に予定されていた米露首脳会談をキャンセルした。かかる経緯にもかかわらず、今回オバマが会談に応じたこと自体が米国の弱さだ、とプーチンは受け止めている。
 プーチンからすれば、CIAがスノーデン拘束作戦を首尾よく展開できなかったので、ロシアは迷惑を受けた。にもかかわらず、米政府はロシアがスノーデンを米国に引き渡さなかったことを非難し、エキセントリックな対応(本件と無関係な米露首脳会談のキャンセル)をした。
 こうしたことに、プーチンは腹を立てている。シリア情勢に関し、「スノーデン事件のときの怨みを倍返しにしてやる」という対応をとっている。

 (3)ロシアも、シリアにおいて化学兵器が使用されたことを認めている。ただし、使用者はシリア政府軍ではなく、反政府武装勢力である、という見方を示す。ただし、ロシアは、裏付けとなる証拠を一切提示していない。
 本件をめぐるロシアの論理は、8月31日のプーチン声明が端的に示す。いわく・・・・
 シリア政府軍は郵政に立っており、いくつかの地域では反体制派を囲んでいる。この条件下で、しきりに軍事介入を呼びかけている者らに切り札を与えることは途方もなく馬鹿げた話だ。しかも、国連の査察団が到着するという、その日に。ゆえに軍事介入の提案は、紛争に他国を引きこもうとし、国際活動の強力な参加者(何よりもまず米国)側からの支持を取り付けたいとする者らが仕掛けた扇動以外の何ものでもない。米国は化学兵器を使用した証拠を国連の査察官や安保理に提供せよ。証拠を掴んでいるが、誰にも提供できない、という言い分は、批判に耐えるものではないし、国際活動のほかの参加者に対する尊敬の念を欠いている。証拠が提出されなければ、そういったものは無いのだ。何らかの交渉の情報をとらえた、のごとき話は、これだけ重大な決定(主権国家に対する武力行使)をとる土台になり得ない、云々。

 (4)元KGBのプーチンは、シリア情勢を熟知している。アサド政権がアラウィー派でないシリア国民に対して虐殺を行ってきた経緯を熟知している。アサド政権が、国民に対して化学兵器を使用する可能性も十分にある、とプーチンは認識している。
 だから、<仮に国連によってシリアで化学兵器が使用された事実が証拠付けられれば、ロシアは「同様の事態が繰り返されぬための措置の策定に」加わる>【注1】と述べているのだ。
 
 (5)プーチンは、米露首脳会談の結果、オバマが決断力に欠けて優柔不断な性格である、という認識を持つに至った。
 そこでプーチンは、ソ連崩壊後に米国が設定した「レッドライン」(この線を超えたら武力によって鎮圧される)を機能不全に陥らせようとして、インテリジェンス工作を展開している。
 <ロシアはシリア軍事介入が行われた場合、シリアを支援する。6日、プーチン大統領はG20サミットを総括した記者会見の席で、記者団からの問いに答えたなかでこう語った。/プーチン大統領はまた、ロシアは現在も支援を行っており、「武器を供給し、経済分野で協力を行っている」と付け加えた。(中略)/プーチン大統領は、G20サミットの討論のなかで、シリア攻撃には米国、トルコ、カナダ、フランス、サウジアラビア、英国が支持を示し、逆に不支持を表明したのはロシア、中国、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、イタリアだったことを明らかにした。/プーチン大統領は、シリア攻撃には国連のパン事務総長もローマ教皇も反対していると指摘し、「これ以外にも西側諸国の大多数の市民がシリアでの軍事行動を支持していない」と強調している>【注2】 

 (6)プーチンは、シリア問題をめぐってG20の場を利用して、対米包囲網を形成することを試み、それはかなり成功した。
 その結果、オバマはプーチンに対する不信感を強めた。
 両大統領は、シリア国民の命運には関心を持たず、帝国主義的争いに腐心しているだけだ。

 【注1】8月31日付け「『ロシアの声』日本語版ホームページ」。
 【注2】前掲サイト。

□佐藤優「G20で対米包囲網の形成に成功したプーチン大統領 ~佐藤優の飛耳長目885~」(「週刊金曜日」2013年9月13日号)

 【参考】
【国際】なぜロシアはアサド政権を支持するか ~民族紛争~
【社会】猪瀬直樹東京都知事の「イスラム侮辱」問題 ~国益と国民益を毀損~
【社会】チェチェン人兄弟はなぜアメリカでテロを起こしたのか ~民族問題~
【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、朝鮮人やイスラム教徒の時間軸と日本人の時間軸との違い
【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(2) ~ソ連解体の始まり、ナゴルノ・カラバフ紛争~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(1) ~アゼルバイジャン~」     ↓クリック、プリーズ。↓
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【原発】福島県内各地の放射線量 ~2013年夏~

2013年09月17日 | 震災・原発事故
(1)南相馬市小高区
 ・位置・・・・フクイチから16km(避難指示解除準備区域)
 ・空間線量率・・・・0.1023μSv/時
 ・市街地にアライグマが出現するようになった。住民が消えた結果、人と野生動物との関係が大きく変化している。人が消えた家屋は、アライグマたちには格好のねぐらになっている。浜通りにメダカ(環境省レッドリスト・絶滅危惧種Ⅱ類)が復活しつつあるが、放射能汚染エリアだ。ここから南に13kmの浪江町井出猿田築(帰宅困難区域)のため池のメダカから、環境省調査(2012年)によって、7,740~35,700Bq/kgの放射性セシウムが検出されている。

(2)双葉郡楢葉町木戸川
 ・位置・・・・フクイチから17km(避難指示解除準備区域)
 ・空間線量率・・・・0.571μSv/時 
 ・木戸川のアユといえば、かつては天皇家に献上されていたほどの名産品。放射能のせいで、それが全部ダメになった。同町から1km北川を流れる井出川も。浜通りのほとんどの川では遊漁は当分の間は不可能だ。国の一般食品の放射性セシウム基準値(100Bq/kg)を超えているからだ。ヤマメ・イワナも同様。川底の汚染が長引くのは、川を取り巻く森が放射能の供給源になっていることが一因だ。

(3)双葉郡川内村平伏沼
 ・位置・・・・フクイチから28km
 ・空間線量率・・・・0.157μSv/時 
 ・川内村の東側3分の1は「20km圏内」、「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」。その外側で暮らし続けると、ICRPが勧告する公衆の線量限度(1mSv/年)を超えるか超えないかの被曝は免れない。野生のヤマメ・イワナから以前数十~数百Bq/kgと、を超える個体が見つかっている。特産のキノコ、山菜、イノシシ肉などに対する国からの出荷制限指示も続いたまま。

(4)耶麻郡猪苗代町<マタギサミット>
 ・位置・・・・フクイチから78km
 ・空間線量率・・・・0.108μSv/時 
 ・地上1cmで最高208μSv/時とか、桁違いに汚染度の高い場所がちょこちょこある。人間が長く過ごすには危険すぎて、動物の駆除どころではない。イノシシ肉出荷規制区域は、2013年7月5日現在、全県に及ぶ。

(5)いわき市猿倉公園ため池
 ・位置・・・・フクイチから39km。浜通り。
 ・空間線量率・・・・0.140μSv/時 
 ・猿倉公園ため池は、いわき市内のため池2ヵ所のうちの一。標高200m。台風など大雨が降ると、セシウムがどんどん蓄積されていく。汚染水漏洩は制御されていない。低レベル汚染は、今後も長期にわたり続くと目される。

□平田剛士(フリーランス記者)「今、福島の森と川で何が起きているのか」(「週刊金曜日」2013年9月13日号)
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書評:『まぐろ土佐船』

2013年09月16日 | ノンフィクション
 著者は、広告代理店勤務をへてフリーライターになった。不規則な生活が続き、仕事の行き詰まりから酒量が増えた。
 生活を立て直すべく遠洋漁業の取材を志し、高知の安芸を訪問。しかし、漁労の経験がなくコネもない28歳の素人に室津船員斡旋所は難色を示す。食堂を手伝いつつ待つこと1年半、なじみになった甲板長のあっせんで、晴れてマグロ漁船、第16合栄丸に乗り組むことになった。
 機関部員として採用された初航海が終わりに近づいたころ、急病のコック長を代理した。直前まで勤めていた食堂で調理を覚えた経験が活きた。その後二度、コック長として海へ出た。
 本書は、主として最後の航海をつづる。新造の第36合栄丸(299トン)とともに過ごした1,770日間である。

 マグロ漁業について何もしらない者には、その実情が興味深い。
 たとえば延縄(はえなわ)と呼ばれる漁法、あるいは年々ますマグロ漁業の頽勢。
 後者は、200カイリ問題、資源の枯渇、漁獲制限、輸入マグロの増加、魚価の低迷が経営を圧迫している。日かつ連(日本鰹鮪漁業協同組合連合会)は自主リストラの措置(減船)で対処しているが、国外に売却した中古船が国際条約に加盟していない国に船籍を移されて(便宜置籍船)密漁に走り、密漁されたマグロがわが国に輸入されて魚価をさらに下げる、という悪循環をもたらしている。

 こうした鳥瞰的視点も入っているものの、本書がつたえるのは、あくまで著者の目で見た船員たちの生活と行動である。
 たとえばひとたび漁となれば15時間ぶっとおしの激務が待ち受けている。少々の体調悪化はおして働かねばならない。その根性がなければ、同僚たちから浮きあがってしまう。
 あるいは身近にある数々の危険。指の骨折や切断があり、刺傷もある。大波やローリングによる転落は、他船の場合だが、本書にも度々出てくる。著者もまた摂氏5度の野菜庫(内側からは開かない)に閉じこめられた。
 他方、魚群を求めて移動する間、空いた時間を船員は気ままに過ごす。狭い船内だが、陸とは違った自由がある。ビデオを撮影して家族に送る者、家族を語る者。のど自慢大会も開かれる。
 第36合栄丸は、漁労長の統率力ゆえに人間関係に恵まれていた、と著者はいう。幾つかのエピソードがその述懐を保証する。
 その第36合栄丸でさえ、漁労長が倒れたとき、長期間の航海からくるストレスや不漁の苛立ちが噴き出て「派閥」が生じ、一触即発の状態になった。小集団が長期間、狭い空間で行動をともにすると、やはり無理がくるのだ。著者の船は、新しい漁労長が就任して、気分が一新されたのだけれど。

 劇的な場面はあるが、日々は概して単調だ。
 だから、船員の関心は食べる物に向かう。限られた食材で船員の要求に応えるため、コック長は知恵をしぼり工夫をこらさねばならない。手をかければ反応は良好だし、手抜きすれば反応は冷たい。
 このあたりの機微に目覚めた著者は、陸にあがって居酒屋を営むことにした。またしても転職・・・・しかし、このたびの転職には内在的要請がある。少なくとも、フリーライター時代の不規則な生活と縁が切れたことは確かだ。
 第7回小学館ノンフィクション大賞受賞作品。

□斎藤健次『まぐろ土佐船』(小学館、2000)
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